神聖かまってちゃん入門【オススメ曲/名曲MV10選】 | とかげ日記

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👆左からmono(キーボード), の子(ギターボーカル), みさこ(ドラム)

この記事では、「神聖かまってちゃん入門【オススメ曲/名曲MV10選】」と題して神聖かまってちゃんの魅力をお伝えしようと思います。

現在、(それが良いことか悪いことか別にして)神聖かまってちゃんの"の子"の抱えている絶望に世の中が追いついてきたと僕は感じています。泥臭い感情の萎みと高まりを音楽にしてきた"の子"の率直な表現に世界が共鳴しているのです。

この記事で取り上げるのは主に音楽的な魅力についてです。シーンにおける彼らのアヴァンギャルドな存在感を決定づけたデビュー当時からの奇行やエキセントリックな行動については、記事前半で少し触れるだけで多くは語りません。

彼らの起こした数々の事件の触りについて知るには、動画制作などで彼らと深く関わっている"たけうちんぐ"さんが書いた「神聖かまってちゃん事件史」を読むのがよいでしょう。
http://takeuching.blogspot.com/2011/11/blog-post_5.html

↑の記事では、フロントマンの"の子"とドラムの"みさこ"の音楽的なルーツに戸川純と筋肉少女帯が共通するなど、この事件史からも音楽的な気づきが得られます。

の子が起こした騒動の中で個人的に一番ツボにハマったのは、↓の記事です。大爆笑必至。
「神聖かまってちゃんゲリラライブで警察に連行」音楽ナタリー, 2010.4.8.
https://amp.natalie.mu/music/news/30283


TBSの音楽番組に出演した時の奇行で中居君を困惑させたのにも度肝を抜かれました笑

「神聖かまってちゃん」生番組で大暴れ SMAP中居に「なると食べて」と迫るhttps://www.j-cast.com/2011/08/30105760.html?p=all

また、かまってちゃんは匿名掲示板の2ちゃんねる(現5ちゃんねる)で意図的に炎上して名前が売れたバンドの中で代表格です。そのログをたどるのはなかなか難しいのですが、↓に拾いものの画像(Kさんから拝借)を貼っておきますね。ハンドルネームの"2才"とは"の子"のこと。だいたいこんな感じで熱く(迷惑に?)の子は勢い込んでいました。





「インターネットポップロックバンド」を自称し、2ちゃんねるで意図的に炎上する他にも、ツイキャスなどでの雑談配信にも意欲的だったのも かまってちゃんの特徴です。雑談配信で"の子"を身近に感じる方も多いでしょう。

さて、音楽の話に移りましょう。

メジャーデビュー当初の"の子"は、CD音源を聴くよりも"の子"がアップしたデモ動画&音源を観てくれという姿勢でした。しかし、デモ動画はコア&エッジーで多少人を選ぶので初めは公式MV(CD&配信音源)から話を始めようと思います。あなたをゆっくりと沼に落としていきたいのです。

●名刺代わりの代表曲MV4選

①「ロックンロールは鳴り止まないっ」(2010年)
間口の広さ★★★(キャッチー&衝撃)
知名度★★★(進撃タイアップ前では最も有名)


初期の代表曲です。この曲なくして かまってちゃんは語れない! かまってちゃんの熱い芽吹きを感じてほしい。ロックの意味性だけではなく、ロールのエネルギーを感じて聴いていただきたい。

この曲にあるのは、熱です。ロックンロールの「ロール」と同様、熱も意味に回収されません。皮肉家はちゃかすが(それも大切)、熱くなるのに意味などいるものか。の子が「do da」と歌うのは、意味のある言葉では熱を語ることはできないからです。

TOWER RECORDでアルバム『友達を殺してまで。』がパワープッシュされていて、1曲目のこの曲を聴いてすぐに、僕はレジに直行しました。意味に疲れた僕にとって、この曲は意味の世界を超えた何かがあった。理性ではそんなことを考えていなかったが、直感がそれを悟ったのだと思います。

②「ズッ友」(2014年)
間口の広さ★★(キャッチー)
知名度★★(シングル曲。ベストアルバムにも収録)


の子(と彼の親父さん)以外の方が関わって撮影されたMVではこの曲が最も出色だと思う。性的マイノリティの解放というメッセージ性があるが、説教くさく上からメッセージを語るのではなく、MVのかもす自由な空気感に共感してもらうことによってメッセージを伝えようとするのが かまってちゃん流。

MVで垣間見れるバンド演奏シーンで、mono君も みさこさんも ちばぎんもすごく楽しそうに演奏しているのに注目! こういうところにも"自由な空気感"はあります。

③「るるちゃんの自殺配信」(2020年)
間口の広さ★★(キャッチーだが歌詞が人を選ぶ)
知名度★★★(日本よりも海外で人気)

https://youtu.be/hc0ZDaAZQT0

かまってちゃん史上最高回数の3200万以上再生されている人気MVの曲。自殺をモチーフにしているので制限がかかり、MVの動画をブログ上に載せられません(リンクからどうぞ)。拮抗するヒリつくような絶望とギリギリのユーモアが、ボコーダーを用いて女声にしている"の子"のボーカルによって増幅されてリスナーをノックダウンする神曲です。脱退直前の"ちばぎん"のベースプレイが光っています。

👆2020年1月に脱退した"ちばぎん"。


👆現在はユウノスケがサポートでベーシストを担当。大学を中退してバイトしながらサポートしています。

④「僕の戦争」(2020年)
間口の広さ★(衝撃×ラウド×エッジー)
知名度★★★(TVアニメ『進撃の巨人 The FinalSeason』OPテーマ主題歌)


おどろおどろしいイントロからして神聖かまってちゃんの個性が刻印されている。

この曲以前には『進撃の巨人 Season 2』のEDテーマにも彼らの「夕暮れの鳥」が起用されている。『進撃の巨人』原作者の諫山創さんの強い希望で実現した2つのタイアップだ。しかも、このアニメの音楽はポニーキャニオンが担当しているのに、ワーナー所属のかまってちゃんが曲だけレーベル移籍して主題歌を担当するという前代未聞の離れ業。僕たち かまってちゃんファンは諫山さんに足を向けて寝られないのです。

天使が唱和するようなコーラスの音響を含めてシューゲイザー的で凝った音楽の「夕暮れ鳥」も、初期の曲「天使じゃ地上じゃちっそく死」みたいな地獄&カオスな楽曲「僕の戦争」も素晴らしいです。だけど、この2つの楽曲だけ聴いて かまってちゃんを自分と縁遠いバンドだと思う方もいると思います。その方たちには、ハッとするような鮮やかなポップチューンも彼らのレパートリーにあることを知ってほしいです。

⑤「33才の夏休み」(2018年)
間口の広さ★★★(爽快×ポップ×キャッチー)
知名度★★(アルバム『ツン×デレ』リード曲)


「22才の夏休み」「 23才の夏休み」「26才の夏休み」の夏休みシリーズの最新曲。それぞれの歳の"の子"のモラトリアムと青春が刻印されています。また、上のMVには神聖かまってちゃんにまつわる様々な場所やプロップが登場するので、ファンには嬉しい仕様になっています。

この曲が収録されている『ツン×デレ』(9thアルバム, 2018年)はポップサイドの傑作なのでポップな曲が好きな方はぜひ聴いてほしい。(オススメ曲は「大阪駅」。)

また、ポップサイドといえば『8月32日へ』(4thアルバム, 2011年, オススメ曲は「僕は頑張るよっ」)、『英雄syndrome』(6thアルバム, 2014年, オススメ曲は「オルゴールの魔法」)も佳作です。ちなみに、かまってちゃんアルバム史上におけるオリコン週間売り上げ最高順位は『8月32日へ』の9位だったりします。

逆にディープサイドのアルバムの傑作は『つまんね』だと思っています。初期の作品のために演奏がこなれておらず、完成度が高いとは言えないけど、天才的な音楽の発想に満ち満ちたアルバムです。海外の音楽好きにも支持者が多いらしい。(オススメ曲は「美ちなる方へ」)

●ディープかつ刹那的で切実な"の子"自作デモ音源MV5選

①「自分らしく」(の子デモ音源MV, 2009年)
間口の広さ★★(キャッチー)
知名度★★(ベストアルバムにもバンド版音源が収録)


安っぽくローファイに刻まれる8分音符のギターがかっこいい。そして、一曲を通して聴く(観る)と一つの映画を観終えたような感動が…。

"の子"の名前の由来は「男の子でも女の子でもない名前にしたかったから、響きがかわいいから」という彼(彼女)の個性が存分に発揮されています。

神聖かまってちゃんというバンドは一貫して自分に素直に生きていくということを歌っていると分かる曲です。自分のセクシャリティがなんであろうと、自分がニートだろうと、自分がメンヘラだろうと、自分がどのような属性だろうと素直に生きていく。みんなの目が厳しくても生きていく。

ライブでは、ちばぎんが「ah-ha ah-ha(アーハァ アーハァ)」のコーラスを担当していますが、歌うのが少し恥ずかしいらしいです笑

②「フロントメモリー」(の子デモ音源MV, 2013年)
間口の広さ★★★(軽快でキャッチー)
知名度★★★(川本真琴ボーカルver.がシングルで発売。鈴木瑛美子(歌手)×亀田誠治(プロデューサー)によるカバーが映画「恋は雨上がりのように」主題歌になる。)


鈴木瑛美子ボーカルver.も川本真琴ボーカルverも良きなのですが(の子は自分の作った曲を女性に歌ってもらうのが嬉しいらしい)、の子ファンとしてはデモ音源のこちらの方を推します。

の子に言わせると、この曲は"人力ボーカロイドソング"とのこと。歌詞にある「42キロの重い(ママ)」の42キロとは、初音ミクの体重のことでしょう。ピアノの音が鋭く、その鋭さが鮮やかな陽気さと切実さを運んでくる名曲です。

③「おっさんの夢」(の子デモ音源MV, 2012年)
間口の広さ★★★(ふつうに良い歌)
知名度★(名曲なのに埋もれ気味)


かまってちゃんはエグい曲ばかりだと思っている方には、この曲を聴いて普遍的な歌の良さにシビれてほしい。個人的に、おっさん(39才男性)の僕にとってのアンセムであります。諦めれば生きやすくなると歌っていた"の子"(「死にたい季節」)が、夢があるから諦めないと歌う姿が感動的です。この曲を気に入られた方には、しっとりとしていて光沢のある名曲「緑の長靴」もオススメしたいです。

④「ロボットノ夜」(の子デモ音源MV, 2012年)
間口の広さ★(不穏&ホラーで人を選ぶ)
知名度★★(配信されたEP(4曲入り)のタイトル曲。デモ曲MVだけではなく、バンド版MVもある。)


リピートされる「あっ、こわい」という言葉とフロアを揺らせる不穏なエレクトロサウンドは、不安という感情でも人は繋がれることを教えてくれる。音源を発表した時、ナカコー(ex.スーパーカー)が褒めていた。の子もスーパーカーのコピバン経験があるようなので、嬉しかっただろう。

⑤「いかれたNeet」(の子デモ音源MV, 2009年)
間口の広さ★(絶叫が過激で人を選ぶ)
知名度★★(ベストアルバムにも収録)


2022年の今聴くと、この曲の普遍的な破滅感は自分にとってクラシックに思える。絶望のシャウトにはニルヴァーナ味を感じるが、音の一つ一つにニルヴァーナには無い愛嬌やユーモアを感じる。ゆるい音の響きが重なり合う音空間の気持ちよさにはフィッシュマンズを感じるが(曲名はフィッシュマンズの「いかれたBaby」から取られている)、フィッシュマンズには無い不協和音感が凄まじい。ちなみに、アウトロのベース演奏はデモver.よりもCD ver.でちばぎんが弾いているものの方が素敵です。


以上でこの記事は終わりです。いかがでしたか?

神聖かまってちゃんの"の子"ははゲッペルス(ナチス政権の宣伝相として言論弾圧・文化統制・国家総動員を指導)並みの策士だけど、たまに(特に初期に)衝動に任せて行動してしまうところがファンとして見ていて面白いです。しかし、当のゲッペルスやヒトラーからは迫害されそうなアーティストだと思います。当時のドイツでは、心のままに感情を主観的に描いた前衛的な作品は"退廃芸術"として厳しく非難の対象になっていたのです。

とかげ日記(このブログ)では、心揺さぶる彼らの音楽に胸打たれた者として、これからも神聖かまってちゃんを追っていきます! ふらりとこのページに訪れた方は、ぜひまたブログにいらっしゃってくださいね。


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