うみねこ島 ベストセラー以外の本を読みたい人のために

うみねこ島 ベストセラー以外の本を読みたい人のために

ベストセラーやポピュラーな本もいいけど、ちょっとつまらない、物足りない、
という人もいるでしょう。

このブログは、中世ファンタジーでなくても、魅力あるヒーローは作れることが実感できる
「黒ねこサンゴロウ」シリーズをみなさんに紹介するために開いております。

クロニクル 千古の闇 7~9 ミシェル・ペイヴァー/さくまゆみこ訳、酒井駒子装画

7 魔導師の娘

8 皮はぐ者

9 兄弟のきずな

 

先日読んだ『クロニクル 千古の闇 1~6』の続編。

 

ファンタジーではなく、

リアルな世界(ただし6000年前)を舞台にしたフィクション・シリーズの続編。

リアルさに加え、物語のつくりのうまさが加わり、

すごく魅力的なシリーズになっている。

 

著者が「私はファンタジーを書いているつもりはない」と語っているそうだ。

そう言い切れるのは、彼女が現在の北方少数民族の暮らしや、

北欧の自然などをものすごく深く実体験しているからだ。

だから、舞台はずっと昔でありながら、

目の前で見てきたような描写ができるんだ。

 

『1~6』でいったん完結したんだけど、ひらめいたんだろうね、続きを。

おそらく多くの読者から「つづきを書いて」とも言われていただろう。

 

 

7巻以降、主人公トラクとレンは当然のことながら「連れあい」になっているし、

ウルフにも連れあいと子どもがいる。

でも、彼らは全然変わっていない。

トラクはやっぱり迂闊で暴走するし(少しは大人になれよ)、

レンとウルフはそんなトラクを助けていく。

 

7巻以降、判型が小さくなり、上製が並製になった。

 

一番大きな違いは、本文中のさし絵が

酒井駒子さんから、原著のジェフ・テイラーに変わったこと。

ウルフをはじめとする動物たちがリアルに描かれていて、臨場感は増す。

ただ、登場人物は描かれていないので

物語のビジュアルを求める人には、ちょっと中途半端とも言える。

装画は酒井さんのまま変えなかった点はよかった。

 

このシリーズのファンサイト(日本の人)には、

1~6巻の原著さし絵も掲載されている。

どっちのさし絵も別々の魅力を持っているな。

 

6000年前をリアルに感じさせる言葉づかいを作り出した

さくまさんの翻訳も力作だ。

気がふれて放浪しながら、ときどき含蓄のある言葉を放つ「歩き屋」。

キャラクターとして強烈な一方、案外重要な役割だったりするんだが、

walkerを「歩き屋」とした翻訳がすばらしい。

ニューヨークで考え中⑤ 近藤聡乃

 

知り合いではないのに

どうってことない近況をずっと知っている、って

なんかおもしろいよね。

 

今回のビックリは、容姿にだいぶ変化があったこと。

ふくよかになって、パッツン前髪が七三分けのように変わっていた。

3年前発行の前巻④を見てみたけど、

この変化はちょうど⑤巻のはじめぐらいからだった。

 

近藤さんがニューヨークに住もうと思ったのは2008年。

そのころはういういしい感じだったよねえ(①巻のカバーより)。

 

もう一つのサプライズは、なつかしのA子、U子、K子、I子が登場したこと。

(『A子さんの恋人』の登場人物たち)

阿佐ヶ谷書楽が閉店した回に、店内の思い出として描かれていた。

腹黒くてぐうたらなU子が好きだったな。

クロニクル 千古の闇 1~6 ミシェル・ペイヴァー/さくまゆみこ訳、酒井駒子画

1 オオカミ族の少年

2 生霊わたり

3 魂食らい

4 追放されしもの

5 復讐の誓い

6 決戦のとき

 

「物語を読む楽しさ」を十分に味わえる。

話はある程度1巻ごとに完結しているけど、

もちろん1から6に順に読んでいくのをオススメする。

 

“ファンタジー”に属するものだとは思うが

魔法が幅を利かせたり、

作られた王国が出てきたりする、

過度に構築された仮想世界ではない。

ここがいい。

 

舞台は紀元前4000年ぐらいのスカンジナビア。

もちろんすべての面で忠実に描くことはできないが、

著者の綿密な取材をベースにしたものであることが好感できる。

 

“魔道士”とかは出てくるんだけど、

現代の北方少数民族が受け継いでいるような

地に足がついたものなのだ。

 

後半(4巻ぐらい)からは、だいたいのパターンはわかってくるし、

6巻の終わりもおおまかに想像できる。

そうであっても、目の前の登場人物の苦境にはハラハラするし、

苦境を脱すればすごくほっとする。

 

さらに各巻をほぼ400ページで収めるという作りもみごとだ。

5巻あたりになると、過去との整合性を取ったり

ページ数を調整したりと、ちょっと苦労しているところを感じたりするけどさ。

 

主人公は6巻の間に12歳から14歳になる。

たくましい面もあるけど、迂闊だったり意固地だったりすることも多い。

いろんな能力が優れていたり、運がよかったり、

というわけじゃない、生身の男の子だということもひしひしと伝わってくる。

 

このあと7~9巻という続編があるが、それはまた後日。

古文鳥類学 三上修

 

『電柱鳥類学』の人の新刊。

これもおもしろい。

 

古文に出てくる「比婆理」は、今で言うヒバリか?

「保登等芸須」「郭公」「霍公鳥」「時鳥」は、今で言うホトトギスか?

時期や地域、鳴き方や鳴く時刻、見た目の形容などから

鳥類学的にどの種かを推測するという、

普通の人じゃ考えない、ユニークな考察。

 

そもそもカッコウとホトトギスが見た目にずいぶん似ていることすら知らなかったよ。

鳴き声はずいぶん違うのにね。

 

全体に「ほうほう、なるほど、そう考えられるわけね」なんだけど

1カ所、疑問が残る。

 

霍公鳥はほぼホトトギスなのだが、

暇なみ 来まさぬ君に 霍公鳥 我かく恋ふと 行きて告げこそ

の句の場合、「かく恋ふ」がカッコーとかかっているので、

ここではカッコウと考えられるという。

 

でも五七五七七なんだからあわないよ。

カッコウ(4文字)またはカッコウドリ(6文字)より

ホトトギス(5文字)の方が自然だよねえ。

少なくとも4文字はあり得ないと思うけどなあ…。

 

いずれにせよ、「鳥の声がした」と書かれているときに

具体的にどんな鳴き声だったのかがわかると

情景や書き手の心情に近づけるかもしれないよね。

 

ホトトギスよりさらにおもしろかったのが、

江差追分で歌われる「かもめ」は

カモメかオオセグロカモメかウミネコか、という話。

 

鳥類学的アプローチをするのはもちろんだが、

「どの鳥の声が歌にふさわしいか」のアンケートをとる、というところが秀逸。

 

この(江差追分の)論文は、

雑誌の査読者の一人からひどくけなされたらしいが

それでこそ学問だよね。

結果や成果物で研究組織を評価しようというおかしな風潮に

釘を刺す1冊となってほしい。

名前のないカフェ ローベルト・ゼーターラー/浅井晶子訳

 

ウィーンにある名前のない(固有名詞が付けられていない)、地味なカフェ。

店主をはじめ、ここに関わる人々はみな淡々と生きている。

それを、あまり技巧を使わない文章で淡々と描く。

 

そのさりげなさが、自分(読者)の中にある“何か”と響き合い、

カフェが記憶の一つとして残っていく。

 

舞台は1966年からの10年間。

日本でもそうだったが、

これから明るい未来が開けていそうな感じで、

建物などがどんどんつくられ、騒がしくなっていく。

 

でも登場人物たちは少し離れた場所にいる。

恩恵を受けていない、とも、巻き込まれていない、とも言える。

2026年が舞台だとしても違和感がない。

そこがまた心に残る。

 

全体的にはそういった静けさがあるのだが、

39章のうち、最後の方(31章、32章、36章)には

ぐぐっと持っていかれそうな展開もある。

 

作家は『ある一生』の人。

 

自分の書いたものを読み返してみると(7年前に読んだ内容はもう覚えていない)、

周りの騒がしさに巻き込まれずに静かに人生を送る、

という点で本書と似ていると思う。

 

『ある一生』は1人の人生を描いているので、下(過去)から上(未来)へ延びる細い糸のよう。

本書は一定期間内の何人かの人生を描いているので、空中に浮かぶ座面クッションのよう。

フランケンシュタイン、日本到来 中川僚子

 

明治中期、雑誌に連載された「フランケンシュタイン」の翻訳者はだれか。

非常にスリリング。

 

いや、多くの人は明治中期の翻訳者なんて誰も知らないから、

複数の候補がいて「そのうちの誰だろう?」とドキドキする話ではない。

 

だからネタバレしてもOKだと思うが、

本書著者は、翻訳者の正体が三宅花圃だと推測している。

この三宅花圃、聞いたこともなかったが、なんだか結構才能があるし、

いろいろ活躍した人のようだ。

Wikipediaにも項目があるぐらいだから。

 

翻訳者を推測するに当たって考察した材料が書かれているのだが、

これがおもしろい。

明治中期(明治20年代、三宅花圃は明治元年生まれ)の

文学(とくに言文一致)、女性教育(女学校)、絵画(日本画対西洋画)などの動静が

非常にかかわってくる。

ここがスリル満点なのだ。

というか、全然知らなかったので、なかなかおもしろい。

 

基本は論文っぽいのだが、書き方も工夫されていて

普通のノンフィクションとして読める。

 

どうにも引っかかるのが、掲載時の翻訳者の名前(ペンネーム)だ。

本書の初出およびそのほか2カ所は「瓠廼舎主人」、

残りは全部「瓠瓢舎主人」。

 

読みは「ひさごのやしゅじん」。

「瓠」はひさご(ひょうたんのこと)、「廼」は「の」という読みだから

「瓠廼舎主人」はまんまだ。

 

一方「瓠瓢」はどちらもひさご。

同じ意味の漢字を2つ並べ、「の」は省略した、としても不自然ではない。

とはいえ、「どっちなの?」という疑問は残る。

 

「誤記だと思っていた一つが表記の揺れだと判って更に困惑している」というXのポストを見つけた。

しかし、表記の揺れだからといって、(理由も示さず)書籍の中で不統一なのは感心しない。

校閲者の力不足と思う。

マイボディ・オン・ザ・ムーン 上下 矢野アロウ

 

さまざまなSF要素があふれかえるSF。

なんといってもエピローグがめちゃくちゃいい。気にいった。

 

月の裏側に、人類以外が置いたと思われる〈神秘小屋〉が発見され、

中には首のない胴体がいくつも収められていた。

 

主な登場人物は
中国のスパイとCIA職員の夫婦、スマトラ沖地震を経験したタイの女性、

VTuberになった障害を持つ少女、1934年生まれの米国実業家。

 

出てくる素材は

脳科学、生物学、遺体の冷凍保存、宇宙工学と宇宙飛行、NASA、サイバースペース、AIとハッキング、

米中ロの緊張、世界情勢、グリーンランド、核を積んだICBM、ALSになった殺人犯、
タイ各地の描写、米国各地の描写など。
 
そして、心理、倫理、哲学、世界情勢などが語られながら、謎解きが進んでいく。
小松左京もビックリだよ。
 
約1000ページというボリュームや、
宇宙に絡んだスケール感などから
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』と対比されるかもしれない。
巨大スケールのエンタテインメントであり、
読むのが止まらなくなるところとか。
 
でも、ヘイル・メアリーは圧倒的な緻密さと、
ストーリーのシンプルさ(それでも予想を裏切られたが)が特徴。
一方本書は、展開のゴチャゴチャさと「最後にどこへ行くかが見えない」感がスゴイ。
なので、文学ジャンルとしてはごく近いけど、
物語としてはずいぶん違うと思う。
 
とはいえ、個人的な本書の最大の読みどころは、エピローグだ。
人類にとって、ものすごいできごとが起こり、そして収束。
登場人物の“その後”が描かれてオワリ、と思ったんだよ。
でもエピローグでそれは予想外の方向に裏切られた。
ただし、ここからの続編はあり得ないと思うよ。

溺れる少女 ケイトリン・R・キアナン/鯨井久志訳

 

提示されたものに読者は翻弄される。

それを楽しむ本なのかな。

読解力のある人は、読み終えて

なにかの終着点を見いだすのかもしれないけど。

 

オビに書かれているのは、

ローカス賞、世界幻想文学大賞受賞作家の最高傑作。

謎が謎をよび、物語がたえず変容するゴースト・ストーリー。

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞受賞作。

これだけではなにがなんだかわからん。

売れっ子装画家の雪下まゆさんの絵も、ヒントにならない。

 

少ない経験を基に言えば

アンナ・カヴァンに近い気がする。

でも、この著者はもっと意図的に物語を構成していると思う。

 

訳者あとがきには

「最後にとんでもない曼荼羅を完成させる構成の巧みさ」

と書かれているが、その曼荼羅が捉えきれなかった。

自分の読解力不足を痛感する。

 

でも、全体を貫く“意味の通らなさ”を楽しむのでいいんじゃないかな。

強迫性障害なのか統合失調症なのかわからないが、

そういう主人公(一人称視点でもあり三人称視点でもある、というだけでも混乱する)が

繰り出してくるさまざまな事物(本書では“亡霊”と言っている)に

翻弄されるのも、本書の楽しみ方ではないか。

 

「溺れる少女」という絵、赤ずきんちゃん、人魚、セイレーン、

人狼、殺人事件、青木ヶ原樹海、カルト集団…。

これだけのものを整理して受け止めるなんてできないよ。

レインアパート おみたし

 

主人公(なのか?)の女の子アイがめちゃめちゃカワイイ。

見た目にも心根的にも。

1巻完結。

だから、アイのかわいさを味わうためだけで買うんでもいいと思うんだ。

 

舞台設定は、ブレードランナーっぽいところがある。

汚染された雨が降る都市。

少なくなった人間を補うために、

クローン遺伝子でつくられた人工生命(ヒュクロイド)が人間より多くなっている。

 

でも、アイが拾ったマレイは

人工生命らしいんだが、ヘンなツノがあるし

オビには「人外」と説明されている。

そのへん、ヘンな謎解きをしないで、1巻で終わらせているところもいいな。

 

作家のデビュー作だそうだ。

どういう方向へ行くか、注目したいと思う。