恋敵 ~大切な思い出~ | TWO ALONE ~二つの孤独~ 

恋敵 ~大切な思い出~

今回は車のレストアを生業として、六十を過ぎてもなお現役で活躍する、ちょっとおっちょこちょいで人情にアツイ職人とその周囲の人間が織りなす物語を書きたいと思います。

お時間のある時にでもちょっとお付き合い願えれば幸いです

m(_ _ )m

その男、主人公であるところの 『里見夢次郎』 は、ある日なじみの解体工場から一台の車を買い取ったんだ。

でも、解体屋のオヤジさんは主人公がもっていこうとしてる車を見て思わず血相を変えて止めようとしたんだけど… もう、主人公はじぶんの店の車にその廃車を乗せていて引き止めるヒマも無く持って行ってしまったんだ。

オヤジさんは、その車が実は死亡事故車だって事もあって売り物にするつもりは無かったらしいんだけど、もう一つ主人公を引き留めようとした理由があったんだ。

主人公は、店に戻ってくると仕事の手伝いをしている孫に、その車の事を説明し始めたよ。

日産フェアレディ、その四代目のモデルとなったフェアレディZ… そしてその二年後に更に改良を加えて発表された240ZG、今回主人公がレストアしようとした車はまさに往年のカーマニア達のあこがれの的だったZGだったんだ。

とはいえ、彼の孫にはそんな話しはイマイチ実感がわかなくてさ適当に流したカンジだったんだけどね、ちょうど車体をばらし始めた時だったんだ、お店の電話が鳴って解体屋の親父さんから電話が入ったのは。

で、その電話で目の前の車が 『死亡事故車』 である事を伝えられたのとほぼ同時に、なにか気の強そうな女性が息を切らせながら主人公の店に駆け込んできたんだ。

彼女は第一声でいきなりこう言うんだ

「わ…
私の車…

私のZ返して…」 ってさ、

今まさに、主人公がバラし始めた車体をみて興奮した彼女が

「この車はあのお店にあずけてたのよ!

なのにどうして勝手に こんな事するんですかッ」

って声を荒げてね。

で、空気の読めない孫が

「預けてたって、こんな車を?」 とか言っちゃったもんだから、その女の人は孫の顔をひっぱたいてさ

で、こう言うんだ。

「あなた達には 『こんな車』 かもしれない…

…でも私にとって は大切な

大切な思い出なのよ… 」 ってね。

そんな彼女の態度に、本当に ”上辺” なんかじゃない 【気持ち】 を感じた主人公は、恥も外聞もなくただ素直に膝をついて詫びるんだけどさ… でも、”車を愛する者” としてただ一つだけ疑問に感じた事を彼女に質問するんだ。

「そんな大切な車をどうしたって野ざらしにしておくんだい?

いったい何があったっていうんだね?」 ってね?

本当に、自分でも言うようにおっちょこちょいで不器用なその主人公のまっすぐすぎる問いかけに、でも主人公の事を全然知らないその女の人は当然、少しこわばった表情でこう答えたよ。

「あなたにそれを語る筋合いはないわ」 ちょっとだけ、複雑な表情をうかべながらね。

そんな彼女の返答に、それは当然だと言いうカンジの顔で、でも主人公はこう言うんだ。

「ハハ…ッ、確かにね…、
車は元通りにしやしょう

でも あっしはご覧のようなレストア屋だ
元に戻すんなら いっそこの車が元気に走り回ってた
当時の姿に戻させてもらえませんかね」

その言葉に、彼女が驚くと

でも主人公は言うんだ

「解体屋であのZを見つけた時 あっしには聞こえたんじゃ

『まだ走れる』 『もう一度走りたい』 っていうあのZの声がな」

そんな風にいう主人公の言葉に、彼女は 「自分の愛するモノとまっすぐに向き合ってきた男の目の輝き」 を感じたんだろうか?上手く言えないけど、とても驚いた眼で主人公の方をみたんだ。

そして、そんな彼女に主人公はこう言葉を続けるんだ。

「そんな声の聞こえた車をあっしは売り物にはしねえ

このZもあっしのコレクションとしてレストアするつもりだった」

そこまで言ったけどさ、でも主人公はそこにこんな言葉を続けるんだ。

「でもアンタにあってそれはできねえと思った」

そんな主人公の言葉に驚く彼女に、主人公は今しがた内装を外していた時に出てきた古ぼけた写真を差し出しながらこう言うんだ。

「ここに写っているのはアンタじゃろ」 とね。

目の前にいる彼女とは、多少印象が違うけど確かに面影のあるその髪の長い女性は… まだ元気に走りまわっていたZに寄りかかるようなポーズをとっていたんだ。

そして、主人公は彼女の人生の一部に踏み込むようにこの写真の事を聞くんだ。

「ワシに声をかけてきたのは…

このカメラを構えた人間の影だという気がしてならねえんだ」 とね。

そして、彼女はその人影にすぐ気がついたんだ…

だから彼女は、その写真を見るととつぜん涙をこぼしてこうつぶやくんだ

「あ…
明信…」

そうして、彼女はその写真を抱きしめてうずくまると、声をあげて泣き始めたんだ。


   ~続く~