銀河漂流劇場ビリーとエド 第5話『続・超能力少女は静かに眠りたい』・④ | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第5話 ①、  ②、  ③、  ⑤、  ⑥、  ⑦、  ⑧(終)  

 

「今のビリーさんは…“行動”と“結果”が逆になっているんです!」

「だからそこでバーンじゃねぇだろーが」
「どこでバーンでもいいけどさぁ、これからどうするの?」
「そんなもん、コイツを叩き起こして解除してもらうしかないだろうが」
「それもそうだけど、同じくらい大事なことがあると思うんだ。名前とか」
「…名前?」
「うん。ナパームデスなんてどうかな?」
「どの辺がナパームでどの辺がデスなんだよ」
「じゃあ電撃ネットワークにします?」
「それだったらハニーナイツとか、ポニージャックスでもいいじゃん」
「MATTE KUDASAI. こんな悪ふざけみたいな状況なんですから、むしろギャグみたいな名前に
でもして振り切っちゃった方がいいんですよ」

 

 

 何かしら一家言(いっかげん)持つようになるのは、こじらせた連中の面倒な習性である。
あーでもないこーでもないと、しばらくの間どうでもいいことを議論していたエドとロボだっ
たが、基本的には平和な連中であるから最後は「ここは被害者であるビリーに命名の優先権が
ある」ということで、一応は折り合いをつけられるだけの物分かりの良さを発揮したつもりの
ようだが、本当に物分かりの良い人間ならこの程度の合意形成に10秒とかからないだろう。

「言いたいことを代弁してくれてありがとうよ。それじゃ改めて“本体”を…」
「無理矢理叩き起こすのはやめておいた方がいいでしょうね」
「…なんでだよ」
「第6部の承太郎だって、記憶がなくなっても帽子に触られるだけで無意識にスタンドが発動
したじゃあないですか。アルルさんだって寝起きで何をしてくるか…」
「オリンピック前に起こされたこち亀の日暮(ひぐらし)みたいになるってのか?」
「やってみなければ分かりませんが、可能性は否定出来ません。オラオラでなければアリアリ
かもしれないし、無駄無駄かあるいはボラボラかもしれない。グレートに埋め込まれなければ
この船と一体化しても何とかなりますが、黄金の回転で無限の彼方(かなた)にゴービヨンド
して暗黒空間にガォンされたりなんかしたら、我々にはもうどうしようもありません」

「………………」

「どうしました?マニアでニッチなネタを連発されても理解出来てしまう自分にウンザリした
ような顔してますよ」
「…マニアでニッチなネタを連発されても理解出来てる自分にウンザリしてんだよ」
「こんなところでいちいちつっかえていたらいつまで経っても話が進みません、我々としては
むしろ大助かりです。やるからには先っちょからケツまでとことんやりましょうよ」
「お前らを助けてるつもりなんぞ1ミリもねーんだがな。自然に起きるのを待つしかないか…
念のために聞くが、どれくらいで目ェ覚ますか分かるか?」
「分かりません。現状はせいぜい“起きたこと”を観測データとしてまとめあげるのが精一杯
ですからね。能力と睡眠時間との関係や規則性が不明では、予測の立てようがありません」
「観測データがあっても応用出来る段階じゃあないってか、予想はしてたけどな」
「ですからしばらくは…まぁどれくらいで終わるか分かりませんが“行動”と“結果”が逆に
なる生活を始めてもらうしか、…………」

 いつもは立て板に水で、自分の頭の中身を全部吐き出す勢いで人の3倍も4倍もしゃべくり
倒すポンコツロボットが突然途切れたように言葉を詰まらせ、動かなくなった。

「どうした?フリーズしたのか?」
「演算処理の動作は正常です。ただその“行動”と“結果”が逆になる生活なんですが、ある
考え(シミュレーション)が私の中で強力に何度も反芻してると言いますか…人間の感覚的な
表現で言うところの…そう、“嫌な予感”がしているんですよね」
「言い方が回りくどいのはロボットとしてのこだわりか。何が気になるんだ?」
「人間には“食事”が必要…ですよね?」
「そうだな。それが人間の生態だ」
「“食べ”たら“出る”…そうですよね?」
「…何が言いたい」

「“食べ”たら“出る”…それが“逆になる”…ということですよね……?」

「………………」


「………………………………」



「………………………………………………」


「だ…大丈夫だよ、ビリー。僕がちゃんと、おいしいの用意してあげるから」
「…まったくやれやれだな」

 果たして出る“もの”が逆になるのか?それとも出る“場所”が逆になるのか?宇宙時代に
おいても決して変わることの無い人間の普遍的な営みが、ビリーを追い詰めようとしていた。
“行動”と“結果”が『逆になる』…アルルの中で目覚めた能力が、催眠術だとか超スピード
だとかそんなチャチなものでは断じてない、もっと恐ろしいものの片鱗をもたらす結果…には
ならなかった。

 思わせぶりに引っ張っておいてなんとも拍子抜けのオチだが、要するにこの場合の「行動と
結果が“逆になる”」とは、つまり「行動に対して“逆の結果が働く”」ということで、あく
まで出力自体に作用する能力であり、必ずしも逆の手順が要求されるものではなかった。
 早い話ただ単純に食べれば食べるほど空腹に陥るだけで、逆に“何も食べなければ”その分
だけ食べ続けているのと同じ状態になる。『ABABAB…』と交互に繰り返されていたのが
『BABABA…』に変わるだけなら、それは長い目で見ればどちらも同じことだった。

 もちろん気がかりはそれだけではなく、行動と結果が逆になる状況下でのドアの開け閉めや
会話による意思疎通といった、ここまでの時点で既に解決した問題への疑問が残されていたが、
それらはすぐに答えが出た。“閉じて”いなければ“開ける”ことは出来ない、“生きている”
から“殺す”ことが出来る…行動と結果が逆になっても「出来ないことは出来ない」。だから
“殺す”と“生き返る”とかそういうことも無い。お金持ちにもなれない。

 そして普通の会話が普通に成立するのはただ単純に“相手の受け取り方次第”というわけで、
洗濯機を使うと服が汚れたり、機械の操作が逆になったりといった、小石や段差にけつまづく
ような細々(こまごま)とした面倒ごとに見舞われはしたもののそれも徐々に慣れ、ひと月も
経つ頃にはスッカリ順応していた。

 そこからさらに半年後、舞台は再び超能力少女の自室。

「223日と19時間40分15秒…16、17、18…アルルさんの寝てばっかり生活は今
なお記録更新中ですか。果たして今日こそはどうなるやら…」

 ビリーとロボの2人は、寝たきりならぬ寝てばっかり生活に突入した超能力少女のために、
部屋の掃除やベッドシーツの取り替え、さらに体を拭いて着替えさせたりと、10歳の少女を
相手にまるで老人介護のようなことをしていた。

「今日がどうなるかは知らねーがさすがに一生このままってことは無いだろうよ。何事も期待
しなけりゃ大抵のことはうまくいくもんだ」
「どこかで聞いたようなセリフですね」

 ベッドから引きはがしたシーツをバレーボールくらいの大きさにまとめると、目つきの悪い
男がそれを近くの洗濯カゴに投げ込んだ。シーツの塊は洗濯カゴを飛び越え、後ろの壁で跳ね
返ると、カゴの縁に当たってすぐ外にポトリと落ちた。

「見事なノーコンぶりですが、それ以外は特に問題無く過ごせているようですね」
「ああ。普通に歩けるからな」
「“近付く”と“離れる”ですか?そうならないのは多分、宇宙が丸いからでしょう」
「?どういうことだ?」
「丸い惑星の表面を移動するのと同じですよ。たとえば正面にいる相手に向かって秒速何mか
ずつで近付いていけば距離は縮まっているように見えますが、反対側からはその分だけ距離が
伸びて離れていくわけです。この場合“近付く”のと“離れる”のはいわば表裏一体の関係と
なるわけですからね、逆になっても何も変わらないんですよ」


 

ポアンカレ予想とは別のやり方で宇宙の形が証明されるとは思わなかったな」
「そんな大げさな話でもないでしょう」
 

 掃除に励む2人(?)の作業と雑談、そしてアルルの寝息以外には何も聞こえない…部屋の

静寂を破ったのは、緊急事態を告げる耳障りな警報だった。

〈続く〉

 

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