現在、伊丹市の公立学校共済組合・近畿中央病院が進めている「診療休止(休診)」と、それに伴う国の「病床数適正化緊急支援事業」の活用は、今後の地域医療構想のあり方に極めて深刻な課題を突きつけています。新病院への統合という確実な「出口」が決まっているなかで、実質的な廃院を「休止」という法的なオブラートに包み、約8億円もの公金を受け取ろうとするこの手法は、果たして制度の趣旨に沿ったものと言えるのでしょうか。
本件の最大の問題点は、医療法上の「休止」手続きと、補助金事業の要件である「病床削減」の整合性です。まず、通常、「休止」は開設許可を維持したまま一時的に診療を止める行為ですが、本事業は病床設置許可の抹消(削減)を前提としています。次に、この削減が「将来的な再開の権利」を放棄した確定的なものなのか、それとも新病院へのリソース移管に向けた「一時的な返上」に過ぎないのか、その境界は極めて曖昧です。最後に、「休止」の名の下に、廃止に等しい給付金(1床あたり205.2万円の休床単価適用で約8.2億円)を受領し、かつ将来の統合先へ資産を引き継ぐことは、補助金の目的外利用や制度の潜脱とみなされるリスクを孕んでいます。
本事業の本来の目的は、地域医療のために苦渋の決断で病床を削減する医療機関の救済です。しかし、本件は「老朽化と赤字で維持不能となった病院」が、統合という解決策を得た上で、さらなる「店じまい費用」を公金に求めている構図に他なりません。ところが、新病院建設には多額の地方債や公費が投入されます。その傍らで、既存病院の整理に「緊急支援事業」という別の財布から巨額の資金を引き出すことは、国民から見れば「公金の二重取り」との批判を免れないでしょう。同時に、経営努力を重ね、地域に踏みとどまる民間の中小病院が受けるべき支援枠を、公的性格を持つ大規模病院が「駆け込み」的に占有することの影響は無視できません。
なにより、2026年3月の突如とした診療休止により、地域の二次救急や特定の患者層への診療機能が損なわれるなか、運営主体の国家公務員共済組合連合会(KKR)の姿勢が問われます。この状況下で、受領予定の約8億円が、単にKKR本部の負債解消などの「赤字補填」に消えることは断じて許されません。この原資は本来、地域医療構想の実現、例えば不足する回復期機能への転換支援など、兵庫県内の地域医療の質向上に全額が直接還元されるべきです。
この問題は、単一病院の経営問題ではなく、公的病院は赤字を公金で清算して去ることができる一方で、民間病院にはその出口がないという不公平な構造を露呈させました。 我々医師会は、県に対し、給付金受領の条件としてその使途を地域医療に限定させる附帯決議を求めるなど、厳格な監視を続ける必要があります。これが「悪しき前例」となり、地域医療の信頼を崩壊させることがあってはなりません。兵庫県には、「社会保障財源の持続可能性」や「地域医療構想」の観点から、法的なグレーゾーンと政策上の矛盾点を、県民に説明すべきです。