流れ施餓鬼 | うみねこ島 ベストセラー以外の本を読みたい人のために

うみねこ島 ベストセラー以外の本を読みたい人のために

ベストセラーやポピュラーな本もいいけど、ちょっとつまらない、物足りない、
という人もいるでしょう。

このブログは、中世ファンタジーでなくても、魅力あるヒーローは作れることが実感できる
「黒ねこサンゴロウ」シリーズをみなさんに紹介するために開いております。

流れ施餓鬼 宇江敏勝民俗伝奇小説集6 宇江敏勝

 

全部で10冊あるし、

1冊ごとに記事を書くこともないか、と思っていたのだが…。

 

5編めの「団平船の熊野」は

すごく好きなパターンだったので書いておきたい。

 

これは、主人公はいるものの、

大正14(1925)年から昭和33(1958)年までの

熊野の歴史を描いたものだ。

この土地が大きく変わった30年ちょっとを

鮮やかに記録している。

 

このあいだになにが起こったかというと

川を行き来する船しか交通手段がなかった、

熊野川上流の地区に

道路や橋が作られ、

ものの運搬がトラックに変わったのだ。

 

難工事のすえ、何年に道路が通った、

という記録はなされているだろう。

 

しかし、それ以前の船がどういうもので、

どういう風に動かしていたか、

なにをどういう船で運んでいたか。

それがどのようにトラックに変わっていったか。

 

そういうリアルな歴史は

(おそらく動画はないわけだし)

ひとりの主人公をたどるという、

こういう形で記録することが、

もっとも心に迫ってくると思う。

 

「宇江敏勝民俗伝奇小説集」はいろんなタイプの短編があるが

「団平船の熊野」の主人公に大きなできごとは

(そのほか怪異なども)ほぼ起こらない。

それでも強い余韻を残す。

それが、ひとりの人間が体験する土地の歴史、というものなんだ。