リフレックスはなぜ不安に効くのか? | kyupinの日記 気が向けば更新

リフレックスはなぜ不安に効くのか?

リフレックス(レメロン)は4環系抗うつ剤と呼べる構造式を持ち、タイムマシンで過去からバージョンアップして現れたような薬物である。作用メカニズム的にはテトラミドに似ている。4環系がどれも眠い薬だったこともそっくりである。(リフレックス=ミルタザピン)

大きな疑問点は、テトラミドが不安感に効果がほとんどなかったことに比べ、リフレックスは不安感にも有効であることであろう。これはいかなるメカニズムでそうなるのであろうか?

リフレックスの作用機序はSSRIなどの再取り込み阻害作用に比べ複雑である。これは普通に書くと読者の皆さんには全然わからないと思うので、このブログ風にできるだけわかりやすく解説したい。

まずテトラミドの作用機序、(過去ログより)

テトラミドは、従来型の抗うつ剤とちょっと変わったメカニズムで抗うつ効果を発揮する。テトラミドは、モノアミンの再取り込み作用を持たず、シナプス前α2受容体遮断作用を持つ。一般に、シナプスα2受容体はオート・レセプターと呼ばれ、これは神経終末からのノルアドレナリン放出を抑制しているため、その受容体を遮断することによりノルアドレナリン放出を促すのである。つまり再取り込みとは違った方法で、ノルアドレナリンを増加させる。

リフレックスは脳内のノルアドレナリン、セロトニン系レセプターのアンタゴニストとして作用する。

①ノルアドレナリン神経終末のα2自己受容体に結合しノルアドレナリンの放出を促進。(テトラミドと同様)

②その放出されたノルアドレナリンがセロトニン神経のα1受容体に作用しセロトニン神経細胞体の発火を促進。

③リフレックスはセロトニン神経終末のα2ヘテロ受容体に結合しセロトニンの放出を促進(ここが難しい。α2ヘテロ受容体は元々、ノルアドレナリンを感知するとセロトニンを抑制するが、この受容体をリフレックスがブロックし、結果的にセロトニンを放出させる。つまりノルアドレナリンの増加がセロトニン放出に対し悪手にならないようにしているといった感じ)

④シナプス後セロトニン系受容体では、リフレックスの薬効を考えるに、4つの重要なレセプターが挙げられる。それは、5-HT2A、5-HT2C、5-HT3、5-HT1Aである。

以下のセロトニン受容体は以下のような作用に関連する。以下、セロトニンが結合すると生じる作用である。

5-HT2A 性機能障害(SSRIと同じ)
5-HT2C 不安惹起(SSRIでかえって不安が昂じる事があるのはこのため)
5-HT3  消化器症状、悪心(デプロメールで良くある)
5-HT1A 抑うつ作用、抗不安作用発現(セディール、ブスピロン、ルーラン参照)


リフレックスは不思議なことに、上記、5-HT2A、5-HT2C、5-HT3の3つには結合するが、なぜか5-HT1Aには結合しない。そのため、リフレックスによりセロトニンが増加する状況においても前者3つのレセプターに結合することでセロトニンをブロックする(つまり自らが結合することでセロトニンによる作用を出させないようにしている)。

その結果、しばしばSSRIで見られる副作用、性機能障害、不安・焦燥が昂じる状態、嘔気などの消化器症状が出現しにくい。

一方、リフレックスはなぜか5-HT1Aには結合しないため、セロトニンは悠々と5-HT1Aに結合し、そのアゴニスト作用により、抗うつ、抗不安作用が出現する。この部分はセディールブスピロンルーランに似ている。

実は承認時の副作用で、悪心、胃部不快感、嘔吐などは少しだけ挙がっている。(3~5%くらい)これは、リフレックスが5-HT3結合することでアゴニスト的に神経が感知して生じるのではないかと思う。(簡単に言うと、神経がセロトニンが結合したと錯覚するという意味。このパターンはこの業界では良く見る。この部分は私見である)

一方、テトラミドはα1受容体に結合するため、セロトニンを増やすメカニズムを持たない。ここがリフレックスと決定的に違う。(ノルアドレナリンは増やすが)だから、抗不安作用がみられないのである。

リフレックスの難点はH1受容体に強い結合親和性を示すこと。このため、眠さ、食欲増進、体重増加の影響が見られる。もちろん、睡眠を改善するメリットもある。

抗うつ剤の中では4環系はいずれもH1受容体への親和性が高い(だから4環系は眠い)。それに対し、SSRIおよびSNRIはH1受容体への親和性が非常に低く、うつ状態の不眠をたいして改善しない(参考)。もちろん過食や体重増加のデメリットが少ないという面も持っている。

なお、リフレックスは使い始めて3~4日が特に眠く、その後少し緩和する。それを過ぎて眠い人はその後も眠いのではないかと思う。15㎎開始が推奨されているが、30㎎でも眠さは変わらないらしい。だから、眠さは用量にさほど依存しない。その大きな理由は、リフレックスは超絶のレベルでH1受容体に結合するからである(15㎎で既に満員と言う意味、ここは昨夜の復習)

おわり。(やはり難しかったでしょうか?)