TWO ALONE ~二つの孤独~  -4ページ目

恋敵 ~彼女と彼女のすべて~

一瞬キョトンとした橋爪さんは、お兄さんの言葉でようやく状況を理解して… 目を大きく見開いて驚いたんだけどさ。

鞠絵さんはそんな橋爪さんに今の自分の気持ちを正直に伝えるんだ。

「私は明信さんの そして橋爪さんの愛情にただ甘えているだけだった…

今さらながら自分の鈍感さに呆れています


でもそんな私にこの車が気づかせてくれた……

わたしにとって世の中で一番大切なのは 失ってはいけない人はあなただって事を!」

そう言うと、彼女はこう叫ぶんだ。

「もう二度と好きな人と別れたくないッ」 って。

そんな彼女の態度に、少し困惑した橋爪さんだったけど…

でも鞠絵さんは自分からこう言ったよ。

「おかしな女ですよね

自分を好きでいてくれる人の前で

昔好きだった彼や 彼の車の話しを持ち出すなんて

でも こんな私を丸ごと受け止めてくれる人はあなたしかいない

ずいぶん ”とう” の立った女だけど 」

そう言って、彼女は深々と頭を下げると最後にこう言葉を続けるんだ。

「こんな私を愛して下さるのなら どうか一緒にいて下さい… 」

そんな鞠絵さんの言葉に、橋爪さんは戸惑いを隠せずにいたんだけどさ…

そこで、主人公と橋爪さんのお兄さんが助け舟をだすんだ。

「とうが立ってるのはお互い様じゃありませんか

あらためて一緒に走ってみちゃあどうですかい?」 という主人公に、お兄さんも

「周平 お前の気持ちは昔から知っとる

じゃなきゃ 兄貴の俺が小切手なんか受け取るわけがなかたい」そう言ってね。

それを聞いていた橋爪さんは、何かを決心した様子を見せると、鞠絵さんの腕をとってZの方に歩いて行ったよ。

そしてドアの横に立った彼は、また少し照れながらこう言うんだ。

「ありがとう鞠絵さん 私は幸せ者だ」 その後こう続けたよ

「でも私たちが幸せになる事で この車も明信さんの思い出も捨て去ってはいけない」

橋爪さんはそう言ってさ、主人公の方をふりかえると

「夢次郎さん 車のキーをくれないかッ!」 そう叫んでね、主人公が放ったキーを受け取るとZのドアを開けて言うんだ。

「この車で一緒に戻りましょう 帰りは私が運転します」 とね。

そうして、Zは幸せそうな二人を乗せて走り出したんだ。

その姿を見送りながら、主人公は言うんだ。

「彼女と彼女のすべてを愛するって訳かい 何とも懐の深い男じゃねえか」

その言葉に、お兄さんも嬉しそうに答えたよ

「そういう男たい 俺の弟は」

と。



     ~おわり~

恋敵 ~情熱的なプロポーズ~

そんな彼女の様子を見て、主人公は言ったよ。

「人間って奴ァ 気づかないうちに同じ事を繰り返すっていうが

やっぱりそうかね

このままじゃあ明信さんの二の舞じゃございませんか」 主人公がそう言うと、

鞠絵さんは辞表をあらためて見直してこう言うんだ

「ずいぶんとためらったのね なのにそんな気持ちも知らずに私は… 」

そう言った彼女は一度目を閉じると、その辞表を破って決然とした表情で顔をあげたんだ。

そして、場面は切り替わって数日後の熊本。

そこには、いくぶんか年代を感じさせる民家があって、その表札には 『橋爪』 と書かれていてさ、中からはこんな会話が聞こえてきたよ。

「いま戻ったよ 兄貴」

「おう周平 まぁあがらんね」

で、その家の中では橋爪さんとそのお兄さんと思しき男性が話しをしててさ。

「温泉はどうだった?」 とかそんな話しをしてたけどさ、橋爪さんは

「で兄貴 例の件だけど」 って、お兄さんは 「え?なんの話しね?」 と聞き返して。

それで橋爪さんは

「何言ってんだよ 兄貴が貸してくれるっていった居酒屋用の土地のことさ

さっそくだけど見てみたいんだけど」

そう言うと、お兄さんは

「ああ その話ね

悪かばってん その話は無したい!」

驚く橋爪さんに

「あの土地をどうしても売って欲しいって電話をかけてきた人がいて

白紙の小切手を送ってきて好きな額を書き込んでいいって言ったもんだから

ついつい目がくらんでしもうてね
がははは…」

なんて言って、これにはさすがに温厚な橋爪さんも興奮して

「笑いごとじゃないよ ひどいじゃないか!

一体 そいつはどこのどいつなんだよ!!」

って言ってね。

お兄さんは平然と 「もうすぐ本人がくるけん 文句ならそっちに言ってくれんね」 そう言って

そこにちょうどクラクションの音が聞こえてきてね 「おっ うわさをすればというヤツたい」 って。

珍しく怒ってる橋爪さんは、ずいぶん荒々しい足取りで玄関を開けた時…

そこに止まっている車に驚いたんだ。

「こ… この Zは!!」 そう言った橋爪さんの前に車からおりてきたのは鞠絵さんと主人公で、

突然の二人の来訪に 「ど どうしてこんなところへ」 って橋爪さんが驚いていると。

主人公は 「どうもこうもあるかい!鞠絵さんが突然いくって言いだしてよ」

「飛行機も新幹線もとれないとなりゃ車っきゃねえじゃろ おかげでコッチは徹夜じゃあ」

ってアクビしながら答えてさ。

「でも、東京熊本間を夜通し走っても平気な仕上がりになった」 なんていう主人公に

状況が全然理解出来ない橋爪さんは

「いや そういう事じゃなくて… 何の為にここまで… 」

そう言いかけたんだけどさ、その言葉を遮るように鞠絵さんが言うんだ。

「あなたが借りようとしていた土地を買い取ったのは 私だという事を伝えるためよ!」

その言葉に 「ええッ しゃ… 社長だったんですか!? ひ… ひどいじゃないですか」 橋爪さんはそう言ったけどさ。

でも、そんな彼に鞠絵さんはこう言ったよ。

「あなたに居酒屋なんてやらせない どこにも行かせやしない

一生 わたしのそばにいて欲しいの」

その言葉を聞いた橋爪さんは、一瞬キョトンとしたんだけどね。

でもそんな二人を、お兄さんは目を細めながら見守るようにいうんだ。

「おほ~~~なんとも情熱的なプロポーズたい 激しかね―――――ツ」

と。



     ~つづく~

恋敵 ~失って気づく物~

それからしばらくして、仕上げたZを納品しに主人公は ”ETERNITY” の本社ビルにやって来たんだ。

オイルにまみれたツナギを着た主人公は明らかに場違いで、

周囲の女子社員の視線のイタさを感じていた孫の方は 「だからせめてスーツにしよう って言ったのに」 って言ってたけどさ、

社長室に通された主人公が 「一刻も早く見せたくてすっ飛んできてしまった」 なんて言うのを聞きながら、鞠絵さんは 「フフッ 夢次郎さんらしいわ」 って答えて…

いかにも待ちきれなさそうな彼女が 「で?どこにあるんですか? 早く乗ってみたいわ!」 そういったんだけどね。

主人公はシリアスな顔になると、そんな彼女に

「じつは鞠絵さん あっしゃあ車と一緒に アンタにわたさにゃならんモンがあるんじゃ」 そう言ってね

例の辞表を机の上に置いて 「えッ」 っと言った鞠絵さんに、それが橋爪さんの物である事を伝えるんだ。

その事に、彼女は大きな驚きと… そして 「どうして?」 っていう戸惑いを感じるんだけどさ、

そんな彼女に主人公は言ったよ

「男には引き際ってのがある

鞠絵さんと一所懸命に突っ走って 気が付きゃ会社はこんなに立派になった

橋爪さんも踏ん切りつけたかったんじゃないですかねぇ

あらゆる事において… ね」

ってさ。

でも、鞠絵さんは到底納得できなくてさ

「そ… そんなのってないわよ… 」 そうつぶやいた彼女は

「橋爪さんは誰よりも私を理解してくれた

そしてどんな時にも 私の力になってくれた だから私はここまでやって来れたんじゃないッ

彼がいなくなったら私はどうすればいいのよ」 彼女は、そう言った直後に…

自分の胸が、締め付けられるような痛みに苦しんでいる事に気づくんだ。



     ~つづく~

恋敵 ~ずっと・その④~

「わたしだって走れますよね?」 そう言った橋爪さんに、主人公も孫もアレッ?って思ったようだけどさ。

「どうやらやっとコイツが出せそうです」 そう言って橋爪さんが懐から辞表を取り出したのを見て、二人ともとてもビックリしたんだ。

橋爪さんは言うんだ

「社長と夢を追いかけた20年は本当に楽しかった 本当に夢のようでした」

「今や若い優秀な人材が育ち もはや私の役目は終わりました

彼女も過去の思いがふっ切れたようですし 今がまさに潮時だと… そう思えるんです」

そんな彼に、主人公は 「男の引き際 …ですか」 って言うと、橋爪さんは苦笑いと照れ笑いが混じったような顔で

「いえいえ そんなかっこいいモンじゃありません」 って言ってさ、ずっと居酒屋をやりたいと思っていた事や、出資してくれる人がいる事を話してくれて 「リスクは無い」 って言ってさ…

それを聞いた主人公は

「なるほどねぇ…
ま それもいいかもしれんねぇ

しかし… 鞠絵さんが困るんじゃねえのかい?」

そうたずねるんだけど、橋爪さんは首を横に振ると

「ETERNITYの原点である明信さんの Zがあるじゃないですか

この車があれば彼女は大丈夫ですよ」 そう答えて、そして深々と頭をさげると言うんだ

「どうかこの Zの事をよろしくお願いします」 ってね。

その、橋爪さんの真剣さに答えて、主人公は約束するんだ

「安心しなせえ この Z…

あっしが日本一のフェアレディに仕上げてみせまさぁ」 と、それを聞いた橋爪さんは帰ろうとしたんだけどさ… そんな彼を呼び止めるように

少し大きめの声で主人公は言うんだ。

「それにしても… 」

その言葉に足を止めた橋爪さんに、主人公はさらに声をかけるんだ

「ずいぶんとくたびれた辞表でしたなァ」 ってね、そしてその言葉に少し橋爪さんの表情は動揺したカンジだったんだけどさ。

主人公は薄々感じていた事を確かめるように次の言葉を投げかけるんだ

「さぞや長いあいだ内ポケットの中に眠っておったんですかな?」

その言葉に、少しだけ困ったような表情をした橋爪さんは 「あなたにはかないませんなァ」 と言ったけどさ。

なにかを確信したように大きくうなづいた主人公は、そんな橋爪さんにハッキリいうんだ。

「アンタも明信さんとおんなじですなァ」

「え?」 と、おどろいた橋爪さんにとても優しい目で主人公はきいたよ。

「鞠絵さんにホレてなさるね?」 とね、そして橋爪さんはというと…

また額をポリポリとかくと、少してれながら言うんだ

「……
…はい


…ずっと」

と。



     ~つづく~

恋敵 ~ずっと・その③~

鞠絵さんを見送る橋爪さんの顔を無言で眺めていた主人公に、先に声をかけてきたのは橋爪さの方だったんだ。

そして、彼はこうたずねたよ


「しかし本当なんですか?

本当にこの車 走るようになるんですか?」 とね。

その言葉に、主人公は

「もちろんですとも あっしの腕を信じなせぇ それに… 」

そう言った主人公は

「アンタ達は笑うかもしれんが 確かにあっしには聞こえたんですよ

『まだ走れる』 『もう一度走りたい』 っていうこの車からの声がね」 そう言って、

それを聞いた橋爪さんは、笑うどころか本当に驚いて

「そうですか 二十数年前のこの痛々しい車がですか… 」 そう言いながら Z に近づいていくと、

そのボディに触れながらいうんだ。

「この車が走れるなら

私だって走れますよね」

と。



     ~つづく~