リフレックスの5-HT3遮断作用 | kyupinの日記 気が向けば更新

リフレックスの5-HT3遮断作用

このエントリは以下の記事の続きになっている。

季節性嘔吐症?
謎の症状性疾患
「季節性嘔吐症」その後


この順番に読んだ後、この記事を読むと流れが良くわかる。彼は5年目の冬もやってきたのである。(冬以外は薬も必要ない)

また今年も相見えましたね・・

今年は注射をするにしても今ひとつで、連日、注射に来院する有様であった。それも、しばしば1日に2回来院していた。(コントミンやフェノバール)

今年の気候だが、みんな気付いていると思うが例年とちょっと違う。暖かい日が続いていたかと思うと、いきなり師走並の寒い日があったりと揺さぶりが酷い。今年は季節連動性の高い人は大変だと思う。

あまりの効果の悪さに呆れ、ドグマチールなどの筋注も試みたが、全然効果なし。コントミンはアンプルが大きいので毎日していると、硬結が酷くなる。

今年は効かないね~


と患者さんと2人で話していた。一般に、嘔吐と言うと制吐作用の強いプリンペラン(メトクロプラミド)を思いつくが、これはドグマチール(スルピリド)の近縁薬物である(参考)。

いわゆる乗り物酔いやメニエールに使われるH1拮抗薬は、制吐作用を持つ。トラベルミンは薬局でも買えるが、これはサリチル酸ジフェンヒドラミンとジプロフィリンの合剤である。このうち、ジプロフィリンは気管支拡張などの作用を持つが、脳に活を入れて平衡感覚の混乱を緩和し、嘔気を改善する(つまり軽い興奮剤。つまりトラベルミンの眠さはH1拮抗作用の影響が大きい)。その他のH1拮抗系の制吐作用を持つ薬には、ドラマミン(ジメンヒドリナート)などもある。

他は、コントミンなどのフェノチアジン系も基本的に制吐作用を持つ。だから、摂食障害で、特に過食、嘔吐系の人はコントミンをごく少量服用すると嘔吐の部分を改善する。だから、トピナ+少量コントミン(+抗てんかん薬)の組み合わせは悪くないのである。

トピナ(トピラマート)は抗てんかん薬の中では世界1の売上高を誇る(処方件数ではない)。なんと世界で20億ドル以上売り上げる巨大商品なのである。アメリカでの商品名はトパマックスである。トピナのFDAによる催奇形性ランキングはC。トピナは薬価が高いこともあるが、ダイエット薬としても相当に処方されているような気がする。トピナは副作用を利用して過食を抑えているような感じだ。

トピナは電位依存性ナトリウムチャンネル阻害薬である。血中半減期は21時間。抗てんかん薬でありながら気分安定化作用がほとんどない。抗てんかん薬としても単剤では使えず、多剤併用を前提としている。(正式な適応はてんかんのみ)

あまり食事が摂れないような年配の人にトピナを処方すると、たちまち食欲が落ち衰弱することがある。また、トピナは腎結石を来たしやすいため、水分をよく摂るべきである。また腎障害のある人は注意を要する(腎臓病に禁忌というわけではない)

トピナが期待できる疾患として、てんかん以外では、

過食症
PTSD
アルコール依存症
境界例のリストカット
心因痛
偏頭痛(アメリカでは適応あり)


などが挙げられる。いずれも、たぶんエビデンスまではないものがほとんどと思われる。

副作用は、精神運動遅滞、発語、換語障害、傾眠、めまい、運動失調、知覚異常などがみられる。また量によると、疲労感、集中困難、味覚異常、抑うつ、不安、食欲不振、体重減少なども出現する。

トピナは精神症状への悪影響も結構あり、統合失調症の人に処方すると本来の症状を悪化させ続かないこともしばしばである。てんかんの人はけっこう痙攣発作にも有効であるが、すこしむかつきを訴える人もいた。

過食症の人でトピナを100㎎くらい飲んでケロリとしている人は、2ヶ月で8kgの減量を実現する人がいる(僕の患者さん)。だから、トピナの副作用は基礎疾患などにも関係する印象である。たぶん全然効かない人もいる。

さて、話を戻すが、嘔気にはセレネースなどのD2レセプター遮断薬も効果がある。元々、嘔気にセレネースを筋注する方法も一考である。

実は、内科、外科系では抗がん剤の嘔気、嘔吐に対し5-HT3拮抗薬が処方されている。例えばカイトリル(グラニセトロン)、ゾフラン(オンダンセトロン)である。これらは薬価も高く、抗がん剤(抗腫瘍薬)を使っていないと処方できない。だから、これらの薬は季節性嘔吐症がいかなる重篤なものでも、処方は出来ないと思われる(だいたい精神科病院では置いてないし)。

ところが、リフレックスは5-HT3遮断作用を持つため(参考)、彼の嘔気には可能性のある薬物と言えた。そこで、今年はなかなか改善しなかったので、リフレックスを思い切って処方してみたのである。

どうも一発で効いたらしい。


翌日には70%は軽減し、2日目には消失したという。このような結果を見ると、彼の周期性の嘔気、嘔吐はセロトニンと関係が深かったことがわかる。

こうして彼の5年目のシーズンは終わった。

このように薬物には本質的にプラセボなど存在しない。もし、僕がプラセボを自在に扱えるなら、コントミンを筋注した時点でとっくに良くなっていたはずだ。

参考
季節性嘔吐症?
謎の症状性疾患
「季節性嘔吐症」その後
プリンペランとドグマチール
リフレックスはなぜ不安に効くのか?