チラシに「照明演出=鶴田美鈴(みれい)」と書かれていましたが、

照明は本当に素晴らしかった。

舞台の前面と背景の床などに

照明の器具が多数設置されているのが

そもそもちょっと物々しい感じでしたが、

演奏が始まると背景全体に何か模様のようなものが映し出され、

やがて模様は切り替わってゆきました。

それだけでもちょっと別世界に入ったような気分になってきましたが、

後半が特に面白かった。

ここで当日の演奏順を振り返っておきますと、

第一部がペパン、リスト、西村朗、バッハ、

第二部がドビュッシー、武満、エルサン、

第三部がPost Showとなっていました。

チラシは作曲年代順だったわけですね。

 

それで第二部になると、

演奏中の深見さんが大きな影法師となって背景に映し出されて、

とても幻想的な雰囲気になりました。

薄墨で木を描いた団扇のような映像も記憶に残っていますが、

月と地球の写真をもとにしたものだと、

Post Showでうかがいました。

武満の曲が終わると全体の照明は落ちました。

深見さんは立ち上がって天上から吊された電球を掴むと左手へ移動し、

手を放しました。

演奏が始まり、

ゆっくり黄色く光る電球は振り子運動を続けます。

やがて『オルレアンのカリヨン』が終わる頃に電球も止まりました。

すぐに止まる振り子運動を約10分ほどの演奏中もたせるのは至難の業で、

電球を吊す電線の部分に錘をつけるなどの工夫がされていたそうです。

これもとても印象的でした。

ポップスのコンサートでレザー光線が使われることもよくありますが、

こういったローテクも味わい深いものがあっていいなと思いました。
 

Post Showでは、

文化センターの館長さんと深見さんの興味深いお話が聞けました。

アンコールは『子犬のワルツ』と『喜びの島』。
 

 昨年、びわ湖ホールでアリス・紗良・オットのコンサートがありました。

ホールの大ホールの背景に様々な建築物のアニメが映し出されたのですが、

結構退屈だったなということから、

『Alice's architectural Dream~アリスの建築学的な夢』というエッセイを書きました。

蒸溜花 Flowers distilled from my life https://alls-well.webnode.jp/で読めます。

クラッシック界の大スターであるアリス・紗良・オットさんと

比べるのも恐れ多いようですが、

個人的には「すべった」アリスさんのコンサーより

深見さんのコンサートの方が一つのショウとして成功だった、と思います。

演奏についてはプロは皆上手いなあとしか私には思えないので

批評する能力なしですが。
 

 コンサートの視覚的効果という観点からは、

かなり以前になりますが、

アリスさんの兵庫県立芸術文化センターでのコンサートを思い出します。

「天使と悪魔」というテーマで構想されたコンサートの前半、

グリークの『叙情小曲集』などを演奏するときは、

アリスさんは全身白い衣装、

後半リストのソナタを演奏するときは全身黒い衣装で、

照明はピアノを照らすピンスポット一本でした。

あの演出は狙いがとてもはっきりしていて印象的でした。

大胆にであれ、慎ましくであれ、

クラシックのコンサートを演出してみよういう試みは大歓迎です。

その中でも深見さんのコンサートは

鶴田美鈴という名前とともに記憶されるべきものだと思います。

市民センターに来た子供たちの中には

昨夜あの大きな影法師や揺れる電球の夢を見た子がいたかもしれません。

アリスのコンサートを鶴田さんが演出したらどうなるかな?