cero『e o』感想&レビュー【新譜が鳴らすceroの現在形】 | とかげ日記

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【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。



●旅は終わらない

2010年代初頭の登場時からシーンを席巻している実力派音楽トリオ"cero"、前作から約5年ぶりの5枚目のアルバム。

ここで、前作までを振り返っておく。デビューアルバム『WORLD RECORD』(2011年)の不穏だけどゾクゾクさせる一曲目「ワールドレコード」から始まり、4枚目のアルバム『POLY LIFE MULTI SOUL』(2018年)のアルバムと同名の最後の曲では襟を正したくなるような音楽的達成まで感じさせる音楽紀行。一曲ごとに、あるいは一枚ごとに呪術じみた密林から洒脱な都会まで広がっていくサウンドスケープのそれぞれに情趣を感じる。

その音楽紀行の途中には、スローに殺すキラーチューン(こんなに心が落ち着く曲はほとんど聴いたことがない)である「大停電の夜に」があれば、メンバー皆がいかにも音楽を楽しんでるなーと感じさせる陽気な「マウンテン・マウンテン」などの名曲がある。


⬆︎「大停電の夜に」(『WORLD RECORD』に収録)

そして、3rdアルバム『Obscure Ride』は名盤だ。街並みを歌声でサーフィンするかのような軽快さにあふれ、ブラック・ミュージック由来である、身体を揺らす快楽的なグルーヴに満ち満ちている。抜群のポップネスと孤高の革新性を併せもったアルバムであり、ポップ/インディーミュージックの批評家ならマイベストのうちの一枚に挙げざるを得ない。実際、岡村詩野、宇野維正、栗本斉ら、日本を代表する批評家/ライターがこぞって絶賛している。ミュージック・マガジンにおいては、くるりとceroは高評価の双璧だ。


⬆︎「Summer Soul」(『Obscure Ride』に収録)

その後、クロスリズムやポリリリズムのリズムを取り入れて音楽性を複雑化させた4thアルバムを経て、この5枚目のアルバム『e o』ではどのような新しい旅路に出たのか。

聴いてみたところ、うーん、本作は『Obscure Ride』ほどはポップではないかな。しかし、ポップな曲も書けるのにポップにしないという姿勢を感じるね。このポップの解像度でしか描けないものを描こうとしている。音楽的なアイデアの洪水雨あられは本作でも衰えを見せないし、定型にはまらない音楽的な主張は、他の凡百のシティ・ポップバンドとは一線を画す。

冒頭2曲のトラップ(ヒップホップのサブジャンル)的な歌い方も面白かったし、アルバムラストまで終始ミステリアスな空気感が光景を支配する。この神秘性を帯びた光景は小沢健二『Eclectic』以来に見た光景だ(特に#3「Tableaux | タブローズ」には両者に共通するアダルトな神妙さを感じる)。

アルバムを通してボーカルやコーラス(重ね録り<ダブル>しているのかな)の声質の柔らかさと包み込む力に軽く中毒を起こす。没入もできるが、鑑賞性の方がより強い点では、没入型ではなく鑑賞型のコーネリアスの往年の作品を想起させた。

某音楽評論家兼ミュージシャンの方が言っていた「白人は足、黒人は体幹、黄色人種は手でリズムを取る」という言説。ceroの音楽は手でリズムを取りながら、黒人のグルーヴを再現している点が新しいのだと思う。

通勤電車で本作を聴きながら座っていたら、眠ってしまった。こんなことは今までほとんどない。他のアーティストと比べ、音楽の豊かさが段違いだ。温もりのない小手先だけの技術で作られた音楽とは違う。それゆえの心地よさがceroの音楽にはある。#4「 Hitode no umi | 海星の海 」には海と星(海星=ひとで)の青く美しいロマンティシズムを感じずにはいられないし、#5「Fuha | フハ 」には極上の浮遊感の中で泳ぐ自我を感じ取ることができる。


⬆︎「Fuha」のライブ動画。ポストロック的な意匠がかっこいい。

#6「Cupola (e o) | キューポラ (イーオー)」では、アフリカンなリズムを刻むイントロから徐々に重量を忘れていく演奏がアーティスティックだ。#7「Evening news | イブニング・ニュース」#9「Sleepra | スリプラ」も、主人公はどこに消えたのか疑問を持つくらい重くなく、軽い。ceroというバンド名の重さからcとrを抜いたアルバム名のように重さを失っていくのだ。ちなみに、ceroというバンド名は、メンバーの高城晶平さんが子供の頃に読んでいた、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に出てくる「やさしいセロのような声」というフレーズが由来だ。

#8「Fdf (e o)」はコンピュータ・ゲームのようなSEが懐かしさを誘い、シンプルなビートが輝いている。このアルバムの中にあってはキャッチーな曲調だろうか。この曲を始めとした先行シングルorリード曲がこのアルバムはこういうふうにノレればいいんだよ、楽しめばいいんだよと教えてくれる。

#10「Solon | ソロンの音」のまどろみのフィーリング、それから最後の曲「Angelus Novus | アンゲルス・ノーヴス」のおごそかな優しさの中に自我が消えていくささやかな終末のドラマ。最終盤のこの二曲のレイドバックな気持ちよさをぜひ感じてほしい。

Score 7.9/10.0

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