銀河漂流劇場ビリーとエド 第3話『ぐるぐるデバッガーズ』・⑥ | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第3話 ①、 ②、 ③、 ④、 ⑤、 EX① EX②

 

 宇宙船シルバーアロー号第一艦橋・兼操舵室。船首後方に位置するここは船の司令塔であり、
船の操縦に必要な設備が集中するコクピットでもあるのだが、普段は自動操縦に任せっきりの
ビリーたちがこの場所に来るのは、主観的な時間で数十年ぶりのことであった。

 ゲーム世界でのナビコさんとの出会いから一転、いきなり何の伏線も無く告げられた母船の
緊急事態にイマイチ釈然としないながらも、ビリーたちは事態を収拾すべく、元居た世界へと
急いで取って返し、船内に鳴り響く警報と真っ赤に照らす警告灯の中、帰還の直前にロボから
指示されていた通りに向かった現場では、何故だかゲーム大会が始まっていた。

 前方と左右の壁一面に貼られた船外モニター用スクリーンは、放置状態で勝手に始まるデモ
画面のように迫り来る敵をぎこちない動きで撃破する様子が映し出され、それを眺めるロボの
背中から伸びたコード(導線)は、ゲームパッドにつながっていた。
 さらにロボの“口”…にあたる部分、普段は発語に合わせて謎の波形を描いている謎の機関
から吐き出された赤・白・黄色の3色コードは目の前のコンソールパネル(操作盤)に接続し、
壁面のスクリーンとまったく同じものがパネルのレーダーサイトにも出力されていた。

「…俺がやってたゲームじゃねーか」
 物語冒頭でカンストを達成し、頭がおかしくなる寸前までやり込んでいたビリーが、それを
見間違えるはずが無かった。この場合、ロボはさしずめゲーム機本体といったところだろうか。
果て無き闇が無限に広がる宇宙の暗黒以外に、見るべきものも何も無いはずの退屈で殺風景な
空間は、デパートの屋上やゲームセンターの地階なんかで真夏と年末あたりに繰り広げられる
イベント会場の様相を呈していた。

「おいどうなってんだロボ!なんで緊急事態にハドソン全国キャラバンが始まってんだ」
「ふえおひふへうあういうういほうへひはえへいはふ、ふへひほうはへいはははへへはひはひ
はあふあっへいうんへふ」
「…なに言ってんだお前?」
「船のシステムがウイルスに攻撃されています、すでに操作系がやられて舵がきかなくなって
いるんです…ってどういうこと?」
「ほほひょうはいはほひゃへひひふいほへ、ふあひいへふへいはあほひひへほあえはへんは?」
「この状態だとしゃべりにくいので、くわしい説明は後にしてもらえませんか、だって」
「お前はコードが出てるその口でしゃべってンのか?しかもなんで分かるんだよエド」
「だってつきあい長いもん」
「そういう問題かよ」
「ひふほほおひへーふほひへふへへはいいんへふお」
「いつも通りゲームをしてくれればいいんですよ、だってさ」
「……?…」

 緊急事態がウイルスからの攻撃で、そこまではいいとして一体何故シューティングゲームを
やらされるハメになるのだろうか?疑問は晴れないままだったが、ロボからコントローラーを
手渡され、ゲーム画面と対峙した瞬間、ビリーの全身に強烈な向かい風のような感覚が走り、
あらゆる疑問と雑念が頭から吹き飛んでいた。
 ゲーム画面に意識を向けるほどに頭は冴え渡り、自分のすべてが次第次第にゲームの中へと
はまり込んでいく…やがてぎこちないデモ画面のような動きは見違えるように洗練され、迫り
来る敵を次から次へと撃ち落とし、画面を埋め尽くす弾幕の嵐を縫うように掻い潜っていく…
『見る』『撃つ』『避ける』、それ以外のことは考えられなくなっていた。

 ビリーがゲームを引き継いでからおよそ1時間…画面右上の数字の計測が止まった。それと
同時に弾幕と敵の出現が止み、画面いっぱいに表れる『All Clear』の文字を確認した
ビリーは大きく息を吐き、コントローラーをグイ!と引っ張り、手放した。それから間もなく
して船内を真っ赤に照らしていた警告灯が消え、警報が鳴り止むと同時にスクリーンの映像が
切り替わり、ゲーム大会の会場は一瞬にして、ただ外が見えるだけの殺風景な空間に戻った。

「…これでいいのか?」
 ロボの背中につながったコードは、コントローラーごと掃除機の要領で巻き取られていった。
ロボが振り向くと、3色コードも今まさに“口”…のような機関が吸い込んでいる最中だった。
「バッチリです。とりあえずこれでウイルスの撃滅には成功しました。あとはシステム全体の
点検とフォーマット(初期化)が完了すれば、キレイさっぱり元通りです」
「…あのシューティングゲームはウイルス退治ってわけか?」
「はい。ウイルスに感染した部分とウイルスの攻撃は敵と弾幕、残りは当たり判定無しの背景
として間にゲームをかませて“そう見えるように”したわけです。『ウルトラマンガイア』の
27話でクリシスのハッキングを防いだのと、やり方としては大体同じですかね」
「ニセウルトラマンガイアの回だよね」
「あとは発狂寸前までやり込んだビリーさんの腕があれば決して勝てない勝負ではありません
でしたが…まさかノーミスでいけるとは思いませんでしたよ。さすがはビリーさん」
「ギリギリまで頑張った甲斐があったか?」

「ビリーさんにはヌルゲーだったかもしれませんけどね。あれでかなりの強敵だったんですよ?
セキュリティやワクチンプログラムがまるで役に立たなかった」
「こんな状況でグースカ寝てる誰かさんよりマシだろうよ。…言ってもしょーがねーけどな」
「…Zzz…」
 ここまでまったく何の説明も出番も無かった超能力少女が一体何をしていたのかと言えば、
ゲーム世界からの帰還と同時に猛烈な睡魔に襲われ、艦橋に到着した途端に力尽き、そのまま
バタンキューと眠り込んでしまったのだ。

 何の前触れも無く始まった人間とコンピューターウイルスとの戦いは、人間側の勝利で幕を
閉じた。あとはナビコさんに関わる追跡調査を含む戦後処理を残すのみとなり、ビリーたちは
再び、ナビコさんが待つゲーム世界へとやって来た。

「律儀に同じ場所でず~っと待っててくれたんだな、ナビコさん」
「さっきから何がどうなってるんですか?」
「我々の方も色々ありましてね。でもおかげで少しは良い報告が出来そうです。そのためにも
まずはあなたの正体をハッキリさせておかなければなりません」
「私の正体…ですか?」

「といってもコレは我々の方の問題なんですがね。最初はてっきり我々と同じような存在なの
だろうと、ずっとその前提で考えてましたが、そうではなかった。あなたはあくまで0と1の
データの塊…ですが決して作り物ではない。ナビコさんは“生きている”んです」
 ポンコツロボットに今さら何を言われたところで驚くには値しない…ビリーたちがあくまで
ロボの発言を冷静に受け止めている中で、ナビコさんだけは1人、鳩が豆鉄砲食らったような
顔でキョトンとしていた。

「あの…“生きてる”って…そりゃ生きてますけど、どういうことなんですか?」
「ですからコレは我々の方の問題なんです。ナビコさんが0と1で構成されたデジタル生命体
だとすれば、これまでの行動に説明がつきます。本質的にゲームと同じ存在だから、作り物の
世界にいる自覚が持てなかった…ナビコさんにとってここは現実と同じだったんです。ここに
来る前に何が起きたのかといえば、おそらくウイルスによるデータ破壊に直面したんでしょう」

「だから上手く説明出来なかったのか?」
「我々はこの世界をデジタルデバイス越しに見ることにとって、ある種のメタ的な視点を獲得
しています。だからコンピューターウイルスの存在を知っているのはもちろん、イメージする
ことも出来ます。でもナビコさんにとってここは現実なんです。自分たちの世界の構成要素を
丸ごと破壊する存在なんて、想像もつかないでしょう?『幻魔大戦』や『女神転生』みたいな
セカイ系の話を実際に体験するようなモンです」
「そんなことになったら確実に頭がどうにかなりそうだな。で、そのウイルスのデータ破壊に
巻き込まれたナビコさんがここに来たから、船のシステムも感染した…そういうことか?」
「はい。唐突な緊急事態でしたが、一応の因果関係はあったわけです。それで良い報告という
のはまさにそれでして、ウイルスの侵攻ルートを逆に辿っていけば、おそらくはナビコさんを
元居た場所に送り返すことが出来るかもしれません」
「え?それって…帰れるんですか?」
「ええ。とりあえずはね」

 最初に「良い報告がある」と言いながらも、最後の言葉はいまいち歯切れの悪いものだった。
ウイルスによるデータ破壊を受けたデジタル世界が、無事に残っているとは思えなかったのだ。
 今はただ目の前の出来事に理解が追い付かないまま戸惑うばかりのナビコさんが、果たして
自らの運命にどう向き合うのか?

 真の決着を迎えるには、エクストラステージをクリアしなければならなかった。

〈EX①へ続く〉

 

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