銀河漂流劇場ビリーとエド 第5話『続・超能力少女は静かに眠りたい』・② | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第5話 ①、  ③、  ④、  ⑤、  ⑥、  ⑦、  ⑧(終)  

 

 切っているのに切れないハサミ。卵を沸騰させる冷蔵庫、餅をカチカチに凍らせるオーブン
トースター…次から次へと立て続けに見舞われるイタズラのような怪奇現象のせいで、昼食の
準備がサッパリ進まない。だがとっくに犯人の目星はついていた。

「…あの万年寝太郎め」

 超能力と、超能力者が日常に存在する世界で、自分の身に降りかかる理不尽と不可解に対し、
何らかの能力の介在を疑わない方がおかしいのだ。どんな能力に目覚めたのかは知らないが、
“本体”を叩くのが超能力対策のセオリーということで、ビリーはアルルを探すことにした。

 どんな無敵の能力でも本体が生身の人間である限り、そこを押さえれば後はどうとでもなる。
真に偉大な作品とは時代を超え、そして作品の壁をも超えて多くの気付きをもたらし、暗闇の
荒野に進むべき道を照らしてくれるものだ。いつまで経っても“考えさせられる”程度の反応
しか引き出せないようであれば、所詮そんなものは自分の言葉で何ひとつ語れない中身の無い
人間が、肥大化したエゴとプライドを慰めながら“特別な自分”を演出するために持て囃して
いるだけのファッションツールに過ぎない。

 なんなら試しに訊(たず)ねてみるといい。「それで具体的に何をどう“考えた”のか」と。
作品と自身を含めた批判的な総括が出来ればまだマシな方で、あとはせいぜい、読書感想文で
尺稼ぎのために垂れ流すのと同じような要領を得ない長文で言い訳するのが精一杯だろう。

「…なんなんだよ」

 話の流れをぶった切るように第四の壁の向こうから聞こえる毒舌と暴論にうんざりしながら
超能力少女の下へ向かう途中、角を曲がったすぐその先で目つきの悪い男は6,7歳ぐらいの
愛くるしい男の子…エドワード船長に出くわした。

「…、ビリー!」

 特に用も無いからとそのまま通り過ぎるつもりでいたが、ビリーが視線を外すより先に気が
付いたエドワード船長は人懐っこい笑顔で大きく手を振り、小走りで駆け寄ってきた。すると
突然、窓の外で何か光るのが見えたのとほぼ同時に、大きな衝撃と振動で船が揺れた。そして

ほんの一瞬だけ照明が切れた直後、ビリーたちの体は風船を付けたように浮き上がった。

「ビリ~…~~…!」

 衝撃と振動の影響で船の電圧が下がり、重力制御装置が停止してしまったのだ。駆け寄った
勢いのままつんのめり、不格好な前宙でグルグル突っ込んでくる小さな体を受け止めようと、
ビリーは通路の角で両足を突っ張らせて体を押さえながら、両手を突き出し身構えた。しかし
無重力下の奮闘むなしく目つきの悪い男の両手をスルリすり抜け後ろの壁に正面衝突、さらに
そのタイミングで戻った重力に引っ張られ、壁に貼り付いたままズルズルずり落ちていった。

「ビリー…ちゃんとキャッチしてよね」
「俺がもっとラブコメ体質だったら上手くやれたんだろーけどな」
「…ラブコメ体質とキャッチするのは関係ないと思う」

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 『ラブコメ』とは

読んで字のごとく“ラブ”と“コメディ”を合わせた略語・造語であり、
恋愛を主軸に展開される喜劇寄りの描写を特徴とした、物語形式の一種である。

起源を辿ってみればそこには“暗殺”という物騒な二文字の存在があり、
その技術の伝承を目的としていたことに、私は驚嘆を禁じ得なかった。

“暗殺”に必要な工程…すなわち標的(ターゲット)への『接近』と『実行』、
そして『離脱』…それぞれの段階を円滑に遂行し、かつ標的に真意を悟らせない
ための自然な演出としての“恋愛”であり、その詳細な手練手管を教則として
秘密裏に伝承するための“物語”というわけだ。

まさに『ラブコメ』とは技術であり、先天的あるいは後天的にそれらを
獲得することで“体質”が出来上がっていくのである。

だが恋愛物語としてのカムフラージュは逆に多くの人間に手の内を晒す
結果となり、皮肉にも実践における有効性は次第に失われていった。
現代に残るハニートラップは、あくまで諜報と篭絡を目的としており、
“暗殺”としては、まったく使い物にならなくなっていたのだ。

人間の心理と潜在的な願望に訴える『気持ちのよさ』だけが残ったことは、
まさにハッピーエンドと呼ぶべき、喜ばしい結末と言えるのかもしれない。

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民明書房刊『ラブコメの起源 とある歴史学者の研究』より一部抜粋

「これって本当なの?」
「ンなわけないだろ、民明書房だぞ」
「“みんめいしょぼう”って、何?」
「…そりゃそうだよな、世代的に」

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 『民明書房』とは


「くどい!!」

 いい加減ビリーの機嫌も悪くなってきたので、忍者漫画の忍術解説から着想を得た(文庫版
作者あとがきより)と言われる架空のホラ吹き出版社と、いい加減それが若い世代には伝わら
なくなっているオッサン世代の悲哀については、各々で調べてもらうとしよう。

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「なんなんださっきから…これも何かの能力か?」
「?能力って、何の話?」
「あぁ…アルルのせいで奇妙な冒険に巻き込まれてるんだよ」
「アルルさんが…って、新しい能力に目覚めたのかな。マルーン5(ファイブ)とか?」
「…それをこれから調べに行くんだよ。どんな能力だ?」
「地下で採れたショウガが安くなるの」
「…空耳アワーじゃねぇか」

 作者とこいつらの洋楽知識は、所詮その程度ということだ。

〈続く〉

 

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