ブプロピオン | kyupinの日記 気が向けば更新

ブプロピオン

ブプロピオンはセロトニン系に作用を及ぼさず、ノルアドレナリンおよびドパミン系に作用する抗うつ剤である。アメリカでは抗うつ剤としてウエルブトリン、禁煙薬としてザイバンという商品名で売られているが、ジェネリックも販売されている。

ブプロピオンの作用機序は良くわかっておらず、最近の本でもunknownと書かれているものもある。しかし、おそらくドパミンおよびノルアドレナリンの再取り込み作用によるものと推測されている。ブプロピオンの禁煙に対する効果は、ドパミン報酬系への作用やニコチン様アセチルコリンレセプターの阻害が関与していると考えられているが、これも良くわかっていない。

ブプロピオンの適応
①うつ病
ブプロピオンのうつ病への効果はよく確立されており、特に季節性の感情障害の人たちへの季節性増悪の予防作用がみられる。

②禁煙
ブプロピオンはかなり忍容性が高い薬物であり、うつ病でもなんでもない人にも処方される。禁煙のために内服するタイプの薬物は珍しいと思う(禁煙のためだけにうつ病の薬を飲むのか?という意味)。ブプロピオンを服用すると、タバコが不味くなると言う患者さんが比較的多い。しかし、全く何も変化を感じない人もいる。

タバコへの渇望が減弱するため、特に禁煙のモチベーションが低い人も自然にタバコの本数が減るようである。僕の患者さんの中でブプロピオンをうつ状態に使用し、付録でタバコをやめられた人は1名もいない。しかし、飲む本数が随分減ったという人は結構いるため、モチベーションがゼロでもかなり禁煙、節煙には効果的と思われる。不思議なのは、タバコの味が全く変わらないのに本数が半分くらいに減る人たちである。また、ブプロピオンを飲んでいて、味が不味くなったと言い、なお全くタバコ量が減らない人も謎である。

減少の程度だが、1箱吸っていた人が10本くらいになったというのが多い。人によれば3本程度になる人もいる。40本クラスの人が、そう苦痛もなく10本以下になる人もいる。こういう人を見ると、ブプロピオンという薬の凄さを感じる。禁煙に対するブプロピオンの薬効の腰折れ現象は比較的少ないと思う。

③双極性障害
ブプロピオンは双極性障害に対し処方した場合、躁転やラピッドサイクラー化が少ないことが知られている。また、ラピッドサイクラーを呈する双極Ⅱ型の増悪が少ないといわれている。

④注意欠陥多動性障害(ADHD)
ブプロピオンはADHDの人の交感神経作動薬に次ぐ第2選択薬である。コンサータやストラテラが無効であったり、かえって悪化するようなタイプの人に処方されている(カタプレス参照)。ADHDにうつ状態が合併しているケースにも推奨されている。

実は、かなり興奮が強い病期にはブプロピオンはやや処方し辛い。やはりうつ状態に対する効果が優れているからである。

また、ボーダーラインのような病態の人もブプロピオンはやや危うい。それはドパミンを増やすことが素直に改善の方角に行かない人がいるからである(行動化の恐れがあると言う意味)。ADHDに有効とは言え、やはり基本的にはうつ状態に有効といった感じである。

一般に、うつ状態は鎮静系の抗うつ剤を第一選択にすべきと思う。それは現代社会のうつ状態には興奮の要素を孕んでいることが多いからである。(つまり古典的な抗うつ剤やリフレックスのほうが安全度が高いという意味)。しかしブプロピオンは鎮静系ではないが、例外的にそう悪くないと思う。

特に日本で難治性のうつ状態とされる人々は、器質性あるいは発達障害的な側面があることが多く、相対的にブプロピオンが合うことがよくみられる。しかし、ブプロピオンは現在、本邦では未発売であり、僕は第1選択としてブプロピオンを処方することはない。従って、うつ状態でブプロピオンを処方する人は治療が容易でない人たちに限られる。

一般的な抗うつ剤で上手くいかなかったような人は、ブプロピオンがフィットする確率が比較的高いが、そういう人は、数ヵ月後に効果の減弱も生じやすいように見える。(ブプロピオンの腰折れ)これは当初は治療が難しい人だからそうなるのではないかと思っていたが、最近はそういう面もあろうが、本質的にブプロピオンは時間の経過とともに効果が減弱していく傾向があると思うようになった。

アメリカではSSRIやベンラファキシン(SNRI)の併用もしばしば行われ、臨床的な知見も蓄積されている。SSRIと併用する場合、SSRIによる性的欲求の低下を緩和するといわれている(つまりSSRIのそういうタイプの副作用を軽減)。

またベンラファキシンと併用した場合、ベンラファキシンの血中濃度を上昇させるらしい。またSSRIとの相互作用についても特にプロザックなどではパニックやせん妄を来たしうるという意見がある。

ブプロピオンはかつて現在より大量の用量が処方され、けいれんの副作用がみられたため、一時発売を停止されて時期があるようである。その後、低めの用量が設定され、より安全に用いられるようになった。総合的にはブプロピオンは忍容性が高い薬物である。(だから大量を服用した場合、けいれんが生じうる)リーマスと併用するとけいれんの副作用の出現の確率が高まると言われている。

また、ブプロピオンはパニック障害を悪化させるように見えるため、そのような人たちには処方を控えるべきと思う(過去ログ参照)。

僕はブプロピオンが体重を増加させたのを診たことがない。実際、体重は減少するか、現状維持の人が多いようである。また、広汎性発達障害由来と思われる過食に対しても治療的である。

元々、ブプロピオンはADHDに有効なように、「衝動」に治療的に作用している。従って、タバコに対する効果と同じかどうかはわからないが、過食やギャンブル依存などに対しても、その症状が緩和する人を時々目撃する。しかし、パニックは悪化させる人もみられるため、その治療効果のバランスのようなものがどの程度なのかははっきりしない。

合わない人は、少し集中力が落ちたり、健忘などが出現する人もいる。なんとなく落ち着かないとか、不快感を感じる程度の人もいるが、当初、良い印象がない人がその後、やはり効果が出てきてよかったと言うのはあまりない。普通、最初にいきなり悪いと言う人はかなり少ない。最初、ちょっと良い感じとか、ほとんど何も変わらないですね、くらいの印象の人がほとんどである。ブプロピオンは先入観とは異なり、わりあい穏やかな効き味である。こういうことを見ても、服用しやすい薬なのがわかる。当初、良さそうに見えていたのに、次第にこれは良くないと思われる患者さんもいる。これは賦活が良い方向に行かない人たちである。

過食に対し有効と思われる向精神薬は、交感神経作動薬(リタリン、コンサータ、ストラテラなど)、ブプロピオン、トピナ、SSRIなどである。それぞれに有用な側面と有害作用がある。ブプロピオンの過食に対する効果はトピナに比べ段違いに落ちる。最初は良くても過食に関しては腰折れしやすい。(参照

ここで少しだけ脇道にそれるが、知的発達障害、広汎性発達障害系の人たちへの抗精神病薬、抗うつ剤の可能性について。食事だけ取ってみても、過食が出て劇的に体重が増えるようなタイプの薬は不適切の確率が高い。これは東洋医学的な考え方であるが、薬が合えば体重は増えず標準体重に近づくからである。従って、非定型抗精神病薬に限って言えば、

ルーラン
エビリファイ
ロナセン


のいずれが合うかをまず探すべきだと思う。ジプレキサとリスパダールは劇的に体重が増える危険性があるので、その点で注意が必要だし、これは根本的に合っていないようにも見える。そういう文脈から、ブプロピオンは体重に影響がないか、むしろ体重減らすタイプなので有効性がまだ高いのかもしれない。ラミクタールも体重が増えないタイプの抗てんかん薬なので、その点でフィットし易いという面もあるような気がする。

抗うつ剤系の薬物にブプロピオンを併用した場合、その最初の薬物の有害作用を中和するような場面もみられる。例えば、ブプロピオンとリフレックスの場合、リフレックスの眠さ、過食傾向、体重増加の3点を緩和する。総合的に忍容性が高まる感じである。この場合、リフレックスのほうがなんだかんだいって強力な抗うつ剤なので、ブプロピオンの抗うつ作用がよくわからない面がある。

しかし、ブプロピオンの効き方は揮発性とでも言おうか、なんだかカラッとした感じなので、リフレックスのような濃厚な印象とはやや異なる(ブプロピオンはシンプルだが、リフレックスは色々と余計なことをしている感じという意味。)。

ブプロピオンは不眠の副作用があるので、旧来の眠さの副作用を持つ薬やリフレックスを併用した場合、ブプロピオンの欠点を補う形になる人もいる。

僕の患者さんではブプロピオンの服用中に次第に腰折れし、リフレックスで改善したケースもある。この時、比較的忍容性に問題がなく脱落率が低いという印象を持ったが、上のようなメカニズムがあるのかもしれない。また、ブプロピオンのようにセロトニンに全く関わらない薬物にリフレックスのようにセロトニンに関与が大きい薬を追加処方した際、「セロトニンを増やすこと」の欠点がいかなるものかが明瞭にわかる。

ブプロピオンの剤型はその効果の出現の仕方から3つに大きく分けられており、その特性も異なっている。

①即時放出型
②持続放出型
③延長放出型


即時放出のタイプは1日3回、持続放出のタイプは1日2回、延長放出のタイプは1日1回服用とされている。このタイプの相違で効き方が異なるし、またジェネリックの会社によっても異なる。海外のジェネリックは仕上げも雑であり日本の薬のよう厳密に作られていない。だいたい先発品ですら、日本ほどの完成度がないものも多い。これはセロクエルの徐放剤のエントリで一度、触れた事がある。このように書くと先発品が良いように思うかもしれないが、なぜかジェネリックの方が効果的であることもみられる(服用してみないとわからない)。ブプロピオンのジェネリックは総合的には効果の面でそう悪くはないと思う。

ブプロピオンの血中半減期は概ね12時間(8時間~40時間)であるが、上の①~③のタイプにより、血中の最高濃度に達する時間が異なる。

即時放出型の場合、1日75㎎2回服用から開始(1日150㎎)するが、日本人でも同様で良いように思われる。特別に薬に弱い人は37.5㎎ずつ1日2回飲むか、朝だけ75㎎服用する。服用後、速やかに消化管から吸収される。1日に最高量は300㎎までだが、海外では450㎎程度まで使われるようである。日本人の場合、たくさん飲んでもかえってきついとか良くない人もみられる。けいれんの危険性も増すため、高用量はお勧めできない。

ブプロピオンの効果の出現のパターンだが、服用した翌日には効果が表れる人が結構いる。翌日か翌々日に効果がない人は長期的にも効果が乏しいことが多いと思う。しかし本人の実感が伴わず、周囲から見たら良いという人もいて、そういう人は次第にジワジワ効いて来るという流れになる人もいる。

副作用は、悪心、頭痛、不眠、口渇、振戦などがあるが、これらも早期に出現する。先に挙げている、注意力の低下、落ち着きのなさなどもわりあい早く出現する。長期的な副作用では体重減少などもあるが、これを副作用とみなすかどうかは微妙である(うつ状態が長い人は運動不足や薬のために肥満している人も稀ではないため)。

理論的にはドパミンを増やすので幻覚妄想が出現してもおかしくないが、かなり稀なのではないかと思う。これはたぶん、ブプロピオンが脳の前の方により効果を及ぼしているからではないかと想像する。そういう効果のためにADHDの種々の症状を改善しているように思われるからである(自信なし)。

ブプロピオンのけいれんの副作用であるが、1日300㎎以下の持続性のタイプの剤型では0.05%と、他の抗うつ剤と大差ないと言われる。しかし、400㎎服用すると、0.1%程度になるらしい。大量に服用すると確率は増すと言われている。基本的に、けいれん発作の既往があるとか、明らかに脳に器質性異常がみられるとか、脳波異常があるような人たちは慎重にすべきである。大酒飲みの人も注意すべきである。

ブプロピオンが腰折れするのは3~6ヶ月目くらいが多いが、その頃にはかなり精神症状が良くなっており、うつ状態が扱い易くなっているケースが多い。だから、その時にいかに対応するかは人による。

僕はブプロピオンの効果が減弱してきたら、むしろ減量することが多い。ブプロピオンは揮発性?というか、ルーランのようにやがて去っていくタイプの抗うつ剤なのである。減量しても(既に効果が腰折れしていることもあるが)より悪くなることもなく、離脱も出現しない。脳の反応性が変化しているからである。

結局、ブプロピオンは優れた抗うつ剤ではあるが、精神科医としては、効果が腰折れしてからが治療の本番だと思っている。もちろん、ブプロピオンで効果が長続きする人がいるが、彼らでさえ、実は薬効としては落ちているんだと思う。(ブプロピオンは完全に中止せず、減量しつつ、他の併用薬を考慮し治療を進める)

もうかなり良くなっているから、効果が落ちても問題がないように見えるだけなのである。(参考

過去ログで出てくる「IT従事者のうつ状態」の人だが、限りなく完治に近く、やがてリボトリール0.5㎎単剤になりそうである。現在は仕事を普通にしており、ブプロピオンは75㎎だけである。この75㎎が彼にとって意味があるのかどうかは不明である。

彼は芸術の才能があり、今はそのタイプの仕事に就いている。むしろ自分のペースで仕事をしていた方がストレスも少なく、うつにもなりにくいようである。今の75㎎を中止したとしてもなにも変わらない可能性のほうが高い。(ブプロピオン75㎎、リボトリール0.5㎎、エビリファイ1.5㎎)

ブプロピオンの相互作用では、特にMAO阻害薬とは併用してはならない。その理由はMAO阻害薬のため、ドパミンの収拾がつかなくなり、高血圧危機などを起こしうるからである(特に本邦ではエフピーという薬物)。

エフピーに限らず、MAO阻害薬は、SSRI、3環系抗うつ薬などの伝達物質を増加させるタイプの薬は併用できない。SSRIの場合、セロトニン症候群が生じる。つまりセロトニンの収拾がつかなくなるからである。MAO阻害薬の薬理作用を考えれば当然であろう。

また、抗パーキンソン薬の一部の併用で、せん妄、精神病様作用、ジスキネジアなどが生じうるので併用すべきではない。例えば、ドパストン、ペルマックス、レキップ、ビ・シフロール、シンメトレル、パーロデルなどである。

なぜこのようなことを書くかというと、例えば、レキップやビ・シフロールなどは適応外処方でうつ状態に処方されることがあるからである。このうち2つでは抗うつ作用としては、ビ・シフロールの方がレキップより強力である。

レキップとビシフロールはともにうつ状態に効くと言われている。エビデンスまであるかどうかまでは知らない。レキップは6㎎くらいから10㎎くらいまで使わないとうつ状態には効果がなかろうと言われる。レキップ、ビシフロールが一般のうつ状態の人に使いづらいと思うのは、「突発性睡眠」とか「病的賭博」などの奇妙な副作用があるからである。これは適応外処方ではかなり処方しにくい。

過去ログから、
余談だが、抗パーキンソン薬のビ・シフロールには「病的賭博」なる恐ろしい副作用がある。よくもまあ、薬の副作用にこのようなものがあると思わないか?賭博の嗜癖状態を強力なD3受容体アゴニストが生じさせるとしたら、逆に「病的賭博」のようなGA(ギャンブラーズ・アノニマス)くらいしか良い方法がないような精神疾患?にすら、良い薬物療法が出現することを暗示している。(「徒然なるままにアミスルピリドとロナセン」)

実際、紹介されてくる人にこういう玄人好み?の処方をされている人がいる。この突発性睡眠発作だが、レビー小体病の人に対しレキップの処方中に1度だけ経験がある。車椅子のおばあちゃんだったので処方しやすかったのである(レキップはビ・シフロールに比べ精神症状への影響が少ない)。

あれは一瞬、てんかん発作?と思うが、良く観察すると、むしろナルコレプシー様である。これはD3と関係が深いらしい。レビー小体病に対してのレキップなどの抗パーキンソン薬は、SSRIと同様、神経細胞保護作用を期待されている。

ブプロピオンの催奇形性リスクはジェイゾロフト(C)、デプロメール(C)、リフレックス(C)などよりも更に1ランク良くBとなっており、抗うつ剤の中ではダントツにリスクが低くなっている。(参考

【C】
動物生殖試験では胎仔に催奇形性、胎仔毒性、その他の有害作用があることが証明されており、ヒトでの対照試験が実施されていないもの。あるいは、ヒト、動物ともに試験は実施されていないもの。注意が必要であるが投薬のベネフィットがリスクを上回る可能性はある(ここに分類される薬剤は、潜在的な利益が胎児への潜在的危険性よりも大きい場合にのみ使用すること)。


【B】
動物生殖試験では胎仔への危険性は否定されているが、人、妊婦での対照試験は実施されていないもの。あるいは、動物生殖試験で有害な作用(または出生数の低下)が証明されているが、ヒトでの妊娠期3ヵ月の対照試験では実証されていない、またその後の妊娠期間でも危険であるという証拠はないもの。


ブプロピオンは乳汁には分泌されると言われている。

キリがないので、この辺りで終わり。

ブプロピオンのエントリは本邦未発売でもあり、今までアップする予定はなかった。しかし質問も多いので、特別サービスでアップすることにした。あともう1つ後半?のようなエントリがあるが、いつアップするかわからない。

参考
ベンゾジアゼピンを止めないとリストカットは治らないのか?
徒然なるままにアミスルピリドとロナセン
リフレックスの5-HT3遮断作用
カタプレス
IT従事者のうつ状態
日本未発売の向精神薬と催奇形性の話

一連のエントリ
リフレックスの腰折れ現象についての考察
ブプロピオン
治療に対する前向きな姿勢について
エビリファイはなぜうつに効くのか?(前半)
エビリファイはなぜうつに効くのか?(後半)
リフレックスはドパミンを増やすのか?