「エマするって 何する?」の最後で
ちくま文庫版と岩波文庫版の訳が異なっている、
と書きました。
それは次の英文に関するものです。
<ストーリーの流れ>
ナイトリー氏がジェイン・フェアファックスに親切なので、
ウェストン夫人はジェインを好きなのではと勘ぐりますが、
エマはそんなはずはないという意見です。
問いただされたナイトリー氏は否定します。
エマは勝ち誇りますが、
ウェストン夫人はどう言ったでしょうか。
'(…) I saw Jane Fairfax and conversed with her,
with admiration and pleasure always
― but with no thought beyond.'
'Well, Mrs. Weston,' said Emma triumphantly
when he left them,
'what do you say now to
Mr. Knightley's marrying Jane Fairfax?'
'Why really, dear Emma,
I say that he is so very much occupied
by the idea of not being in love with her,
that I should not wonder
if it were to end in his being so at last.
Do not beat me.'(p.260)
下線部の少し前 'Why really,以下の訳
中野康司訳(ちくま文庫 下巻)
「そうね、彼女に恋をしてないと、
一生懸命自分に言い聞かせているみたい。
だから最後は結局、恋をするかもね。
エマ、あまり私をいじめないで」(p.72)
工藤政志訳(岩波文庫 下巻)
「そうねえ、彼女を好きになるまいと
努力しているみたいだから、
結局そういうことにはならないんじゃないかしら。
いじめないでよ」(p.58)
訳文だけ読むと、
彼女のことは好きなわけじゃないと
自分に言い聞かせているうちに好きになってしまうのか、
うまく忘れてしまえるのか、
どちらもありうるかな、と一瞬考えてしまいました。
しかし、英文を見れば、中野訳になると思います。
in his being soのsoがin love with herをさしているなら中野訳に、
not in love with herを意味するなら工藤訳のようになります。
しかし、soが否定まで含んだ内容を指すことはないと思います*。
in his not being soとでもしないと
工藤訳のようにはならないのではないでしょうか。
内容的にも自説を弁護していることになり、自然です。
私も勘違いはあれこれやって来たので
大きなことは言えませんが、結論は以上です。
下線部を直訳すると
「彼は彼女には恋していないという考えで
頭の中を一杯にしてるから、
結局好きになってしまっても不思議ではないわ」
ナイトリー氏が一番好きなのは誰でしょう?
答えは「エマ」にあり。
読んでみて下さい。
*電子版「ジーニアス英和辞典」
so副詞 ⑦aそのようで、そうで
《◆be, become, seem, appear, remain, findなどの
主格[目的格]補語として先行する形容詞・名詞を受ける》
<例文>
He is a lazy boy and will be so.
(=He is and will be a lazy boy.)
彼はなまくらな少年で将来もそうだろう。
(他の辞書も見ましたが、
前半に否定が来る例文はありませんでした。)