「ここしかないと思った」 | ライター海江田の 『 シラフでは書けません。 』

「ここしかないと思った」

思いのほか、ゲームは早く動いた。
3分、7分と栃木SCの杉本真が立て続けにゴールを決める。
2点目は、高木大輔のパスミスに素早く反応し、前にポジションを取っていたGK佐藤優也の頭上を破るビューティフルゴールだった。

0‐2。
J2第16節、東京ヴェルディ vs 栃木SC(味の素スタジアム)は、え、え、え? って感じで、いきなりビハインドを背負った。

僕は、この日右サイドバックに入った高木大輔の動きに注目していた。
よく持ち堪えてるなあ、と思ったね。
あんなあからさまなミスをやらかしたら、ふつうメンタルなんてズタズタのメロメロだよ。
そのときベンチの土肥洋一コーチから「声を出してリズムをつくれ」という指示があり、大輔は懸命に手を叩いて何か言っていたが、そうしている自分に、いったい誰のせいでこうなったんだよってツッコミが絶対入るもん。
逃げずに縦に仕掛けたプレーを見て、感心した。
ボール取られちゃったけどね。

9分、セットプレーから平本一樹のヘッドで1点差。
安在和樹のキックが冴えた。今年の平本はほんと頼りになる。
25分、中後雅喜のゴールで同点。
前半のうちに追いつけたのは大きかった。

で、この試合のハイライトは72分。
中央付近、安西幸輝から平本にボールが渡り、ドリブル開始。
何者かが右サイドを疾風のごとく駆け上がる。
ボックスに迫った平本は、背後から言葉にならない雄叫びを聞いたそうだ。

「ここしかないと思った。最後のチャンス。後半スプリントが増えて、足にきていた。なんて叫んだのか憶えてないですね。カズキさんなのか、カズキなのか」(大輔)

平本からパス、大輔はダイレクトで右足を振り抜く。
シュートはニアを破り、ゴールネットを揺らした。
その勢いのまま、ゴール裏に向かって一直線だ。

戦況が変わるごと、中後が大輔にかけた言葉がいちいち沁みる。
「いいから切り替えろ」(0‐2とされたとき)
「ここからだぞ」(2‐2に追いついたとき)
「点取って、足つって、満足してんのか?」(3‐2で勝利のあと)

「ベテランの人たちに助けてもらいました。自分がスタメンで試合に出て、初めて勝てた。12試合目で、やっとです」(大輔)
よかったねえ。
お天気にも恵まれ、いい一日だったよ。
僕の日本ダービーの馬券が紙くずになったこと以外は。


●掲載情報
ヒビレポ『借りたら返す!』第8回
予定していたネタがいっこ飛んだ。
誰か、僕に貸しっぱなしにしてないか?

『フットボール批評』issue05(カンゼン) 5月7日発売
うっかり通り過ぎてた。「中島翔哉がきた道」を寄稿。
タイトル、チャン・イーモウの『初恋が来た道』とかかっているのか。
編集長の風貌からは考えられんね。
ジェフの永田雅人さんに話を聞きに行ったとき、菅澤大我さんとも会えて、3人で1時間ほど雑談。
久しぶりに楽しかったね。
大我さんの貫禄は前にも増し、あの甲高い巻き舌がレベルアップしていた。
知っている人はちょっと想像してみてよ。
顔は笑ってんだけど、迫力ありすぎるんだよ。

『フットボールサミット第30回 セレッソ大阪』(カンゼン) 
大熊裕司(アカデミーダイレクター兼U-18監督)インタビュー。
「日本サッカーの『土』をつくる」シリーズ第10回は、
FC今治の矢野将文さん(アドミニストレーション事業本部長)を取り上げている。
矢野さんみたいな人に話を聞くと、つくづくヴェルディの先行きが案じられる。
己の、快、不快で人を分けることがどれほど幼稚で愚かなことか。
人を巻き込んでクラブを大きくしていくってことは、むしろ自分と合わない人をどれだけ取り込めるかに懸かっているんですよ。
一緒にやれる人はどうぞよろしくなんてのは一番ラクなやり方。
いまいち共感できない人の向こう側まで輪を広げなければ話にならない。

この号は、企画会議からして波乱が予想された。
「もうさ、似たり寄ったりの切り口ばっかだと書くほうもあきあきなんすよ。いまのサッカー誌って、ファンの泳いでいる釣り堀に食いつきそうなエサをつけた糸をたらしているだけでしょ。決まった人しか買わない。広い海を見ていない」
「はあ」
「劇場版テレクラキャノンボール、面白かったのね。ああいうのやりたい」
「へ?」
「題して、セレ女キャノンボール! セレッソの広報はしゃれがわかるじゃん。イケるよ。つうか別に広報通す企画じゃないし。ガンバのファンでさえ手をのばさずにはいられない」
「は?」
「アリかナシかでいえば、アリでしょ」
「何が?」
「おれはそういう能力ないから、チェーザレさんあたり引っ張り込んでさ。うまくいったら、さすがイタリア男の看板は伊達じゃない。しくじったら、おまえ口ほどにもねえな、見かけ倒しかよッ。どっちに転んでも面白い」
「いやいや」
「そんときだけ後藤勝(ワッショイ野郎)のペンネームで書く。大丈夫、しらを切りとおすから。迷惑はかけない。どうすか、カンパニー川口さん」
「誰がカンパニーじゃい」
「初の袋とじ企画だね。ひょっとしたら、クラブの人は人目をはばかって開けないかもしれないし」
「あんたね、媒体もろとも、業界から抹殺されますよ」

したら、大阪まで行って選手のインタビューが突然キャンセルになったり(けがだからしょうがないんだけど)、今治行きの新幹線で福山駅で降りなきゃいけないのに、寝過して気づいたら小倉だったり(自分が悪いんだけど)、いろいろ散々なメに遭った。