先日のゼレンスキー大統領とトランプ大統領との会談は、前代未聞の物別れに終わった。
その中で、会談が失敗に終わった理由のひとつに、「ゼレンスキー大統領は英語が苦手だから会談がうまく行かなかった、通訳を付けるべきだった」という記事を目にする。それも、個人のブログ記事ではなく、大手メディアがそういう記事を載せている。
本当にそうだったのだろうか?
自分はそうは思わない。
改めて会談の様子の動画を見ると、最初の40分は通訳がついていなくても、非常に和やかなムードで、ゼレンスキー大統領もトランプ大統領も笑顔さえ浮かべていた。
ムードが一変したのは、ラスト10分、ゼレンスキー大統領がトランプ大統領に対して、「あなたはプーチン氏に肩入れしすぎではないか」と質問したことからだった。
それに対して、バンス副大統領が、「失礼なことを言うな」とばかりに、トランプ大統領の外交上の功績を支持するような反論したのに対し、ゼレンスキー大統領は、2014年からの経緯を話し、窮状を訴え、「どこに『外交』があったと言うのか。教えて欲しい」という意味で「What diplomacy are you talking about? What do you mean?」と言い返した。
上記の記事で取り沙汰されているのはこの部分で、ここは「Could you clarify~」みたいな表現を使うべきだった、What do you meanは失礼だ、通訳を使えばこんなことにはならなかったなどと書いてあるものを見たが、何とも的外れな指摘としか思えない。
確かに、この表現は言葉遣いとしてはかなり強い。だが、険悪な会話の流れからすれば自然な言葉とも言える。さらに、あの状況でそんなビジネス英語のテキストから抜き出したような表現を使うのは、いわゆる「慇懃無礼」というやつで、逆に不自然だし、却って挑発的に聞こえる可能性もある。
その後の会話の中でも不適切な言い方があったとして、上記のように紋切り型のビジネス英語を引っ張り出して、こう言うべきだった、なんて指摘している記事もあるが、あれだけ互いに口論になってる中では逆に違和感が大きすぎる。
今回の会談が物別れに終わったのは、そもそもトランプ陣営とゼレンスキー大統領の認識が大きく異なっていたことで意見が食い違ってしまったというのが大きな理由で、言葉遣いは確かに「きつかった」部分はあるかも知れないが、「英語が下手なのだから通訳を使うべきだった」ということにはならない。
だいたい「英語に問題があった」という指摘は、「本当に意図したことが正しく伝わらなかった」時に言うものであって、今回のゼレンスキー大統領の立腹した気持ちは正しく伝わっている。
仮に通訳を使ったところで、ゼレンスキー大統領が同じ意味の言葉を通訳に伝えれば、同じ結果になっただろう。
彼の英語が下手だったのが失敗の原因だった、通訳をつければあんなことになならなかったなんてしたり顔で言っている日本人は、中途半端に英語ができて、恐らく他の部分は聞き取れなかったけど、たまたま「What diplomacy are you talking about? What do you mean?」を聞き取れたので、得意になってあれこれ言っているだけにしか思えない。
会話の流れも理解しないまま、感情的になって口走った言葉尻を捉えて、それが会談失敗の原因だなどと言う指摘は笑止千万としか言いようがない。
今回ゼレンスキー大統領に落ち度があるとすれば、それは「英語が下手なのに通訳をつけなかった」ことではなく、「英語ができる」ために、自分の感情をそのまま言葉にしてしまったことだ。
ゼレンスキー大統領の英語を全部聞いたわけではないが、もちろんたどたどしさはある。だが、米国大統領と通訳抜きで40分間和やかな会談をして、その後の激論にも対応できるのは相当な英語力だ。上記の記事を書いた日本人に、果たして同じことができるのだろうか。
なんか大勢が見当違いなことを言っている状況には、非常に腹立たしさを感じてしまう。