コロナ感染症宿泊療養施設と在宅への出務レポート@西宮市 | 北さんのブログ

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2度に渡る緊急事態宣言、それに引き続き行われた、まん延防止等重点措置

にもかかわらず、全国のみならず兵庫県における新型コロナ感染症の新規感染者数は連日、増加の一途をたどり、4月25日に3度目の緊急事態宣言が発令される状況になりました。県下の病床使用率も英国型変異株の割合が急増するにつれ8割近くと逼迫し、宿泊療養施設の入所者も軽症から中等症以上の患者が増加。施設内での医療ニーズの必要性に対応するために、西播磨地域の東横INN 姫路駅新幹線南口(200床)と阪神地域では西宮市のホテルヒューイット甲子園(200床)、そして5月からは神戸はグリーンリッチホテル神戸三宮(142床)が医療強化型宿泊療養施設(従来のオンコールに加え、出務医師が現地で直接に医療、健康管理活動を行う)として始動しました。残念ながら感染状況は更に悪化し、入院、宿泊療養、共に行うことが出来ない患者数が急増したため、兵庫県はそれまでの「自宅療養ゼロ」を撤回し、入院、宿泊療養に次ぐ第3番目の医療体制として正式に自宅療養を組み込みました。今回、私が担当しました西宮市での医療強化型宿泊療養施設並びに自宅療養の現状、問題点等について報告させていただきます。

 

1:医療強化型宿泊療養施設、ホテルヒューイット甲子園に関して

 初期のオンコールのみの対応からDMATによる医療介入の後、西宮市を中心に23名の医師会員による出務が4月1日より開始されました。それまで行われていた現場の看護師からの連絡に加え、出務医師共有のメーリングリストを作成、活用し、毎日の状況(問題のある患者の状態や対応、その後の経過等について)報告や、翌日出務医師への申し送りなど、細かな連携を行いながら直接、宿泊療養施設に出向き、患者と面談、診察を行いました。強化型としてスタートした当初は、県内各地から医療介入の必要性が高い基礎疾患を持つ患者や、高齢、認知症、強度の肥満など種々の病態悪化のリスクの高い患者、140〜150名(毎日20名程度が入退室や緊急入院を繰り返す)が入所されていました。状態の悪化に対してはCCC-Hyogoへの入院依頼の連絡や、酸素濃縮器の即座の導入(ピーク時には10台近く稼働)、ステロイド(デキサメタゾン)投与の開始を行いました。施設の看護師のみならず出務医師も頻回のコールや患者対応で疲弊し、「まるで救急病院の当直の様だ」の声が上がる程でした。私は4回出務しましたが多種多様な基礎疾患の患者の状態悪化への対応や、必要であれば入院依頼をCCC―Hyogo担当者に直接電話要請をしたり、と本当に多忙を極めました。入院施設ではありませんが強化型宿泊療養施設には酸素濃縮器が予め配置してあり、24時間、看護師常駐により緊急対応が可能であります。この様に兵庫県医師会の強化型宿泊療養への対応は他の都道府県、例えば大阪府の健康相談レベルでの対応に比べ非常に高い医療提供体制になっています。これは兵庫県コロナウイルス感染症対策協議会や新型コロナウイルス感染症対策本部会議において兵庫県医師会の足立副会長、平林理事が「コロナ感染症の患者に対しては常に医療の目を届かせる必要がある」と常に強く提言していただいた結果であります。今後病床逼迫への重要な対策として医療強化型宿泊療養施設を今以上に有効利用することが必要だと考えます。

 

2:自宅療養に関して

 それまで私も「かかりつけ医」としてコロナ感染症患者を往診していましたが、自宅療養患者数の増加に伴い行政より「かかりつけ医」がいない、または「かかりつけ医」が往診できない病態の増悪した自宅療養中のコロナ感染症患者宅への緊急往診依頼が届くようになりました。西宮市医師会役員で協議し、まず6〜7名の有志により緊急往診を始めましたが、少人数で休日、深夜、早朝の緊急往診を行うことで日常診療に悪影響を与えてきたため増員が必要となりました。そこで西宮市医師会、伊賀会長の声掛けにより、現在36名の会員が緊急往診に対応していただいております。これは一中核市レベルとしては非常に多い緊急往診に対応する医師会員数であり、西宮市での自宅療養患者の死亡が非常に少なく抑えられている一番の要因です。一般的な呼吸状態悪化、SPO2低下による緊急往診の場合、連絡を受けてから1時間以内に訪問看護師と在宅酸素業者と一緒に患者宅へ向かい、PPE装着のもと診察、酸素投与を行い、当番にあたっている地域の薬局から直にデキサメタゾンなどの薬が患者宅に届けられる、という連携(その後は訪問看護師が定期的に患者状態の把握を継続)で、メーリングリストを通じて各々の症例の情報を共有しています。4月25日の緊急事態宣言からゴルデンウィークを挟んで約100名の自宅療養患者に対して緊急往診を行っています。

 殆どの患者がコロナによる急変、悪化に強い不安をもっており、自宅療養、宿泊療養施設で悪化すれば入院へ、と適切な医療を当然受けることができる、または受けたいと思っている中で、西宮市では県医師会、西宮市医師会のサポートと医師会員の出務により随時対応しています。しかしながら問題点もあります。まず自宅療養への対応では病院や施設と違い、時にはイエローやレッドゾーンでPPEの着脱を行わざるを得ない状況で、現実に出務する訪問看護師が数名、コロナに罹患してしまいました。また自宅療養は強化型宿泊療養施設に比して医療提供体制が不十分です。状態が悪化しても入院できずに数日、複数回に渡って往診が必要になる場合、入院できないことへの不満の捌け口が往診医、訪問看護師に向かうことが多々あります。一方、強化型宿泊療養施設にしても病院と同じレベルの医療が行えるわけではありませんが、宅療養と比較して急変時の対応の迅速性では圧倒的に有利であり、基本的には兵庫県において入所困難例以外は自宅療養でなく強化型宿泊療養施設に入所すべきです。ところがゴールデンウィークから強化型宿泊療養施設の稼働率が低下(20%台に)し、入所者も軽症、無症状者が増加。一方、自宅療養患者では病態が悪化するような患者が急増、強化型宿泊療養施設と自宅療養患者の病態重症度の逆転が見られるようになりました。これは強化型宿泊療養施設に重症患者が集中したため、一時的に軽症、無症状者に入所を限定する措置が取られたためですが、直ちに兵庫県医師会から是正を申し入れました。この結果、再び宿泊療養施設が有効利用される状況となり、更には最新の兵庫県の対処方針でも「原則、宿泊療養入所」が明記されることとなりました。

一部メディアや自称、識者と称している評論家は医師会会員でである開業医が「かかりつけ医」でありながら新型コロナ感染症患者へ往診を行わず医療放棄をしている、と非難し、一方で非会員を中心とした往診専門医師のチームを称賛しています。現実には医療放棄など全くしておらず、兵庫県医師会は会員のみならず事務局も一丸となって新型コロナウイルス感染症に向き合っていることを述べさせていただきます。