「新自由主義」元祖の一つとして、世界全体に大災厄をもたらした国に関する話題です。またしても不吉な人物の名前が浮かび上がってきます。
週刊誌 Le Nouvel Observateur の2009年10月29-11月4日(通巻2347)に掲載された
Grande-Bretagne - L'étrange revanche de Maggie
(グレートブリテン - マギーの奇妙な報復)という記事です。「マギー」とは、マーガレット・サッチャーに他なりません。Maggie という綴りを見たら、「マジ」と読みたくなるのですが。
GRANDE-BRETAGNE.
L’étrange revanche de Maggie
社会主義と資本主義の間、ニュー・レイバーが考案した「第三の道」は、危機に耐えられなかった。選挙が近づき、思想が欠乏している労働党は、保守党への道を遮る能力がないように見える。
De notre envoyé spécial à Londres
「Buisiness as usual ? いや、これは一つの時代の終わりであり、別の時代の幕開けだ。富裕層のための社会主義の時代の!」 銀行家、トレーダーとその他の金融資本家で軋むほど満員になった、リトルトン・シアターの観客席は、騒々しく爆笑する。ロンドンを駆け巡る戯曲、「ザ・パワー・オブ・イエス The Power of Yes」のこの衝撃的なせりふが、一つの時代の真実を容赦なく要約していたかのように。なぜなら、意志決定者、金融資本家、世論形成者という特権階級、同じ「クラブ」のメンバーの全てが不当に取得した、このイエスと言う権力、社会の進路と価値観を決める権力はまさしく、10年以上にわたる労働と政権とともにこの階級が結んだ契約に基づいているからである。「古い」レイバーの堅さを消し去ると見なされた「第三の道」」の名において、現代化を推進する労働党は規制緩和に青信号を出した。経済危機、アイデンティティーの危機、そして次期選挙における確実な敗北。アングロサクソンの労働党政策には、このファウスト的契約の非常に高い対価を支払う危険がある。
“You’ve never had it so good” (あなたは決してそれほど安らかな生活を送ってこなかった)。自由主義・自由至上主義者のバイブル、負けても潔い、『The Economist』は、2007年6月に、ブレア主義の10周年記念のために、このタイトルの記事を出した。“You’ve never had it so bad” (あなたは決してそれほどひどい生活を送ってこなかった)。ブックメーカーによると、1対7(のオッズ)で来年6月の選挙の勝者になると予想される保守党の最近の大会のテーマを繰り返して、同じ雑誌が今、皮肉っている。ダウニング街10番地のほぼ確実な未来の主、保守党のリーダーで、オックスフォード出身のお偉方、デビッド・キャメロンには、政敵である労働党の失敗を嘲笑するための選択という心配しかない。
危機はもちろん、そこを通っていった。しかし10年の陶酔の後に、結果は恐るべき物である。失業の爆発(10%)、ポンドの目が眩むような下落(1年で50%)、複数の大手銀行の事実上の国有化後の、成り行き任せの公共財政。おまけに、ゴードン・ブラウン首相への餞別のように、2010には国内総生産の85%になると見積もられる債務もある。
Montée de la xénophobie
(ゼノフォビアの増大)
この暴落の傷跡が目に飛び込んでくる。この災厄の震源、ロンドンでは、“to let”(訳注:「米語」では“for rent”)、「貸し物件」という看板が増えている。ニュー・ボンド・ストリートでは、金持ちのトレーダーのために店が棄てられている。シティーでは、“トレンディ”
(笑)なバーやレストランは、金曜夜の伝統的な“パーティー”がなくなって、ゆっくりと回っている。しかし、最も苦しんでいるのは、この国の奥底の方である。リーズ、ニューカッスル、バーミンガムなど、北方の都市は、不動産価格が暴落した(40%まで)。ウールワース Woolworth のような大型店の清算以来、アーケード街は陰気になった。唯一の勝者は、今では余裕のある階層が集まる、「99ペンス・ショップ」である。
「この景気後退は国の南部と北部の不平等を増大した。ベルグラビアBelgravia、チェルシーChelsea、サウスケンジントンSouth Kensingtonといった、首都の美しい地区は、繁栄し続けている。しかし、ニューカッスルの住宅金融銀行、ノーザン・ロックNorthern Rock の破綻に慌てふためいた預金者の行列を、英国人は記憶に留めている」と、都市計画家のジョーン・ハネットJohn Hannetは説明する。「あなたはサッカーが好きですか?リバプールのスタジアムに近い街、ハートフィールドは、ボロボロになっている。そして、ホンダが人員の3分の2を解雇し、ロンドンの西のサウス・マーストンSouth Marstonでは、かつてはすぐに再び仕事を見つけられると思われていた解雇が、大惨事のように感じられている。」
「イデオロギーは失せろ!大事なこと、それはうまく行くことだ」 英国人は、トニー・ブレアとその後継者、ゴードン・ブラウンの口から、このマントラが発せられのを、何度きいたことだろうか?この二人は、外国の政治指導者あるいはメディアの称賛の対象となった、屈託のない自由主義政策の張本人である。制度に仕立て上げられて、この政策は10年後に、怪物を生み出した。「現代化された」社会民主主義の称賛者としてブラウンは、未だに市場に放出していなかった、British EnergyやEurotunnelのような、最後の公共企業体の私物化を発表したばかりである。クリスマスの小包の配達を保証するために、20000人の臨時職員を雇うことを強いられた、商業相で副首相のピーター・マンデルソンPeter Mandelsonは、かつての友、ロイヤル・メールのスト参加者を、「国庫に損害を与え」たとして非難する。
極右とは常に距離を置いてきた国での最高の侮辱は、ゼノフォビア(外国人嫌悪)の増大である。さる1月、北部とスコットランドの石油精製所における、「British jobs for British workers !」(英国の雇用は英国人労働者のために)というスローガンの成功は、イタリアとポルトガルの移民労働者の締め出しにまで至った。「容認できない」と、当時、ゴードン・ブラウンは非難していた。ところが、最近の欧州議会議員選挙で、英国国民党British National Party (BNP)が、一部の州では総得票の12%を得るなど、大きな勝利を収めた。論争にもかかわらず、同党代表、ニック・グリフィンNick Griffinは、BBCの人気番組、『Question Time』に招かれたばかりである。彼は最終的に、政界で自らの場所を得るだろう。その当時のジャン=マリ・ル・ペンのように。
Le scénario de la récession
(景気後退のシナリオ)
「人的資源を優先するが世界化を受け入れる、伝統的な社会主義と市場という宗教の間の第三の道」という、アンソニー・ギデンスAthony Giddensの公理に基づいた「ニュー」レイバーは、いかにして、最終的に、労働者だけでなくミドル・イングランドの中産階級を絶望させることができたのか?「赤い」社会主義と、サッチャーによって潰された1970年代の大規模ストライキから遠く離れて、「中道で統治する」ことで彼らの幸せを作ると主張してさえいたのに。
「大言壮語と大風呂敷は忘れよ」と、デモス研究所の研究者、サイモン・ウェックスタインSimon Wechsteinは説明する。「ブレア主義、それは50%の功利主義と50%の“スピン”、つまり、政敵を不安定にしてメディアを惹きつけるために弾丸、“メッセージ”に効果を与える能力だ。」 大原則(従業員に責任を負わせること、あるいは、社会の保護網である、welfareよりも、労働の優位である、workfareをという)の背後に、強い信条がある。新自由主義的な世界化の不可避性を受け入れた方が良いということだ。「There is no alternative.」 そしてサッチャーよりも成功するためには、不動産とサービスという、英国のエンジンの二つのシリンダーを全速力で回転させることに優るものはない。単なる「借り手の良心」に基づいた持ち家取得への融資の危険性にも、シティーの賭け事にも心配することなく、世界中の銀行の役割を強化すると決意していた。しかし風向きが変わると、「モデル」は借金の上に築かれた繁栄の脆さを見せ付けた。ブラウンはバブルの危険を排除したと主張していた。サッチャーが始めた「規制緩和」というカードに徹底的に賭けながら、ブラウンは実際には、連合王国を「常に好機を求め、したがって産業の長期の取り組みには拒否反応を示し、不平等に無関心だが金融の偶然には過敏な、信じがたいほど柔軟な大投機ファンド」に変えてしまったと、エッセーストのパトリック・アルテュスPatrick Artusは判断する。これがまさしく、現在の景気後退のシナリオである。
Révolte des classes moyennes
(中産階級の反乱)
続きは?規制緩和プラス金融化イコール爆発だ!しばしば借金を下回る価値を自らの家に付ける不動産価格暴落によって損害を被り、自らの生活水準とスーパー・リッチの生活水準の増大する格差に激怒し、国民の60%が中間値以下で生活しているにもかかわらず、中産階級は反抗する。労働市場を去るとき、自らの年金が、株式市場のように資本化によって50%も失っていたことを知って驚愕した退職者は叫ぶ。「公共サービスの衰退の根底で、英国の基底の見捨てられた人々からなる無産階級は、リーズ、リバプール、レスターの産業未開の地で相続人欠如の状態に陥っている。それがこの社会的な激怒を助長している」と、数万人の「NEET」を指摘しつつ、ロザラムRotherhamの労働党議員、デニス・マックシャーンは確認する。
労働党は、「モンデオ・マン」、中産階級を体現するフォード・モンデオの運転手の幸福を作ると誓っていた。実際には“greedy people”、英国を荒廃させた銀行家と金融資本家の幸福を作った。「景気後退は新自由主義の一式を破壊した。新しい社会主義が必要だ」と、労働党左派の議員、ジョン・クルダスJon Cruddasは説明する。
しかし、選挙までの8ヶ月で、労働党は新たな展開を見せることができるだろうか?ピーター・マンデルソンは「英国のために新たな未来を建設する」と約束する。試練に耐え得るもう一人のリーダーがさらに必要となるだろう。巧妙なエコノミストだがトニー・ブレアのカリスマ性に欠ける、ゴードン・ブラウンは、システムの危機から銀行界を救った救済策をアメリカとヨーロッパに吹き込んで、2008年の秋の間にはごまかすことができていた。それは『フラッシュ・ゴードン』の勝利の時代だった。これを語るのは彼の外交顧問、トム・フレッチャーだが、感嘆したニコラ・サルコジでさえこう言った、短い瞬間だった。「ゴードン、 僕が君を愛してはいけないことを、君は知っている。君はスコットランド人で、エコノミストだ。僕たちに共通のものは全くない。ある意味でゴードン、僕は君が好きだ・・・ただし、性的にではなく!」
Vers une lourde défaite
(重い敗北へ)
これら全てが、実に遠く見える。優柔不断な、心の中ではテクノクラートで、銀行の次に政治家の信用を損なう会計記録の議会でのスキャンダルの巻き添えを食ったブラウンは、保守党に対して重い敗北を運命付けられているように見える。それでも保守党側は、「13年間の野党生活の後に社会を学びなおした」ことを証明しなければならないのだが。労働党の新綱領の作成に関しては、今もまだ不確かなようだ。先週、イングランド銀行総裁、マーヴィン・キングMervyn Kingが、「大き過ぎて潰せない」巨獣の再生を避けるために、銀行の商業行為と投資活動を分離する考えを仄めかしたとき、二人の財務大臣、現蔵相アリステア・ダーリングAlistair Darlingと、影の内閣の蔵相、保守党のジョージ・オズボーンGeorge Osborneはともに、同じ声で、ノーと答えた。「規制する」ことは問題外だ、というわけだ。市場、労働とともに資本の柔軟性は持続すべきだと、エコノミストのモーリス・フレーザーMaurice Fraserは説明する。シティーの富を成す投機ファンドを排除することも、問題外だ。同じ言葉の繰り返しだが、アングロサクソンの資本主義は、繁栄を築くために最もよく整っている。
「衝撃に強く、創意に富み、競争力のある英国人は、君たちが考えているよりも早く危機から脱出する」と、今なお続く景気後退の18ヶ月目に、デニス・マックシェーンは語気を強める。しかし、彼に新しいモデルがどのようなものかを尋ねてはならない。それはまだ、考え出すべきものだからだ。
JEAN-GABRIEL FREDET
Le Nouvel Observateur 2347 29 OCTOBRE-4 NOVEMBRE 2009
http://hebdo.nouvelobs.com/hebdo/parution/p2347/articles/a411888-.html
懲りないというか、強欲というか・・・ 嫌な気分になるような内容ですが、こんな国が「大人の国」とか言ってる人は喜ぶのでしょうね。公的医療の自己負担がゼロという点はいいとして、その点だけを褒めそやす人は、「マジ」とかいう女の「改革」のせいで、ガンの手術でも数ヶ月待ちとかいう状況には目を瞑るのでしょう。
カジノ経済が復活しつつある宗主国とか、鉄の女が息を吹き返しそうな大英帝国とか、このところ、懲りずにネオリベが復活しつつあるような嫌な予感がします。
どこかの国でも、「事業仕分け」とかいう見世物で、新政権が早くも財務官僚に操られているような気配。医療費を増額するという公約ではなかったのでしょうか?あれは「マニフェスト」であって、約束したわけではないから、破ってもいいと。それで、一足先に医療が崩壊してしまって、医療費を1.5倍にして再建に必死になってもなかなか再建できずにいる、北西の島国の真似をしようとでも・・・
「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」といいます。どこかの国の前政権の政治家の読書歴は、他国に顔向けできないほどお粗末なものでした。歴史を司馬遼太郎の娯楽小説から学ぶなど、アホのきわみだった首相が絶大な支持率を誇ったこともありました。それにしても、失敗の経験からも学ばないとしたら、この国の財務官僚やその周辺というのは、「愚者」を通り越して何なのでしょうか。彼らは、難しい試験に優秀な成績を収めるというある意味優れた能力があるのですから、その能力の範囲内で、答の決まった問題に決められた字数の範囲で決められた論理に沿って既に決まった解答を出すという、前例のある課題だけに取り組むべきであって、答のない未来の課題に手を出すべきではありません。答のない問題は、国民に選ばれた政治家が取り組むべきものであり、それが「政治主導」というものでしょう。
次回に、若干の補足記事があります。