たかが食事、されど食事 | 北さんのブログ

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 今や我が国は空前の健康ブームである。人は生活が豊かになって生活に余裕ができると次の欲望の矛先は「健康で長生き」に関心が行くようだ。そのため老若男女、それこそ幼児からペットまで、猫も杓子も健康食品、サプリメントを摂取している一種異様な状況である。
(「健康食品」狂想曲時代 https://blogs.yahoo.co.jp/kitaga0798/70152514.html ) 
 このような風潮の中で「オルトレキシア」と言う言葉がある。内科(循環器)が専門の私が説明するのもおこがましいが、新しいタイプの摂食障害なのである。健康的で安全な食品の質や成分に執着するあまり、その思いが「熱意」から「強迫観念」に陥った状態で、結果として1日のほとんどの時間を安全、安心な食品のチェックや調理に費やし、一切の添加物の接種を拒否してしまうのだ。そのため、他の人達(彼ら曰く「食に無知で無頓着な人」)との会食や会合に出席できなくなる。極端な場合には「拒食症」の様な栄養障害に繋がり、朝起きる度に「今日は安全な食品、何が食べられるのか。食べられなかったらどうしよう」とパニックにまで陥るそうだ。このように「食事」への過度なこだわりは時として大きな危険を孕んでいるわけである。
 「食事」に関してもう一つ話題提供を。世界に誇れる食文化としての「和食(日本食)」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことは記憶に新しい事案である。「和食」には優れた4つの特徴(1:多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重、2:健康的な食生活を支える栄養バランス、3:自然の美しさや季節の移ろいの表現、4:正月などの年中行事との密接な関わり)がある。中でも特徴2に関して、生活習慣病の患者さんを多く診察している私は「日本人の和食離れが進み、食生活の欧米化が現代の生活習慣病の元凶であり和食主体に回帰すべき」と声高に叫んでいた。ところがそんな折、今年の4月に国立がん研究センターから衝撃の報告がなされたのである。それは「食の欧米化が死亡リスクを減少させた」と言う、これまでとは逆のデータであった。この調査は日本人8万人を対象に、「健康型(粗食)食事」、「欧米型食事」、「伝統型(和食)食事」の食事パターンと全死亡、がん死亡、循環器疾患死亡、心疾患死亡、脳血管疾患死亡との関連を15年間追跡したものである。結果は健康型(粗食)食事」では全死亡、循環器疾患死亡が、「欧米型食事」では全死亡、がん死亡、循環器疾患死亡のリスクが低下し、「伝統型(和食)食事」では関連が認められなかたのである。「伝統的な和食は健康的で、食の欧米化は生活習慣病を生み出す悪、不健康だ」と患者さんに説明していた私には予想外で衝撃的な結果であった。しかしながら「たかが食事、されど食事」である。食に執着するあまり「オルトレキシア」になっては意味がない。和食、洋食、中華なんでも、サプリメントやオーガニック食品もほどほどに、添加物が少し入っていようが関係なく(ただしアレルギーがあったり本当の毒物は別物)、何でも万遍なくほどほどに摂るのが健康で長生きの秘訣のようだ。