TWO ALONE ~二つの孤独~  -6ページ目

恋敵 ~男の叫び・その①~

あのZから聞こえてきた声。

それが明信さんの声だったんだと感じた主人公は、あらためてレストアをさせてもらいたい旨を鞠絵さんに伝えるんだけどさ

彼女は複雑そうな表情で横を向いてしまうんだ、でもその時にさ解体屋のオヤジさんは言うんだ。

「そうかい 夢さんにはヤツの声がきこえてたのかい…


でも夢さんは勘違いしてるよ」

そう言うと、遠くをみるような目をしてオヤジさんはこう言うんだ。

「そのセリフは車に対してじゃあなく

カメラマンとして


……いや
男としてのアイツ自身の叫びだったんだよ
きっと」


と。



     ~つづく~

恋敵 ~憎らしいけど… 捨てられなかった物~

彼のその 「まさに最高の貴婦人なんだ」 そんな言葉を聞いた鞠絵さんは、思わずふくれっ面をしてそっぽを向くと

「フンだ!どうせわたしはヒヨッ子のハナタレ娘ですよ」 って言ってね、その言葉に彼は苦笑いしながら頭をかいていたんだ。

そんな彼のプロ意識を垣間見て、で彼女はそれを自分の仕事のスタイルにも取り入れたって事を話してさ…

「私は明信さんのポリシーをまねた、そのおかげでスタイリストだった私は
徹底的にモデルと向き合い彼女たちを輝かせることが出来た

そしてスーパーモデルに育った彼女たちが 私のデザインした服を着てくれたことで
私のブランド ”ETANITY” は世に知られる事になったのです。」

「あ ”ETANITY” って 『永遠』…
ブランド名はその明信さんの言葉が由来なんですね」
そんなおかみさんの言葉に

鞠絵さんは小さくうなずきながら 「 …ええ」と答えてね

「明信さんの生き方に共感し
学び 成長した


鞠絵さん…
あんたも彼の事が心底好きだったんだね… 」


主人公もそう言うと、彼女はこう答えるんだ

「私は彼を尊敬していました

そしてそれが
恋愛感情に変わっていたのを
彼が亡くなるまで気づきませんでした」

解体屋のオヤジさんも、おかみさんもやるせない気持ちになっている中…

相変わらず、一人だけ空気の読めていない主人公の孫が

「でもさァ
好きな男の車をなんで野ざらしにしてんのさ

ね―
どういう事なんスか
おばさ~~~ん」

とか言って、主人公は頭から水をぶっかけながら 「少しは酔いがさめたか?」 と言ったんだけどさ。

でも、鞠絵さんは自分の思いをはなしてくれたんだ

「あの人は本当にZを愛していました 私にとっては恋敵みたいなもんかな

そのあげくあの人まで連れていっちゃって 私は心底あの車を恨みました

だから大切にするには憎らしい
だけど あの人との大切な思い出だから捨てるには忍びなかったんです」


その言葉に、やっぱり ”思い出の車” を主人公にレストアしてもらった事がご縁になった、その小料理屋のおかみさんも

「わかるわその気持ち

辛かったでしょうねぇ… 」

と言ってさ、そんな話しを聞いて一度その言葉をかみしめるように目を閉じた主人公はこう言うんだ。

「良かったじゃないか、捨てなくて」
「え」

主人公の言葉に顔をあげた鞠絵さんに彼はこう言ったよ

「『まだ走れる』 『もっと走りたい』 あっしには確かにそう聞こえてたんだ

あれはZではなく

明信さんの声…
だったんじゃなぁ…」


と。



     ~つづく~

恋敵 ~最高の貴婦人~

彼女がひとしきり泣いて、そして気持ちが落ち着いた後に解体屋のオヤジさんもやって来て、一行は主人公のなじみの小料理屋さんにやって来たんだけどさ、

そこでも主人公は平身低頭謝っていて、解体屋のオヤジさんもさっきのZの持ち主の女性もかえってその姿に恐縮したカンジでさ

「もういいって、夢さん

なぁ、鞠絵さん」 とオヤジさんはそのZの持ち主の女性にもとりなしてくれて、彼女の方も

「私の方こそさっきは取り乱してしまってごめんさい」 と謝ってきてさ

そんな中で、おかみさんが彼女に話しかけるんだけどさ。

「でも光栄だわ
トップブランド ”ETERNITY” のトップデザイナー
花村鞠絵さんがいらしてくださるなんて

私も数着ですけど持っているんですよ」

「それはありがとうございます」

なんてやり取りをして、おかみさんは今度は主人公に

「今度は一体何をやったんですか?」 って聞いてきてさ

彼の孫が主人公のかわりに事の顛末を話したんだけどね。

少し酔いがまわって、舌が滑らかになった彼は鞠絵さんに話しかけるんだけどね。

「ねぇねぇ、オバサンってその明信さんって人の彼女だったわけぇ?」 って質問してね

鞠絵さんは 「彼女っていえるのかなぁ? だって彼は私の事を妹のように思っていたんじゃないかな?」

少し残念そうな顔をしながらそう答えたんだけどさ、その言葉を聞いた解体屋のオヤジさんは横からこう言うんだ。

「何言ってんだよ鞠絵さん、
絶対ナイショにしといてくれって言われてたから黙ってたけど
アキちゃんはアンタにホレてたんだよ」 ってね

「なんだい?おめーさん知り合いだったのかい」 それを聞いた主人公がそう言うと 「ウチによく来てた車専門のカメラマンでね…

ま、あんまり売れてなかったみたいだけどな」 とオヤジさんは答えたんけどさ、

その言葉に鞠絵さんはこう言ったよ。

「彼は売れないカメラマンじゃない、プロフェッショナルすぎただけよ」 とね。

そして、そのカメラマンさんが撮った写真をはじめてみた時のことを話し始めたんだ。

「どの車もみんな生き生きしてる

どの写真からも命の鼓動がきこえてくるみたい」

当時の彼女は、その数枚の写真を目を輝かせてながめながら、そんな感嘆の声をあげていたんだ、そんな彼女に

「へえーっ、さすが鞠絵ちゃんだな

キミはきっといいデザイナーになれるよ」

そのカメラマンさんはそう言ってね

「車ってのはねぇ、人間と同じように生きてるんだよ

でも多くの車は人間以上に早く朽ちていく運命にある
だからその輝ける最高の一瞬を 俺は残してやりたいんだ


写真と言う永遠にね」

「永遠… 」 彼の言葉をかみしめるようにつぶやいた彼女に

彼はこう話をつづけるんだ。

「俺は被写体になる車を徹底的に乗り込む、そして次に自分の手で徹底的に磨きあげる

つまりその被写体とトコトンまで向き合うのさ
そうすりゃカメラを構えただけで自然と
その車の最高のショットが撮れるんだ」

そんな彼の言葉に鞠絵さんはただ聞き入っていたんだけどさ…

そこで彼はこう言うんだ

「そんな中で見つけた究極の一台があのZ

Zは何から何まで最高の
まさに貴婦人(フェアレディ)なんだな」


と。



    ~つづく~

恋敵 ~大切な思い出~

今回は車のレストアを生業として、六十を過ぎてもなお現役で活躍する、ちょっとおっちょこちょいで人情にアツイ職人とその周囲の人間が織りなす物語を書きたいと思います。

お時間のある時にでもちょっとお付き合い願えれば幸いです

m(_ _ )m

その男、主人公であるところの 『里見夢次郎』 は、ある日なじみの解体工場から一台の車を買い取ったんだ。

でも、解体屋のオヤジさんは主人公がもっていこうとしてる車を見て思わず血相を変えて止めようとしたんだけど… もう、主人公はじぶんの店の車にその廃車を乗せていて引き止めるヒマも無く持って行ってしまったんだ。

オヤジさんは、その車が実は死亡事故車だって事もあって売り物にするつもりは無かったらしいんだけど、もう一つ主人公を引き留めようとした理由があったんだ。

主人公は、店に戻ってくると仕事の手伝いをしている孫に、その車の事を説明し始めたよ。

日産フェアレディ、その四代目のモデルとなったフェアレディZ… そしてその二年後に更に改良を加えて発表された240ZG、今回主人公がレストアしようとした車はまさに往年のカーマニア達のあこがれの的だったZGだったんだ。

とはいえ、彼の孫にはそんな話しはイマイチ実感がわかなくてさ適当に流したカンジだったんだけどね、ちょうど車体をばらし始めた時だったんだ、お店の電話が鳴って解体屋の親父さんから電話が入ったのは。

で、その電話で目の前の車が 『死亡事故車』 である事を伝えられたのとほぼ同時に、なにか気の強そうな女性が息を切らせながら主人公の店に駆け込んできたんだ。

彼女は第一声でいきなりこう言うんだ

「わ…
私の車…

私のZ返して…」 ってさ、

今まさに、主人公がバラし始めた車体をみて興奮した彼女が

「この車はあのお店にあずけてたのよ!

なのにどうして勝手に こんな事するんですかッ」

って声を荒げてね。

で、空気の読めない孫が

「預けてたって、こんな車を?」 とか言っちゃったもんだから、その女の人は孫の顔をひっぱたいてさ

で、こう言うんだ。

「あなた達には 『こんな車』 かもしれない…

…でも私にとって は大切な

大切な思い出なのよ… 」 ってね。

そんな彼女の態度に、本当に ”上辺” なんかじゃない 【気持ち】 を感じた主人公は、恥も外聞もなくただ素直に膝をついて詫びるんだけどさ… でも、”車を愛する者” としてただ一つだけ疑問に感じた事を彼女に質問するんだ。

「そんな大切な車をどうしたって野ざらしにしておくんだい?

いったい何があったっていうんだね?」 ってね?

本当に、自分でも言うようにおっちょこちょいで不器用なその主人公のまっすぐすぎる問いかけに、でも主人公の事を全然知らないその女の人は当然、少しこわばった表情でこう答えたよ。

「あなたにそれを語る筋合いはないわ」 ちょっとだけ、複雑な表情をうかべながらね。

そんな彼女の返答に、それは当然だと言いうカンジの顔で、でも主人公はこう言うんだ。

「ハハ…ッ、確かにね…、
車は元通りにしやしょう

でも あっしはご覧のようなレストア屋だ
元に戻すんなら いっそこの車が元気に走り回ってた
当時の姿に戻させてもらえませんかね」

その言葉に、彼女が驚くと

でも主人公は言うんだ

「解体屋であのZを見つけた時 あっしには聞こえたんじゃ

『まだ走れる』 『もう一度走りたい』 っていうあのZの声がな」

そんな風にいう主人公の言葉に、彼女は 「自分の愛するモノとまっすぐに向き合ってきた男の目の輝き」 を感じたんだろうか?上手く言えないけど、とても驚いた眼で主人公の方をみたんだ。

そして、そんな彼女に主人公はこう言葉を続けるんだ。

「そんな声の聞こえた車をあっしは売り物にはしねえ

このZもあっしのコレクションとしてレストアするつもりだった」

そこまで言ったけどさ、でも主人公はそこにこんな言葉を続けるんだ。

「でもアンタにあってそれはできねえと思った」

そんな主人公の言葉に驚く彼女に、主人公は今しがた内装を外していた時に出てきた古ぼけた写真を差し出しながらこう言うんだ。

「ここに写っているのはアンタじゃろ」 とね。

目の前にいる彼女とは、多少印象が違うけど確かに面影のあるその髪の長い女性は… まだ元気に走りまわっていたZに寄りかかるようなポーズをとっていたんだ。

そして、主人公は彼女の人生の一部に踏み込むようにこの写真の事を聞くんだ。

「ワシに声をかけてきたのは…

このカメラを構えた人間の影だという気がしてならねえんだ」 とね。

そして、彼女はその人影にすぐ気がついたんだ…

だから彼女は、その写真を見るととつぜん涙をこぼしてこうつぶやくんだ

「あ…
明信…」

そうして、彼女はその写真を抱きしめてうずくまると、声をあげて泣き始めたんだ。


   ~続く~


たった一つの事 ~カーテンコールに代えて~

実はね、あの 『病院での大暴れ』 の件なんだけど、最初に書くと面白さを半減させてしまうから書いてない部分があったんだ。

お兄さんは、大暴れしていたけどちゃんと妹の事に関してお医者さんの話しを聞いていて、アメリカで彼女の病気の特効薬が開発された事を確認しにきていたんだよ。

で、助からないと思っていた妹が、その薬さえあれば助かると知って小躍りして喜んでいたんだけど、

病院を抜け出した彼女が、体力を消耗して抵抗力がおちたらその薬も効かなくなる恐れがあると聞いて、そんな風に半狂乱になって飛び出していったという話しだったんだ。

つまり、彼女の病気は 『治る病気』 になっていたという事で、後味よく読み終えていただけたでしょうか

m(__)m