下の英文で、フランク・チャーチルはエマに向かって、
自分の判断に自信がないから、
妻を選んで欲しいと言ってます。
父親は実の父、ウェストン氏で、
ウェストン夫人は16年間もエマの家庭教師をしていた女性でした。
フランクは今は亡き先妻の子です。
エマは妻選びを引き受けて、
ハリエットならちょうどいい花嫁候補になるかもしれないと考えます。
'Well, I have so little confidence in my own judgement,
that whenever I marry,
I hope somebody will choose my wife for me.
Will you? (turning to Emma.)
Will you choose a wife for me?
―I am sure I should like any body fixed on by you,
You provide for the family, you know,
(with a smile at his father).
Find somebody for me.
I am in no hurry.
Adopt her, educate her.'
(Emma, Oxford, The World' s Classics , 1980, pp. 337-338)
下線部が難解だった箇所です。
provideといえば、教室では「provide A with B=AにBを供給する」
というパターンで教える、というのが定番でした。
この場合は自動詞なので別の用法を求めて、
「ジーニアス英和大辞典」をひくと、
自動詞の2にprovide for ~=[人に]必要なものを与える、[人を]養う
という意味が載っています。
そして、例文はprovide for a family家族を養う。
aとtheの違いはあってもオースティンとほぼ同じ句です。
それを利用して下線部を訳すと、「あなた(エマ)はその家族を養う」
エマは家族を養ったことはありません。
ここで翻って、最初に載っていた、
「必要なものを与える」から出発することにします。
You provide for the family
「あなたは家庭に必要なものを与えます」と訳してみて、
家庭にとって必要なものは何か、と考えてみます。
この場合、the familyは( )の中に、父を見て微笑んで、
と書かれているので、父の家庭を含意していると考えられます。
ウェストン氏はお金はあるので、お金ではありません。
妻を亡くしたウェストン氏の家庭に必要なものは何か?
それは第二のウェストン夫人でした。
中野康司訳
「ぼくは自分の目に自信がないから、ぼくの妻は誰かに選んで欲しいな。
どうです?(エマの方を向いて)
ぼくの妻を選んでくれませんか?
あなたが選んでくれた女性なら、ぼくはきっと気に入ると思う。
なにしろあなたは、(父親のほうを見てほほえみながら)
ぼくの父に幸せな家庭をもたせてくれたんですから。
ぼくにいい人を見つけてください。
急ぎません。
その人を養子にして教育してください」
(ちくま文庫「エマ」下巻 203ページ)
エマは作品冒頭からmatchmaking(結婚の仲介)が
大好きだと明かされていました。
自分が大人になって、家庭教師が必要ではなくなったとき、
アン・テイラー(のちのウェストン夫人)にぴったりの
結婚相手としてウェストン氏に白羽の矢を立てたのでしょう。
You provide for the familyからそこまで読み解くのはなかなか難しいと思います。
「ぼくの父に幸せな家庭をもたせてくれたんですから」は
そのあたりを含めた意訳です。
ちなみに岩波文庫では
「あなたに家庭をつくってもらう」(下巻 194ページ)になっています。
provideが現在形になっているので、
「あなたは家庭に必要なもの―この場合、独身男性のための妻―を与える人だ」
といった感じになります。
そう言える理由は父の結婚をまとめてくれたから、であり、
それを根拠に「ぼくにいい人を見つけてください。」となるわけです。
(父親のほうを見てほほえみながら)との関連からいうと、意訳ではありますが、
中野康司訳の方がより正確だと思います。
できるだけ原文に忠実な訳だと、
「あなたは家庭にとって必要な妻を見つけてくれる人でしょう」あたりでしょうか?
You provide for the family(with a smile at his father)だけで、
当時の読者にはウェストン氏の再婚問題にエマが暗躍していた、
ということがピンときたんでしょうか。
もしそうなら、私はウッドハウス氏(エマの父)並に
鈍感な奴ということになるでしょう。