ライター海江田の 『 シラフでは書けません。 』 -6ページ目

このフォームだね

早朝、なでしこジャパンは岩渕真奈の決勝ゴールでベスト4に駒を進め、南米選手権、ブラジルはPK戦の末、パラグアイに敗れ、ちょっと寝とかないと、もう生活むちゃくちゃだなあと横になったら、ぐっすり眠っちゃって起きたらほぼ夕方でやんの。
焦った。大急ぎで身支度を整え、大宮に向かった。

行きの電車で思ったのは、東京ヴェルディの監督、選手は、今季これまでの戦いを疑ってほしくないということだった。
愛媛FC、ロアッソ熊本に連敗した。
特に熊本戦はびっくりするほど平坦に敗れた。
当然、修正を試み、メンバーの入れ替えも考えるだろう。
ややもすると疑念が頭をもたげる。
だが、見方を変えれば、ここが辛抱のしどころかもしれない。
大胆な転換を図り、仮にその試合を拾えたとして、シーズンはまだ残り半分もある。
次の停滞にどう対処するか、よりむつかしくなりはしないか。

フォーム、型を失ったチームの末路は悲惨である。
対症療法の乱れ打ちで、ぐずぐずになっていくのを過去に何度も見てきた。
亡くなった歌舞伎の中村勘三郎さんがこんなことをよく言っていたそうだ。
「若い人はすぐ型破りをやりたがるけど、それはあんた、型を会得した人がやるからできることであってね。型のない人がやろうとするのは、ただの形無しってやつですよ」
以前何かの本で読み、出典を記せないのが残念だが、大丈夫、かなり正確に記憶しているはずだ。
つくづく箴言だなあと頭に叩き込んだ。

まさにいま、ヴェルディは戦い方のフォーム、型の輪郭がつくられようとしているところで、そこは大事にしてほしいと願った。
ただ、相手が首位をすいすい走る大宮アルディージャってのがね。
前線のクオリティーが高く、守備も堅い。
しかもアウェー戦である。
正攻法でぶつかったとき、はたしてどうなるか。
こっぱみじんに砕かれるかもしれないという不安はあった。
そうなると、フォームだ、型だといっても、すべて黒く塗り潰されちゃうんだよ。

大宮とは久しぶりの対戦とあって、改修後のNACK5スタジアムを訪ねるのは初めてである。
いいハコだねえ。芝のコンディョンも最高。

開始4分、いきなりのピンチ。
安在和樹がクリアをしくじり、渡部大輔の独走を許す。
中央のムルジャにボールが渡り、完全にやられたと思ったが、佐藤優也のビッグセーブに救われた。
最初の分岐点である。

28分、相手にぐいぐい圧力をかけてミスを誘い、マイボールにした三竿健斗から杉本竜士へ。
ボックス前、杉本は右足強振。GKがシュートをはじき、南秀仁がプッシュして先制点だ。
杉本のシュートも巧かった。
ややアウトにかけ、いやらしいところでワンバウンドさせた。

平本一樹、杉本が前線から追い回し、中盤の底に構える中後雅喜を軸に、高い位置でボールを絡め取る。
やはりこれですよ、今年のヴェルディは。
この日の三竿健斗は出色の出来。
どんどん食いついて、おもしろいようにボールを奪った。
守備の達人がよくやる、最初に激しく当たっておくご挨拶、ウェルカム・タックル(と僕は呼んでいる)をかますくらいの勢いでゲームに入ったほうがいい結果につながっているように思う。

1点リードで前半を折り返し、61分、田村直也の蹴ったストレート性のクロスがすーっと伸びてそのままゴールイン。
ピッチ上、風が舞っていたのか。GKが目測を誤った。
「ラッキーでした」と田村である。

終わってみれば完勝ですよ。2‐0。
「ハードワークという言葉が陳腐に聞こえるくらい選手たちが戦ってくれた」と冨樫剛一監督は自慢げな顔をしていた。

右サイド、南と田村の縦関係がバッチリだったのはけっこうな収穫だ(週中、安西幸輝がコンディションを崩した影響もある)。
やっぱアレか、上下動をきっちりやらないと、田村にどやされるのだろうか。
「いや、どやされないですね。タムさんはひとりで任せろくらい言ってくれます。まあ、怖いんで、守備のときは急いで戻りますけど」(南)
へえ、そんな感じなんだ。

僕は提案します。
この試合の南のパフォーマンスを、今後しばらくは見る側の基準としましょう。
ボールを持てるし、さばけるし、スペースに顔を出し、点だって取っちゃう。守備もさぼらない。
やって当たり前って感じになれば、彼はワンランク高いステージに行くでしょうよ。





語るしかなく

三軒茶屋の焼肉屋にいたのである。
いつもの変わり映えしないメンツである。
さっさと家に帰って仕事をやろうと思ったのだが、くさくさした気分を持てあまし、呼び出しに応じてのこのこ来てしまった。
この日、東京ヴェルディはいいところなくロアッソ熊本に敗れた。

■「ダメだったなあ」
▲「ダメでしたねえ」
◆「あ、レモンサワー、ひとつ」
■「おれ、コーラ。なんであんなダメだったんだろ」
★「いや、熊本に0‐2って。ダメでしょ」
◆「ダメですねえ」
■「そういうこと言える身分じゃない。こないだまでプレーオフとかなんとか」
◆「はあ、連敗か」
▲「はあ、結婚か」
★「めちゃくちゃにしてやりてえよ、おまえの人生」
■「とにかく、おまえはダメだ。帰れ。2万置いて帰れ」

開始からダメ連発。
海江田、ロマニスタ、モリータ、Sペー。
終わったことをぐずぐず言い合い、「くだをまく」のお手本のような4人であった。

★「杉本は良さが消えている気がする。プレーがちっちゃくまとまって」
◆「そうっすねえ」
■「いろいろと過剰なところが良さだかんねえ」
▲「ま、あいつはおれに惚れてますから」
■★◆「帰れ」
★「南はどこがいいんすか」
■「うめえよ、あいつは」
★「うまいっつっても、あれじゃあ上で通用しませんよ」
■「それもわかる。もうちょい身体が変わってくれば」
★「実際、ありますけどね、そういうケースは」
■「たとえば木鈴あたりは、どっかで大きく変わるよ。血が生きる」
▲「おれだって、大好きですよ。ほんとに」
■★◆「帰れって」
★「澤井は?」
■「技術、フィジカル、バランスがいい」
★「う~ん」
■「メンタルもいい。大丈夫、今日はダメだったけどちゃんと伸びていく」
★「平本は、たしかにすごい」
■「マキノさん、うれしいだろうなあ」
▲「最近、途中からでもちゃんと来ますからね」
◆「来る来る」

こういう晩は、えてして現実から目を逸らしがちである。
ちょっと前までいい気になっていただけに、なおさら。

★「いいかレオ、こういう飲みの場を含めてのフットボールだからな。あれ?」
◆「さっき帰りましたよ、息子」
■「しかし、娘のほうは心配だね。よりによって▲にしなをつくっちゃって」
▲「まだ間に合いますよ」
■「天性の男を見るセンスゼロ。苦労するよ、あれは」
★「やめてくださいよ」
■「あれ、今日ニシヤンは?」
◆「雨だからやめとくって」
■「なんてこったい、あの豪の者が」
★「2600人だもんなあ」
■「まあ、クラブの現状を見ていると納得感も。極端に内向き」
★「えっ、人妻?」
◆「いや、違いますって」
▲「おれも行きます」
★「呼んでねえよ」
▲「だって、ほら人数を合わせないと。イチ、ニイ、サン」
◆「あ、ウーロンハイ」
★「聞き捨てならないよ、その話」
■「おい、神宮行きたいとかぬかしてるぞ、お嬢が」
▲「いいすねえ。いつにしましょっか」
★「そこ怪しいなあ」
■「そんなんじゃねえよ、バカ。なんだこの生産性ゼロの会話は」
◆「次は大宮か」
▲「ムルジャ?」
■「ムルジャ。家長。カルリーニョスもいい

★「人妻ときたか」
■「メンバーどうすっかなあ。井林は足が腫れなきゃいいけど」
★「あ、そろそろいい時間」
■「アイス」
◆「おれも」
▲「もうひとつ」
★「じゃあおれも」

そうして夜をやりすごせば、明日がやってくる。





KITEN!にて

なあ、3連勝だってよ。
J2第17節、ファジアーノ岡山 vs 東京ヴェルディ(シティライトスタジアム)は、6分、中後雅喜の挙げたゴールが決勝点となり、ヴェルディが勝利した。

その日はたまたま、えのきどいちろうさんが八王子で取材があり、帰りに立川に寄ってくれた。
せっかくだから、KITEN!で観戦しましょうかと。

「ヴェルディ、いいねえ。気持ちのこもったサッカーをやっている。それにしても岡山、負けてるのにあまり前に人数かけてこないなあ」
「前線からのディフェンスが効いてますよ。出てくりゃ、カウンターでばっさり斬ってやるのに」

などと言い合いつつ、来店していた知り合いのヴェルディサポも一緒にわいわいやっていた。

お客さんのなかに、松本山雅のTシャツを着ている人がいてさ。
てっきりそっちの人だと思ったら、「マイクラブは中野エスペランサ(北信越リーグ2部)。長野パルセイロも応援しています」って言うから混乱したよ。
話を訊かれたときのために、わざわざ長野県中野市の観光パンフを用意している念の入れようだ。
そんな人、初めて会った。
「山雅のシャツは、ふだん使いです」と聞き、こっちの緑者同士で「あんたできる? 青赤」「ムリっす」「だよなあ」と顔を見合わせた。
世には、いろんな人がいるのである。

ヴェルディが勝ったのに気をよくして、夜は雑務をえいやっと片付け、お楽しみの欧州CL決勝、どちらかといえばユヴェントスに肩入れして見、ところが早々に失点し、どうするどうする、うわっ後ろに3人しかいないところにバルサが5人きちゃったよ、でもそこはブッフォンが立ちはだかり、この状況たまらんねえ、捨て身とリスクマネジマントのあわいにこそサッカーの麻薬性があるのだ、自分はそこにしびれるのだと思い、シュートの瞬間、微笑を浮かべるスアレスをまぶたの裏に映しつつ床に就き、昼からはランドで東京23FCとのトレーニングマッチを見てきた。

スタメンは次の通り。

------菅嶋----アラン-------

南--------------------中野

------安田--ギョンジュン----

渋谷--井林--ウェズレイ--大木

----------柴崎------------

25分、CKから中野雅臣のヘッドが決まり、1‐0の勝利。
菅嶋弘希、安田晃大のパフォーマンスが目立った。

菅嶋はね、いよいよ芯が入ってきた感じですよ。
攻守にわたって仕事量が格段に増え、プレーエリアも広がっている。
何より、気迫をむきだしにファイトしていた。
次節の愛媛FC戦、平本一樹がサスペンションで不在だ。
チャンスがあるかなあ。
僕はそろそろ一発あってもいいと思います。


●掲載情報
ヒビレポ『借りたら返す!』第9回
「原稿は読者に向けて書くもんだ。これは絶対だ」ってのは本当にそう。
テレビの解説者でもね、「あんたそれ、聴くかもしれない選手かクラブ関係者に向けて話してるでしょ?」ってのは丸わかりである。





「ここしかないと思った」

思いのほか、ゲームは早く動いた。
3分、7分と栃木SCの杉本真が立て続けにゴールを決める。
2点目は、高木大輔のパスミスに素早く反応し、前にポジションを取っていたGK佐藤優也の頭上を破るビューティフルゴールだった。

0‐2。
J2第16節、東京ヴェルディ vs 栃木SC(味の素スタジアム)は、え、え、え? って感じで、いきなりビハインドを背負った。

僕は、この日右サイドバックに入った高木大輔の動きに注目していた。
よく持ち堪えてるなあ、と思ったね。
あんなあからさまなミスをやらかしたら、ふつうメンタルなんてズタズタのメロメロだよ。
そのときベンチの土肥洋一コーチから「声を出してリズムをつくれ」という指示があり、大輔は懸命に手を叩いて何か言っていたが、そうしている自分に、いったい誰のせいでこうなったんだよってツッコミが絶対入るもん。
逃げずに縦に仕掛けたプレーを見て、感心した。
ボール取られちゃったけどね。

9分、セットプレーから平本一樹のヘッドで1点差。
安在和樹のキックが冴えた。今年の平本はほんと頼りになる。
25分、中後雅喜のゴールで同点。
前半のうちに追いつけたのは大きかった。

で、この試合のハイライトは72分。
中央付近、安西幸輝から平本にボールが渡り、ドリブル開始。
何者かが右サイドを疾風のごとく駆け上がる。
ボックスに迫った平本は、背後から言葉にならない雄叫びを聞いたそうだ。

「ここしかないと思った。最後のチャンス。後半スプリントが増えて、足にきていた。なんて叫んだのか憶えてないですね。カズキさんなのか、カズキなのか」(大輔)

平本からパス、大輔はダイレクトで右足を振り抜く。
シュートはニアを破り、ゴールネットを揺らした。
その勢いのまま、ゴール裏に向かって一直線だ。

戦況が変わるごと、中後が大輔にかけた言葉がいちいち沁みる。
「いいから切り替えろ」(0‐2とされたとき)
「ここからだぞ」(2‐2に追いついたとき)
「点取って、足つって、満足してんのか?」(3‐2で勝利のあと)

「ベテランの人たちに助けてもらいました。自分がスタメンで試合に出て、初めて勝てた。12試合目で、やっとです」(大輔)
よかったねえ。
お天気にも恵まれ、いい一日だったよ。
僕の日本ダービーの馬券が紙くずになったこと以外は。


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ヒビレポ『借りたら返す!』第8回
予定していたネタがいっこ飛んだ。
誰か、僕に貸しっぱなしにしてないか?

『フットボール批評』issue05(カンゼン) 5月7日発売
うっかり通り過ぎてた。「中島翔哉がきた道」を寄稿。
タイトル、チャン・イーモウの『初恋が来た道』とかかっているのか。
編集長の風貌からは考えられんね。
ジェフの永田雅人さんに話を聞きに行ったとき、菅澤大我さんとも会えて、3人で1時間ほど雑談。
久しぶりに楽しかったね。
大我さんの貫禄は前にも増し、あの甲高い巻き舌がレベルアップしていた。
知っている人はちょっと想像してみてよ。
顔は笑ってんだけど、迫力ありすぎるんだよ。

『フットボールサミット第30回 セレッソ大阪』(カンゼン) 
大熊裕司(アカデミーダイレクター兼U-18監督)インタビュー。
「日本サッカーの『土』をつくる」シリーズ第10回は、
FC今治の矢野将文さん(アドミニストレーション事業本部長)を取り上げている。
矢野さんみたいな人に話を聞くと、つくづくヴェルディの先行きが案じられる。
己の、快、不快で人を分けることがどれほど幼稚で愚かなことか。
人を巻き込んでクラブを大きくしていくってことは、むしろ自分と合わない人をどれだけ取り込めるかに懸かっているんですよ。
一緒にやれる人はどうぞよろしくなんてのは一番ラクなやり方。
いまいち共感できない人の向こう側まで輪を広げなければ話にならない。

この号は、企画会議からして波乱が予想された。
「もうさ、似たり寄ったりの切り口ばっかだと書くほうもあきあきなんすよ。いまのサッカー誌って、ファンの泳いでいる釣り堀に食いつきそうなエサをつけた糸をたらしているだけでしょ。決まった人しか買わない。広い海を見ていない」
「はあ」
「劇場版テレクラキャノンボール、面白かったのね。ああいうのやりたい」
「へ?」
「題して、セレ女キャノンボール! セレッソの広報はしゃれがわかるじゃん。イケるよ。つうか別に広報通す企画じゃないし。ガンバのファンでさえ手をのばさずにはいられない」
「は?」
「アリかナシかでいえば、アリでしょ」
「何が?」
「おれはそういう能力ないから、チェーザレさんあたり引っ張り込んでさ。うまくいったら、さすがイタリア男の看板は伊達じゃない。しくじったら、おまえ口ほどにもねえな、見かけ倒しかよッ。どっちに転んでも面白い」
「いやいや」
「そんときだけ後藤勝(ワッショイ野郎)のペンネームで書く。大丈夫、しらを切りとおすから。迷惑はかけない。どうすか、カンパニー川口さん」
「誰がカンパニーじゃい」
「初の袋とじ企画だね。ひょっとしたら、クラブの人は人目をはばかって開けないかもしれないし」
「あんたね、媒体もろとも、業界から抹殺されますよ」

したら、大阪まで行って選手のインタビューが突然キャンセルになったり(けがだからしょうがないんだけど)、今治行きの新幹線で福山駅で降りなきゃいけないのに、寝過して気づいたら小倉だったり(自分が悪いんだけど)、いろいろ散々なメに遭った。





奇遇ですね

今日は昼から赤羽スポーツの森公園競技場へ。
今年初めてブリオベッカ浦安(関東サッカーリーグ1部)の試合に行った。
対戦相手はFC KOREA。あれ、そういやこのカード、去年も見たな。

竹中公基、田中貴大、がんばってたねえ。
特に貴大の俊敏な動き、突破力はやはりここでは抜けていて、上のクラスの選手なんだなあと。
つうことは、もっと相手を圧倒しなければいけないんだろう。
浦安は終始押しまくったがゴールを割れず、終了間際に失点。
痛恨の2敗目を喫した。
ルーキーの相馬将夏は、後半残り10分を切ったあたりで投入された。
初ゴールが待ち遠しいぞ。

敗戦にがっくり肩を落としていた都並敏史さん(浦安テクニカルディレクター)だったが、帰るときにはいつもの元気で「南米選手権行ってくるよ」。
おっ、スカパーの解説っすか。楽しみ。
「違う。勉強してくるの。全部自腹だかんね!」
そりゃけっこうなことですけど、ついでに解説もやってほしかった。
南米の空気に、都並さんのノリはばっちり合うんだよ。

十条の喫茶店で時間をつぶして、夜は等々力競技場。
J1第13節、川崎フロンターレ vs サガン鳥栖。
川崎が3‐2で勝利を収めた。

杉本健勇は2ゴールを挙げ、勝利の立役者となった。
ミックスゾーンの囲み取材で、あれこんなんだっけ?
声ちっさ。中森明菜かよ。
にじり寄る報道陣、5ミリずつ後退する健勇。
囲みの輪がちょっとずつ移動するのが可笑しかった。
やや通りにくい声質、周りの喧騒もあろうが。
活躍したときくらい、もうちょい声張ったがいいよ。
これからもっと人の多い代表のほうもあんだしさ。

ゴールマウスに立つ新井章太には、なんかこう胸に迫るものがありました。
だってここ、J1の強豪チームでっせ。
プレーから立ち現われてくるものがあって、それは人間性や積み重ね、これまでの歩みすべてかもしれず、しばし見とれたよ。
相手に2点は許したが、終盤、豊田陽平の決定的なシュートを防ぐビッグセーブを見せた。
「あそこはよく身体が動いてくれました。(菊池)新吉さんのトレーニングのおかげです」(新井)

奇遇にも、ヴェルディと縁のあった選手がそろってお立ち台に立つ、うれしい一日でした。

偶然といえば、昨日と今日たまたま続けて読んだ島本理生の『よだかの片想い』(集英社)と、平田オリザの『幕が上がる』(講談社文庫)が、宮沢賢治つながりでやんの。
平田オリザは、戯曲『東京ノート』以来だったが、予想した以上によかった。
よかっただけに、本広克行&ももクロの映画は見るのがこわくもある。
予告編を見る限り、う~ん違う気が……。
てっきり、ガルルは緑のコがやるものとばかり決めつけていた。
『よだかの星』は、一番好きな童話だなあ。





つま先、トーンッ

あの、つま先、トーンだよね。
永井秀樹がスルーパスを出すちょい前、地面を蹴ったキックフェイントですよ。

J2第9節、東京ヴェルディ vs ザスパクサツ群馬@味の素スタジアム。
ぱっとしないゲーム内容で、互いに決定機を作れずに後半アディショナルタイムに突入。
ボックスの前で永井にボールが渡り、そのキャリアが凝縮されたようなプレーが出た。
永井は右足の前にボールを置き、多少無理筋でも縦パスを狙うかと思いきや、つま先をトーン。
相手の動きを止め、ほんの少しだけ時間をつくった。
勝負を分けたのは、この一瞬の間。
そこで、視界の右端に入ってきた安西幸輝にスルーパスを通す。

「上がってくるのはわかっていたからね。安西くんがあそこで浮き球のクロスを入れたらノーチャンス。前から話していた速くて低いボールを入れてくれた」(永井)

グラウンダーの折り返しを、南秀仁が左足で角度を変えてネットを揺らす。
さらに南は、ブルーノ・コウチーニョからのパスを決めて2点目を奪った。
終わってみれば、2‐0。ホーム4連勝だってさ。

前節、0‐2で敗れたジュビロ磐田戦は、最後のクオリティーの差がきれいに出たゲームだった。
決勝点は、矢のようなクロスをヘディングでドーンッ。
ああいったフィニッシュは、いまのヴェルディではちょっとイメージしづらい。

一方で、選手たちはやれることをやり、現状の力は出したと思えた。
随所で身体を張り、いつもはクリーンにファイトする澤井直人が、相手にゴンッとひじを入れたりしてね。
おお、このゲームは闘いだ、と。

で、結局負けちゃったんだけど、爽快感のようなものはあり、いいゲームを見たなあとけっこう満足していた。
ところが、選手たちは悔しさいっぱいで、充足はみじんも感じられない。
もちろんそうあるべきで、易々とコップの水が満たされるようでは困るんですよ。
向上していくうえで、渇望感を重要なファクターとする人種だから。

僕の満足の基準はずいぶんと下がってるんだなあと、あらためて気づいた。
経営面などピッチ外のことに気を取られたり、気持ちよく応援できない時期を経て、元気にサッカーやってくれるのが一番みたいな。
でも、チームは新しい人がどんどん入り、サポーターもまた入れ替わり、生命体として活力を保つようにできている。
いまのヴェルディみたいな若いチームは特にそれが顕著。
指揮官は高い志を掲げ、選手もそれを信じて走る。
彼らは沁みついた余計なものがなく、無垢だ。

この乖離って、どうなんだろうと思ったね。
「スポーツはその可能性だけを追っていくもの」と言ったのは、評論家で、スポーツ批評の手練れとしても知られた虫明亜呂無だ。
僕は全面的にそうだとは思わないが、本質的にはやはりその通りだと思う。
とすれば、ヴェルディに関し、ヒリヒリした感じの原稿なんてもう書けないんじゃないかしら。

タニさんの車に乗っけてもらい、おいしいものをたくさん食べた楽しい遠征だったんだけど、そういうことがずっと頭に残ってるなあ。


●掲載情報
『フットボールサミット第29回 清水エスパルス サッカーの街に生きるクラブの使命』(カンゼン)
日本平のグリーンキーパーの仕事に迫った「ベストピッチの条件」と、昨年引退した柴原誠にインタビューした「プロ選手の壁とは何か」の2本を寄稿。
クラブのゲラチェックで、久しぶりにもめたねえ。
ほんとは、柴原はもっと活き活きと面白い話をしているんですよ。
あっちの広報さんの言っていることは、僕からすれば「あんた、プロのサッカー選手に向かって、あのシュートはインサイドじゃなくてアウトサイドを使いなさいよって言いますか?」ってなもんで。
そういうところとはお付き合いをしないに限ります。





『レポCD A面、B面、赤面!』リリース

『レポCD A面、B面、赤面!』 (ワーナーミュージック・ジャパン)が発売中だ。
ノンフィクション雑誌『季刊レポ』が総力を結集し、直木賞作家・角田光代も特別参加。
14名の書き手が70~80年代ヒット曲を選び、44ページのブックレットに青春の恥ずかしい思い出を詰め込んだ
コンピレーション・アルバムである。

こないだ北尾トロ編集長の事務所で発送作業をして「やったね、うれしいね」とみんなで言い合いつつ、「ただでさえCDが売れない時代に、こんなヘンテコリンなもンよく出せたなあ」と一部が感心していました。


レポCD

『レポCD』の内容とご購入はこちら。


僕の場合、候補に挙げた曲がことごとくダメで(版権の許諾が下りなかった)、6曲目でようやくクリアした。
第1希望は、リチャード・マークスの『ライト・ヒア・ウェイティング』。
これがね、ビンタを2、3発張りたくなるほどに女々しい歌なんだ。
ずっと君を待ってるよ~。要はそれだけ。
ちょっと聴いてみ。




レポCDの企画に参加できることが決まり、僕は先走ってしまった。
高校生の頃、つかまり立ちみたいな恋愛をした女性に電話取材までしたんだよ。

「あんさあ、おれがジュークボックスで鬼のようにこの曲をかけとったの憶えとる?」
「なんそれ、いっちょん憶えとらん」
「やっぱ伝わっとらんやったかあ」(伝わるかいっ)
「でもその歌は知っとう。好き。いい曲やん」
「なんで?」
「旦那と付き合っとるとき、よくカセットテープをくれたとよ」
「まさか」
「その曲が入っとった。だから憶えとっちゃんね」

そうか、そういうこともあるわな。
おかしくって、久しぶりに話しながらげらげら笑ったねえ。

ボーイズ・タウン・ギャングの『君の瞳に恋してる』も捨てがたい一曲だ。
これは大学時代の恥ずかしい思い出につながる。
とりあえず、この映像を見てほしい。




男のバックダンサー、ひどすぎない?
たいして鍛えられてないボディに、何よりこれだけキレてないダンスってなかなか見ないよ。
たぶん一夜漬けだね。特に右側は探り探りもいいところだもん。


最近、僕は気分がささくれ立ったときにこれを見るようにしている。
妙に元気が出るんだよ。


●掲載情報
ヒビレポ連載始めました。
『借りたら返す!』第1回
『借りたら返す!』第2回





これは一生もの

どえらいことが起こったよ。
最後まで信じていた?
いやー、とてもそんなことは。

J2第7節、東京ヴェルディ vs FC岐阜@味の素スタジアム。
前半、スココココーンって3点取られて、こらあかん、厄日に当たっちゃったと青くなった。
したら後半、84分から平本一樹、中後雅喜、杉本竜士、もっかい平本の4連発。
最後の2点はアディショナルタイムだからね。
いけいけになって平本がドリブルを仕掛けたとき、スタンドから湧き上がる地鳴りのような声がすごかった。
あれ、3000人ちょいのパワーじゃなかったよ。

4点目の逆転弾は、えっ、これ、くるのくるの? と机から身を乗りだして、バンザーイ!
あんなの初めてやった。
もう、サッカーってなんなんだろうって思った。

今日はあれこれ書く気が起きないなあ。
よし、寝よう。明日早いんだ。今治なんだ。
次節のジュビロ磐田戦が、なおいっそう楽しみになりました。


●掲載情報
『2015年の君たちは――。東京ヴェルディユース、花の92年組を追って。 最終回 離れていても、近くにいる』(フットボールチャンネル)
相馬将夏(ブリオベッカ浦安)の彼女の件は、さすがに書いていいか許可を取った。
「おもしろく書ける自信がある。彼女を傷つけないと約束する。だから任せろ」と。

例のダチョウ倶楽部は安田晃大のアイデアだそうだ。
キャンプ中、渋谷亮らが田村直也の部屋に相談にいったところ、ちょうど安田がいて「3人やったらダチョウでええやん」。
ひどく雑な発案だったが、それが幸いした。

最後のインタビューの相手は渋谷で、聞き終わったあとちょっとしんみりしちゃってさ。
「ずいぶん長い間取材してもらって、ほんとに」
「同期のみんなの様子も知れて、ありがたかったです」
「これからもヴェルディには、その、来てくれるんですかね」
律義に礼を言おうとしているんだなあと雰囲気でわかったが、こういうの照れちゃってダメね。
どうでもいい笑い話をして、また今度と別れた。
あと何年かしたら、からっとした感じで振り返られるだろう。

サッカーライティングの分野では、誰もやったことのないスタイル、手法でやりたかった。
いつからサッカーメディアの仕事は、選手を愛撫し、気持ちよくさせることが主題になっちゃったのかなと思ったりして。
先がどうなるかわからないドキュメンタリータッチで、書き手も揺れたり迷ったりしつつ、一緒に歩みを進めるような読み物をイメージしていた。
取材を続けながら、たぶんこれは一生に一度の仕事だろうなあ、と。
ほら、そういう出会いみたいなのは狙ってできないから。

この企画は、もともと一冊のノンフィクションにまとめる計画でスタートした。
タイミングを逸して書きこぼした話がかなりあり、赤字もそれなりにこさえてしまったので、どうにかしなければならない。
一段落したら、営業に入らんと。





いいチームです

年に何度かあるんですよ。
どうしても勝ち切らなければいけない試合。
惜しかったで済ませてはいけない試合。
今日はそういうゲームだったと思います。

J2第5節、東京ヴェルディ vs ギラヴァンツ北九州@味の素フィールド西が丘。
14分、先制点はアラン・ピニェイロの見事なバイシクルシュートだ。
右サイドを突破した安西幸輝がクロスを上げ、ふたりのディフェンダーに挟まれながらくるりと宙を舞った。
いやはや、鮮やかでした。
前半は危なげない試合運びで、安定感は今季一番だった。

後半、東京Vはやや受けに回るのだが、北九州に最後の一線を越えさせない。
佐藤優也のファインセーブがチームを救った。
そして84分、試合を決定づける得点が生まれる。
永井秀樹からのスルーパスを、澤井直人がゴール右隅に流し込んだ。
苦しい時間帯をしのいで、2‐0。

「永井さんからパスが出てくると信じて走りました。ちょーやさしいパスだったんで、キターッと」(澤井)

こんなしてやったりのゲームを見たのは、いつ以来だろう。
きっちり仕事をした永井もあっぱれですけど、やはりね、このチームは中後雅喜ですよ。
三竿健斗と組み、中盤の底がどっしり安定。
全体をコントロールし、泥くさい仕事も厭わない。
相手がいやがるプレッシャーのかけ方を知っている。

「こういうゲームを勝てたのは大きい。若い選手が多く、経験値の総量は少ないですが、内容のともなった勝利を重ねることで成長していける」

と、中後は晴れやかな表情。
これからもっとチームに実が入ってきそうだもんなあ。

「おそらく伸びしろの大きさは相当なもんですよ。あと、昨年との違いでいえば、セットプレーで点が取れそうなこと。そこは強みにしていきたい」

ですよね、チャンスが匂うもん。

人によって見方は分かれるだろうが、僕はこの試合のMOMにアランを推す。
これぞプロという妙技を見せ、守備も頑張る頑張る。
なんだか最近、明るくなったらしいですよ、彼。
これはコミュニケーション力に長け、仲よしの高木大輔が多大な貢献をしている。

いいチームになりつつあるなあ。
それが何よりうれしいですね。





『やきとり 楽聞』オープン!

友だちのごっちんが準備を進めてきた『やきとり 楽聞』がついにオープンした。
楽聞(ラモン)の由来は、アメリカのパンクバンド、ラモーンズね。
場所は根津駅から徒歩1分。上野公園からも歩いて行ける。
カウンターだけのこじんまりとした店で、大人の隠れ家の雰囲気だ。

こだわりの串焼きを出し、徐々に口コミでお客さんを集めつつあるが、目下の課題は女性客の取り込み。

「もっと来てほしかぁ。どげんしようかいな」
「EXILEみたいな店員、雇いいな。そのへん歩かせとけばいいやん」
「おれが売りやけん、そんな奴いらん」
「よう言うわ」
「このモナカ(鶏肉・アボカド入り)だって、せっかくハート型にしたのに!」
「これ美味いよ。でもどうせなら、おっさんより女のコに食べてほしいよな」

お酒のラインナップも豊富で、福岡の同級生の酒屋から仕入れる白ワイン、日本酒、焼酎などを用意する。
僕みたいな下戸には自家製ジンジャーエールがおすすめ。
食べログの情報にはないが、ランチ営業もやっている。
皆さん、どうぞごひいきに。

今週土曜は、日テレ・ベレーザの開幕戦@味の素スタジアム西競技場。
日曜は、近所のスポーツ居酒屋「KITEN!」で、東京ヴェルディ vs V・ファーレン長崎のゲームを観戦する。