cero『POLY LIFE MULTI SOUL』感想&レビュー | とかげ日記

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【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。





●複雑だけど、心地よい

2004年結成、男性三人組バンドによる2018年5月リリースの4thアルバム。

ポリリズムやクロスリズムの譜割りを取り入れ、コードワークも凝っているし、前作以上に複雑な音楽性のアルバムという印象を受けた。しかし、ポリリズムやクロスリズムを取り入れることによって、「多重露光のように交わる」世界線、生活、魂の複雑さを複雑なままに表現していると思う。「同じ場所にいながら 異層に生きるものたち」というテーマは、ポリリズムやクロスリズムによって多層的に感じる音楽性と親和性が高いのだ。

僕は単純なことを単純に表現する音楽には惹かれないし、複雑なことを単純化して表現するような音楽にも惹かれない。本作のceroの音楽は僕には複雑すぎる音楽である気もしたが、複雑なことを複雑なまま表現するという、好みの音楽であることは間違いない。世界は複雑だけど、複雑なままで素晴らしいのだ。

僕は一度聴いた時には魅力が分からなかった。一聴して難しいなと思った人も、何度か繰り返して聴いてみてほしい。リズムが複雑とはいっても、ダンス・ミュージックなのだから、ただ音楽に身を委ねてノればいい。ノれなかった場合は、セッションを繰り返しながら作った曲中のはつらつとした演奏に耳を澄ましてほしい。

多分、僕はceroのメンバーによる表現の意図の10%も理解できてない。だが、コンテンポラリージャズ、ポストロック、R&B、ボサノバ、アフリカ音楽などジャンルをクロスオーバーする音楽性に対し、アルバム中の歌詞によく出てくる「水」や「川」が流れるようなフィーリングを感じて心地よさを覚えた。ジャンルを越境するその自由さに、水の流れのような流麗さや自然さを感じたのだ。この感覚は個人的なものだが、本作を熱心に聴いたリスナーは、それぞれに個人的で特別な感覚を抱くのではないか。リスナー個々に画一的な印象を与えるようなヒット曲との違いがあるように思う。そこにはceroの表現の多層性があるはずだ。

ロックの革新性を押し進める本作の方向性を僕は高く支持する。同じく、僕が支持しているYAOAY(a.k.a.笹口騒音)率いるNEW OLYMPIXとは全く異なる音楽性だが、音楽の歴史の新たな一ページを刻もうとする革新性が共にあると思う。今、流行っている邦楽ロックのほとんどは、ロックの革新性のことなんて考えず、自分たちが今後も長く演奏できるファンダムを獲得することしか考えていないように思う。前作『Obscure Ride』のキャッチーで味わい深いネオソウルの方向性を続ければ売れ続けていただろうに、自分たちのやりたい表現をやるためにそれをしなかったceroに拍手を送りたい。





Score 8.3/10.0