銀河漂流劇場ビリーとエド 第5話『続・超能力少女は静かに眠りたい』・⑦ | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第5話 ①、  ②、  ③、  ④、  ⑤、  ⑥、  ⑧(終)  

 

「というわけでアルルさんのイカサマ勝負の手伝いをしましょう」
「何が『というわけで』なんだよ」

 ここは宇宙船シルバーアロー号談話室。何かにつけみんなで集まる通称『ひまつぶしの間』。
“行動”と“結果”が逆になった前回から、いきなり何の脈絡も無く、まるで別のエピソード
として予定していたものを1話分にまとめたような強引さで始まったあまりにも唐突な展開は、
当然のようにビリーを苛(いら)つかせた。

「前回の終わりがけにチョロっとだけ説明があったじゃないですか。いい加減負けがこんでる
からここらでアルルさんに花を持たせてようって話ですよ。ねえ船長?」
「そうだよ。毎日毎日寝てばっかりでさ、何か能力使っても眠っちゃうし、かわいそうだよ」
「俺たちのトンチキなバカ話に巻き込まれる方がよっぽどカワイソーだと思うがな。だいたい、
アイツの爆睡体質をどうにかしようってンならまだしもだ。なんでそこにイカサマの手伝いが
セットでくっついてくるんだよ。入管法改正がらみの自民党みてぇーなムーブかましやがって」
「難民への扱いが恣意的で宙ぶらりんどころか完全に人権侵害の扱いで収監し続けた挙げ句に
衰弱死させるような問題だらけの現状を放置するのかと、そんな卑劣な論理で話を進めようだ
なんて考えてませんよ。それを詐病呼ばわりなんてロボットの私もドン引きですがね」

 

 

 難民問題に対し、自国の問題を自力で解決出来ない連中のとばっちりで、本来無関係である
はずの自分たちが終わらない尻ぬぐいをさせられ、割を食う(と思っている)状況に反発する

感情があるのかもしれない。およそあらゆる“福祉”や“支援”に対する非難と反発の根底に

あるものをすべてひと言でまとめてしまえば「アイツ(ら)だけずるい」というきわめて原始

的な感情に集約されるわけなのだが、よくよく考えてみるといい。
 選挙にも行かず、うんこ味のうんこどもの暴政を放置し続ける自分たちが「そうならない」
という確実な保証が一体どこにあるだろうか?明日は我が身と思えば、決してぞんざいな扱い
など出来ないはずだ。ましてや弱者同士で足の引っ張り合いなどしている場合でもないだろう。

「では話を戻しましょう。そもそも私の目的はアルルさんのイカサマ勝負を成功させることで
あって、爆睡体質の改善なんか基本どうでもいいことなんです。私に言わせればそっちの方が
セットでくっついてきてるんですよ」
「…お前はそういうヤツだよな」

 人間好みの、いかにも聞こえのいい大義名分にこだわらないあたりは“ロボットらしさ”と
言えるのだろうか…誉められないような動機を隠そうともせず、それで“人間”を説得しよう
と考えているなら、人間よりよほど非合理的なバカ正直っぷりである。

「相変わらずおめーがナニ考えてンだかさっぱりだが、アイツの寝てばっかり生活をどうにか
しなけりゃいい加減俺も困るからな。協力してやってもいいが具体的に何をするんだ?」
「特訓です」

 

 

「というわけで始めましょうか、アルルさん」
「何が『というわけで』なのよ」

 舞台変わってここはシルバーアロー号トレーニングルーム。縄跳びにダンベル、冷凍吊るし
牛肉から果てはボルダリング用の壁の凸(ボッチ)まで、ありとあらゆる屋内スポーツ設備を
取り揃えたもう一つの娯楽部屋にて、超能力少女の爆睡体質克服大作戦が始まった。

「つーか1個だけ明らかにダウトが混ざってたよな」
「だからどういうことなのよさっきから」

 上下おそろいのトレーニングウェアに身を包んだビリーたち3人と、ヘンリーネックのジジ
シャツに腹巻きと眼帯の“模様”を直接体に書き込み、首が無いからと両腕をバンザイにして
タオルを引っ掛けたどこかのトレーナーみたいな扮装のポンコツロボット、そして部屋の中を
結構な音量で流れるサバイバーの『虎の目(アイ・オブ・ザ・タイガー)』…久しぶりに目を
覚ましていきなり巻き込まれた突拍子も無い唐突な展開に、アルルは戸惑いと不安と苛立ちを、
あからさまに顔に出していた。

「おめーの爆睡体質をどうにかしようって話だよ。こっちも手荒なマネはしたくないんだ」
「あなたを叩き起こすために暴力に訴えるのもいい加減、我々の良心が咎めるということです」
「心(こころ)とかそれ以前にさぁ、ナニ考えてるのか分かんないって話なんだけど」
「だからこれから特訓するんですよ。あなたの爆睡体質を克服するためにですね」
「…まぁいいわ。それでなんでこれからボクササイズしますみたいな恰好させられてるわけ?
さっきから流れてるこの曲は何なのよ?」

「よくぞ聞いてくれましたアルルさん!」

「超能力とはズバリ!あらゆる物理法則を超越した心の力、つまりメンタルです。倒されても
倒されても立ち上がり、12ラウンド最後まで闘い抜いた男の中の男!!スタローンの不屈の
魂に少しでも近付くことが出来れば!!!…おそらくはその爆睡体質も改善されるはずです」
「…アンタもしかしてバグってんの?」
「言いたくなる気持ちは分からんでもないが平常運転だろう、多分な」
「だから『ロッキー』の曲使ってるんだね」
「冷凍の吊るし牛肉もな」

 こうして無理矢理始まったアルルの特訓は、他の仲間たちも予感した通りに『ロッキー』の
それをそのまんま再現したもので、縄跳びはもちろん冷凍吊るし牛肉をサンドバッグにスパー
リングをしてみたり、生卵を10個一気飲みしてみたりと、いくら超能力という未知の分野を
鍛えるにしても手探りどころかお遊びが過ぎると言いたくなるようなモノであったが、そんな
こんなで24時間船中どこへ行っても毎日ひっきりなしに流れるサバイバーにみんな(約1名
除く)いい加減ウンザリしてきた頃、ようやく特訓が完了し、再びトレーニングルームにての
お披露目となった。

「さあ、アルルさん。いよいよ特訓の成果を見せるときです!」
「アルルさんなら両手ぶらり戦法で爆睡中だよ、ロボ」
「Zzzzz…」

 特設リングに上げられたアルルは、ボクシンググローブをはめた両手をぶら下げて、立った
まま爆睡中。何故かついでに上げられたビリーは、呆れ顔でそれを眺めていた。

「テレポーテーションでカッコよく出てきて早速寝てんじゃねーか」
「大失敗ですね」
「当たり前だ、こんなんで上手くいくわけねーだろが!トンチキなプラン立てやがって」
「なにか他にいい方法ないかな?」
「…ついてきな、俺に考えがある」
「どこ行くの、ビリー?」
「…エンジンルームだ」
 

〈続く〉
 

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