うみねこ島 ベストセラー以外の本を読みたい人のために

うみねこ島 ベストセラー以外の本を読みたい人のために

ベストセラーやポピュラーな本もいいけど、ちょっとつまらない、物足りない、
という人もいるでしょう。

このブログは、中世ファンタジーでなくても、魅力あるヒーローは作れることが実感できる
「黒ねこサンゴロウ」シリーズをみなさんに紹介するために開いております。

うまれたての星 大島真寿美

 

「これは私たちの漫画だ」

これが少女マンガの変革を生んだものなんだろうな。

“私たち”とは読者であり、作家であり、編集者であるんだが。

 

押しつけでも、単純な夢物語でもない、

一人ひとりが「自分のためのもの」と思えるものに、

少女マンガがなっていった時代を

フィクションの形で永久保存した。

 

1970年初頭、少女マンガ雑誌の編集部が舞台。

モデルはマーガレットと別マ。

(そのほか、セブンティーンとかノンノっぽいものも出てくる)

 

主に7人の人物からの視点が入れ替わり描かれるのだが、

その人物像が本当にリアルで自然。

大島真寿美さんって好きだなあ。

人物を描く筆力なんだろうな。

 

そのころ、少女マンガだけでなく、

会社における女性の立ち位置も変化し始めていたけど

マンガに比べて動きが鈍い。

そのへんのこともじっくり描かれているから

単なる懐古趣味に陥っていないのはさすがだ。

 

出てくるマンガ家やそのエピソードは

もちろん実際とは違うのだが、

池田理代子、山本鈴美香、くらもちふさこ、槇村さとる、土田よしことかが

モデルなんだよなあ、とか想像してみる楽しみもある。

天空の都の物語 アンソニー・ドーア/藤井光訳

 

アンソニー・ドーアの新刊で、『すべての見えない光』の次作。

2025年内に読み切ることができず、5時間オーバーした。

だって740ページもあるからさ。

 

『すべての見えない光』は

2017年に読んだ本、年間ベストテン」で「今年はこれが一番」と書いたけど、

何年かを通じて「ベストワン」と言えるぐらいの本だった。

 


となれば、本書にも期待が高まる。

(作家のプレッシャーも大きかっただろう)

 

(主に)2つの物語が短い断片で交錯しながら

一点に収斂していく、という点が、

前作の根幹をなす構造だったが、

本書ではそれが複雑化した。

やっぱり前作を意識しすぎたんじゃないかなあ。

 

時代と場所が異なる3つの物語。

それぞれ主人公が2人、2人、1人。

それにさらに「天空の都の物語」の断片が挟まる。

 

そして物語が本当に動き出すのが500ページを越えてから。

それまではガマンが必要。

 

最後にはそれなりのカタルシスがあるけど

物語構造を味わうというのにこのボリューム

というのはちょっとキツいな。

 

一方、3つの個々の物語は

イスタンブールの陥落という歴史小説、

戦争やテロをテーマとする現代小説、

SF小説、

として考えれば、それなりの読み応えがある。

 

とくにイスタンブール編はおもしろくて好きだ。

歴史的、全体的観点が全然なく、

それに巻き込まれた下層の人たちの視点で貫かれていて、

“歴史”はこういう“個人”の積み重ねでもあるんだなあ

というリアリティがすごく感じられる。

今年読んだ本の中でとくによかったと思う10冊。
(今年発行された、というわけじゃないよ)

 

一番読みたい本は、その小説世界の中に入って、眼前の風景を楽しみたい、と思うもの。

その世界が一番魅力的だった。

 

 

本書が見せてくれる世界もみごと。

世の中、サイバーワールド小説が氾濫しているが、こういう独創性がほしい。

 

 

「物語の中の物語」という入れ子構造。

その構造が次第にゆるんで、ぐだぐだ世界になる快感。

 

 

もう何十年ものあいだ、魅了し続けてくれる“山尾世界”。

『夢の棲む街』と本書が最高峰であることを再認識した。

 

 

一転して“現実”に近い世界の話。

賢い主人公と、圧巻の情報量が大きな魅力。

 

 

「歴史に埋もれた女性たち」というだけでは語りきれない、人々の息づかい。

 

 

テレビで知って応援していた鈴木俊貴さん、待望の本が出た。

その後の広まりはものすごかったが、それに値する研究だ。

 

 

これも“研究”と言っていいだろう。

「完全解読」というタイトルが大げさではないほどの圧巻の“解読”。

 

 

これはノンフィクションに分類していいのだろうか。

北海道に暮らしていた犬たちの、あまりの賢さ、あまりのたくましさに打ちのめされる。

 

 

自己評価が低い人が持っていた“生きる力”。

どこで表出するかわからないものだが、ヒマラヤの山奥だとは。

 

 

飼い犬に腹を噛まれる 彬子女王

 

この書名に決めた瞬間、勝ちが決まったよね。

 

そう言ったら「勝ちってなんなの?」と、理解してもらえなかった。

まあしょうがない。

 

宮家のドジキャラを一身に引き受けている彬子女王。

もちろん、そうでない話もいっぱい入っている。

 

「宮家」であることによってかかわることで

体験したこと、実感したことも多い。

そうすると、読者も“日本が受け継いできたもの”を

自然と認識することになる。

 

大上段に皇族議論をするのもいいけど、

こういう投げかけ方もあるんじゃないかな。

 

 

旅行屋さん 河治和香

 

読み終わって、さらにあとがきまで読むと、

じんわりした感動がやってきた。

(あとがきを含めるとか、ちょっと邪道な感じですいません>著者さんへ)

 

大手旅行会社・日本旅行の創業者のことを

(どうやら日本旅行からの依頼を受け、)資料を元に創作した。

装画やオビ文などの印象からしても

“軽い読み物”的な感じを受けていたんだが、

その予想を上回るものがあった。

さすが河治和香さんだよね。

 

資料が乏しい中での人物造型が楽しめるんだが、

そこに史実が重なると、物語に重みが「ずんっ」と加わってくる。

その重みを担っているのは元軍人(少将)の加藤さん。

創作と史実をぎゅっと結び付けている重要人物だと思う。

ロバのクサツネと歩く日本 高田晃太郎

 

栃木から、中国、九州、四国、東北を経由して北海道まで、

ロバを連れて歩いた話。

いや、ロバはいい。ウマもいい。人間との距離感が。

(ウシはちょっと違う気がする)

 

「なんのために?」という問いは

著者にとって意味がなさそうだ。

「やりたいからやる」

 

それはロバも同じだ。

荷物を背負わされ、歩かされるが、

「なんのために?」とは思わないんじゃないか。

 

ロバにとってなにがいいか? なにが幸せか。

それは個々のロバごとに違うだろう。

人間が決めつけてはいけない。

だが、クサツネにとってなにがいいか。

それが明らかにされる本だと思う。

侵蝕列車 サラ・ブルックス/川野康子訳

 

偶然だが、『コンパートメントNo.6』に続き、シベリア鉄道の話。

とはいえ、仕立ては全然違って、こっちは

SFと列車ミステリーとそのほかいろいろの組み合わせ。

 

鉄道が結ぶ北京とモスクワの間は、

未知の生物がいて、おかしな現象が起こる〈荒れ地〉。

壁で隔離されたその土地を、頑丈な作りの列車が走り抜けるんだけど

だいたいそういうのは無事で済まない。

 

この〈荒れ地〉の世界は好きだな。

 

著者が尊敬する作家として挙げている中に

フランシス・ハーディングがあった。

うん、この感じに近いと思う。

 

前半の列車ミステリー色が強い部分は

個々の登場人物もなかなか魅力的。

 

ただ、後半のSF部分になると、

主役級の3人ぐらいを除いて

ちょっとキャラクターが生かし切れていない気がする。

列車長、スズキ・ケンジ、アレクセイ、伯爵夫人…。

〈カラス〉の2人が意外な面を隠していた!とかいうのも

ちょっと期待したんだけど…。

 

とはいえ、後半のSF部分は

じわじわ侵蝕してくる〈荒れ地〉の描写が読みどころ。

これはどういう方向に行くか予想がつかないからねえ…。

コンパートメントNo.6 ロサ・リクソム/末延弘子訳

 

徹底的に第三者目線で人と世界を描いているように感じた。

 

まず、主人公(「少女」と呼ばれる)に名前がない。

その相手も名前の記述はあるが「男」としてしか記述されない。

 

少女が感じたこと、思ったことはときおり地の文で書かれるが、

たったの1回を除いて彼女は一言もしゃべらない。

 

一方男はどうでもいいようなことをグダグダ少女に話しかけるが

内面についての記述はない。

 

それがシベリア鉄道の車内や通過する寒々とした都市と混ざり合う。

ロシア/ソ連に特徴的な、荒廃感と諦念と生きる力。

 

突き放しているような文章なのだが、

作家が対象を嫌っているわけでもない。

メチャメチャ冷めた視線が全体を包んで

読んでいるとそれが心地よくなってくる。

 

ちょっと前衛的な映画っぽいな、と思っていたら、

映画も作られていた。

だが2人には名前が与えられ、シベリア鉄道やモンゴルではなく、

フィンランドに向かう路線になり、

ラブストーリーでもあるらしい。

映画の評価も高いらしいが、

上記のような、本書の持つ一番の特質が失われているんじゃないかと思えて

見る気にはならない。

心淋し川 西條奈加

 

登場人物のセリフや、地の文の中に

味わいのある言葉がふと入っている。

その言葉だけ出しても、なんということはなかったりするのだが、

物語の中で現れるとそれが輝き出す。

 

全体には「まあまあ安心できる」結末になっている印象があるが、

思いのほか、深い闇が描かれている部分があり

そこが記憶に残る。

 

落ちぶれた大店の奥方、そして理由を隠して差配になった男。

「よかったね」で終わったようにも見えるが、

闇が消えるほど甘くはないよねえ。

その点が印象深い連作集。

槐と優 諸星大二郎

 

あの「ど次元世界物語」(『夢見る機械』収録)の世界がよみがえった!

しかももうちょっとストーリー性をもった形で。

「ど次元世界物語」と「生物都市」が一緒になった感じかなー。

 

最近では『アリスとシェエラザード』なんかで

ドタバタ要素がチラホラ入っていたけど、

本書はドタバタがメイン。

こういうのは初めてかも?