セディール | kyupinの日記 気が向けば更新

セディール

一般名:タンドスピロン

ルーランとセディール

ルーランの話の際にセディールが出てきたので、この機会に書いておこう。基礎研究でベンゾジアゼピン系抗不安薬がバルビツール酸系薬物やアルコールと同じ部位に結合していることがわかってきた。これが従来型抗不安薬に耐性や依存性が生じうる大きな理由であった。依存性といえば、確かにデパスやレキソタンには熱烈なファンがいる。その後、向精神薬の薬理学的プロフィールがだんだんわかってきた。3環系抗うつ薬の主な薬理作用はセロトニンまたはノルアドレナリンの再取り込み阻害作用だが、ある種の不安に大変有効なのが知られている。例えばアナフラニールは強迫神経症などにしばしば処方される。


一般に、3環系抗うつ薬には耐性や依存性はないと考えられている。すなわち、3環系抗うつ剤は長く服用しているうちに多く使わないと効きにくくなるという傾向はほとんどない。ベンゾジアゼピン系の眠剤が長く使用しているうちにいくらか効き辛くなったり、錠数が増える傾向があるのと対照的である。このようなことから、セロトニンかノルアドレナリン、あるいはその両方をコントロールすれば、耐性や依存性のない抗不安薬を作れるかもしれないと考えられるようになった。グレイが不安の主座と考えた中脳ー海馬系に存在する受容体のサブタイプは主にセロトニン1Aだった。以上のような臨床的経験、薬理学的データなどから、選択的にセロトニン1A受容体に作用する薬物が理想に近い抗不安薬になるのではないか?


1970年頃、ブリストール・マイヤーズ・スクイブ社によって合成されたブスピロン(本邦未発売)というセロトニン1Aアゴニストは、動物実験で抗コンフリクト作用があることが確認された。ブスピロンは1985年、初めて西ドイツで医薬品として認可されている。その後、住友製薬(現、大日本住友製薬)によって合成されたタンドスピロンは、1996年にセディールという商品名で発売されている。


セディールの評価であるが、抗不安薬としてはあまりにも人気がない。なぜならソラナックスやレキソタンのように服用後、すぐに強い不安感を解決してくれないからだ。そんなわけで患者さんからも不評なのである。医師から見ても、セディールの効果を確認しにくい。普通、単独でセディールなどを服用することが少ないので、ひょっとしたら眠剤の抗不安作用に負けているというか、まぎれてしまっているのではないかとすら思うことがある。セディールはおそらくあまり処方されていないと思う(僕の推測


セディールがこのありさまなのに、ルーランはいやに抗不安や抗うつ作用があると思う。ルーランの中には、すっぽりセディールが入っているのだ。もしかしたら、構造式のバランスが良いのかもしれない。セディールは服用し始めて長期間経たないと効果が発現しないと言われる。だから数ヶ月くらい頑張って処方したこともあるが、所詮、これだけで頑張るのは無理なのである。不安状態があるのに、ベンゾジアゼピン系の薬物(ソラナックスなど)を服用しないでいてくれというのは、患者さんにとってむごすぎる。ベンゾジアゼピンを服用し始めるのなら、セディールを合わせて飲むのは無駄とは言わないまでも、単に日々服用する錠数を増やすだけだ。


近年、セディールをSSRIと合わせて服用した場合、抗うつ作用が強くなることが言われ始めた。(エビデンスまであるかどうかまでは知らない) これを強化療法と言うらしい。僕もそんなことを試みたことがある。セディールは時間がかかるので、もしSSRIで治療効果が不十分なら難しいことを考えずに3環系または4環系抗うつ剤に切り替えた方が早いような気がする。というか、ひょっとしたら、SSRIとデパスの組み合わせの方がもっと良かったりしないか?と思ったりw


本邦未発売のブスピロンの方が効果的には良いのかもしれないと思うが、使ったことがないので、どのくらいのものかは謎なのである。