エビリファイはなぜうつに効くのか?(前半) | kyupinの日記 気が向けば更新

エビリファイはなぜうつに効くのか?(前半)

エビリファイは「うつ状態」にも効果があることが知られている。しかし、そのメカニズムは良くわかっていない。(参考

元々、エビリファイはD2レセプターに対し、パーシャルアゴニストである。一応、説明しておくが、アゴニストとはアンタゴニストの逆のことである。

セレネースなどのD2の強力なアンタゴニスト作用は幻覚妄想に効果的ではあるが、一方、錐体外路症状などの副作用を引き起こす。

いつかも書いたが、元々、非定型精神病薬はこの錐体外路症状が少ないものを言う。だから、リスパダールやジプレキサなどでこの錐体外路症状が出る人は、その基本に反する副作用が出ていることを示す。(つまり薬に弱い)

エビリファイは本当に不思議な薬で、大塚製薬もすべてのことがわかっておらず発売しているところがある。ただ、これは他の向精神薬だって同じようなものだ。

D2レセプターは完全に遮断せずとも幻覚妄想に効果があることがわかっており、セレネースやリスパダールは増量すればほぼ完全に遮断するので大量では錐体外路症状は出やすい。しかし、更に大量になるとその錐体外路症状さえ遮断できる。大量の抗精神病薬を投与されている人で、減量の際の危険性はこういう面も無関係ではない。

抗精神病薬は、概ねこのくらい投与すればD2レセプターがちょうど良いくらい遮断されるという数値がわかっているが、おそらく個人差がある。

エビリファイの場合、本来ザル仕様になっているので、思いっきり増量しても何がしかドパミンを通す構造であり、ゴルフで言うスウィート・ポイントが広くなっている。その分、使いやすい薬ではあるはずであった。プロゴルファーはスウィート・ポイントが非常に狭いクラブを使うという。しかしアマチュアでも初心者の人はスウィート・ポイントが広いクラブを使うほうがスコアが良くなる。

過去ログに、エビリファイはそういうウリなのに錐体外路症状?が出やすいことをアップしている。(参考)。

エビリファイの受容体に対するアゴニストないしアンタゴニスト作用は概ねわかってきている。

エビリファイの各受容体に対する作用
D2  パーシャルアゴニスト
D3  パーシャルアゴニスト
5-HT1A パーシャルアゴニスト
5-HT2A  アンタゴニスト 
 

D2レセプターに対するパーシャルアゴニスト作用は最も大きなエビリファイのウリである。これが幻覚妄想に対する薬理作用の基礎になっている。

実は、D2にエビリファイがパーシャルにアゴニスト作用を持つことは、言い換えると、ドパミンがD2に結びつくのを妨げているとも言える。その意味でアンタゴニストの側面を持っている。だからこそ、アゴニストの色彩が強いのに、セレネースのような強力なD2アンタゴニストと同様な抗幻覚妄想作用が期待できるのであった。

しかし・・
人はエビリファイをパーシャルアンタゴニストとは言わない。実は、元々パーシャルアンタゴニストという言葉が存在しないのである。


これは、マーシャルが悪い。(←この人が最初に言い始めたため)

よく考えると、アンタゴニストは完全遮断の意味合いが強いので、そういうワードにパーシャルなんて馴染まないとは思う。アゴニストはもう少し曖昧なので、まあパーシャルを付けても良いのだろうと、なんとなく納得した。

エビリファイの場合、アゴニストにもアンタゴニストの色彩があり、ここが何がなんだか良くわからなくなるところである。

例えば、D3レセプターに対するパーシャルアゴニスト作用は、抗うつ作用に関与すると言われている。だからその面では、レキップやビシフロールなどのD3にアゴニスト作用を持つ抗パーキンソン薬に機序的に似ているとは言える(参考1参考2)。

その文脈では、ビシフロールやレキップが抗うつ作用を持つならば、エビリファイはもちろん抗うつ作用があってもおかしくない。

また、5-HT1Aのパーシャルアゴニスト作用は、ルーランセディールの5-HT1Aへのアゴニスト作用と似ている。だから薬理学的にはエビリファイとルーランは一部、作用がかぶっているように見える。ただ、エビリファイもルーランも他の作用がいろいろあるので、抗うつ作用をこの5-HT1Aに対するアゴニストの面だけで説明するのは少し無理だし、臨床の状況も正確に表していないと思う。(ルーランは抗不安、抗強迫という面で、エビリファイより優れている)

また、リフレックスも、セロトニンを増加させることを通じ、5-HT1Aに対するセロトニンの刺激作用により抗不安や抗うつ作用を及ぼしている。その点で少し共通点がある。

エビリファイの5-HT1Aに対するパーシャルアゴニスト作用だが、エビリファイはセロトニンではないので、セロトニンライクな振る舞いにより抗うつ作用を及ぼすということなんだろうと思う。これはルーランも同様なのかもしれない。(受容体が錯覚すると言った感じ>>参考

また、5-HT1Aに対するパーシャルアゴニスト作用は、神経保護作用を持つと言われている。

(続く)

参考
エビリファイの処方件数が多いこと
ブプロピオン
ルーラン
ブスピロン
エビリファイはなぜうつに効くのか?(後半)

一連のエントリ
リフレックスの腰折れ現象についての考察
ブプロピオン
治療に対する前向きな姿勢について
エビリファイはなぜうつに効くのか?(前半)
エビリファイはなぜうつに効くのか?(後半)
リフレックスはドパミンを増やすのか?