世界一刺青保持者 北崎 源次郎氏 【改訂版】 | 歪んだものほど美しい

世界一刺青保持者 北崎 源次郎氏 【改訂版】

斎藤 卓志 著「刺青墨譜―なぜ刺青と生きるか」の中で紹介されている、世界一刺青保持者「北原源次郎」氏の記事が掲載された戦前の雑誌「風 俗研究」を入手しました。

世界一の刺青とは、いったいどのようなものだったのでしょうか?
読売新聞の記事に掲載された写真も交えてレポートします!


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風 俗研究 1934年(昭和9)年 表紙




風 俗研究 第一六七号 1934年(昭和9)年4月1日 "昔の刺青師"



大阪帝大医学部法医学教室北崎源次郎氏は入墨の動機に就いて語っていわれるには、二十一歳で徴兵検査の時、必ず甲種合格を期待していられたのが、あてが外れたので、再度試験を出願され、拒絶され悔しまぎれに自暴自棄となり、遂に入墨をやったといわれ、全身を施すに六年間掛かり、その費用は三百円を投ぜらえたという。(中略)
入墨をした利益はと尋ねると、(中略)医学大学に拾われ、氏の病気の時は医員諸氏が一倍心配せられるのが徳であったといわれ・・・



風 俗研究 第一七三号 1934年(昭和9)年10月1日 "入墨経験談"

 

私の入墨の動機徴兵検査に不合格でしたので、自暴自棄に陥入り、所詮ヤクザ者の仲間入りしまして、ぼつぼつ始めたので、前後六七年の間にこの通りになりました。費した金が、ザット参百円、今なら参千円の値です。その後大阪高等医専からお招きに預りまして、私が死んだら皮はこのまゝ剥いで私と同様の形に作り、骨も磨きをかけ、臓腑も皆瓶づけとして永久に保存される事になっていますので、こんな光栄なことは滅多にありません、全く入墨の徳です。そして只今も大阪帝大に勤めさせて貰ってまして、病気の時は各先生から非常に労わって戴いてます。こんな入墨の身体は、何んなに病をするかということを興味を持って注意して戴いているわけです。(中略)
大阪の名人といえば彫三で、この人はボカシが上手でした。私のは正面が文覚上人背中は楠多聞の怪物退治右手は梅丸左手は鬼若で、頭は蛇が三巻しています。(中略)
大阪帝大には私の入るガラスの大きな箱まで出来ているので、帝大の亡びぬ限り私も亡びませんのは有りがたく思っている所であります。


上記「風 俗研究」が発行される2年前に発行された、北原源次郎氏らしき人物に関する写真付き新聞記事を発見しました。

「福士政一博士が大阪で素晴らしい刺青の逸品を見つけだし、皮の提供の約束を取り付けた」という新聞記事が写真付きで掲載されています。

文身報国 総身=六ヵ年を費やして…
読売新聞 1932年(昭和7)4月28日朝刊



東大講師福士政一博士明治四十年から文身の研究を始めているが 最近 泉州堺でまだ嘗てぶつかった事のない素晴らしい逸品を探し出した

それは今年五十八歳になる床屋(氏名は特に秘す)で二十一の時 身長五尺一寸で徴兵検査にはねられたのに発奮したといい身は不合格になっても君国に対する忠義心と武勇に於ては敢て人後に落ちるものでないと
背には楠多聞丸怪物退治胸と腹に文覚上人と那智の瀧右上肢に梅丸の龍退治左上肢に 鬼若丸鯉退治頭のてっぺんに蛇と蝶を その他顔を除いた外 総身あますところなくほりつけ前後
六年間を費やしている
最近 博士と本人の会見の結果 死後は解剖の上、皮を博士に提供する事を申し出たので博士は鬼の首でもとったように喜んでいる


しかし、2つの記事を見比べると矛盾した点が見受けられます。
【風 俗研究】
北崎源次郎氏はヤクザの仲間だったところをスカウトされ、明治42年に大阪帝大に献体する契約をし、現在大阪帝大に勤務 。

【読売新聞】
福士博士が堺でスカウトした人物は、昭和7年の新聞に「最近探し出した」と書かれており、スカウトしたのは昭和初期だと思われる。 職業は床屋。

このように矛盾点がいくつかありますが、彫物の図柄、彫り始めた年齢、動機などが全て合致します。 また、戦前は現在のようにマシン彫りではなく総手彫りなので、総身彫りはかなり珍しかった(文身百姿によると、東京では昭和11年に10数名)ことから、2つの記事は同一人物について書かれたものだと思われます。



プロフィールまとめ
氏名: 北原源次郎 1874年(明治7)生まれ
住所: 泉州堺
職業:床屋
刺青を彫り始めたきっかけ: 日清戦争中の1895年、21歳のときに受けた徴兵検査 甲種に身長が154.5cmで足りず不合格になり自暴自棄になった
施術箇所: 総身彫り(顔を除く全身)
期間: 6~7年 
費用: 300円(明治40年そば1杯3銭=現在貨幣価値500~600万円に相当)
彫師: 彫三(大阪の名人)
図柄 胸・腹: 文覚上人 那智の瀧
図柄 背: 楠多聞丸の怪物退治
図柄 右上肢: 梅丸の龍退治
図柄 左上肢: 鬼若丸鯉退治
図柄 頭頂部: 蛇が三巻・蝶


ここでは、堺の北原源次郎氏が世界一と呼ばれていますが、東大医学部標本室に所蔵されている八十吉さん(1856年 安政3 生まれ)の総身彫りも素晴らしいものです。
西の源次郎さんと、東の八十吉さん、どちらが本当の刺青世界一だったんでしょうか?



(2013.4.23 画像追加)
北原源次郎氏の写真を発見しました!

「犯罪圖鑑」 江戸川乱歩全集付録 平凡社 1932年(昭和7年) より

腹には文覚上人が那智の滝に打たれながら修業をしている姿が彫られています。
なんとなく胎児のように見えるのが面白いですね。



腹の刺青は、豊原国周の錦絵を下絵にしているようです。
「不動明王 文覚上人 市川団十郎」 © artelino Japanese Prints







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刺青の人体標本「八十吉さんの標本」


全身を刺青で埋め尽くしていたことで有名だった もうひとりの男、八十吉さん。
彼は日清戦争で台湾に従軍した際、偵察中に原住民に捕らえられたことがきっかけで体中を刺青で埋めてしまったのだそうです。



八十吉さんの刺青標本 「LIFE」誌 1950年4月3日号より引用
 




 



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【参考文献・資料】
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■東大医学部標本室の展示物、エピソードを紹介(トルソー型標本の写真掲載)
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■福士勝成氏の病理学的見地からの刺青解説(標本写真掲載)
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■刺青標本の献体者「瀧さん」の標本写真掲載
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■刺青標本の献体者「M.T.」氏の刺青の題材『桜姫東文章』や、

福士政一博士を題材に書かれた刺青標本にまつわる小説に
ついて詳しく解説されています。(標本写真掲載)
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■福士勝成氏と原皮状態の刺青標本の写真掲載
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■1936年初版発行の刺青解説書 貴重な戦前の刺青写真を多数掲載
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