「経済広報」5月号「NRは企業の鏡」
経団連の経済広報センターより、去る3月30日発刊した『ニュースリリース大全集』を基に、論文依頼あり。有り難く受諾、投稿したのが、今月5月号に4Pに渡って掲載されました。以下の通りです。図が3つありますが、掲載できないのが残念です。「ニュースリリース(NR)は企業の鏡良いNRは、企業の在り方、あるべき姿を表現するⅠ.NRに対する新しい定義「NRは企業を映す鏡!」これが去る3月上梓した『ニュースリリース大全集』におい て提唱する新定義である。私は、神戸製鋼勤務時1979年から広報に携わり、爾来2002年独立後も引き続きNRに数多く接して来た。その結果分ったのは次の3点。1.実に“不親切”! 記載すべき項目の欠落多く、記者は一読で理解できず単なる問合せに手間取り困っていて不満が多い。2.前任者からの引継ぎや伝統に縛られ、創造的なNRへと脱皮できない3.“少なく記載し問合せに対応”との誤った考えが蔓延している。これが大間違いで、誤報の元凶!そこで、多種多様な見本を分野別に纏めれば、広報同志の相互研鑽により、NR作成力向上を促すことができると考え、早速、企画書を作成、2016年4月企業や自治体・学校・団体に対し「(HPで公開中の)NRから推奨できるNR提供」を提案し始めた。結果的に、650以上の企業等にコンタクトして210から提供を受けた。つまり2/3は辞退!これには驚いた。当初8割位はOKと予想していたからだ。その理由に「恥ずかしい」「自信がない」「人に見せるものはない」というのが殆ど! 一層本書の必要性と意義を感じた。提供された700位の多様なNRから1つずつ選び、「Yes2+But1」の推奨3(スリー)ポイント付与を試みた。その過程で、NRを1人の人物と観じて対話・・・経験を基に多彩な角度からNRとの対話を通じて次第に人物が分って来る、つまり会社そのものの“正体”が露呈してくるような気がした。(図1)Ⅱ.社風も顕れるNRは公式文書故、重要性に応じて必ず幹部がチェック承認するが、不親切なNRを見てもそれに気付かない鈍感さ、そんなお客様軽視の思い遣りのない風土こそが問題であろう。一時が万事、電話応対、プレゼン資料から面談対応に至る迄も不親切に違いない。従い、NRの改善向上を目指すことは、多くの気付きを促し、広く顧客対応から仕事への取組み方も改善、ひいては企業風土の改善向上にも繋がる・・・そのきっかけになるのではないだろうか?Ⅲ.理想的なNR作成の基盤とは望ましいNRを作るには、まず“広報”の正しい理解が不可欠、さもなくば小手先に終わる。1.広報の目的とは、真人間(まにんげん)を育て、真(まこと)の組織にすること会社は法人。指先が社員、脳が社長だ。 人も会社も血液・神経=情報で生きている。メタボになれば脳死・壊死に近づく! そこで、内外への情報交通によっ て会社を善(ぜん)の心で司(つかさど)る広報の役割が増す。そして末永く敬愛される会社になるのだ。真人間も時代を超えて末永く敬愛される。恰も、高いビジョンを抱いたトップアスリートの如く、鋭敏・柔軟な臨機応変に対応できる身体の=組織体を! そんな社員達が良い仕事をすることで良いNRの素が創造される。広報は崇高にして典雅なる経営の仕事なのだ!2.有名になりイメージを上げる目的とは、それによって顧客を初め周りの人皆を喜ばせ、誇りと自信を与え、社員には更に自律心を高める!その為に良いNRを作成して良い報道に繋げるのである。3.広報は“挟報”(きょうほう)に始まる!メディアの協力を得て多くの人に広報する前に、全社員一人一人が眼前の人に良い印象を与える、良いイメージで別れるよう全力を尽す意識こそが重要!1対1が原点だ。狭報から広報へ!全社員が、CSR(企業)の前にPSR(Personal Social Responsibility)個人の社会的責任を果す自覚を持つ。“細胞が人間を作り、個人が会社を造る”ことを決して忘れてはならない。Ⅳ.一見して分る魅力的NR3か条1.一目見てアートだ!と感銘を受けるか?興味ある、面白そう、凄いのどれかを感じ、もっと読みたいなと思ってもらえるかどうかが勝負。見てもらえる時間は僅か3秒!その間に興味を示してもらわないと勝負あり、ライバルに負ける!2.VV&I(Value+Visual&Impact)か?一見して、Valueがあり、Visualで分りしかもImpactを感じるか?で勝負あり。Valueには数字的Impactが欠かせない。それを裏付ける写真やイラスト、グラフ等が配置行き届くVisual Artになっているか?そこに情熱を注ごう3.斜め読みで分るか?「段落+小見出し+箇条書」になっているか?段落に小見出しなしには何が書いてあるか瞬時には分らない。文章を推敲し短く箇条書が不可欠。読んで分るより見て分る。「多量の思想を少量の言葉に収める」(ショウペンハウエル『読書について』)Ⅴ.望ましいNRチェックポイント12か条どんなNRが望ましいのか? NRを1人の人物と見るとよくわかってくる。1.Visionが感じられる。高いビジョンを持つ人は尊敬される。強い迫力で相手の心を打つ魅力がある。人の心に響き、突き動かす。断固たる調子、確固たる態度で伝えようとする溢れる「情熱費(Passion Fee(筆者の造語)」が「広告費」を凌ぐ!2.Visualで情景が浮かぶ商品・サービスは工場や社員の頭脳から産まれる我が子。その子を紹介する文書がNRだ。本人を同行する。写真を見せる。経歴を語り業績を示す。エピソードで人柄を理解してもらう。相手が手に取る様に分る、情景を思い浮かべてくれるように。特にテレビは!3.関係性が一目で瞭然である。間違いを無くす!歴史上の偉人の説明には必ず家系図あり。同じく化学製品には化学反応図、M&Aでは関係図が不可欠。そのまま掲載できる様な図やイラストで記事も膨らむ。一石二鳥、三鳥にもなる。無ければ記者が最も嫌う間違いの素! 問合せ&回答にかける双方の時間労力は膨大、間違いリスクは甚大だ。4.必要な情報を網羅(1)顧客や社会に伝えたい・伝えるべき情報:不動の事実は網羅!現場に“御用聞き”戦略に沿って出来る限り記述!(2)顧客や社会が知りたい・知るべき情報:「質問予測力」を駆使、訊かれそうな項目は全て記述! 記者に手間をかけさせない(3)記者が伝えたい情報:読者視聴者を慮り質問したい情報を予測し記述!本当に伝えたい人は、企業もメディアも顧客や社会の人々。つまり“お客様が共通”を常に肝に銘じよ。5.「今後の方針・見通し」が明確方針無しは、将来ビジョンを語らない・意志のない人間と同じ。確固たる経営の意志・意図を!6.経緯(いきさつ)が辿れ、物語るどんな事象にも物語がある。長い複雑な経 緯を、伝えたい相手にいかに簡潔で分り易く整理し推敲するか?は思い遣りの深さに比例!7.特長・独自の売り(USP=Unique Selling Proposition(マーケティング用語))より差別点(UDP=Unique Different Proposition(筆者の造語))を明確に。通常USP だけを強調するが、より大切なのはUDPだ。UDP無しには記者の心に響かない!常に冷静に比較を重んじる謙虚さを!8.顧客・社会への配慮が行き届く本当に伝えたい人は顧客・社会、が分れば、NRの不親切さ、配慮不足、傲慢・怠慢を見出して見直し、恥じる気が芽生え、改善したい気が湧き起る。9.自画自賛したらバックデータを忘れない広報は “メーキャップアーティスト”。化 粧し服装を整える。タイトルは目。過度に なれば直ちに化けの皮は剥がれ、化粧が偽 装に!どこ迄化粧するか?その基準はビジョン、あるべき姿、人生観であろう。そこで自画自賛したら、権威ある人の証言、公的機関等バックデータを!さもなくば信頼性なし。10.6W5Hが入っている “5W1H”はビジネスでは不十分、 “6W5H”で考える。5W=Who, When, Where, What, WhyにWhom誰に、誰をと対 象を追加。HowにHow much金(単価、売 上高等)、How many数(売上数、生産数 等), How long期間(~迄,から~迄、迄 に)、How in the future将来(今後の方針)の4Hを加える。必ず訊かれる項目故、網羅により質問は 減り間違いが避けられ喜ばれる。「質問 予測力」強化向上も促す11.段落+小見出し+箇条書どんな場合も、このキーワードを大切に。 斜め読みで分る!12.会社の親切さ・思いやりを感じる知りたいことが網羅されていれば問合せの手間は省け、切り口・テーマの構想が容易で、取材が早くなる。親切な広報担当に詳しい話を訊いてみたくもなろう。実は、それは広報が親切だけではない。社員一人一人、会社全体が親切な証。内外への情報交通が円滑に実行されている真(まこと)の会社なのだ。Ⅵ.NR5つのキーワード+3NRは、価値を濃縮した独創的な情報商品! 常に作品=アートとしての作成を心掛けよう。作成者は“アーティスト”。恰も書家 が1本の線、画家が色1つに丹精を込め生 命を吹き込む様に、1語1語自らの情熱を 傾けて結合を図り意味を産み出し、レイアウトも独創的でVisualにし、読んで分るよ り見て分る様に。NRに接する人の無用な時 間・労力を奪ってはならない。伝えるべき ことを簡潔に網羅!質問予測力を駆使して基本的質問を無くす!「文体は精神のもつ顔つき!真理はそのまま でもっとも美しく、簡潔に表現されていれ ばいるほど、その与える感銘はいよいよ深い」(ショウペンハウエル『読書について』) そのキーワードとは「簡(かん)、豊(ぽう)、短(たん)、薄(ぱく)、情込めて」+「VV&I」=Value,Visual & Impact!Ⅶ.纏めこうしてNRが適切に作成されていけば、広報―記者双方が1.理解時間短縮2.問合せ時間労力軽減3.間違い激減に多大なる効果を直ちに手にいれることが出来るであろう。更にそれは:1.社内の情報コミュニケーションが円滑になり、活発になっている証2.商品・サービスを常に顧客や社会の視点 で見て表現する気風が生まれ、社員一人一人が親切になり、思い遣りを持つ社風になっている証3.企業体質が次第に良好な方向へ変革している証最後に、企業広報に携わる者は、立場を問わずこの機に、NRの重要性をより幅広い・高い次元から再認識し、NR作成→承認のプロセスを今一度点検、新たな視点からNRの不備・不親切さを省みて、改善の余地を探ってみるよう推奨したい。それによる目に見えないが着実な進化向上を期待して・・・。