「老衰」時代到来! | 北さんのブログ

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   皆さんは「老衰」と言う言葉に対して、どのような印象を持たれるのでしょうか。文字通りに読めば「老いて心身が衰えること」で、多くの方が「加齢とともに明確な原因もなく、生体のホメオスタシスの維持が困難となり衰弱してしまい、最後には生命活動が終わる」、いわゆる「自然死」と考えられていると思います。

 実は、日本人の死因としての「老衰」は医療の進歩、診断技術の向上により一時、激減していました。私自身、大学病院での勤務時代、「老衰」を死因として死亡診断書を作成したこともなく、安易に「老衰」を死因とする事が医療の現場では避けられていました。ところが2000年を境に、死因としての「老衰」がU字型に増加しており、 18年が人には死因の第3位(1位:悪性新生物(がん)、 2位:心臓疾患)、21年には10人に1人が「老衰」の診断で亡くなっているのです。このように、「老衰」が死因として増加してきた理由にはいくつかの要因があります。まず、平均寿命が延び、高齢者の死亡者全体に占める割合が増加したこと。次に、 CT、 MR 1や病理解剖にて精査すれば死因の究明は可能なのですが、敢えて高齢者だから死因を「老衰」として受け入れよう、と言う社会的風潮の蔓延。そして、介護保険制度が2000年に始まり、浸透してきたため、病院ではなく施設や自宅で亡くなる人が増加。その結果として死亡場所の5割以上が介護施設や自宅になり、平穏死、天寿としての「老衰」を望む患者や家族が増えたことなどが挙げられます。この流れで行けば、超高齢社会へと進んでいる日本では早晩、「老衰」が死因の第1位になることは間違いありません。

 実は、「老衰」には明確な診断基準がありません。ICD-10(疾病及び関連保健問題の国際分類)で は分類 I D :200780449として記載されていますが、一般には疾病として扱われず、その診断には現場の医師の裁量に任されている点が非常に大きいウェイトを占めています。死亡診断マニュアルでは「高齢者であり、他に記載すべき死亡原因がない、いわゆる自然死」とありますが、高齢者といっても平均寿命以下では診断は難しいし、「老衰」がいつから始まったのかの判断も非常に困難です。「老衰」では積極的な治療が抑制され、一般に言みとうところの「看取り」の状態になるため、医療費の伸びが抑えられ、介護費用も増加しない傾向にある、との報告も見受けられます。今後は「老衰」の兆候を早期に発見することや、「老衰」患者さんのAC P (アドバンス・ケア・プランニング。将来の医療やケアについて、本人による意思決定を支援するプロセス)の確認が、更に必要かつ重要になってくると思われます。

 さあ、ここまで読んでいただいた皆さん、ご自分の死亡診断書に「老衰」を望まれますか。望まれませんか。