『帝国以後』、『経済幻想』などの著書で日本でも知られている Emmanuel Todd エマニュエル・トッド氏は先週フランスで新著 « Après la démocratie » (『民主主義以後』)を出版しました。
それに関連して、週刊誌 Le Nouvel Observateur の先週号(2008年10月30日-11月5日、通巻2295)に、Vive le protectionnisme ! (保護主義万歳!)という記事が掲載されていました。
挑発的というか、反感を買いそうな内容ではありますが、読むと面白い(私の訳では面白くありませんが)ところは、さすがにベストセラー(?)の著者だけのことはあると思わされます。
Vive le protectionnisme !
par Emmanuel Todd
『民主主義以後』の著者によれば、欧州のパートナーと新たな経済モデルを作り上げない限り、フランスは危機から脱出できない。
Le Nouvel Observateur. – 現在の金融危機によって、ニコラ・サルコジの政策の転機を迎えているのでしょうか?
Emmanuel Todd. – そんなことは全くありません。現在の危機に対するサルコジの運営には、活動性の亢進と思考の支離滅裂さという、いつもと同じ心理的特徴が見られます。しかし彼は、ジャック・シラクや社会党の大統領がしたであろうこと以外には何もしていません。金融危機が実態経済にも原因を持つにもかかわらず、サルコジは金融の不調以外のものを頑なに見ようとしません。自由貿易は所得に対する世界的な圧力をかけ、その結果として需要の収縮が起こり、社会的な治安悪化の状態、生活苦という持続的な感覚を生み出しています。公務員、教員、雇用の数の減少として。そして銀行を救済し、富裕層に金を分配しすること、それはサルコジ主義の自然な性向です。
民主主義の危機に捧げた私の本の中で、私は息切れしている政治家のために3つの可能な選択肢を検討しています。第一の選択肢は民俗化に通じます。増強する排除、スケープ・ゴートの名指し(好みに応じて、または組み合わせで、移民、移民の子供、イスラム教徒、黒人…)。政治家階級全体が、世界的危機に際して、一部の愚かで経済的に虐待された子供たちがフランスのチームに口笛を吹いて野次ることに激怒することを優先課題のように考えるなら、我々は心配になるかもしれません。サッカーやイスラムに対するこのような情熱は、国外移転や生活水準の低下の時期に、民族化の問題がいまだに課せられていることを証明しています。私にはこのような政策がほとんど本当らしく見えないにしても。二つ目の選択は、普通選挙を問題視することになります。普通選挙は今や、合理的な選択よりも不確実性を生み出すように見えます。真の経済計画を全く提案することなく世論を操作するおかげで結局、非常に高い棄権率、郊外の暴力、社会の権威主義的な手段への復帰の口実となる未熟な階級闘争を生み出すことになるでしょう。第三の選択肢、欧州の保護主義の選択は、私にとって、我々の民主主義の最後の機会です。経済危機の加速は我々をこの運命的な選択に近づけています。
N. O. – フランスの社会と我々の民主主義に巣食う悪はどのようなものですか?
E. Todd. – 暴力的で下品で空虚な人物である、ニコラ・サルコジの当選は、錯誤ではないという考えを私は受け入れました。彼は知的、道徳的欠陥にも関わらず国家の頂点に到達したのではなく、その欠陥のおかげで到達したのです!サルコジは、貧困化、不平等、暴力という方向に、悪い方向に向かう恐れのあるフランス社会に巣食う病巣を暴露する存在です。フランスはイデオロギー的、宗教的空白、共通の計画を生み出す能力の欠如、金という強迫観念、教育の停滞、国民の下の階級を高みから見ているエリートの孤立によって悪化する社会の分断に突き当たっています。我々は今日、個人主義よりもはるかに深刻な病、行動の自己陶酔化に直面しています。大統領の行動もまた、社会生活の一面となってしまった、自己陶酔と露出趣味を読み解く鍵です。10年前、『経済の幻想』の中で私は、人口の20%だけが教育と高い所得を同時に得て、国民所得の50%を支配する、封鎖された社会を描写しました。今日、制度から物質的に利益を得ているのは人口の1%だけです。自称特権的な『bobos(ブルジョワ・ボヘミアン)』という戯画化に対して私は戦いを挑むつもりです。彼らは現実には、実質的に元は大衆の住む地区だったところに押しやられつつある中産階級の、教育を受けた若者の貧困化を体現しています。権力と富がもはや教育水準と関係がないのなら、そのときは階級闘争が再び可能になります。中産階級は、無産階級や最近の移民を敵に回すよりは、上流階級に異議を唱えることを選ぶようになるでしょう。これら教育を受けた若者たちの政治的怒りの高まりを、私は一つの解放として期待しています。しかし何も行われていません!
N. O. – あなたは、保護主義が欧州民主主義の最後の機会であると書いています。なぜですか?
E. Todd. – 自由貿易が有益な段階があります。しかしもはやそのような段階ではありません。給与に対する圧力は、地球的規模で、世界全体の需要不足に至りました。危機の前、システムはアメリカ合衆国のおかげで回っていました。支配的な通貨と軍事の状況で、米国は毎年、年間の貿易赤字に相当する、8000億ドルを余分に消費していました。アメリカは経済の再活性化因子でした、そしてその過剰消費はサブプライムのメカニズム、破綻したばかりの不動産担保融資によって資金供給されていました。グローバル化は最初の段階で世界の先進国側の雇用を破壊しました。新興国はこの破壊によって成長しましたが、結局は自らが弱体化させつつあった国々の内需の崩壊によって打撃を受けることになります。これは、宿主を最後には殺してしまうウイルスという古典的な問題です。ヨーロッパは、輸入と低所得の国への生産拠点の移転から自らを保護する、経済的規制の地域になると決定することができるはずです。アメリカと違って、特に困難もなく、エネルギー資源と一次産品の輸入のために自ら資金を手当てできる、4億5000万人の住民がいるヨーロッパにとって、この保護主義は技術的に容易なはずです。保護主義の最終的な目的は、欧州連合の外の国々からの輸入を拒絶することではなく、所得と内需の再上昇のための条件を創り出すことです。再び真のエリートとなったフランスのエリートが、自らの社会的責任を引き受ける決心をし、旧大陸の産業と社会構造の全面的な破壊を避けるために保護主義に移行する必要性を納得することを想像してみましょう。この欧州の保護主義、それは一つの世代全体に及ぶ計画です。これは積極的な展望です。我々を破壊した自由貿易の確立が、二世代にわたったことを忘れないようにしましょう。
N. O. – どのように進めますか?そしてどのようにしてドイツを納得させますか?
E. Todd. – たとえTGV、エアバス、原子力発電所のフランスが存在するとしてもドイツ経済が大陸の産業の中心であることをフランスのエリートが受け入れる困難があります。ヨーロッパを保護主義に転換するには、まずドイツの指導者層を納得させる必要があります。中国や世界の、国外の需要を無限に追求するよりも欧州の内需の再興の方が得るものがあることをドイツに納得させなければなりません。英国人と異なり、ドイツ人はアイデンティティーとして自由貿易主義者ではありません!今のところ、ドイツ人は世界化の利益があると間違って信じています。フランスはドイツに対して、ヨーロッパの保護主義的な方向転換がなければ、ドイツがユーロ圏を利出すしなければならなくなる、より性格には、ユーロ圏を破壊することになることを主張できるでしょう。なぜならドイツはすぐに、ドイツ以上に強くて狂ったユーロに窒息させられているイタリアに追いつかれるからです。保護主義の問題にドイツを直面させること、それはドイツ嫌いになることではなく、反対にドイツの重要性を認め、ドイツに自らの政治的位置を占めて、単独で行動するよりもヨーロッパの責任を感じることを要求することになります。
N. O. – この危機においてフランスの左翼はどのような役割を果たすことができるでしょうか?
E. Todd. – 教義上の空虚さがサルコジ主義のそれに劣らない社会党は、欧州の保護主義をタブーの話題とみなすことをやめるべきです。所得の再上昇と経済の再興は、ドイツとの緊密な再交渉によって保護されたヨーロッパの出現を経てなされると認めるべきです。幸いにも今は、その動議が保護主義の側面を含むブノワ・アモンBenoît Hamon がいます。彼のおかげで社会党は生き残りの機会を得ました。社会党がそれを捉えるか否かを見ることになるでしょう。アモンが挫折すれば、誰かが『社会党以後』という類の本を書くことになるでしょう。
Propos recueillis par GILLES ANQUETIL et FRANÇOIS ARMANET
Historien, démographe et sociologue, Emmanuel Todd est chercheur à l’Ined. Après « l’Illusion économique » et «Après l’empire », il poursuit sa réflexion en publiant cette semaine « Après la démocratie » chez Gallimard.
LE NOUVEL OBSERVATEUR 2295 30 OCTOBRE-5 NOVEMBRE 2008
http://hebdo.nouvelobs.com/hebdo/parution/p2295/articles/a386943-vive_le_protectionnisme_.html
欧州が本当に保護主義に走ったら一時的には混乱が起こるかもしれません。
しかし、グローバル化の引き起こした危害を考えれば、一考に価する提言でしょう。少なくとも欧州にとっては。
欧州以外の世界に関しても、ビル・トッテン氏などは保護貿易を推奨しています。
これまでにエマニュエル・トッド氏が「主役」として登場したエントリー:
- <仏大統領選挙>エマニュエル・トッドの警告【2】
2007-05-13 01:28
以下は、主要著作。もっとたくさんありますが、煩雑になるので省略しています。
最新刊『民主主義以後』は当然、まだ日本語訳は出ていません。
- 帝国以後―アメリカ・システムの崩壊/エマニュエル トッド
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【2009年4月21日追記】
冒頭で紹介した Emmanuel Todd 著 « Après la démocratie » は、2009年6月、『帝国以後』と同じ石崎晴己氏の訳で、同じ藤原書店から『デモクラシー以後―自由貿易主義からの脱却』というタイトルで出版される予定です。
藤原書店
紀伊国屋書店で、入荷まで1ヶ月待って買ったのに・・・ などということを言ってはいけません。
- 帝国以後―アメリカ・システムの崩壊/エマニュエル トッド