TWO ALONE ~二つの孤独~  -3ページ目

『目』 ~その5~

彼女のその 「『目』 を好きになった」 と言う言葉の意味が分からずに、

男が 「目?」 と問い返すと、彼女はこんな話しをするんだ。

あの人がどんな生き方をしてきたのか 私はきかなかったし、

あの人も教えてはくれなかったけど・・・

でも、あの人の目は誰よりも一生懸命に生きてきた人間の目をしていた


その目を見た時にわたし、自分でもどうしたらいいのか分からなくなったの、

初めてだった・・・ あんな事」

「・・・ 」

「山を愛した〇〇君になら、その気持ちが分かると思うんだけど」

そう言った彼女に、男はこう答えるんだ。

「分かるさ! 分かるともッ!」

と。


・・・男と女の愛情は、見た目で云々出来るほど簡単なものではないと思います。



   ~了~

『目』 ~その4~

そうして、そこから少し時間が経過して彼女は帰りの電車に乗っていたよ・・・

夫の遺骨を入れた箱を抱えてね

(/_・、)

彼女を見送りに来た男は、そこでこう言うんだ。

「僕は男として失礼な事を、君に一つだけ質問していいかな?」 とね。

その言葉に彼女が 「どういう事?」 と問い返すと、その男は


「島村さんのどこを好きになったんだい?」 そう尋ねてね、

そして彼女はこう言うんだ・・・

「『目』 よ」 と。



   ~つづく~

『目』 ~その3~

男は必死に島村さんに呼びかけたけど、途切れそうな意識の中で島村さんはこう言うんだ

「これで君達の狙い通りになったというわけだ」 とね。

「どういう事ですか?」 そう聞き返した男に、島村さんは

「二人で私を殺して、財産を奪うつもりだったんだろう?」

そう言ったけど、男は強くそれを否定するんだ。

「それは違います、彼女は本当にあなたの事を愛しています!」 そう言うんだけどさ、島村さんは

「嘘を言うな、彼女のような女性がこんな若くも美しくもない男を愛するわけがない」 そう言ってまるで信じてくれないんだ、

そんな島村さんに男は、彼女が泣きながら訴えた事をありのままに話すんだ。

「確かに、この結婚は私から申し込んだものだし、どんな事があってもあの人に尽くすつもりでいたけど・・・ でも愛されていないのは辛いの」 そう言って泣いていたという事をね、

そして、彼女はわざと夫がすぐに自分の行き先が分かるように行動した事や 「もし迎えに来てくれなければ・・・ 」 という、相当の覚悟を決めていた事。

そして、夫からの連絡があった時にとても喜んでいたという事を・・・

男は、島村さんに一生懸命に説明したよ。

それでもまだ信じられずにいる島村さんに

「私の言った事が嘘じゃない事は、あの声を聞けば分かるでしょう」 そう言ってさ、

島村さんも、すこし遠くから聞こえてくる女性の声に気づくんだ。

「あなたー!」 そう叫ぶ女性の声に、男はこう言うんだ。

暗い山道がどれほど危険か、島村さんももう分かったはずだ。

でも、彼女はあなたの身を案じてこの暗い山道を下りてくるんですよ!」

その言葉を聞いて、島村さんははじめて奥さんの気持ちを知るんだ

(/_・、)

それで、島村さんは言ったよ

「君に頼みがある」 とね、

そして 「何でしょう?」 そう聞き返した男に彼は言うんだ。

「私は今まで 『鬼の面』 をつけて生きてきた、そうしなければ生きてこれなかったからだ。

だが、今ならこの面をとれそうな気がする・・・

私の顔の血を拭いてくれないか?

せめて死ぬ時は人間の顔で死にたい

それを聞いた男が彼の顔を拭うと、島村さんの身体は糸の切れた人形のように力を失って崩れたんだ。

それを見て、男は必死で呼びかけて・・・ 異変を感じとった奥さんも、より一層必死に声を上げながら近づいてきたんだ・・・。



   ~つづく~

『目』 ~その2~

島村さんは 「ついに正体をあらわしたか!」 そう考えて、失踪した彼女の行方を調べると、

その行き先は簡単に分かったよ。

彼女は、大学時代に山岳部に所属していて、その当時一緒に活動していた男のいる山小屋に身を寄せているって事が分かってね、島村さんはそれを知ると

「二人で共謀して自分を殺害した上で、私の財産を奪い取るつもりなのだろう」 そう考えて・・・

彼はまず、山小屋のその男に 「妻を迎えに行く」 と言うと、登山道具を揃えて山に向かったんだ。

でもね、彼の目的は 「妻を連れ戻すこと」 じゃあなかったんだ。

何も知らない男は、島村さんを迎えに来て、自分の居る山小屋までの道案内をしていたんだけど、あたりは日も落ちてかなり暗くなってきていたんだ。

島村さんは

「そこで私を殺すつもりなんだな」 そう考えて、

それで 「殺される前にこっちがやってやる!」 そう考えて、手に持ったピッケルを男の背後から振りかぶったその時だったんだ、

上の方から沢山の落石が降り注いできたのは、

男はとっさに伏せて助かったものの 彼が後ろを振り返った時に、島村さんは大きな落石を頭に受けて顔中が血まみれになっていたよ。



   ~つづく~

『目』 ~その1~

いつだったか、こんなタイトルで書いたエントリーがあったな。

確か 『ぶっちゃけ彼氏(彼女)は見た目?中身?』 とかいうブログネタを読んで書きたくなったお話しなんですが。

そのお話しは、ある資産家の独白から始まるんだ。

「私は今まで一人で生きてきた、だからお金になる事は何でもやって来てこうしてそれなりに金持ちになったのだ。

だが、そんな私の事を周囲の人間は鬼だの人で無しだのと言う、だがそんなモノは知った事ではない」

そんな風に、自分の人生を振り返った独白の後に

「私は若くもないし、このように周囲から憎まれていては結婚など有り得ないと思っていた、ところがだ・・・ 」 とまぁ、そんなところで回想シーンに入って

「ある日の事、金を貸していた町工場の親父が若い女を連れてきてこう言ったんだ・・・

『ウチの娘が島村さんにぞっこんでして、良かったら嫁にもらってくれませんか?』

おそらくは、このオヤジは娘を差し出して俺の機嫌をとりたいのだろう、

まぁ魂胆としてはそんなところなんだろうが、自分の人生に付いてきたオマケのようなモノだと思って嫁にもらってやるか、

だが愛してはやらん!」

その資産家・・・ 島村さんはそんな風に考えていて、

嫁にもらったその娘さんに対しても 「どうせ私の財産が目当てだろうから、すぐにボロを出すに決まっている」 と、そんな風に考えていたんだ。

でも、一緒に暮らしている中で彼女は島村さんにとても尽くしてくれて、彼もまた 「外見が美しいばかりではなく、妻としても完璧だった」 と思い、

そして彼女の事を少しずつだけど信頼し始めたある日の事だったんだ・・・

彼女が忽然と姿を消してしまったのは。



   ~つづく~