クリスマスイブなんで
それっぽい恋愛話を作りました
でも出来たら何か昭和っぽい
恋愛話になって
結局 年齢が出るのかなぁ~
って想いましたね 苦笑
# 窓辺の想い
図書室の窓から見えるグラウンドで、
今日も先輩が走っている。
私は図書委員として、
放課後の誰も来ない図書室で本の整理をしながら、
いつものようにその姿を目で追っていた。
先輩はサッカー部で、エースでもキャプテンでもない。
でも、誰よりも早くグラウンドに来て準備をして、
練習が終われば最後まで片付けをしている。
チームメイトが気持ちよく練習できるように、
黙々と支え続けている人だ。
私が先輩に惹かれたのは、そんな姿を見たからだった。
クラスでも目立たない私。
友達は少ないし、話すのも得意じゃない。
先輩と私じゃ、釣り合わない。
この想いが先輩に届くことは絶対にないだろうし、
それでいいと思っていた。
ただ、こうして窓越しに見ているだけで十分だった。
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「ちょっと! あんたも来なさい!」
母に呼ばれて、休日の午後、
家族総出でスーパーに向かった。
お一人様一点限りのトイレットペーパーを買うため、
父と私まで動員されたのだ。
「こんなことで家族三人も来なくても……」
急な話だったから、着替える暇もなく、
家で着ているダサいトレーナーとジャージのまま。
髪もまとめただけで、化粧なんてしていない。
ぶつぶつ言いながら、
それぞれがトイレットペーパーを抱えて
レジに向かっていた時だった。
「あ……」
前から歩いてくるのは、先輩だった。
心臓が跳ね上がる。
嘘でしょ。
こんなところで、こんな格好で会うなんて。
トイレットペーパーを抱えて、家族と一緒で、
しかもこのダサい服装で。
「やあ」
先輩が私に気づいて、手を上げた。
「あ、あの、こ、こんにちは……」
顔が熱くなる。
言葉が出てこない。
視線が泳ぐ。
「あら、お友達?」
母が横から顔を出した。
やめて、お母さん。
「サッカー部の先輩です……」
小さな声で答えると、母が私の様子をじっと見た。
そして、何かを察したような顔になった。
嫌な予感がする。
「まあ! スポーツマンなのね。
いつもうちの子がお世話になってます」
「お母さん!」
「サッカー部、大変でしょう? 試合とかあるの?」
母は全く私の制止を聞かず、先輩に質問し始めた。
顔が真っ赤になる。
地面に穴があったら入りたい。
でも、先輩は嫌な顔一つせず、丁寧に答えてくれた。
「この前の試合、見に来てくれたら嬉しいな」
そう言って、先輩は私に微笑みかけた。
その時、母が私の肩をぽんと叩いた。
「ねえ、あんた、連絡先交換したら?
試合の日程とか教えてもらえるでしょ」
「お母さん!」
「いいじゃない。せっかくのご縁なんだから」
母は全く引かない。
もう、恥ずかしくて死にそうだった。
「あ、そうだね。良かったら、交換しない?」
先輩が優しく笑って、そう言ってくれた。
「え……い、いいんですか?」
「うん、もちろん」
夢みたいだった。
まさか、母が気づいて、
こんな形で先輩と連絡先を交換できるなんて。
帰り道、母は満面の笑みで言った。
「いい彼氏じゃない。爽やかで優しそうで」
「違う! 彼氏じゃないから!」
慌てて全力で否定する。
「ただの先輩だし、
向こうは私のこと何とも思ってないし!」
「あら、そうかしら?
でも、あんたの顔見てたらすぐ分かったわよ。
好きなのね」
「も、もう! お母さん!」
恥ずかしくて顔を背ける。
でも、母のおかげで連絡先を交換できたのは事実で。
「……ありがとう、お母さん」
小さく、本当に小さく、感謝の言葉を伝えた。
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クリスマスイブの夜。
先輩から送られてきたメッセージには、
「サッカー部のクリスマスパーティーがあるんだけど、
来ない?」と書かれていた。
行きたい。でも、怖い。
返信の文字を打っては消し、打っては消しを繰り返す。
他にも女の子が来るって書いてある。
きっとみんな可愛くて明るい子たちなんだろう。
私なんかが行っても、浮くだけだ。
でも、先輩に会えるかもしれない。
スマホを握りしめたまま、時間だけが過ぎていく。
気づけば、パーティー開始まで
あと一時間を切っていた。
「……行こう」
小さく呟いて、慌ててクローゼットを開けた。
「何着よう、何着よう……」
手持ちの服を次々と取り出しては、
鏡の前に当ててみる。
これは地味すぎる。
これは逆に気合い入りすぎ。
これは子供っぽい。
「あんた、もう出ないと間に合わないんじゃないの?」
母が部屋を覗いて、呆れたように言った。
「だって、何着ていいか分からなくて……」
「もう、これでいいじゃない」
母が選んでくれた紺色のワンピースを着て、
慌てて家を飛び出した。
待ち合わせ場所に着くと、
すでに何人かが集まっていた。
みんな楽しそうに話している。
私が来たことに気づいた人は、誰もいないようだった。
やっぱり来なければよかったかな。
そう思った瞬間、
「来てくれたんだ」
先輩が私を見つけて、微笑んでくれた。
その笑顔に、少しだけ、心が温かくなった。
けど結局、勇気を出して参加したものの、
やっぱり場違いだった。
他の女の子たちは、クラスでも陽気で
人気のある子ばかり。
みんな楽しそうに話していて、
私だけが浮いている。
周りの会話が弾んでいる。
恋愛の話、クラスの話、共通の友達の話。
私には入る隙間がない。
相槌を打つことしかできなくて、
笑顔を作るのに必死だった。
先輩は幹事として忙しそうで、遠くの席にいる。
時々こちらを見てくれるような気もするけど、
きっと気のせいだ。
一人だけ取り残されたような、
孤独感が胸に広がっていく。
「……お手洗い、行ってこよう」
席を立って、誰も気づかないうちに帰ろう。
そう決めた。
外に出ると、想像以上に寒かった。
吐く息が白い。
街にはイルミネーションが輝いていて、
行き交うのはカップルばかり。
それに比べて私は、一人。
やっぱり、私は先輩と釣り合わない。
パーティーに呼んでくれたのも、
きっと気を遣ってくれただけで。
来るんじゃなかった。
パーティーに参加したのは間違いだった。
涙が溢れてきた。
とぼとぼと歩いていると、
突然後ろから声がかけられた。
「待って!」
振り返ると、息を切らした先輩がいた。
「え……先輩?」
「なんで帰っちゃうの? 用事でもあった?」
俯く私に、先輩が話し始めた。
「実はさ、以前から図書室の窓から
グラウンドを見ている子が気になってたんだ」
心臓が止まりそうになった。
「それから、その子をよく見るようになって。
みんなが気づかない、やりたくないようなことを
一生懸命やってるんだよね。
教室の掃除とか、配り物とか。
そうやって見ているうちに、
どんどん気になっていった」
先輩の言葉が、信じられなかった。
「スーパーで連絡先を交換できた時は、
すっごく嬉しくて。
クリスマスパーティーに誘って、
その子と二人で抜け出してプレゼント渡して、
告白しようと思ったんだ。
でも気づいたら、いなくなってて……」
空から、雪が舞い降り始めた。
街灯の光が涙でキラキラと輝いて見えた。
「君が好きなんだ。付き合ってください」
先輩の真剣な眼差しが、私を見つめている。
涙が溢れて止まらない。
でも、答えはもう決まっていた。
「……はい」
かすれた声で、私は答えた。
先輩が安堵したように笑って、
そっと私の手を握った。温かかった。
降り始めた雪が、二人を優しく包み込んでいた。
窓越しに眺めるだけだった世界が、
今、私の手の中にある。
これは夢じゃない。
本当に、本当の、クリスマスの奇跡だった。