最初は、田舎町の市長選を巡る脱力系のコメディのようで、眠くなってきたのだが、中盤から、弾丸飛び交う暴力系のアクションになってきたので、眠気が飛んだ。
ベースは、脱力系を保持しつつ、アメリカ社会の諸問題、人種的差別、世代的分断、強引な企業誘致、銃社会の暴力性が浮かび上がる仕掛けになっている。
コロナの時代で、マスクを義務づけた市長が気に入らないくて、ホアキンフェニックス扮する保安官が次期市長選に立候補する。
この設定自体がユルイのだが、この保安官も政治的に確たる信念があるわけでなく、選挙戦はお互いの誹謗合戦で、目も当てられない。若い世代は、blacklivesmatter を奉じながら、なぜか急進的で対話を拒否し、保安官の妻はオカるティックで、そりが合わない等々、町中がそれぞれに別の方向を向いて自己主張をしているという具合。混乱しているアメリカ社会の縮図なのである。
その混乱に中、立候補したホアキン保安官が些細な事件から腹を立て、相手候補を撃ってしまう。彼は人格が急変して殺人鬼になるわけではなく、それまでののほほんとした人格のまま、ぜんそくの症状にせき込みながら次々に殺人を犯していく。
銃撃戦は激しいのだが、どこか嘘っぽくて、ユルイ。それ故に鋭い切っ先で、アメリカ社会の問題点を告発、糾弾するわけでないのがこの作品の持ち味であり、この緩さを楽しめない人には向いていないだろう。
アリアスター監督はしたたかで、皮肉屋で遊び心に満ちていて、それにこたえるホアキンフェニックスは名優であります。