このフォームだね | ライター海江田の 『 シラフでは書けません。 』

このフォームだね

早朝、なでしこジャパンは岩渕真奈の決勝ゴールでベスト4に駒を進め、南米選手権、ブラジルはPK戦の末、パラグアイに敗れ、ちょっと寝とかないと、もう生活むちゃくちゃだなあと横になったら、ぐっすり眠っちゃって起きたらほぼ夕方でやんの。
焦った。大急ぎで身支度を整え、大宮に向かった。

行きの電車で思ったのは、東京ヴェルディの監督、選手は、今季これまでの戦いを疑ってほしくないということだった。
愛媛FC、ロアッソ熊本に連敗した。
特に熊本戦はびっくりするほど平坦に敗れた。
当然、修正を試み、メンバーの入れ替えも考えるだろう。
ややもすると疑念が頭をもたげる。
だが、見方を変えれば、ここが辛抱のしどころかもしれない。
大胆な転換を図り、仮にその試合を拾えたとして、シーズンはまだ残り半分もある。
次の停滞にどう対処するか、よりむつかしくなりはしないか。

フォーム、型を失ったチームの末路は悲惨である。
対症療法の乱れ打ちで、ぐずぐずになっていくのを過去に何度も見てきた。
亡くなった歌舞伎の中村勘三郎さんがこんなことをよく言っていたそうだ。
「若い人はすぐ型破りをやりたがるけど、それはあんた、型を会得した人がやるからできることであってね。型のない人がやろうとするのは、ただの形無しってやつですよ」
以前何かの本で読み、出典を記せないのが残念だが、大丈夫、かなり正確に記憶しているはずだ。
つくづく箴言だなあと頭に叩き込んだ。

まさにいま、ヴェルディは戦い方のフォーム、型の輪郭がつくられようとしているところで、そこは大事にしてほしいと願った。
ただ、相手が首位をすいすい走る大宮アルディージャってのがね。
前線のクオリティーが高く、守備も堅い。
しかもアウェー戦である。
正攻法でぶつかったとき、はたしてどうなるか。
こっぱみじんに砕かれるかもしれないという不安はあった。
そうなると、フォームだ、型だといっても、すべて黒く塗り潰されちゃうんだよ。

大宮とは久しぶりの対戦とあって、改修後のNACK5スタジアムを訪ねるのは初めてである。
いいハコだねえ。芝のコンディョンも最高。

開始4分、いきなりのピンチ。
安在和樹がクリアをしくじり、渡部大輔の独走を許す。
中央のムルジャにボールが渡り、完全にやられたと思ったが、佐藤優也のビッグセーブに救われた。
最初の分岐点である。

28分、相手にぐいぐい圧力をかけてミスを誘い、マイボールにした三竿健斗から杉本竜士へ。
ボックス前、杉本は右足強振。GKがシュートをはじき、南秀仁がプッシュして先制点だ。
杉本のシュートも巧かった。
ややアウトにかけ、いやらしいところでワンバウンドさせた。

平本一樹、杉本が前線から追い回し、中盤の底に構える中後雅喜を軸に、高い位置でボールを絡め取る。
やはりこれですよ、今年のヴェルディは。
この日の三竿健斗は出色の出来。
どんどん食いついて、おもしろいようにボールを奪った。
守備の達人がよくやる、最初に激しく当たっておくご挨拶、ウェルカム・タックル(と僕は呼んでいる)をかますくらいの勢いでゲームに入ったほうがいい結果につながっているように思う。

1点リードで前半を折り返し、61分、田村直也の蹴ったストレート性のクロスがすーっと伸びてそのままゴールイン。
ピッチ上、風が舞っていたのか。GKが目測を誤った。
「ラッキーでした」と田村である。

終わってみれば完勝ですよ。2‐0。
「ハードワークという言葉が陳腐に聞こえるくらい選手たちが戦ってくれた」と冨樫剛一監督は自慢げな顔をしていた。

右サイド、南と田村の縦関係がバッチリだったのはけっこうな収穫だ(週中、安西幸輝がコンディションを崩した影響もある)。
やっぱアレか、上下動をきっちりやらないと、田村にどやされるのだろうか。
「いや、どやされないですね。タムさんはひとりで任せろくらい言ってくれます。まあ、怖いんで、守備のときは急いで戻りますけど」(南)
へえ、そんな感じなんだ。

僕は提案します。
この試合の南のパフォーマンスを、今後しばらくは見る側の基準としましょう。
ボールを持てるし、さばけるし、スペースに顔を出し、点だって取っちゃう。守備もさぼらない。
やって当たり前って感じになれば、彼はワンランク高いステージに行くでしょうよ。