うみねこ島 ベストセラー以外の本を読みたい人のために

うみねこ島 ベストセラー以外の本を読みたい人のために

ベストセラーやポピュラーな本もいいけど、ちょっとつまらない、物足りない、
という人もいるでしょう。

このブログは、中世ファンタジーでなくても、魅力あるヒーローは作れることが実感できる
「黒ねこサンゴロウ」シリーズをみなさんに紹介するために開いております。

お城の人々 ジョーン・エイキン/三辺律子訳

 

ジョーン・エイキン短編集の3冊目。

全体に、幸福を求め、それが得られる、という話が多いように思う。

ヘンな形ではあるんだが、

登場人物がなにかしらの幸せを得ている。

 

2年ごとぐらいに刊行されているから、

前に読んだものの内容はほとんど忘れていて、

自分の記事を読み直した。

『月のケーキ』

『ルビーが詰まった脚』

 

これらに比べると、「ワケのわからなさ」は少ない。

もちろん、死者が出てきたり、

SF的な設定が多いんだが、“奇妙”な感じは少ない。

 

なので、3冊の中では一番「入りやすい」かもしれないが

この人の神髄はほかの2冊なんじゃないかな。

エルマーのぼうけん、エルマーとりゅう、エルマーと16ぴきのりゅう ルース・スタイルズ・ガネット作、ルース・クリスマン・ガネット絵/渡辺茂男訳

 

作者のガネットさんが、先月100歳で亡くなったそうなので、

読み返してみた。

 

書かれたのは1948年から1951年。

こういう分野の著作としては

先駆的なものと言っていいんじゃないか。

 

前に読んだのは中学生ごろだと思うのだが、

内容は全然覚えていなかった。

 

今回読んでみたが、

(執筆年を考えないと)飛び抜けた感じはそれほど受けないな。

出会う年齢や、出会う順番が大事なんだろう。

もっと小さいときに

『だれも知らない小さな国』とか『パディントン』とかに

出会っちゃっていたからかもなあ。

雪のフィアンセたち モーリス・ゼルマッテン/佐原隆雄訳

 

スイス山岳地方出身の作家が

自分の故郷付近で語られていた民話を

筆記・小説化した。

 

アルプス山麓にある小さな村々。

夏は家畜を高地で放牧させる。

こういう土地で、代々口伝で伝えられてきたんだね。

 

“怪奇”、“幻想”とうたわれているが、

そのテイストはそんなに強くない。

現代からすれば不思議なこと、

あり得ないことなんだろうけどさ。

それより

その土地で語り継がれる物語の力強さを感じる。


和歌山県熊野地方の人々を描いた『宇江敏勝民俗伝奇小説集』なんかと

ちょっと通じるものがある。

 

一方で、大きく違うのがキリスト教の存在だ。

常に「善が勝つ」というわけではない(無力な場合もある)が

人々の心のよりどころであることは間違いない。

 

日本の場合の仏教と近いような気もするが

違うような感じもある。

このへんの差異も含め

「土地の歴史」に触れられるいい機会だと思う。

 

2冊の原著をまとめたので、

A5判550ページ5500円というすごいボリュームになっている。

分冊にせずに一気に出しちゃう、というところが

「買う人が限られている」版元(国書刊行会)っぽいかも。

魚社会 panpanya

 

不穏な世界が気持ちいい。

 

知らない人だったが、もう7冊も(白泉社から)出ていた。

失礼しました。

最近はビレヴァンぐらいしか、

マンガを知る機会がなくてさー。

 

描き込まれた背景に対して

主人公をはじめとする登場人物だけが

ちょーシンプルな線。

こういう絵は見たことがなかったけど、いい感じ。

 

魚だか犬だかトナカイだかわからない生物(人物か?)の

造型が目に焼きつく。

恐るべき緑 ベンハミン・ラバトゥッツ/松本健二訳

 

史実と史実でないものに基づいたフィクション。

なので、その人物の“評伝”として読んではいけないよ、

というおかしな小説だ。

 

残っている記録に、

日常会話や心理描写などを加えたフィクションはよくある。

(大河ドラマとかもそうだ)

記録や証言から組み立てる評伝、というのもある。

 

しかし、本書はそれに完全に創作した人物がからんでくる。

結局、描かれているエピソードがどこまで信頼していいかがわからなくなり、

そもそも「事実」とされているものまで怪しくなっていく。

こんなつくりは見たことがなかった。

 

題材は

ハーバー(ハーバー・ボッシュ法の)、シュヴァルツシルト、

望月新一、グロタンディーク、シュレーディンガー、ハイゼンベルクなど。

 

これらの人たちがなにをなしたかは、事実として受け止められている。

その経緯がつづられているんだが、

どうもいろいろ作り替えられているっぽい。

 

望月新一のエピソードでは理解者として「山下裕一郎」という人物が出てくるが、

これは著者の創作。

東工大の加藤教授とかを彷彿とさせるけど。

そうすると、書かれている経歴やできごと全部がどこまで本当なのかわからなくなってくる。

 

「フィクションなのか事実なのか」が交錯してクラクラくる本として

主人公と数人を除くと登場人物はすべて実在の人物、という

『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』が思い浮かぶ。

 

つくりや方向性は違うけど

“フィクション”にまつわる危うさを持っている点で近いものがあるんじゃないかな。

流れ施餓鬼 宇江敏勝民俗伝奇小説集6 宇江敏勝

 

全部で10冊あるし、

1冊ごとに記事を書くこともないか、と思っていたのだが…。

 

5編めの「団平船の熊野」は

すごく好きなパターンだったので書いておきたい。

 

これは、主人公はいるものの、

大正14(1925)年から昭和33(1958)年までの

熊野の歴史を描いたものだ。

この土地が大きく変わった30年ちょっとを

鮮やかに記録している。

 

このあいだになにが起こったかというと

川を行き来する船しか交通手段がなかった、

熊野川上流の地区に

道路や橋が作られ、

ものの運搬がトラックに変わったのだ。

 

難工事のすえ、何年に道路が通った、

という記録はなされているだろう。

 

しかし、それ以前の船がどういうもので、

どういう風に動かしていたか、

なにをどういう船で運んでいたか。

それがどのようにトラックに変わっていったか。

 

そういうリアルな歴史は

(おそらく動画はないわけだし)

ひとりの主人公をたどるという、

こういう形で記録することが、

もっとも心に迫ってくると思う。

 

「宇江敏勝民俗伝奇小説集」はいろんなタイプの短編があるが

「団平船の熊野」の主人公に大きなできごとは

(そのほか怪異なども)ほぼ起こらない。

それでも強い余韻を残す。

それが、ひとりの人間が体験する土地の歴史、というものなんだ。

猫を抱いて象と泳ぐ 小川洋子

 

静かな本。

こういう本に出会うために、本を読んでいるんだよ。

 

主要な登場人物がみんな寡黙だ。

主人公リトル・アリョーヒン、祖父母と弟、マスターとミイラと老婆令嬢。

 

主人公の唇とか体つきとか、自動チェス人形とか、廃バスとか、

海底チェス倶楽部とか老人ホームとか。

いろいろと変わった設定や道具立てがあるんだが

本書にとってそれはそんなに大事じゃない。

 

たまたまチェスという題材で物語は展開するけど、

本書に描かれているものは、それである必要はなく、

ただ静けさだけが読後に残る。

しまなみぽたぽた 2 東屋めめ

 

こういうユルイマンガが存在するのって、いい時代だな。

ゆるキャン△とか、スーパーカブとか

もう少し広げてふらいんぐうぃっちとかよつばと!とか。

 

このあいだ今治に行って、

馬島とか大島とかにも行ったから

そういう点でも親しみが持てるんだが。

[増補改訂]GPUを支える技術 Hida Ando

 

いろんなモヤモヤがスッキリと晴れ渡った!

すごくいい本だ。

 

1.なぜGPUが“AI半導体”とかよくわからん呼び名でもてはやされるのか

2.なぜGPUメーカーの中でNVIDIAだけ注目されるのか

3.IntelやAppleがCPUに組み込む“AI機能”ってなに?

4.なぜスーパーコンピュータにGPUを使う?

5.そもそもGPUってどうやってプログラミングするの?

こんな感じの疑問を持っている人なら“答え”が得られる。

古い人間はそこから説明してもらわないと、わからないのよ。

 

答えはざっと書くと

1.機械学習で使うニューロンモデルって、入力に対する出力だから行列計算

(ただし、低精度でいいが高速処理が必要なので、別モジュールが必要)

3.そういう低精度浮動小数点行列演算機能をオンチップに入れ始めている

4.高精度浮動小数点演算が必要なので

(ただし、エラー処理が必須)

2.上記のような機能を早くから取り入れ、商品ラインアップも積極的にやった結果

5.CPUでGPU用命令を動かす

(データは転送するかシェアドメモリーで共有)

 

いろいろ考えると、今後の半導体をリードしていくのは

NVIDIA、AMD(ATIの資産がある)、ARMじゃないかな

AppleとGoogleはどうかなー、Intelは厳しそう

(もちろんTSMCとかは別の話ね)

 

それにしても、最近のGPUの(本来の)グラフィックス機能もスゴイ。

当たり前だが、いまのグラフィックス処理を手で書いていたら

人生何年あっても足りないもんね。

日本昔噺選集 梅花の想ひ人 おく

 

フルカラーマンガと画集の中間ぐらい。

とくに見開きの大ゴマの、

色と構図はなかなかの迫力だ。

 

ただ、画集だと考えるには

本の体裁として少し苦しいように思う。

 

画材がなにかはわからないのだが、

全体に色が沈んでいるように感じる。

この紙質とオフセット印刷だと

どうしても色はくすみがちになるだろう。

 

原画を見てみたいな。