科学的根拠の高い「アトピーの食事療法」の研究が少ないのはナゼ? | 子肌育Blog アトピーに負けない生活。

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こんにちは。橋本です。


昨日、こんな素朴な思いを、私にお話してくれた方がいました。


食事療法をした場合と、しなかった場合の研究とかがあるといいなと思います。


じつは、食事療法に関して、科学的な研究がおこなわれていないわけではないんですよね。


でもたしかに、アトピーにいいといわれる食べ物が世の中にいっぱいある割には、食事療法に関する研究は、しっかりしたものが少ないという印象です。


しかも、「ホントに科学的根拠が高いのか?」と聞かれると、微妙な研究もあるように感じます。


ではなぜ、アトピーの食事療法は、研究があまり進んでいないように感じるのでしょうか?


アトピー:食事療法


 


アトピーの食事療法は、無限にある


実際に私がお聞きしたのは、このような内容のお話です。


食事療法をした場合と、しなかった場合の研究とかがあるといいなと思います。


ステロイドはあくまで対症療法で、アトピーを完治させるものではないですよね。


食事療法の先生方のほうが、完治を目指されているように思います。


うちの長男はそこまで厳格な食事療法ではなく、完治に至りましたが(もしお時間あればブログを見て頂けたら詳しく書いています…!)、それも食事は何もせずとも治ったとか、ステロイドを使っていても治ったのだと言われると、客観的証拠になるデータがないので肯定も否定も出来ないんですよね(>_<)


食事療法をした場合と、しなかった場合の研究とかがあるといいな、という期待。


私にも少なからず。いや、痩せ我慢せずにいうと、かなりあるんです。


食べた物でしか体は作られないので、食べ物がいいとアトピーも治ってしまうような気がします。


では、アトピーの食事療法には、どんな感じのものがあるでしょうか?


アトピーの食事療法の一例

玄米を食べる

しょうがを食べる

ヨーグルトを毎日食べる

納豆を食べる

魚を多く食べる

たんぱく質を多めに摂る

亜鉛を摂る

水を毎日2リットル以上飲む

特別な水を飲む

朝食は生の果物ジュース飲む

健康食品を利用する

生野菜を食べて、酵素を取り込む

無農薬野菜にする

牛乳をやめる

揚げ物をやめる

バターやマヨネーズをやめる

マーガリンをやめる

砂糖をやめる

オリゴ糖やてんさい糖を使う

香辛料をやめる

絶食期間を作る

パンを食べない

お菓子を食べない

加工食品を食べない

外食をしない

などなど……


なりふり構わず、ざっくりと聞いたような例を、一応並べてみました。


例に挙げたのはほんの一例で、中には例に挙げたこととは正反対のことをすすめる指導法もあります。


こうしてみると、「何かを積極的に食べる」とか「何かを食べないようにする」というようなパターンが多いですよね。


ほかにも、マクロビオティックゲルソン療法など、食事方法が細かく組み立てられた、食事方法という枠組みをこえた、まさに哲学のような食事療法も、アトピーにいいとする方もいます。


アトピーを食事、食材によって治そうとアプローチする民間療法は、それこそ星の数ほど、世の中に登場し、例を挙げればキリがありません。


にもかかわらず、その実際の効果を調べる研究は、少ないんですよね。


これだけアトピーにいい、アトピーに悪いというものがあると、どれが本当に効果があるのか、混乱してしまいます。


数ある食事療法の中には、効果を期待したい一方で、食材の印象や、それなりの理屈から発想した、単なる「思いつき」のようなレベルのものまで、いろんなものが含まれているような気がします。


たとえば、反対に、腎臓病の食事療法では、たんぱく質を制限することの重要性は、はっきりしています。


それに比べて、科学的根拠の高い「アトピーの食事療法」の研究が少ない……。


これには、ある程度「それもしょうがないよねー」という理由があるんじゃないのかな、と私は考えているんですよね。


というわけで。ここからその「アトピーの食事療法の研究が進みにくいのもいたしかたない」理由を、1つずつ、ひも解いていきたいと思います。


食事療法:研究


 


食事だけでアトピーを治したのに、「食事のせいではない」と疑われる


食事は何もせずとも治ったとか、ステロイドを使っていても治ったのだと言われると、客観的証拠になるデータがないので肯定も否定も出来ないんですよね(>_<)


おっしゃる通り、「これをしたら治った」という少人数の事実だけで、治療法の効果を決めることはできないですよね。


参考記事:

「体験談」という落とし穴


そこで、より大規模な人数を集めて、食事や習慣、それと健康の関係を調べる研究方法があります。


それが、「コホート研究」というものです。


参考記事:

コホート研究とは?


 


より大規模にすれば、科学的根拠が高くなるはず


実際のコホート研究の例として有名なのが、アメリカのハーバード大学を中心とした看護師健康調査です。


最大で12万1,700人の女性たちを20年以上に渡って、生活習慣と健康の関係性について、追跡調査しています。


あまりの研究規模の大きさにビックリしてしまいますよね。


参加者には、2年ごとに質問に答えてもらい、その回答を集計して、データを計算して、分析していくというのが実際の研究作業です。


のべ20数年の研究で、12万人以上を追跡する。


それだけでもえらいのに、2年ごとに、おそらくおよそ12万通の手紙を出すことになるんですよね(苦笑)……。


さらに、参加者で亡くなられた方がいれば、その死因についても、きっちり調査していく。


想像するだけですさまじい研究です。


この研究によって、こんにちでは当たり前になっている、乳がんや心臓血管疾患などに対して「どんなことで予防できると考えられるのか?」ということをあきらかにしています。


たとえば、「乳がんと喫煙の関係はみられない」とか「ピルの使用は、心疾患や脳卒中などのリスクを増す」などといったことです。


看護師健康調査では、栄養に関しての研究結果も出ています。


たとえば、カルシウムを例に出してみると……。


女性看護師83,779名 (平均46.0歳) を対象としたコホート研究 (追跡期間20年) において、カルシウムの摂取量が多いほど糖尿病の発症率が低かったと報告されています 1)


 


コホート研究の弱点


ただ、コホート研究は、大規模だからといっても、まだまだバイアスをなくしきれていません。


参考記事:

事実をゆがめる「バイアス」とは?


バイアスとは、日本語でいうと「ゆがみ」のことで、収集したデータに「かたよりが生じる」……言い換えると、「ゆがみが生じる」ことによって、事実がねじ曲げられてとらえられてしまうことです。


もともとバイアスが少なくなるように設計されている、コホート研究。


しかし、参加者がある一部のかたよった集団から選ばれたり、質問に対して都合の良いように回答してしまうなどなど……。


まだまだバイアスが発生する余地が、いっぱいあるのです。


先ほどの「看護師健康調査」の例では、「研究に参加してもらいやすいように」という理由はあるものの、参加者が「女性看護師」という、ある一定の集団にかたよってしまっています。


誤解をおそれず、極端な言い方をすると……。


たとえば、その病気が、「ある食生活」のせいで発生率が上がったのか?


それとも、「看護師という生活リズム」のせいで発生率が上がったのか?


集団がかたよっているがために、正確なところがわかりにくいのです(実際には、場合によっては、このようなバイアスを取り除く計算方法もあります)。


では、コホート研究よりもバイアスを少なくし、科学的根拠の高い結果を得るには、どんな研究をすればいいのでしょうか?


 


「効くかどうか?」は、理論だけでは判断できない


先入観や偏ったデータ……いわゆるバイアスがさらに入り込まないようにするには、「ランダム化比較試験」という、厳しく設計されたテスト方法を使います。


ランダム化比較試験は、「新しい治療」と「それまでの治療」をする2つのグループにわけ、しかもバイアスが入らないように、そのグループわけをランダムにおこない、治療効果を比較する方法です。


参考記事:

ランダム化比較試験とは?


理屈的にとてもうなずける「良さそうなだな」と心から思えた治療法……。


そんな治療法なのに、実際にランダム化比較試験でチェックしてみると、まったく効果がないなんてケースもおこりえるのです。


治療法は、「こういうメカニズムで働くから良いんですよ」という理由づけが優秀でも、実際には症状を悪化させてしまうものさえあるんですね。


たとえば、「カルシウムを日頃から十分に摂れば、骨折や骨粗しょう症などが予防できる」という理論です。


人間の骨のほとんどは、カルシウムでできています。


カルシウムは血液中にも流れており、体内にある骨芽細胞こつが・さいぼうという細胞が、このカルシウムを利用して、骨を作ります。


そして、カルシウムを摂取すると、骨の材料となる、こうした血中のカルシウムも上昇することがわかっています。


ところが、ランダム化比較試験をやってみると、そのような効果が必ずしもストレートにおきないことがわかったケースもあるんですね。


たとえば……


ランダム化比較試験の内容

65歳から71歳のフィンランドの高齢女性3,195名を対象に、カルシウムを1,000mg/日、ビタミンD3を800IU (20μg) /日を3年間


・摂取してもらったグループ(1,586名)


それと、


・摂取しなかったグループ(1,609名)


それぞれを比較したところ、骨折の頻度にあきらかな違いは認められなかった 2)


という結果が出ています。


治療法の理論自体は、とてもうなずける、その理論がすばらしいからといって、最終的に「効く」とは限らないんですね。


極端な方法の場合、最終的に、体に悪影響を与える可能性さえあるのです。


 


さらに、しっかりした科学的根拠を得るために


ただ、こうしたランダム化比較試験は、同じような課題の試験をしても、まったく逆の結果が出てしまうことも、しばしば。


そこで出てくるのが、システマティックレビューという研究方法です。


参考記事:

システマティックレビューとは?


システマティックレビューは、


すべての研究結果を集める

質の悪い研究は除外する

質の良いデータだけをまとめて分析する


というデータをまとめる一連の作業によって、総合的に治療法の効果を検証する方法。


時には真逆の結果が出ることもある試験のデータを統合分析して、「効果があるのか?ないのか?」、最終的に大きな結論を出すのが、システマティックレビューです。


たとえば、ヨーロッパやアメリカでは、1997年の時点で、「カルシウムの摂取が骨量低下を防ぐのか?」ということについて、複数のランダム化比較試験が実施されていました。


しかし、その試験結果の結論は、さまざま。


「カルシウムに効果あり」とする研究がある一方で、「効果なし」とする研究もある。


そこで、それらのランダム化比較試験を集め、バイアスの多い質の悪い研究を除外し、質の良いデータをまとめて分析する……。


いわゆるシステマティックレビューがおこなわれています。


そのレビューでは、カルシウムのみの摂取(1,000~1,200mg/日)では、閉経後の女性の骨粗しょう症を予防する効果はないと結論づけています 3)


理論的に「体にいい」と言われているものを食べ続けたとしても、そのことが必ずしも「体にいい」とは限らないというのが、ここでもわかります。


カルシウムを例にとっていえば、心疾患など総合的な健康との関連をみると、摂らないのも、摂り過ぎも良くない。


ほどほどの量を、無理なく食事から摂るのがいちばん。


今のところわかっている範囲でいうと、そこまでしか言えないわけなんですね。


アトピー:研究


 


アトピーの食事療法でも同じような試験をすればいいんでしょ?


さてさて。


では、話を大幅に戻します。


「じゃあ、このような科学的根拠の高い『ランダム化比較試験』のような研究方法を使って、アトピーの食事療法について調べればいいだけじゃないの?」


という素朴な疑問がわき上がってきます。


ところが、そうも単純にいかないんです。


なぜかというと、こういうような「食べたか」「食べないか」だけを比較するという方法に問題があるんですね。


 


「食べたか」「食べないか」だけを比較する、という問題点


まず、前提として、アトピーは、皮膚に炎症がおきることで、症状が悪化する病気です。


そして、食事では、このような皮膚の炎症をしずめることはできません。


いくら「アトピーにいい」という食事を頑張って食べようが、今おきている皮膚の炎症そのものは、消えてくれません。


ですから、「アトピーにいい食事」というものが期待されているのは、「長くそのような食事を続けることによってアトピーをおこしにくい体質になってくれるのではないか?」ということです。


では、こつこつ、アトピーに良さそうな、体質改善に良さそうな食事を続けながらも、皮膚の炎症がひどくなってしまったらどうすればいいのでしょうか?


食事には炎症をおさえる力はないですから、ほおっておけば徐々に湿疹がひどくなってしまうことも考えられます。


で、ここで不運にも、ひどい症状になってしまい苦しんでいる子どもを見て、ごく普通のお医者さんは、かたくなに「炎症をおさえるのに有効な薬を使わない」という選択を取れるでしょうか?


答えは、もちろんNOです。


しかし、「食事療法だけでアトピーに効果があるのか?」「食事療法だけでアトピーは治るのか?」といったことを調べようとすると、試験中はどうしても薬など、他の治療法を使うわけにはいきません。


なぜなら、食事療法の効果を厳密に調べるランダム化比較試験をするなら、純粋に……


食事療法をしたグループ

食事療法をしなかったかグループ


この2つにわけて、どちらのアトピー改善率が高かったのかを調べなければいけなからなんですね。


2つのグループ間で、食事療法以外の条件はすべて一緒にしなと、結果をねじ曲げてしまうような「バイアス」がかかってしまいます。


 


食事のおかげか?薬のおかげか?


試験では、食事療法以外の条件は、すべて一緒にしたい。


ところが、アトピーというのは、皮膚に炎症が繰り返しおこるような病気。


いくらアトピーにいいだろうという食事をしていても、試験をしている最中に、どんどん症状が悪化してしまう参加者が出てしまうことも容易に考えられます。


そこでステロイド外用薬やプロトピック軟膏といった、皮膚の炎症に有効な薬を使ってしまうと……


食事療法のおかげで良くなったのか?


それとも、


薬で皮膚の炎症を早期におさえたから良くなったのか?


どちらの効果なのかが、わからなくなってしまうんですね。


これが、科学的根拠の高い「アトピー食事療法」の研究をおこないにくくしている、理由のひとつです。


ほかの分野の病気でも、たとえば、糖尿病の「カロリー制限食」や「糖質制限食」の長期的な効果を示す、はっきりした科学的根拠が現時点で少ないのも、同じような理由からです。


ほかの治療が、食事療法の効果をわかりにくくしてしまうのです。


そして、これは何も、食事療法に対してだけいえることではありません。


食事療法と同じく、かゆみ止めの飲み薬などの「アトピーによる炎症そのものをおさえる効果のない治療法」全般にいえることです。


かゆみ止めの飲み薬は、どんなに頑張っても、炎症をおさえる薬に比べれば、科学的根拠として弱くなってしまうのです。


ただし、「かゆみ止めの飲み薬による治療は、補助的なもの」という前提があるので、いろいろな工夫をしながら試験がおこなわれて、より高い科学的根拠が探られています。


一方の食事療法のほとんどは、極端な方法でない限りは、いわゆる「健康的な食事」のような内容なので、食事療法そのものが、アトピーを悪くしたり、体に悪影響を与えることは、常識的にいって考えられません。


しかし、体質改善にこだわりすぎると、今ある炎症をおさえるような治療を拒否してしまいがちな面があるため、「工夫をしながら試験をする」ということがおこなわれにくいのかもしれません。


 


モラルの問題


医学研究の世界には、ヘルシンキ宣言という「お医者さんたちの間でのお約束事」的なものがあります。


ヘルシンキ宣言とは何かというと、


いくら人類を救う医学発展のためとはいえ、みすみす患者さんにダメージを与えるような研究は止めましょうね


という、お約束事です。


これは、第二次世界大戦でおこなわれた人体実験への反省からきたものです。


これを、アトピーに対する食事療法のランダム化比較試験にあてはめると……。


「いくらなんでも、食事療法の本当の効果を見たいからといって、アトピーの悪化で苦しんでいる子どもの症状を放置するのはダメでしょ」


というモラルのようなもののことです。


ランダム化比較試験をおこなうには、通常、病院内の倫理委員会りんり・いいんかいというところで、「その試験はモラルがきちんと守られているか?」ということを審査されます。


この審査を通らないことには、どんなに「効果をはっきりさせたい!」といっても、ランダム化比較試験を実施することはできないんですね。


このような理由もあって、民間療法的に開発されたような、数々あるアトピーの食事療法は、詳しく検証されないままでいるのかもしれません。


 


でも、食事療法は体質を改善するものだから……


でも、食事療法は体質を改善するものだから、根本的にアトピーを完治させるのは、薬ではなく、食事しかない。


そういうのも、ごく自然な考え方ですよね。


健康的についての考え方は、人によって様々。


食事療法は、興味ある人、興味がない人。好きな人、嫌いな人が、結構はっきりする分野のものです。


人それぞれの趣味、志向みたいなものが影響しますよね。


まさにライフスタイルの選択、みたいなところがあります。


ですから、アトピーのひどい悪化を放置しないようにするなら、人によっては食事療法を突き詰めるのもいいのかなと思います。


でも、本当に食事で体質改善はできるのでしょうか?


これはまた別の角度からの話になるので、混乱しないように、またの機会にお話したいと思います。


 


 


 


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参考文献:

1) Pittas AG, Dawson-Hughes B, Li T, et al: Vitamin D and calcium intake in relation to type 2 diabetes in women. Diabetes Care 29(3): 650-956, 2006.

2) Salovaara K, Tuppurainen M, Karkkainen M, et al: Effect of vitamin D(3) and calcium on fracture risk in 65- to 71-year-old women: a population-based 3-year randomized, controlled trial--the OSTPRE-FPS. J Bone Miner Res 25(7): 1487-1495, 2010.

3) Vernon Young, John Erdman, Janet King, et al: Standing Committee on the Scientific Evaluation of Dietary Reference Intakes, Food and Nutrition Board, Institute of Medicine. DIETARY REFERENCE INTAKES FOR Calcium, Phosphorus, Magnesium, Vitamin D, and Fluoride. Washington, DC: National Academy of Sciences, 1997.