銀河漂流劇場ビリーとエド 第3話『ぐるぐるデバッガーズ』・② | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第3話 ①、 ③、 ④、 ⑤、 ⑥、 EX① EX②

 

 宇宙船で100年過ごしてみた結果、目つきの悪い男はとうとう死にたくなるほどのヒマを
こじらせてしまった。といっても、どこぞの底辺が再生数稼ぎに投稿するような過激系動画の
ネタ作りとかそういうことではなく、それだけならスッパリと辞めてしまえば済む話なのだが、
彼らの場合、普段通りの生活を続けてきただけであって、逆にだからこそ余計に始末が悪い。
 誰でも生きている限りは、生活を辞めることなんか出来ないのだ。

「少し目先を変えてみてはどうでしょう?」
 そんな死にたくなるほどのヒマを解消すべく、ロボはある提案を打ち出した。
「目先を変えるって、どうするの?」
「要するにですね、ビリーさんはゲームで遊ぶのに飽きてしまったわけですから、今度は自分
たちでゲームを作ればいいんですよ。作って遊ぶ、単純な足し算と消費のサイクルです」
「RPGツクールでもやろうってのか?」
「それもいいかもしれませんが、どうでしょうか?ここは思い切ってイチから全部自分たちで
作ってみるというのは」
「プログラムなんか組めないぞ。絵は誰が描くんだよ。作曲は?俺たちにそんな器用なマネが
出来ると思ってンのか?」
「プログラムは私に任せて下さい。ビリーさんたちは企画やシステムをお願いします。あとは
地道に勉強していけばなんとかなりますよ。作曲もデザインも昨今は様々な技法が確立されて
いますからね。それにいざとなったら、我々には奥の手があるじゃないですか」
「どんな手だよ」
「いいですか。こんな感じでこう、さらさら~っと、ですね。あとはこんな風に↓」

 ロボが「さらさら~」っと言い終わるまで、およそ2、3秒といったところだろうか。その
ほんのわずかの間に、談話室の真っ白な壁にはレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』が、
本物と寸分たがわぬ見事な筆致で描き出されていた。

「どうです?これなら世界の名画だろうが今風のアニメ絵だろうが思いのままです。もちろん
作曲にも応用出来ますよ。この際ですから文章表現の制約を最大限に利用しませんとね」
「ナレーターに嘘つかせてどうすんだよ」
「…やっぱり嘘だったんだね」
「3秒かそこらでダヴィンチが描けてたまるか」

 とまぁこんな具合で若干の不安を孕みつつ、ビリー、エド、ロボの3人(?)によるゲーム
開発が始まった。とはいえなかなか思い通りにはいかないのが“創作”の常であり、技術力も
何も無い彼らにとって、その道のりは決して楽なものではなかった。
 それはただ単に、頭の中の理想を実現するのに必要な技術力の不足による問題だけではない。
頭の中にあるものをそのまま取り出せたとしても、それが必ず傑作・良作になるとは限らない
のだ。頭の中にあるうちは素晴らしいアイデアに思えても、いざそれを形にしてみると、その
あまりの酷さに自分を殴ってやりたくなる…“創作”と言えるほど立派なものではなくとも、
“何かを作る”経験があれば、大なり小なり誰もが一度は味わう感覚である。
 それは文章表現の裏技…もといナレーターに嘘をつかせても、そう簡単に解消出来るような
ものではない。その場の勢いと思い付きだけで続けられるほど甘くはないのだ。

 しかし彼らは諦(あきら)めなかった。ついでに言えば死にたくなるほどヒマだった。

 

 

 必死に考えたアイデアやデザインの出来栄えに自ら感心し、時には失望し、創作の楽しみと
苦しみを味わいながら、過去の名作とクソゲーに学び、研鑽(けんさん)の日々を積み重ねて
いく中でいくつもの作品を生み出し、やがて彼ら自身が自分たちの作品を遊ぶに堪えるほどの
手応えを感じ取れるようになる頃には、死にたくなるほどヒマだとは思わなくなっていた。
 

 ヒマだから趣味に没頭するのではない。むしろ没頭するヒマの方が欲しいのだ。これは嘘を
ついているのでもなければ、ネタをかましているわけでもない。これは創作に限らず、趣味人
と呼ばれる者たち、ほぼ全員に共通する願望に違いないのだ。
 ロボの提案したヒマつぶし計画は、長い長い時間をかけて、一応の成功を収めたと言えよう。

 そして現在は超大作RPG(ロールプレイングゲーム)の開発に勤(いそ)しんでいるわけ
なのだが、開発も佳境に入り始めた頃、ゲームに異変が起こった。

〈続く〉

 

 

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