扉の前で二人の調査員達が話し合っていた。
「『唱う』と書かれていますね。どういう意味でしょうか?」
「きっと扉の向こう側の世界では何かが唱っているのでしょう」
「人間が生息しているのでしょうか?」
「人間とは限りませんよ。鳥や猫などといった動物の鳴き声も時として歌のように聞こえる場合がありますからね。或いは、まったく未知の怪物が唱っているのかもしれません」
「未知の怪物だとしても音楽を理解する知性があるのですから私達と意志を伝え合える可能性が高いのではないでしょうか?」
「そうでしょうかね?」
「大抵の音楽は何らかの法則に従って創られているでしょう?未知の怪物が唱う歌は私達が馴染んでいる音楽とはまったく別の法則によって成り立っているかもしれませんが、じっくりと耳を傾けていれば私達もその歌の法則を感じ取れるようになれるかもしれませんよ」
「あなたはいつになく興奮しているようですね。そんなに未知の世界の音楽に興味があるのですか?」
「ええ。扉の向こう側にある世界の歌を早く聴いてみたいのですよ」
「そうですか。しかし、この扉の向こう側には未知の世界が広がっているのですから開ける前に対策を練っておかなければなりません。とりあえず歌が唱われているのですから空気はありそうですよね」
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