エビリファイはなぜうつに効くのか?(後半) | kyupinの日記 気が向けば更新

エビリファイはなぜうつに効くのか?(後半)

エビリファイはなぜうつに効くのか?(前半)の続き。

昨日、エビリファイの5-HT1Aに対しての「セロトニンライク」について触れたが、D3レセプターへのパーシャルアゴニスト作用はドパミンライクな振る舞いといえる。そのような点で、生体にドパミンを増やすのと同様な効果を及ぼしている?のかもしれない。 

また、ドパミンライクな振る舞いはD2レセプターにおいても同様である。うつ状態では統合失調症の人のようにドパミン神経の過活動のようなもの?がないため、エビリファイがパーシャルアゴニストであることを通して、うつに効いておかしくない。

元々、うつの人はドパミンが涸れているわけで。

少し専門的に言えば、ドパミン過剰の状況ではパーシャルアゴニストはドパミンの邪魔をし、涸れている状況ではドパミンライクになるとも言える。

興味深いのは、エビリファイの5-HT2Aのアンタゴニスト作用である。これは従来の非定型抗精神病薬の定石的な作用であるが、この特性を通じて黒質・線条体のドパミン枯渇を弱め錐体外路症状を緩和する。過去ログのSDAから抜粋。

脳内には4つのドパミン経路がある。そのうち黒質線条体ドパミン経路は黒質から基底核に投射して、運動をコントロールしていると言われる。定型抗精神病薬などの投与により、ドパミン受容体が黒質線条体経路のシナプス後部で遮断されると、パーキンソン病に似た運動障害が引き起こされる。このような定型抗精神病薬による、パーキンソン症状を薬剤性パーキンソン症候群などと呼ぶ。また、この時に出現する振戦、筋強剛、流涎などの症状は錐体外路症状(EPS)と呼ばれる。

SDA(セロトニン-ドパミンアンタゴニスト)では、すべて、5HT2A、D2の拮抗作用を有している。定型抗精神病薬との違いは、5HT2Aの拮抗作用を持っているかどうかなのである。黒質線条体ドパミン経路では、セロトニンニューロンは、ドパミン放出に関しては抑制的に働く。だから、SDAのようにセロトニンニューロンを抑制する薬剤では、黒質線条体経路で相対的にドパミンを増やす結果になるのである。錐体外路症状は、そもそも黒質線条体ドパミン経路でドパミンが抑制されることで生じるため、SDAが投与された場合、上記のメカニズムでドパミンの枯渇が緩和する。だからこそ運動面の副作用が減少するのである。

しかし、エビリファイは発売当時、そこまで5-HT2Aのアンタゴニスト作用については言われておらず、もっぱら、パーシャルアゴニストのメリットを強調されていた。

実は、5-HT1Aは自己受容体であり、これに対するアゴニスト作用はセロトニンの遊離を抑え、引いては 5-HT2Aのアンタゴニスト作用を導く。だから、5-HT1Aアゴニスト作用と5-HT2Aのアンタゴニスト作用は結果としては同じような向精神作用をもたらすとも言える。

5-HT1Aアゴニスト作用を持つルーランは他の薬物と併用した時、他の薬物の錐体外路症状を緩和するように見えることがある。これは過去ログでもどこかで触れたと思うが、上のようなメカニズムもあるのかもしれない。

5-HT2Aのアンタゴニスト作用が、直接にどの程度の抗精神病作用を及ぼすのかまだ良くわかっていない。

ただ、ジメチルトリプタミン(DMT、N,N-dimethyltryptamine)などの5-HT2Aを強く刺激する薬物を投与すると、ヒトは幻覚を見る。特にエイリアンに遭遇するらしい。ということは、5-HT2Aのアンタゴニスト作用は幻覚・妄想には治療的なのかもしれない。

エビリファイの抗うつ作用の持続性について触れておきたい。エビリファイはうつ状態に単剤で使われることは非常に少ないと思われる。普通に抗うつ剤の治療をしその効果が不十分な際に、リーマスやデパケンRなどの気分安定化薬と同じような手法で少量だけ追加されることが多い。

エビリファイの追加当初、「これは良い」という感想を持つ人は意外に多いが、時間が経つとその効果のキレが目立たなくなってくる。つまり、効果は残っているのであろうが、他の抗うつ剤に紛れてエビリファイは腰折れ傾向になるのである。

しかも、エビリファイが効果が薄れてきた時、エビリファイを増やしてもあまり期待できない。むしろ増量した場合、うつ状態の人では副作用が出現する確率のほうが高い。これはブプロピオンの腰折れ現象の際の生体の反応と非常に似ている。

エビリファイはドパミンに関連する抗うつの機序があるため、ブプロピオンと同様な腰折れのメカニズムを持つのかもしれない。

最後に、ブプロピオン投与中にエビリファイを追加した際の精神症状の変化について。

普通に考えると、ブプロピオンによりドパミンとノルアドレナリンを増加させている状況で、エビリファイを投与しても、

あんた、何やってんの?

と言った感じには見える。エビリファイの効果がないか、むしろブプロピオンの効果を減弱させるように思われるからである。(エビリファイはD2やD3のパーシャルアゴニストであるため)

しかし、ブプロピオン投与中にエビリファイを少量追加投与した場合、何がしか良い反応が出ることの方が多い。これは、エビリファイは単にドパミンのパーシャルアゴニストというだけでなく、もう少し奥行きがある薬物であることを暗示している。(あるいは、この2剤の作用点の相違もあるのかもしれない。)

つまり抗精神病薬の薬理作用は100%わかっているわけではないので、薬理作用のみ考えてあれこれ言うのはプラクティカルではないのである。

つまりやってみないとわからない。

今日のエントリは臨床経験を通じた推測の部分がかなりあるので、半分アミューズメントとして読んでほしい。

だいたい、エビリファイの抗うつの機序など、まだよくわかっていないのである。(最初に戻る)

参考
不眠でうつ状態になるのか?

一連のエントリ
リフレックスの腰折れ現象についての考察
ブプロピオン
治療に対する前向きな姿勢について
エビリファイはなぜうつに効くのか?(前半)
エビリファイはなぜうつに効くのか?(後半)
リフレックスはドパミンを増やすのか?