銀河漂流劇場ビリーとエド 第5話『続・超能力少女は静かに眠りたい』・⑤ | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第5話 ①、  ②、  ③、  ④、  ⑥、  ⑦、  ⑧(終)  

 

 ビリーとロボが、寝たきりならぬ寝てばっかり生活に突入したアルルの介護に勤しむ静かな
部屋に、緊急事態を知らせる警報が鳴り響く。天井の照明は黄色く光り、警報の耳障りな音に
合わせ明滅を繰り返した。

「黄色は外、だったよな。…まさかまだ機雷の残留地帯にいるってのか?もう半年だぞ」
「それは仕方ありませんよ。防御シールドがあるとはいえ、全速で突っ込んだりなんかしたら、
その分の運動エネルギーまで相手することになるんです。おそらくシールド防御だけでは対処
出来ない“何か”に遭遇したんでしょう。念のために設定しておきましたからね」
「準備の良さは昭和のロボットアニメもかくやってとこか。まぁどのみちこんなところでウダ
ウダやっててもしょうがねえ、艦橋(ブリッジ)に行くぞ」

 警報が鳴り響く中でも一向に目を覚ます気配の無い超能力少女を部屋に残した2人(?)が
艦橋に着くと、そこでは既にエドワード船長が待っていた。愛くるしい男の子は明らかに不安
げな表情を浮かべながら、暗黒の宇宙空間と何かの数字を大写しにしてコンマ単位でカウント
ダウンを続ける船外モニター用スクリーンとビリーたちとの間で、視線を往復させていた。

「衝突まで30秒切ってるのか…何がぶつかるんだ?」
「…これはブラックホール爆弾ですね。着弾と同時にブラックホール化して、辺り一帯が呑み
込まれます。もちろんこの船も無事では済みません」
「いきなりの超展開だな。…やっぱりシールドじゃあ防げないのか?」
「そういう種類の爆弾です。警報での通知はもちろん、自動回避も設定しておいたんですが…
おそらく通常兵器に偽装されていたと考えられます」
「それで発見が遅れて残り20秒近くにまで迫ってるってわけか。発射直前どころかどっかに
落ちてから何分も経って発報してるJアラートよかマシだが…別のやり方も考えないとな」

 大きく息を吐くと、目つきの悪い男は近くの操縦席にドカッと座り込み、落ち着いた様子で
指を2,3回ポキポキ鳴らし、操縦桿を固く握り締めた。

「自動操縦(オートパイロット)停止、手動(マニュアル)に切り替える。操縦者認証(パイ
ロットID)照合開始、登録名ビリー・クライテン」
「…まさかビリーが動かすの?」
「他に誰がいる?グーとパーしか出せねーポンコツは論外としてだ、お前じゃあペダルに足が
届かないだろ?」
「でも今のビリーにはもっと無理だよ!だって行動と結果が逆になってるんだよ!?右に舵を
切ったら左に曲がっちゃうんだよ!?」
「そうだな。だがそれがいい。行動と結果が逆になる…これがいいんじゃあないか、コイツの
おかげで助かるんだぜ俺たちは」
「でも…出来ないことは出来ないんでしょ?」
「ああたしかに、衝突まで残り10秒じゃあ避けるなんて不可能だな。『だから避けるつもり
なんかねえ』」

 

 

「お前の言う通り!今の俺は行動と結果が逆になってる。出来ねーことはそもそも出来ねー…
どうやっても避けらんねぇーってンならぶつけてやるまでだ。“行動”と“結果”が逆になっ
てる俺の手でな……!」
「そうか…だから…!」

 そう。“行動”と“結果”が逆になっていたからこそ、無重力で吹き飛ばされた船長を受け
止めるのにも失敗し、洗濯カゴに投げ込んだベッドシーツも入らなかったのだ。操縦桿を握り
締めたまま、ビリーが足元のペダルを力一杯踏み込むと、船は大きく揺れた。

「進路維持、全速前進!『チェンジ・ザ・ワールド』!このまま突っ込むッ!!」

 語尾に「ッ」を付けいかにもそれっぽく叫ぶビリーと、その辺の手すりにしがみつきながら
衝撃に備えるロボとエドワードたちが見つめる正面スクリーンでは、着弾までの秒読みがいよ
いよ残りひとケタにまで迫っていた。

4…

3…

2…

1……

 カウントダウンの数字がコンマ単位まですべて『0』を指したその瞬間、ビリーたちは息を
止め、体を強張らせた。別のスクリーンでは、〇や□に⇒といった図形や記号を動かしながら
船と爆弾との位置関係を映していたが、接触間近にまで迫っていた□と〇の配置は着弾の瞬間
に逆転し、徐々に遠ざかっていった。

「…警報解除。どうやらうまくいったみたいだな」
「でも…どうやってよけたの?まっすぐ突っ込んでたよね?」
「船長のおっしゃる通り完全に衝突コースに乗っかってましたからね、時間を止められたわけ
でもないのに“いつの間にか避けていた”とあっては、何をされたのか分からなくて頭がどう
にかなりそうなのも無理ありませんか」
「そりゃアレだな、量子力学だか何だかの話で、壁に向かって投げたボールがものすげー低い
確率で分子レベルのすき間を通って壁をすり抜けるとか、そんなとこだろ?」
「手段としては十分に考えられるかもしれませんが、他の可能性も捨てきれません」

「ほかの…?」

「つまりですね、衝突までに時間的余裕の無いあの状況で避けることは、本来であれば不可能
だったわけです。それでも『行動と結果が逆になる』能力が優先された結果、その『不可能な
現実』を覆すために現実を超越した“何か”が起きた…だから“現実”の住人であるところの
我々には知覚出来なかったという」
「もう少し分かりやすく説明してもらおうか」
 

ドギャン!ときてグオォォンとなってバァーーン!ってなったから助かったんですよ」
「ああそれでいい。それがやりたかっただけだな。そうでなきゃあいけねえ…今回はな!」

 分からない人には全くピンとこないネタ尽くしの中、今後に向けての課題は残されていたが、
今は当面の事態の収拾を優先すべきと判断し、ビリーとロボはアルルの自室へと引き返した。

 そこでは寝ぼけ眼の超能力少女が、鼻血をダラダラ流しながらビリーたちを見上げていた。

〈続く〉

 

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