ニンジンきらい。ピーマンはベーッ--。子どもの好き嫌いについ目を三角にしてしまう保護者も多いだろう。偏食解消に独自の対処法を持つ私立さくらしんまち保育園(東京都世田谷区、園児117人)でヒントを聞いた。個別の食材にこだわるより、まず「食べることが好き、楽しい」という感覚を育むことが大切だという。【田村佳子】
「お野菜大盛りね!」「今日はお肉ちょっぴり」
園内の「ランチルーム」で、幼児組(3歳児以上)の子どもたちは欲しい主菜、副菜の量を自己申告し、よそってもらう。ここでは食べる量の個人差を認め、かなり本人の意思を尊重する。決まった量は食の細い子には重荷になってしまうからだ。「マイナスからのスタートではなく、食べられたら喜ぶ」方法を貫いている。
嫌いな食材も、盛り付け時に頼めば除いてもらえる。例えば、魚のチーズ焼きにかけたパセリ。サラダのトマトが嫌いならトマト抜きにできる。
「パセリさえなければ献立を完食できる。同じような栄養素はほかから取れる。パセリにこだわる理由がありますか」と伊藤里美園長は問う。
でも、これで偏食克服になる? しつけになるのだろうかと不安になる。
園では「無理やり食べさせられた物は、成長後かえって避けることがある。食べ物に興味を持ち、自ら食べたいと思う意思、“食べる力”を育てることの方が大事」と考える。伊藤園長は「親の考えで並べたものを全部食べないのは、『わがまま』とは違う」と話す。
食べることに関する唯一のルールは、「自分が食べると言ったものは残さず食べる」だ。スタッフは園児や保護者とのやり取りで個々の子どもの食べる量や好き嫌いを把握している。嫌なのは食感か臭いかも知っていて克服に役立てる。漫然と好き嫌いを放置しているわけではない。
3年前に開園した当初は、ひどい偏食の子どもが少なくなかったという。白いご飯しか食べない。青菜は何も食べない。「食べることが嫌い」という子が多かった。好きな食べ物を増やす指導を続けた結果、今は主菜も副菜も食べない園児はいない。実際に見ていると、特定の食材を除いてもらう子は驚くほど少なく、残食はゼロに近い。
「偏食とはピーマンが食べられるかという細かいことじゃない。『食べるのが嫌い』なのが偏食だと思う」と伊藤園長は言い切る。
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嫌いな食材を克服するための工夫は大切だ。魚臭さが苦手なら香辛料を使う。とろみで食感を変えるなど、調理法を変えてみる。また、一緒に料理をする。庭で野菜を育てる。食材で動物や顔をかたどってみる。山盛りの氷にトマトを入れただけで「食べてみたい」という子もいたという。
食べてほしい食材を数量限定にするのもお勧め。「一つしかない」という言葉に子どもは弱い。
園ではゴーヤ、モロヘイヤ、ズッキーニなど大人でもなじみの薄い食材も出す。食材はあくまで豊富に。嫌なものは除く。「焦らず、おいしいと思う年齢まで待ってあげてほしい」と伊藤園長は呼びかける。
指導や調理のコツは「さくらしんまち保育園の給食レシピ」(メディアファクトリー)として出版されている。
◇苦くないピーマン開発
苦みも辛みもない「こどもピーマン」が昨年、開発された。タキイ種苗(京都市)がメキシコのトウガラシ「ハラペーニョ」を栽培していたところ突然変異で生まれたという。
8月、東京都内でこどもピーマンを使った試食会が開かれた。豚とピーマンのしょうが焼きや、ピーマンに具を詰めたコロッケを披露した料理研究家のコウケンテツさんは「みじん切りで混ぜても食べたことにならない。あえて大きく使います」。高橋飛雄悟君(10)は「苦くなくて食べられる」とほおばった。
1歳児の父であるコウさんは、「プロの僕の料理も子どもはポイッと放り出す。お母さんたちも反応をおおらかに楽しみましょう」と呼びかけた。
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■偏食克服の「五つの法則」
1 混ぜて食べさせない
知らないうちに食べても克服したとはいえない。いろいろな素材の味、食感、においに触れさせよう。
2 ひとくちから始める
嫌いな食材も「食べてみる?」と声かけを。食べられても「もう一つどう?」とハードルを上げるのは禁句。
3 大人がお手本を示す
できるだけ家族同じメニューにして一緒においしそうに食べよう。その姿が食べてみたくなるきっかけに。..... 詳細
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