クリスマスイブなんで

それっぽい恋愛話を作りました

でも出来たら何か昭和っぽい

恋愛話になって

結局 年齢が出るのかなぁ~

って想いましたね 苦笑

 

# 窓辺の想い

図書室の窓から見えるグラウンドで、
今日も先輩が走っている。

私は図書委員として、
放課後の誰も来ない図書室で本の整理をしながら、
いつものようにその姿を目で追っていた。
先輩はサッカー部で、エースでもキャプテンでもない。
でも、誰よりも早くグラウンドに来て準備をして、
練習が終われば最後まで片付けをしている。
チームメイトが気持ちよく練習できるように、
黙々と支え続けている人だ。

私が先輩に惹かれたのは、そんな姿を見たからだった。

クラスでも目立たない私。
友達は少ないし、話すのも得意じゃない。
先輩と私じゃ、釣り合わない。
この想いが先輩に届くことは絶対にないだろうし、
それでいいと思っていた。
ただ、こうして窓越しに見ているだけで十分だった。

---

「ちょっと! あんたも来なさい!」

母に呼ばれて、休日の午後、
家族総出でスーパーに向かった。
お一人様一点限りのトイレットペーパーを買うため、
父と私まで動員されたのだ。

「こんなことで家族三人も来なくても……」

急な話だったから、着替える暇もなく、
家で着ているダサいトレーナーとジャージのまま。
髪もまとめただけで、化粧なんてしていない。

ぶつぶつ言いながら、
それぞれがトイレットペーパーを抱えて
レジに向かっていた時だった。

「あ……」

前から歩いてくるのは、先輩だった。

心臓が跳ね上がる。
嘘でしょ。
こんなところで、こんな格好で会うなんて。
トイレットペーパーを抱えて、家族と一緒で、
しかもこのダサい服装で。

「やあ」

先輩が私に気づいて、手を上げた。

「あ、あの、こ、こんにちは……」

顔が熱くなる。
言葉が出てこない。
視線が泳ぐ。

「あら、お友達?」

母が横から顔を出した。
やめて、お母さん。

「サッカー部の先輩です……」

小さな声で答えると、母が私の様子をじっと見た。
そして、何かを察したような顔になった。
嫌な予感がする。

「まあ! スポーツマンなのね。
いつもうちの子がお世話になってます」

「お母さん!」

「サッカー部、大変でしょう? 試合とかあるの?」

母は全く私の制止を聞かず、先輩に質問し始めた。
顔が真っ赤になる。
地面に穴があったら入りたい。

でも、先輩は嫌な顔一つせず、丁寧に答えてくれた。

「この前の試合、見に来てくれたら嬉しいな」

そう言って、先輩は私に微笑みかけた。

その時、母が私の肩をぽんと叩いた。

「ねえ、あんた、連絡先交換したら? 
試合の日程とか教えてもらえるでしょ」

「お母さん!」

「いいじゃない。せっかくのご縁なんだから」

母は全く引かない。
もう、恥ずかしくて死にそうだった。

「あ、そうだね。良かったら、交換しない?」

先輩が優しく笑って、そう言ってくれた。

「え……い、いいんですか?」

「うん、もちろん」

夢みたいだった。
まさか、母が気づいて、
こんな形で先輩と連絡先を交換できるなんて。

帰り道、母は満面の笑みで言った。

「いい彼氏じゃない。爽やかで優しそうで」

「違う! 彼氏じゃないから!」

慌てて全力で否定する。

「ただの先輩だし、
向こうは私のこと何とも思ってないし!」

「あら、そうかしら? 
でも、あんたの顔見てたらすぐ分かったわよ。
好きなのね」

「も、もう! お母さん!」

恥ずかしくて顔を背ける。
でも、母のおかげで連絡先を交換できたのは事実で。

「……ありがとう、お母さん」

小さく、本当に小さく、感謝の言葉を伝えた。

---

クリスマスイブの夜。

先輩から送られてきたメッセージには、
「サッカー部のクリスマスパーティーがあるんだけど、
来ない?」と書かれていた。

行きたい。でも、怖い。

返信の文字を打っては消し、打っては消しを繰り返す。
他にも女の子が来るって書いてある。
きっとみんな可愛くて明るい子たちなんだろう。
私なんかが行っても、浮くだけだ。

でも、先輩に会えるかもしれない。

スマホを握りしめたまま、時間だけが過ぎていく。
気づけば、パーティー開始まで
あと一時間を切っていた。

「……行こう」

小さく呟いて、慌ててクローゼットを開けた。

「何着よう、何着よう……」

手持ちの服を次々と取り出しては、
鏡の前に当ててみる。
これは地味すぎる。
これは逆に気合い入りすぎ。
これは子供っぽい。

「あんた、もう出ないと間に合わないんじゃないの?」

母が部屋を覗いて、呆れたように言った。

「だって、何着ていいか分からなくて……」

「もう、これでいいじゃない」

母が選んでくれた紺色のワンピースを着て、
慌てて家を飛び出した。

待ち合わせ場所に着くと、
すでに何人かが集まっていた。
みんな楽しそうに話している。
私が来たことに気づいた人は、誰もいないようだった。

やっぱり来なければよかったかな。
そう思った瞬間、

「来てくれたんだ」

先輩が私を見つけて、微笑んでくれた。

その笑顔に、少しだけ、心が温かくなった。

けど結局、勇気を出して参加したものの、
やっぱり場違いだった。
他の女の子たちは、クラスでも陽気で
人気のある子ばかり。
みんな楽しそうに話していて、
私だけが浮いている。

周りの会話が弾んでいる。
恋愛の話、クラスの話、共通の友達の話。
私には入る隙間がない。
相槌を打つことしかできなくて、
笑顔を作るのに必死だった。

先輩は幹事として忙しそうで、遠くの席にいる。
時々こちらを見てくれるような気もするけど、
きっと気のせいだ。

一人だけ取り残されたような、
孤独感が胸に広がっていく。

「……お手洗い、行ってこよう」

席を立って、誰も気づかないうちに帰ろう。
そう決めた。

外に出ると、想像以上に寒かった。
吐く息が白い。
街にはイルミネーションが輝いていて、
行き交うのはカップルばかり。

それに比べて私は、一人。

やっぱり、私は先輩と釣り合わない。
パーティーに呼んでくれたのも、
きっと気を遣ってくれただけで。
来るんじゃなかった。
パーティーに参加したのは間違いだった。

涙が溢れてきた。

とぼとぼと歩いていると、
突然後ろから声がかけられた。

「待って!」

振り返ると、息を切らした先輩がいた。

「え……先輩?」

「なんで帰っちゃうの? 用事でもあった?」

俯く私に、先輩が話し始めた。

「実はさ、以前から図書室の窓から
グラウンドを見ている子が気になってたんだ」

心臓が止まりそうになった。

「それから、その子をよく見るようになって。
みんなが気づかない、やりたくないようなことを
一生懸命やってるんだよね。
教室の掃除とか、配り物とか。
そうやって見ているうちに、
どんどん気になっていった」

先輩の言葉が、信じられなかった。

「スーパーで連絡先を交換できた時は、
すっごく嬉しくて。
クリスマスパーティーに誘って、
その子と二人で抜け出してプレゼント渡して、
告白しようと思ったんだ。
でも気づいたら、いなくなってて……」

空から、雪が舞い降り始めた。
街灯の光が涙でキラキラと輝いて見えた。

「君が好きなんだ。付き合ってください」

先輩の真剣な眼差しが、私を見つめている。

涙が溢れて止まらない。
でも、答えはもう決まっていた。

「……はい」

かすれた声で、私は答えた。

先輩が安堵したように笑って、
そっと私の手を握った。温かかった。

降り始めた雪が、二人を優しく包み込んでいた。

窓越しに眺めるだけだった世界が、
今、私の手の中にある。

これは夢じゃない。
本当に、本当の、クリスマスの奇跡だった。
 

米国トランプ大統領が

20~25隻の戦艦を建造する

と発表したのを見て作りました

現実の米国の戦艦が

どうなるのかは今はまだ解りませんが

この時代に戦艦とかロマンではありますよね 苦笑

 

 

 

 

# トンプソンズ・グローリー ― 静かなる抑止力

海上自衛隊に秘匿潜水艦「C・ジャポニカス」が
密かに納入されてから一年が経過した頃、
ホワイトハウスの執務室では
歴史的な発表の準備が進められていた。

「大統領、報道陣の準備が整いました」

補佐官の声に、ジョン・トンプソン大統領は
深く息を吸い込んだ。
窓の外に広がるワシントンの空は、
いつもと変わらぬ穏やかな青さを湛えている。

発表は予想通りの反響を呼んだ。
合衆国海軍の新たな象徴となる
戦艦「トンプソンズ・グローリー級」の建造計画。
公開された想像図には、
大型巡洋艦規模の艦体にレールガン、レーザー兵器、
そしてVLSに搭載される核巡航ミサイルが描かれていた。

しかし、それは表向きの姿に過ぎなかった。

##

バージニア州ノーフォークの秘密造船施設。
厳重な警備に守られたドックの中で、
真の「トンプソンズ・グローリー」が
姿を現しつつあった。

「信じられない……まるでSF映画だ」

視察に訪れた海軍作戦部長は、
目の前の巨大な艦影を見上げて呟いた。

全長約270メートル。
外見は潜水艦だが、
オハイオ級をも凌駕する巨体だった。
搭載する巡航ミサイルは300発。
レールガンとレーザー兵器を多数装備し、
さらに展開式の飛行甲板を持つ。
F-35Bやヘリコプターの運用、格納が可能な設計。
そして何より驚くべきは、
この巨体のまま潜航できるという事実だった。

「これは……」

作戦部長は艦体表面に配置された
無数のパネルに気づいた。

「光学迷彩システムか?」

「はい。海上航行中、完全に姿を消すことができます」
技術者が誇らしげに答えた。

「周囲の環境を瞬時に解析し、艦体全体に投影する。
衛星からも、航空機からも、肉眼でも捉えられません」

動力源はL'sコーポレーション製の最新型原子炉。
出力130万キロワットを誇る炉を2基搭載し、
50年間の連続運用が可能。
その間、燃料交換は不要だという。

「水中速力は?」

「非公開ですが……」
技術者は声を潜めた。

「400ノットに迫ります」

作戦部長は息を呑んだ。
既存のどの潜水艦をも圧倒する速度だ。

「C・ジャポニカスを元にした拡大性能向上型、
ということですな」

「その通りです。
ただし、規模も能力も桁違いですが」

##

執務室に戻ったトンプソン大統領の机には、
様々な報告書が積み上げられていた。

L'sコーポレーションが提示した理念
――「できるだけ平和を長く続ける」。
その実現のために、大統領は多方面に手を打っていた。
今回の軍事力増強のように早急に
実現するものもあれば、
各国との対話を通じて何年もかけて
実現を目指す案件もある。

同時に進めているのが、L'sコーポレーション技術の
リバースエンジニアリングだった。
いつか彼らが手を引いた時のために、
技術を自国のものとする必要がある。
そしてその成果は軍事だけでなく、
民間にも応用され、経済的発展をもたらしていた。

新世代の小型原子炉技術は電力網を革新し、
レールガン技術は宇宙開発に応用された。
材料科学の進歩は医療機器から建築まで、
あらゆる分野に波及している。

「大統領、支持率がまた上昇しました」

補佐官が持ち込んだ最新の世論調査を見て、
トンプソンは複雑な表情を浮かべた。

突然降って湧いたL'sコーポレーションとの関係。
意図したわけではなかったが、
その恩恵は計り知れない。
雇用は創出され、技術力は向上し、
軍事力は強化された。
大統領としての評価は日に日に高まっている。

##

夕暮れ時、トンプソンは再び窓辺に立った。

オレンジ色に染まる空を眺めながら、
彼は静かに呟いた。

「落ちた時、どうなるのかを考えたら怖いな」

支持率の上昇。
経済の好調。
軍事力の増強。全てが順調に見える。
しかし、それは同時に脆弱性でもあった。
L'sコーポレーションに依存した繁栄。
彼らが去った後、アメリカは自立できるのか。

そして何より、この圧倒的な軍事力。
「平和のための力」という理念は理解している。
しかし、力は使い方を誤れば、
平和を破壊する凶器にもなる。

「トンプソンズ・グローリー……か」

大統領は自身の名を冠した戦艦の名を口にした。
栄光という名の潜水艦。
水面下に隠れ、海上では光学迷彩で姿を消し、
必要な時だけ姿を現す抑止力。

それは彼自身の立場とも似ていた。
表向きの顔と、隠された真実。
公開される情報と、秘匿される実態。

執務室のドアがノックされた。

「大統領、次の会議の時間です。
日本の防衛大臣とのビデオ会談ですが」

「分かった。すぐ行く」

トンプソンは窓から離れ、大統領の顔に戻った。

空はもう暗くなり始めていた。
しかし、星々が輝き始めるまで、まだ時間がある。
その僅かな時間、薄明の中で、
彼は自分の選択が正しかったのかを
問い続けるのだろう。

ノーフォークの秘密ドックでは、
「トンプソンズ・グローリー」の建造が
着々と進んでいた。
やがてそれは海に出る。
世界最強の潜水空母として。
そして誰も知らない速度で、深海を駆け抜けるのだ。

平和のために。

その言葉の重みを、トンプソンは噛みしめながら、
次の会議室へと向かった。

―― 了 ――

 

不殺主人公の成れの果てを作りました

 

 

 

不殺の刃

異世界に転移した日、俺は“英雄”のスキルを得た。
剣を振るえば魔物は倒れ、
街を脅かすゴブリンやオーガを狩っては魔石を換金し、
糊口をしのぐ日々。

 

魔物は敵だ。
だが、人は違う。
それが、俺の譲れない線だった。

街を守るために結成した小さなパーティーは、
俺の信条を理解してくれていると思っていた。
軽やかに走る小さなスカウトは、
皆の笑顔の中心だったし、
巨躯の僧侶は壁のように仲間を守った。
魔法使いの彼女は、
戦場にあっても俺の帰る場所だった。

ある日、街に影が落ちた。
魔物ではない――大規模な盗賊団の襲撃。

俺は剣の腹で打ち倒し、気絶させ、追い散らした。

「殺すな。人だ」

その判断が、戦場の空気を歪ませていくのを、
俺は感じ取れなかった。
最初に倒した盗賊を、俺は地面に伏せて去った。

最初に崩れたのは、
いつも一番前を走っていたスカウトだった。

戦闘が一段落し、街路に静寂が戻りかけた頃、
彼は瓦礫の影からひょいと顔を出して手を振った。

「大丈夫だよ、みんな気絶してる!」

だが俺が最初に叩き伏せた盗賊の一人が、
そのすぐ背後にいることに、誰も気づかなかった。
地面に伏せていた男は、息を潜め、
時間を待っていたのだ。

短い悲鳴すら上がらなかった。
小さな体が、力なく崩れ落ちる音だけが路地に響いた。

駆け寄ったとき、スカウトの瞳は見開いたまま、
何かを言おうとしていた。
だが声は出ず、指先が俺の袖を掴もうとして、
空を切った。

「……俺が、殺さなかったからだ」

理解する前に、次の戦場が始まった。

僧侶は最後まで踏みとどまった。

巨体を盾に、祈りと拳で仲間を守り続けた。
骨がぶつかる鈍い音、荒い呼吸、
それでも彼は立っていた。

だが盗賊は人間だった。
恐怖を知り、怒りを覚え、
数で押すことをためらわない。

俺が剣で吹き飛ばした男たちが、
再び包囲を完成させた。

「戻ってくるな!」

俺の叫びは、騒音に飲まれた。

僧侶は囲まれ、四方から刃を突き立てられた。
倒れる瞬間、彼は俺を見て、かすかに笑った。

――守れなくて、すまない。

その表情が、今も脳裏に焼き付いている。

彼女がやられたことを、俺はその場では知らなかった。

後方で魔法を放ち続けていたはずの彼女が、
いつの間にか姿を消していた。
盗賊たちの怒号と嘲笑が重なり、
嫌な予感だけが胸を締め付けた。

戦いが終わり、駆けつけた先で見たのは、
倒れ伏した彼女だった。
服は乱れ、身体には無数の手の痕が残され、
魔力の灯は完全に消えていた。

抵抗した痕跡は、はっきりとあった。
魔法陣の焦げ跡、砕けた指輪、握りしめられた地面。

最後に、刃が一度だけ振り下ろされたことも、
すぐに分かった。

叫び声は、俺のいない場所で尽きていた。

俺は、その直後に「人助け」をした。

震える少女の手を取り、守ったつもりで背を向けた。
仲間たちの死は、俺の選択の延長線上にあったのに。

不殺は、慈悲ではなかった。
ただの独りよがりだった。

その代償を、仲間たちが先に払っただけだった。

気づいた時、俺は路地で震える少女を庇っていた。

「ありがとう」

そう言って近づく彼女の足取りに、
言いようのない違和感があった。

痛みが走る。
胸元に、冷たい感触。

少女は笑った。

「刃には毒が塗ってあるの。もう助からないよ」

理解できなかった。
人を殺さないと決めた俺が、なぜ――。

彼女は、天使のような笑顔で言った。

「見逃された屈辱が、どれだけ悔しかったか。分かる? 

あんたは不殺を振りかざして、私たちを生かした。

だから、私たちは誓った。
必ず復讐してやるって。
女や子供に甘いあんたなら、
私が近づけると思ったよ」

視界が暗くなる。
初めて、分かった。

俺は優しさを選んだつもりで、恨みを蒔いていた。
俺の行いの果てに、守るべき人を失い、
自分の命すら守れなかった。

剣は、誰も救わなかった。
不殺の刃は、すべてを失わせただけだった。

 

 

最近は漫画でもアニメでも

不殺主義の主人公とか

決して人殺しはしないとかいう主人公がいて

吐き気がします

そういうのは勘違いな平和ボケだし

相手を馬鹿にした態度だと思います

自分や自分の大切な人を守る為には

不殺とか人殺しは嫌とか言っていられません

彼らはそういう世界にいるのだから

現実でもそういう事態があるかもしれない

そういう時にそんな寝ぼけた事を言っていたら

大切な人どころか

自分自身さえ守る事は出来ないでしょう

いざという得でも不殺とか人殺しは嫌とか言うのは

覚悟のない臆病者の逃げでしかありません

 

 

 

 

# 覚悟の剣

剣が肉を裂き、骨を砕く音が静寂の中に響いた。

襲撃者の体を貫いた刃を引き抜くと、
男は地に崩れ落ちた。
だが、その口元には奇妙な笑みが浮かんでいる。

「これで……お前も人殺しだ」

鮮血を吐きながらも、男は勝ち誇ったように言った。

まるで最後の一撃を放ったかのように。

神楽司は剣を一振りして血を払い、
冷ややかな目で倒れた男を見下ろした。

「襲って来た奴を殺して何が悪い?」

その声には、一片の動揺もなかった。

男の顔に、わずかな驚きが浮かぶ。
想定していた反応ではなかったのだろう。
罪悪感、後悔、あるいは自己嫌悪
——そういったものを期待していたに違いない。

「お前らはそうやって勝手なルールで
こちらを縛ろうとする」

司は倒れた襲撃者を無造作に蹴った。

「だがそんなものに俺は乗らない」

血の海に沈む男の体が、鈍い音を立てて転がる。

「殺されたくないなら殺しに来なければいいだけだ。
殺しに来るということは、
殺される覚悟があると判断されても
仕方ないということだ」

男の仲間らしき影が、物陰から姿を現した。
同じように司を心理的に
追い詰めようとしていたのだろう。
だが、その企みは完全に外れた。

「殺しに来る相手に対して不殺とか言う奴は、
とんだ思い上がりだ」

司は静かに、しかし確実に敵との距離を詰めていく。

「相手の覚悟を馬鹿にしているだけだ」

敵の顔に焦りの色が濃くなる。

「無抵抗の人を一方的に殺すのなら、
人殺しと言われても仕方ないだろう」

一歩、また一歩。

「だがそうでないのなら、
ただの双方覚悟の上での戦いだ」


司の手が剣の柄を強く握る。
刃が微かに震え、殺気が空気を震わせた。

「それは言葉での攻撃も同じだ。
攻撃には変わりない」

次の瞬間、閃光のような斬撃が敵の腕をかすめた。
浅いが確実な傷。血が滴る。

「自覚があろうとなかろうと、
お前はそういうことをしているのだ」

司の剣技は容赦がなかった。
一撃、また一撃。敵の体に傷が増えていく。
致命傷には至らないが、確実に戦闘能力を削いでいく。

「傷を増やし、
お前の攻撃の手が緩んだり精神的に落ちたら、
俺にとってはラッキーだ」

敵は必死に防御しようとするが、傷は増え続ける。
腕、脚、肩、脇腹——血が流れ、体力が奪われていく。

やがて、敵の動きが鈍くなった。

司は最後の一撃を放った。

水平に振り抜かれた剣が、敵の首を斬り落とす。

鈍い音を立てて、首が石畳に転がった。

司は血に濡れた剣を鞘に収めながら、静かに呟いた。

「お前が望んだことに付き合ってやったんだ。
少しは感謝しろ」

彼は振り返らずに歩き出した。

彼は不殺を誓った英雄でもなければ、
平和ボケした理想主義者でもなかった。

彼は真の覚悟を持った戦士だった。

命を奪うことの重さを知りながらも、
それを背負う覚悟を持つ者。
相手の覚悟を尊重し、自らの覚悟を貫く者。

そして何より——戦場において、
偽りの慈悲が最も残酷な欺瞞であることを
理解している者だった。

戦いとは、覚悟と覚悟のぶつかり合いだ。

その結果を受け入れる覚悟のない者が、
剣を抜くべきではない。

司の背中が、
薄暗い路地の向こうへと消えていった。

米海軍の巡航ミサイル潜水艦が異世界転移して

次元潜航艇に変化するお話を作りました

転移したのは宇宙戦艦ヤマト+スタートレックな世界で

スペースオペラちっくな異世界転移モノって感じです

 

 

# 亜空間の彷徨者

北極海の深度四百メートル。
巡航ミサイル潜水艦USSミシガンは静かに航行していた。
オハイオ級弾道ミサイル潜水艦を改修したこの艦は、
百五十四発のトマホーク巡航ミサイルと
特殊部隊を搭載し、
アメリカ海軍の秘密の矛として任務を遂行してきた。

「艦長、異常な磁気変動を探知しました」

ソーナー員の報告に、
艦長のジェームズ・ハリス中佐は眉をひそめた。

「詳細は?」

「不明です。これまで観測したことのない波形で——」

次の瞬間、艦全体が激しく震動した。
照明が明滅し、計器類が狂ったように
数値を乱舞させる。
乗員たちが悲鳴を上げる間もなく、
世界が白く染まった。

---

意識を取り戻したハリス艦長が最初に感じたのは、
重力の違和感だった。
体が妙に軽い。
周囲を見渡すと、艦橋の様子が一変していた。
見慣れた計器盤は光沢のある未知の素材に置き換わり、
スクリーンには三次元の星図が浮かんでいる。

「艦長! 外部映像をご覧ください!」

副長のサラ・チェンの声に導かれ、
メインスクリーンを見る。
そこには漆黒の宇宙空間が広がっていた。
無数の星々、そして遠くに青白く輝く惑星。

「……報告を」

ハリスは努めて冷静に命じた。

混乱の中、各部署からの報告が続々と入った。
機関部からは原子炉が消失し、
代わりに「重力制御装置」なる動力源が
稼働していると報告された。
兵装部は、魚雷がホーミングフェイザータレット、
トマホークが光子魚雷なる兵器に
変化したと伝えてきた。
さらに防御シールド、レプリケーター、
亜空間ソーナーといった、
SFの世界から飛び出してきたような装備が
艦に追加されていた。

「落ち着け、全員」
ハリスは静かに、しかし力強く言った。

「我々は海軍の軍人だ。
どんな状況であろうと、パニックを起こせば終わりだ。
一つずつ状況を把握していく」

百五十余名の乗員たちは、艦長の言葉に従った。
確かに誰もが混乱していたが、
長年の訓練と規律がパニックを防いだ。
潜水艦という閉鎖空間で任務を
遂行してきた彼らには、
危機的状況でも冷静さを保つ能力が染み付いていた。

---

状況確認が続く中、
新たに「亜空間ソーナー」に変化した
探索装置が何かを捉えた。

「艦長、接近する艦艇を探知。
距離三万キロメートル、
速度は——信じられません、
秒速五百キロメートル以上です」

「回避行動を」
ハリスは即座に判断した。

「交戦は避ける。我々の能力も相手の意図も不明だ」

「艦長、潜航は——」

「亜空間潜航だ」
ハリスは新たに理解した概念を口にした。
なぜか、どう操作すればいいのか分かった。
まるで知識が頭の中に直接流れ込んできたかのように。
「探査用プローブを有線ケーブルで展開、
通常空間の監視を継続しろ」

ミシガンの艦体が、次元境界面を滑るように
通過していく。
スクリーンに映る宇宙空間が歪み、色彩が変化し、
やがて奇妙な紫色の空間に包まれた。
亜空間——通常の宇宙空間とは異なる次元層。
ここに潜れば、
通常空間からの探知は極めて困難になる。

「潜航完了。深度、亜空間第三層」

「水測、厳密な索敵を継続しろ」

かつて水中測的員と呼ばれた職種の乗員が、
新しい装置を操作する。
有線ケーブルで繋がったプローブからの
データが流れ込んでくる。

「接近艦艇、一隻のみ。中型、全長約二百メートル。
形状から判断して、長距離警備任務用の
フリゲート艦と思われます」

ハリスは艦橋の椅子に深く腰を下ろし、考えた。
このまま隠れ続けることもできる。
しかし、それでどうなる? 
艦が変容し、長期間の活動は
可能になったかもしれない。
レプリケーターとやらで食料も水も生成できるらしい。
だが、人間は機械ではない。
狭い艦内で延々と過ごせば、
いずれ乗員の精神が持たない。

どこかに上陸する必要がある。
休息、情報、そして

——故郷への帰還方法。

それには友好的な勢力と接触し、
協力を要請しなければならない。
もちろん、最悪の事態も想定しなければならない。
敵対的であれば、即座に亜空間に逃げ込む。

「通信、フリゲート艦に対して
平和的意図を示す信号を送れ。全周波数で」

しばらくして、応答があった。
奇妙な言語

——だが、なぜか意味が理解できた。
ここでも、何らかの翻訳機能が働いているようだった。

長い問答が続いた。
ミシガンの正体、目的、出自。
ハリスは可能な限り正直に答えた。
嘘は長期的な関係を築く上で有害だ。

フリゲート艦の艦長は、最初は疑い深かったが、
やがて好意的になった。
彼らは「星間連合」という組織に所属しており、
最寄りの宇宙要塞

——ステーション・エリシオンに案内すると申し出た。

「宇宙要塞……軍事施設ですか?」

「いや」
通信機から流れる声は穏やかだった。

「エリシオンは人工天体だが、
軍事基地というより居住ステーションに近い。
緑溢れる庭園もあれば、商業区画もある。
人口は約五万だ。君たちはそこで休息し、
我々の上層部と今後について協議できる」

ハリスは肩の力が抜けるのを感じた。
問題の一つが解決した。
少なくとも、乗員たちを休ませる場所が確保できる。

「全艦に通達。我々は友好的な勢力と接触し、
彼らの宇宙要塞に向かう。
各員、礼儀を忘れるな。
我々は今、アメリカ海軍として、
そして地球人類として、
初めての異星接触を行っている」

艦橋に安堵の空気が流れた。
だが、ハリスは知っていた。
これは始まりに過ぎない。
地球への帰還方法、この変容の原因、
そしてこの宇宙における
我々の立ち位置

——解決すべき問題は山積している。

戦争があるのか? 
敵対勢力は? 
経済システムは? 
法律は? 
文化は?

だが、ひとまずは休める。
それだけで十分だった。

ハリスは窓の外、
いや、スクリーンの外に広がる星々を見つめた。
USSミシガンは静かに、
フリゲート艦に先導されながら、
未知の未来へと航行を続けた。

潜水艦は海の静寂の中を進むものだ。
そして今、その海は星々の大洋に変わった。

だが、変わらないものもある。
乗員たちの絆、任務への献身、
そして未知に立ち向かう勇気。

「針路、ステーション・エリシオン」
ハリスは命じた。

「全速前進」

「了解。全速前進」

亜空間の紫色の空間を、
かつて地球の海を守った潜水艦が進んでいく。

---

三時間後、
フリゲート艦との距離は十キロメートルにまで
縮まっていた。
相手の艦長

——名をカイル・ヴォランという
——は通信で、そろそろ通常空間に
浮上してもらえないかと打診してきた。

「亜空間航行は我々も可能だが、
艦隊司令部との通信には通常空間に出る必要がある。
君たちの存在を正式に報告し、
エリシオンでの受け入れ準備を整えたい」

ハリスは副長のチェンと視線を交わした。
彼女は小さく頷いた。

「了解した。浮上準備に入る」

「艦長」
水測員が報告する。

「周辺空域に他の艦艇の反応はありません。
浮上は安全と判断します」

「よし」
ハリスは深呼吸をした。

「全艦、浮上態勢。
プローブ回収、亜空間より通常空間へ浮上する」

有線ケーブルが巻き取られ、
探査プローブが艦内に収容される。
機関部から準備完了の報告が入った。

「浮上、始め」

艦が上昇を始める。
いや、正確には「上」という概念はないのだが、
感覚的にはそう感じられた。
次元境界面が近づいてくる。
スクリーンの紫色の空間が波打ち、歪み、
そして——

世界が反転した。

紫色が消え、漆黒の宇宙が広がった。
無数の星々が瞬き、
遠くに巨大な赤色巨星が燃えている。
そして、すぐ近く
——わずか五キロメートルの距離に、
フリゲート艦の姿があった。

流線型の美しい船体。
白と青の塗装。
船体には見慣れぬ文字で艦名が記されている。
『ヴィジランス』
——警戒、という意味だろうか。

「ミシガン、浮上を確認した。
ようこそ、我々の世界へ」

ヴォランの声が通信機から流れる。

その瞬間、ミシガンの周囲に光が弾けた。
フリゲート艦が色とりどりの信号弾
——いや、ホログラム投射装置のようなものを
展開したのだ。
光の花火が宇宙空間に咲き乱れる。

「これは……」

「歓迎の儀式だ」
ヴォランは笑みを含んだ声で言った。

「未知なる旅人を迎える、我々の伝統でね。
さあ、並走しよう。エリシオンまであと六時間だ」

ハリスは思わず微笑んだ。
艦橋の乗員たちも、
緊張が解けたように安堵の表情を浮かべている。

「了解。並走する」

二隻の艦

——地球の潜水艦と異星のフリゲート艦は、

並んで星々の海を進み始めた。

通常空間に戻ったミシガンのセンサーが、
より広範囲の情報を捉え始める。
遠方に他の艦艇の反応。
宇宙ステーション。
通商路を示す航行ビーコン。
これは孤独な宇宙ではない。
文明があり、秩序があり、
人々が生活している空間だ。

「艦長」
通信士が報告する。

「ステーション・エリシオンから
入港許可の信号です。
ドック三番への誘導を開始するとのこと」

「受領した」

窓の外、いや、スクリーンの外に、
やがて巨大な構造物が姿を現した。
ステーション・エリシオン
——回転する円環状の人工天体。
その内側には、確かに緑が見える。
大気を保持したドーム、建造物の群れ、
そして行き交う小型艇の灯火。

「見ろよ……」
若い乗員が呟く。

「本当に、人が住んでるんだ」

ハリスは頷いた。
これは夢ではない。
我々は本当に、別の世界に来てしまったのだ。

だが、ここには希望がある。
理解してくれる者たちがいる。

ミシガンとヴィジランスは並んで、
ステーション・エリシオンへと針路を取った。

新たな海で、新たな物語が始まろうとしていた。


 

クリスマスも近いので

恋愛話を作ってみました

 

 

「イルミネーションの向こう、春の隣で」

十二月の空気は、胸の奥まで冷やしてくる。
来年には高校を卒業する。
そう思うだけで、期待と不安が同時に湧き上がった。

二年の時、彼女のほうから告白されて付き合い始めた。
ひとつ下の後輩で、ロングヘアの清楚な可愛い子だ。
笑うと少し照れたように目を伏せる癖があって、
それが好きだった。

後輩の彼女は、基本的に素直だった。
嬉しい時は隠さず喜び、寂しい時は強がって笑う。
年下らしい不安定さと、
無理に大人ぶろうとする健気さが同居していた。

放課後、彼女の部活が終わるのを待つのは、
いつの間にか習慣になっていた。
冬の夕暮れは早く、校舎の影が長く伸びていた。
昇降口で待っていると、
ロングヘアを揺らしながら駆け寄って来て
マフラーに顔を埋めながら笑って言った。

「先輩、待たせちゃいました?」

その言葉が嬉しくて、毎回同じ返事をしてしまう。

「今来たとこ」

本当は十分以上前からいて冷えたけど
その言葉で寒さなんてどうでもよくなった。

寒い日は、彼女の方からそっと腕に触れてきた。
「……寒いですね」
そう言いながら、距離を詰めてくる。
触れているだけで安心するくせに、目は合わせない。
その仕草が、可愛くて仕方なかった。

試験前、図書室で並んで勉強した。
集中しているはずなのに、
ふと顔を上げると彼女がこちらを見ていて、
目が合うと慌てて視線を逸らす。

「今、見てたでしょ」

「見てません」

暫くして彼女が小声で囁く。

「先輩、ここ分かりますか?」

分からない問題でも、つい頷いてしまう。
説明しながら距離が近づき、
彼女の甘いシャンプーの香りがする。

「すごいです……」

尊敬するように見上げられて、
胸の奥がくすぐったくなった。

そんな他愛もないやり取りが、やけに楽しかった。

休日には映画を観に行った。
ポップコーンをどちらが持つかで揉めて、
結局半分こになった。
感動的なシーンで彼女が静かに涙を拭うのを見て、
何も言わずにハンカチを差し出すと、
少し驚いた顔で受け取ってくれた。

「ありがとうございます」
その声が、今でも耳に残っている。

初めて手を繋いだのは、雨の日だった。
傘が小さくて、自然と距離が近づいた。
彼女の手は思ったより温かくて、

離すタイミングが分からなかった。

「……離さないんですね」
そう言われて、何も言えずに強く握り返した。

文化祭の日、彼女のクラスの出し物を一緒に回った。
写真を撮ろうとして、彼女が少し背伸びをする。

「先輩、もうちょっと寄ってください」

肩が触れた瞬間、心臓がうるさくなった。

デートの帰り道、別れ際になると彼女は少し黙り込む。
「また、次も会えますよね?」
確認するように聞く声が、いつも小さかった。

ある日、勇気を出したように言われた。

「私、先輩の邪魔になってませんか?」

理由を聞くと、東京に行くことが決まってから、
ずっと考えていたらしい。
自分は足を引っ張る存在じゃないか、
重くなっていないか
――そんな不安を、年下なりに抱えていた。

「私、ちゃんと頑張りますから」

「大学、遠くても……」

その言葉を言い切る前に、彼女は笑った。
泣きそうになるのを、必死でこらえている笑顔だった。

手を繋ぐと、彼女は指を絡めてくる。
少し強く、離れないように。

「先輩の手、好きです」

唐突にそんなことを言われて、何も返せなかった。
ただ、指先に伝わる体温だけが、やけに現実的だった。


卒業後に僕は東京の大学へ進学する。
離れ離れになることは、もう決まっていた。

もし彼女が卒業して東京に来たとしても、
頻繁に会えない期間が最低でも一年は続く。
遠距離恋愛は破綻しやすい。
恋愛を知ってしまうと、離れた寂しさから、
身近な誰かに流されやすくなる
――そんな話を、何度も聞いてきた。

恋愛未経験の頃にはなかった感情だ。
人は上へ行くことには前向きでも、
落ちることには驚くほど臆病になる。

冬は恋人向けのイベントが多い。
彼女がいるという事実だけで、心は浮き立つ。
それでも、「来年には離れる」という不安が、
いつも影のようについて回っていた。

「もうすぐクリスマスなのに、浮かないね?」

そう声をかけてきたのは、幼馴染だった。
スポーツ好きで活発なショートヘアの彼女は、
清楚系の後輩とは正反対だ。
小学生の頃、実は彼女に片想いしていた。
でも、その気持ちは一度も口にしなかった。
今まで自分から告白した事が無い
僕には勇気が足りなかった・・・。

「来年、卒業だしな」

そう答えると、幼馴染は少しだけ真剣な顔をした。

「私は東京の大学に進学するからさ。
遊べる機会、あるかもね」

彼女も春から上京する予定だった。

「最悪、別れる事になるかもなぁ……」

自分でも驚くほど、声が沈んだ。

クリスマスイブの夜――
後輩の彼女と待ち合わせをして、
毎年イルミネーションで賑わう川沿いを目指した。
イルミネーションの下で並んで歩く彼女が、
いつもより明るく振る舞っているのを見て、
嫌でも分かってしまった。
これは、楽しいふりをした別れの前触れなのだ。

川沿いは、息をのむほど綺麗だった。
光に包まれた並木道を、
たくさんのカップルが寄り添って歩いている。
ここでデートをするために、
冬に向けて恋人を探す人がいるという話も、
妙に現実味を帯びて感じられた。

一通り歩いたあと、
混雑を避けるために予約しておいた
駅前のレストランに入る。
二人で食べるクリスマスディナーは、
確かに楽しかった。
笑って、話して、写真も撮った。
幸せな時間だった。

家路に向かう途中、彼女が足を止めた。

「……これで、別れた方がいいんですかね。
楽しい思い出だけ残して……」

胸が、きつく締め付けられた。
彼女だって、こんな言葉を言いたくなかったはずだ。

「私、結構モテるから大丈夫ですよ」

そう言って笑った彼女の目に、光るものが見えた。

「ごめん……」

それしか言えなかった。
別れ際、用意していたプレゼントを渡す。
熊のぬいぐるみだった。
彼女は抱きしめるように受け取って、
小さくうなずいた。

春。
東京のアパートに引っ越した。
荷物を運び込んでいると、
隣の部屋でも引っ越し作業をしている。
同じ大学の学生かな、と思った瞬間、
後ろから肩を叩かれた。

振り返ると、そこにいたのは幼馴染だった。

「何でいるの?」

思わず聞くと、彼女は笑った。

「同じ大学だからだよ。これからもよろしくね」

その笑顔を見たとき、
胸の奥に、少しだけあたたかいものが灯った。
失う不安に怯えるだけじゃなくて、
今度は勇気を出して自分から一歩踏み出してみよう。

春の光の中で、僕はそう決めた。

 

海外ドラマを見ていると

やたら超自然現象やら

悪魔やら天使やらの話が多いので

自分も悪魔絡みのお話を作ってみました

 

 

# 消滅者

ロンドンの秋は冷たい雨が似合う。

イーストエンドの廃工場、錆
びた鉄骨が剥き出しになった三階で、
かつて優しい保育士だった男が警官隊を睨んでいる。
いや——睨んでいるのは男ではない。
男の中の何かだ。

「トーマス・ハリス! 投降しなさい!」

拡声器からの呼びかけに、男は笑った。
それはトーマス・ハリスという
三十二歳の保育士が決して浮かべることのない、
残酷で愉快そうな笑みだった。

「投降? 」
男は言った。
英語に、どこか古めかしい響きが混じる。

「この器はもう私のものだ。お前たちに何ができる? 」

警部のマーカス・ウェストンは歯噛みした。
十三人。老人も子供も、男も女も。
トーマスの手によって
——いや、トーマスの体を使って殺された
犠牲者の数だ。
遺体はどれも異様な力で引き裂かれ、
現場には硫黄の匂いが漂っていた。

ウェストンは確信していた。
これは人間の犯罪ではない。

「神父様、お願いします」

ウェストンの横で、
老神父のギルバート・ホークスが十字架を掲げた。
ラテン語の祈祷が静かに、しかし力強く響く。

「エクソルシズモ・テ、
オムニス・スピリトゥス・インムンデ——」

その瞬間、トーマスの体が震えた。
苦痛の表情が浮かぶ。
だが、それだけだった。
悪魔は男の体から出ていかない。

「だめだ」
ホークス神父は汗を拭った。

「強すぎる。私の力では追い出せない」

膠着状態が続いた。
トーマスの体には既に七発の銃弾が
撃ち込まれているが、男は平然としている。
武装警官たちは恐怖に震えながら銃を構え続けた。

その時だった。

現場に、一台の黒いベントレーが静かに停まった。

スリーピースのスーツ姿の男が降りてくる。
三十代半ばに見える。
整った顔立ちだが、どこか生気に欠けている。
まるで精巧な蝋人形のように。

「おい、そこの者! ここは立入禁止——」

警官の制止を無視して、
男はトーマスのいる建物へ向かって歩き出した。
ゆっくりと、まっすぐに。
霧雨に濡れても気にする様子もない。

トーマス——の中の何かが、
その男を見て初めて動揺の色を見せた。
いや、動揺ではない。恐怖だ。

「まさか——貴様は——」

悪魔の声が震えている。
地獄の住人が、初めて恐怖を知ったかのように

男は無言のまま、工場の階段を上っていく。
警官隊も、神父も、
ただその姿を見守ることしかできなかった。

三階の広いフロアで、二人は対峙した。

「来るな! 」
トーマスの口が、恐怖に歪んだ声で叫んだ。

「来るな、フレデリック・D・マクミラン!
 お前だけは——お前だけは——」

かつて傲慢に笑っていた悪魔が、後ずさりしている。

「我々の間には協定があったはずだ! 
お前は干渉しない、我々もお前に触れない! 
それが——」

フレデリックと呼ばれた男は答えなかった。
ただ、右手をゆっくりと前に伸ばした。

「やめろ! 」
悪魔が叫ぶ。

「頼む! この器を返す! 今すぐ出ていく! 
だから——だから手を出すな! 」

だが、フレデリックの表情は変わらない

フレデリックは静かに手を握った。

握り潰すように。何もない空間を。

トーマスの体が激しく痙攣した。
口から黒い霧のようなものが噴き出す。
それは形を成そうともがいたが、
フレデリックの握られた拳の中で、
見えない何かに圧縮されていく。

「やめろォォォ! 」
悲鳴が響く。

「殺すな! 我々を殺すな! 
お前は——お前だけは禁忌だ! 
地獄の全ての悪魔が恐れる
——存在してはならない——」

悲鳴は途中で途切れた。

黒い霧が完全に消失した瞬間、
トーマスの体から力が抜けた。
男は糸の切れた人形のように床に崩れ落ちる。
ただの人間に戻った彼は、銃創の痛みに呻いた。

フレデリックは踵を返した。

階下に降りると、武装警官隊が道を開ける。
誰も彼を止めようとはしなかった。
止められる気がしなかった。

「お待ちください! 」

ホークス神父が走り寄った。
老人は息を切らしながらも、
フレデリックの前に立ちはだかる。

「あなたは——」

神父は問いたかった。
あなたは何者なのか。
どうやって悪魔を祓ったのか。
いや、祓ったのではない。消し去ったのだ。
存在そのものを。
そして——悪魔が、
地獄の住人があれほどまでに
恐れていたのは何故なのか。

フレデリックは神父を見下ろした。
その瞳には何の感情も宿っていない。
灰色の瞳は、ロンドンの曇り空のように虚ろだった。

「私はフレデリック・D・マクミラン」
男は静かに言った。
完璧な英国アクセントで。

「悪魔はもう消滅したので、心配ありません」

「消滅——? そんな、悪魔は不死の存在のはず——」

「いいえ」
フレデリックは首を横に振った。

「この世に不滅のものなどありません。私が証明です」

そう言って男はベントレーに向かって歩き出した。

ホークス神父は立ち尽くした。
男の顔は涼しげだった。
穏やかでさえあった。
なのに神父は、
生涯で最も恐ろしいものを見た気がした。

悪魔を消し去る男。

存在を無に還す男。

ホークスは震える手で十字を切った。
神に祈るのではない。
今目撃したものが何であったのか、
自分の理解を超えていることを認めるために。

黒いベントレーは霧雨の中を走り去っていった。
テムズ川の方角へ。

トーマス・ハリスは救急車で運ばれ、
一命を取り留めた。
彼は殺人の記憶を持っていなかった。
ただ、夢を見ていた気がする、
と繰り返すだけだった。
長い、長い悪夢を。

事件は解決した。

だがウェストン警部もホークス神父も、
あの日見たものを忘れることはできなかった。

悪魔よりも恐ろしい何か。

救済者なのか、破壊者なのか。

フレデリック・D・マクミランという名の男が、
この古き英国のどこかに存在している。

その事実だけが、二人の心に重く残り続けた。

ビッグベンの鐘が、夕暮れのロンドンに響く。

いつもと変わらぬ音色で。

                                                  (了)

 

特殊作戦部隊ものの映画を見ていて

妄想したので作ってみました

 

 

# 改革の夜明け

## 第一章:疲弊

特殊作戦群のマイク・カーソン軍曹は、
診療所の椅子に座りながら、
自分の両手を見つめていた。
三十二歳。本来なら体力の絶頂期にいるはずの
年齢だが、彼の身体はもうボロボロだった。

慢性的な腰痛、両膝の半月板損傷、難聴、PTSD
――十二年間の作戦行動の代償は、
あまりにも大きかった。

「また鎮痛剤を増やしましょうか」

軍医の声は機械的だった。
予算不足で、まともなリハビリ設備すらない。
痛み止めを渡して次の患者へ
――それが現実だった。

だが、カーソンはまだ幸運な方だった。
特殊作戦群の隊員の多くは、
身体に不具合があっても申告しなかった。
申告すれば解雇される
――その恐怖が、彼らを沈黙させていた。

痛みを押し殺して任務を続ける。
それは、長く続ければ続けるほど、割合が多くなった。
十年選手のほぼ全員が、
何らかの深刻な身体的問題を抱えながら、
それを隠して戦い続けていた。

いつか身体が完全に壊れる。
だが、それまでは任務を続けるしかない。
退役すれば待っているのは、
医療費の請求書と、路上生活だけだから。

基地の食堂で、カーソンは同僚たちと夕食をとった。
誰もが同じような身体の問題を抱えていた。
だが、給料は民間警備会社の半分以下。
装備は旧式。福利厚生は名ばかり。

「俺たちは使い捨てなんだよ」

ベテランのトム・リーが吐き捨てるように言った。

「上層部は安全な場所で勲章をもらい、
俺たちは泥の中を這いずり回る。いつもの話さ」

カーソンは、先月退役した先輩のことを思い出した。
腰を壊し、PTSDを抱え、
満足な治療も受けられないまま除隊。
身体がボロボロで定職に就くこともできず、
最後に聞いた時は路上生活をしているという話だった。

退役軍人の多くが同じ運命を辿っていた。
国のために戦った者たちが、ホームレスになる
――それは珍しいことではなかった。
カーソン自身、いつかそうなるのではないか
という恐怖を、常に心の片隅に抱えていた。

カーソンは黙ってコーヒーを飲んだ。
軍隊だけではない。
企業でも、実際に働く人間が
低賃金でこき使われるのは、よくある話だった。
世界はそういうものだと、彼は諦めていた。

だが、その常識は間もなく覆されることになる。

## 第二章:新大統領

ジョン・トンプソンが大統領に就任したのは、
その年の一月だった。

強硬派の右翼政党出身の彼は、
選挙戦中から「軍の再建」を掲げていた。
多くの人々は、それを軍事予算の増額と解釈した。
だが、トンプソンの考えは違っていた。

就任二週間後、
彼はペンタゴンに軍上層部を招集した。

「諸君に問いたい」

トンプソンは会議室の全員を見回した。

「この国の特殊部隊員たちが、三十代で身体を壊し、
まともな医療も受けられない状況を、
諸君はどう説明するのか? 
退役軍人の多くが身体的にボロボロで
定職に就くことができず、
ホームレスになっている現実を、
諸君は知っているのか?」

室内に緊張が走った。

「国のために戦った者たちが、路上で寝る
――これが、我々が彼らに与えた報酬だ」

トンプソンは資料を取り出した。

「さらに悪質なのは、隊員たちが身体の不具合を
申告できない状況だ。
申告すれば解雇される。
だから、彼らは痛みを隠して任務を続ける。
十年、十五年と続ければ続けるほど、
その割合は高くなる。ベテラン隊員のほぼ全員が、
重大な健康問題を抱えながら、
それを隠して戦っている」

彼は資料を机に叩きつけた。

「これは、兵士の健康管理ではない。
人間の消耗だ」

「現場の兵士たちの給与が
民間警備会社の半分以下で、装備は旧式のまま。
一方で、情報部門や調達部門の予算は
年々増加している。
この矛盾を、誰が説明できる?」

誰も答えなかった。

トンプソンは続けた。

「私は改革を命じる。
特に、味方兵士を使い捨てにするような作戦を
提案・承認した将校や情報部員を、
過去数十年に遡って徹底的に洗い出せ。
彼らの判断が、どれだけの命を無駄にしたか、
全て明らかにする」

会議室は凍りついた。

「そして、その部署の予算を削減し、
現場兵士の福利厚生に回す。
装備の近代化、医療体制の充実、給与の改善、
そして退役後の生活保障――全てだ」

ある将軍が口を開きかけたが、
トンプソンは手を上げて制した。

「抵抗は無駄だ。諸君には、もう隠し事ができない」

## 第三章:一億の目

トンプソン大統領の改革を可能にしたのは、
L'sコーポレーションとの提携だった。

この謎の多い巨大企業は、蚊ほどのサイズしかない
超小型ドローンを開発していた。
自律型AI搭載、超長時間稼働、完全ステルス性
――軍事技術の結晶だった。

トンプソンは、L'sコーポレーションの支援を受けて、
全ての政府機関に約一億個の
超小型ドローンを配備した。

ペンタゴン、CIA、各軍基地
――あらゆる施設に、
目に見えない監視網が張り巡らされた。

効果は即座に現れた。

秘密裏に予算を流用していた情報部員。
架空の調達契約で私腹を肥やしていた将校。
現場の報告を無視して、
無謀な作戦を強行した指揮官
――次々と炙り出された。

逮捕者は数百人に上った。
削減された予算は、数十億ドル。

「全てが浄化されるわけではない」

トンプソンは側近に語った。

「だが、以前と比べれば、かなり健全化された」

## 第四章:技術革新

改革は軍事技術の分野にも及んだ。

長年、アメリカの兵器開発は停滞していた。
既存の軍事企業は、高コストで
旧式化した兵器を作り続け、
イノベーションは起きていなかった。

L'sコーポレーションの参入は、その状況を一変させた。

彼らがもたらした技術は、
既存の常識を覆すものばかりだった。
エネルギー効率が従来の十倍の推進システム。
完全自律型の戦術AI。
量子暗号通信――

「一社独占は避けたい」

トンプソンは、
L'sコーポレーションのCEOに直談判した。

「既存のメーカーにも技術移転をしてほしい。
健全な競争があってこそ、技術は発展する」

L'sコーポレーションは、
意外にもあっさりと同意した。

「我々の理念は、他国への介入の抑制です」

CEOは静かに語った。

「アメリカ軍には、いざという時のための
軍事的支援が求められます。
そのためには、強固な防衛力が必要です」

技術移転は進み、各メーカーは飛躍的に能力を
向上させた。
結果として、アメリカ軍は戦力を維持したまま、
予算を三十パーセント削減することに成功した。
運用コストも大幅に下がった。

トンプソン大統領の支持率は、
八十パーセントを超えた。

## 第五章:現場の変化

マイク・カーソン軍曹は、
新しい医療施設で理学療法を受けていた。

最新のリハビリ機器。
専門の理学療法士。
痛み止めに頼るのではなく、
根本的な治療を目指すアプローチ
――全てが変わっていた。

給与も五十パーセント増額された。
装備は最新式に更新された。
何より、無謀な作戦が激減した。

そして、退役後の生活保障も大幅に改善された。
医療保険の拡充、職業訓練プログラム、住宅支援
――かつてホームレスになる運命だった
退役軍人たちに、新しい人生の選択肢が与えられた。

「信じられないな」

トム・リーが感慨深げに言った。

「俺たちが、
ちゃんと人間として扱われる日が来るなんて」

基地の士気は、明らかに向上していた。
退役率は下がり、志願者は増えた。
アメリカ軍は、質の面で圧倒的に強化されていた。

だが、カーソンの心には、一抹の不安があった。

「これで平和が続くといいんだがな」

## 第六章:大統領の懸念

ホワイトハウスの執務室で、
トンプソン大統領は窓の外を見つめていた。

改革は成功した。
軍は健全化され、効率化され、強化された。
支持率は高く、国民は彼を称賛した。

だが――

「L'sコーポレーションが本気になれば、
我が国の軍が行かなくても大丈夫なんだろうけど」

彼は呟いた。

あの企業の本当の力を、トンプソンは垣間見ていた。
超小型ドローン。革新的な兵器技術。
そして、その背後にある膨大な資源と、
謎めいた組織力。

彼らの理念は「他国への介入の抑制」だと言う。
だが、それほどの力を持つ存在が、
本当に平和を望んでいるのか?
それとも、別の思惑があるのか?

トンプソンには分からなかった。

だが、彼らの意向に従うことが、
今のアメリカにとって最善の選択だった。
少なくとも、現時点では。

「このまま何事もなく平和が持続すると思うほど、
俺も能天気ではない」

大統領は深くため息をついた。

世界は変わりつつあった。
アメリカは強くなった。
だが、その強さは、
見えない糸に操られているのかもしれない。

トンプソンは、窓の外の夕暮れを見つめながら、
来るべき未来に思いを馳せた。

改革は成功した。

だが、これは始まりに過ぎなかった。

本当の試練は、これから訪れる。

---

*第一部 完*

「大人の対応」程 

無責任で傲慢な言葉は無いと思います

これをしても

結局は無意味で何の解決にもなりません

ただの自己満足です

それが解ってない人が多過ぎると思います

相手を馬鹿にしているとも思ってないようで

どこが大人なんだ?と思います

 

 

# 同じ土俵

講義が終わり、教授が私の名前を呼んだ。

「君のレポート、非常に良かった。
こういう視点で論じた学生は初めてだよ」

廊下に出ると、いつも学食で顔を合わせる
グループの一人、
田村が嫌そうな顔でこちらを見ていた。

「チッ、真面目ぶりやがって」

聞こえるように吐き捨てられた言葉。
私は軽く会釈だけして通り過ぎた。
まあ、人それぞれ考え方は違う。
そういう人もいるだろう。

その日の夜、
友人の佐藤と高橋に愚痴をこぼすと、
二人は呆れたように言った。

「あんな低レベルな奴ら、相手にする必要ないって」

「そうそう。同じ土俵に降りることないよ」

その通りだと思った。
無視していれば、そのうち飽きるだろう。

だが、田村たちの嫌がらせはエスカレートしていった。

講義中、後ろの席から消しゴムが飛んでくる。
学食では、わざとぶつかってきて
「おっと、邪魔だったか」と嘲笑う。
図書館で勉強していると、
近くの席に座って大声で雑談を始める。
ロッカーを開けると、
中の教科書がゴミ箱に捨てられていたこともあった。

教授に質問しようと研究室に向かう廊下で、
肩を強く叩かれる。

「先生のお気に入りは大変だなあ」

無視を続けた。
友人たちの言う通り、
相手にしないことが最善だと信じていた。

でも、彼らは止まらなかった。
SNSで私を匂わせるような嫌味な投稿をする。
すれ違いざまに「優等生様」と囁く。
講義のグループワークで同じ班になると、
露骨に協力を拒否する。

それから一週間後。

我慢の限界が近づいていた。
このままでは学業にも支障が出る。
私は意を決して、
田村たちに話しかけることにした。

講義の後、
中庭のベンチに座っている
田村たちのところへ向かった。

「田村、少し話せないか」

田村は仲間たちと顔を見合わせ、鼻で笑った。

「は? 何の用だよ、優等生君」

「最近の嫌がらせのことだ。
何か俺が気に障ることをしたなら謝る。
でも、もうやめてくれないか」

周りの仲間たちが笑い声を上げた。

「嫌がらせ? 被害妄想じゃねえの」

「俺たち、別に何もしてないけど?」

田村は腕を組んで、私を見上げた。

「お前みたいな奴が鬱陶しいんだよ。
真面目ぶって、先生に気に入られて。
で、俺たちに説教か? 偉そうに」

「そういうつもりじゃない。ただ――」

「帰れよ。お前と話すことなんてねえから」

田村は立ち上がり、
わざと肩をぶつけて去っていった。
仲間たちも後に続く。
一人が振り返って言った。

「次は気をつけろよ、夜道は危ないぜ」

笑い声が遠ざかっていく。
話し合いなど、最初から無意味だったのだ。

その週の終わり。

深夜のバイト帰り、駅から自宅への道。
暗い路地から、田村たちのグループが現れた。

「よう、真面目君」

逃げる間もなく囲まれ、
人気のない河原へと引きずられた。
最初の一発が顔面に入った瞬間、
意識が飛びかけた。
その後は、ただ身体を丸めて耐えるしかなかった。

翌日、
痣だらけの顔で大学に行くと、
友人たちは驚いて駆け寄ってきた。

「どうしたんだよ、それ!」

「ひどい...警察に言った方がいいよ」

でも、それだけだった。
証拠はない。
目撃者もいない。
田村たちは何食わぬ顔で講義に出ている。
私の怪我を見て、
むしろ満足そうな笑みさえ浮かべていた。

夜、部屋で一人考えた。
友人たちの言葉が頭をよぎる。

「同じ土俵に降りるな」。

でも、その土俵にいない人間の言葉に、
どれだけの意味があるんだろう。

二週間後、またバイトの帰り道。

予想通り、田村たちが待ち伏せていた。

「また会えたな」

ニヤニヤしながら近づいてくる。
また河原へ連れて行かれた。
暗闇の中、田村が拳を振りかぶる。

私は避けた。

そして、反撃した。

幼い頃から十五年間続けてきた総合格闘技。
週四回の稽古を欠かしたことはない。

田村の拳が空を切る。
その腕を掴み、体重移動と共に引き込みながら、
反対の手で掌底を顎に叩き込んだ。
鈍い音。
田村の目が一瞬白目を剥く。
膝が崩れかけた身体に、
腹部への膝蹴りを追加した。

「てめえ!」

左から二人目が掴みかかってくる。
私はその腕を取り、相手の勢いを利用して投げた。
背負い投げの要領で、相手の体が宙を舞い、
地面に叩きつけられる。
受け身も取れずに落ちた身体から、
呻き声が漏れた。

「殺す気か、このやろう!」

右から三人目が蹴りを放ってくる。
ローキック。
私は半歩引いて蹴りをかわし、
軸足になっている相手の膝に自分の蹴りを叩き込んだ。
関節が逆に曲がりそうになり、
相手は悲鳴を上げて倒れ込む。

四人目が後ろから羽交い締めにしようとした。
私は腰を落とし、相手の体重を利用して
前方に投げ飛ばした。
巴投げ。
相手が地面に激突する音が、静かな河原に響く。

五人目は躊躇していた。
だが仲間への義理か、
あるいは引くに引けない状況か、
覚悟を決めて向かってくる。

私は前に出た。
相手のジャブをパーリングでいなし、
ストレートを頭をわずかに傾けて避ける。
そして踏み込みながら、ボディへの左フック、
顔面への右ストレート。
ワンツー。
相手は数歩よろめいて膝をついた。

最初に殴られた田村が、
よろめきながら立ち上がろうとしている。

「くそ...くそっ...」

顔を歪ませながら、何とか立ち上がった田村。
血走った目で私を睨みつける。

「てめえ...調子に乗んな...!」

田村は拳を振りかぶって突進してきた。
怒りに任せた、粗雑な攻撃。
私は冷静に観察する。

右ストレートが飛んでくる。
私は最小限の動きで頭を傾け、
拳が頬を掠めるのを感じた。
田村の体勢が崩れる。

その瞬間、私は踏み込んだ。

田村の鳩尾に、正確に拳を叩き込む。
空気が抜ける音。
田村の顔が苦悶に歪む。

「がっ...」

だが田村は倒れない。
歯を食いしばって、もう一度殴りかかってくる。
左のフック。

私は腕でブロックし、そのまま田村の懐に潜り込んだ。
足を払う。
田村の体が浮く。
そのまま地面に叩きつけた。

「ぐあっ!」

土煙が上がる。
田村は咳き込みながら、
それでもまた起き上がろうとする。
両手を地面につき、
震える腕で身体を支えようとする。

「まだ...まだだ...」

私は田村の前に立ち、
彼の襟首を掴んで引き起こした。

「もういい。終わりだ」

そして、最後に顔面への掌底。
今度は手加減した。
それでも十分な衝撃。

田村の身体から力が抜け、完全に地面に崩れ落ちた。
もう立ち上がる気配はない。
荒い呼吸だけが聞こえる。

私は息を整えながら言った。

「友人たちは、同
じレベルに落ちる必要はないって言ってくれた。
でもあれ、結局は君たちを見下す言葉でしか
なかったんだと思う」

田村が呻きながらこちらを睨む。

「その上、同じレベルまで降りて、
実際に痛い目を見せないと、
君たちには理解できなかったんだろうね。
最初から、こうすべきだったよ」

河原を後にする。振り返らない。

それから、
田村たちが私に因縁をつけることはなくなった。
廊下ですれ違っても、
目を逸らして通り過ぎるようになった。

佐藤が不思議そうに聞いてきた。

「なんか、あいつら大人しくなったよな」

「そうだね」

私は短く答えた。

大人の対応が通じるのは、
相手が大人の場合だけだ。
改めて、そう思い知った。

 

最近 SNSでこういう人をよく見かけます

いつも不自然に感じるけど

多分 本人は自分は間違っていない

と思っているんでしょうねぇ・・・

 

 

 

# 評価者の盲点

夜の10時、
スマートフォンの画面が暗闇の中で青白く光っている。

「今期のアニメ、また全部見終わった。
『星降る夜のメロディ』は8点。
作画は良いが脚本が凡庸。
『魔法戦記エターナル』は3点。
こんな駄作を褒めてる奴、
本当にアニメ見る目あるのか?」

田中裕也、32歳。
彼の日課は放送されているアニメをすべて視聴し、
SNSで10段階評価を投稿することだった。
フォロワーは5万人を超え、
彼の評価を参考にする者も多い。

「この作品は稀に見る傑作。
ここ5年でベスト10に入る神作だ」

「この作品を褒める人間は感性が狂ってる。
人間としておかしい」

最初は個人の好き嫌いを述べているだけだった。
だが、いつからか彼の言葉は変わっていった。
自分が嫌いな作品を好きだと言う人を、
彼は攻撃し始めたのだ。

「『魔法戦記エターナル』を絶賛してる 

@anime_lover123 、お前マジで頭大丈夫? 
こんなゴミを良作とか言ってる時点で、
お前の人生全てが間違ってるわ」

リプライ欄には擁護のコメントが並んだ。

「作品の好みは人それぞれでは?」

「あなたの意見も一つの意見だけど、
他人の好みまで否定するのは違う」

だが裕也は聞く耳を持たなかった。

「俺に否定的なコメントする奴も人間的におかしい。
俺の評価が正しいって分からない時点で終わってる」

矛盾していた。
自分は他人の好みを否定するくせに、
自分が否定されることは許さない。
だが裕也にはその矛盾が見えなかった。
彼の中では、自分が好きな作品は誰もが好きで、
嫌いな作品は誰もが嫌いであるべきだった。

非難のコメントは日に日に増えていった。
炎上と呼べる状態になっても、
裕也は自分の正しさを疑わなかった。

---

11月のある夜、
裕也は残業を終えて帰路についていた。

コンビニで弁当とビールを買い、
アパートへの道を急ぐ。
街灯の少ない住宅街、足音だけが響く。

ふと、背後から気配を感じた。

振り返る。誰もいない。

「気のせいか」

裕也は足を速めた。
だが、足音は一つではなかった。
自分の足音に、もう一つの足音が重なっている。

アパートに到着し、3階の自室のドアの前で鍵を探す。
ポケットに手を入れた瞬間——

「全て自分が正しいと思うなよ」

耳元で囁かれた声に、裕也は振り返ろうとした。
だが、背中に鋭い痛みが走った。

刃物が、深く、深く、彼の体を貫いた。

コンビニ袋が落ち、弁当の容器が割れる音がした。
裕也は血の海に倒れ込み、
薄れゆく意識の中で最後に思った。

*俺は何も悪いことなんてしてないのに……*

---

翌朝、ニュースは一人の男の刺殺事件を報じた。

SNS上では、裕也の死を悼む声もあれば、
因果応報だと言う声もあった。

だが誰も気づいていなかった。

彼が最後まで理解できなかったこと——

他人を否定する自由と、
他人から否定される結果は、
コインの裏表だということを。

自分の意見を述べる権利と、
他人の意見を尊重する義務は、
セットだということを。

そして何より、言葉には重さがあり、
時に人を傷つけ、時に憎しみを生むということを。

裕也のアカウントは今もSNS上に残っている。

無数の評価と、無数の批判が、
デジタルの墓標として。