TWO ALONE ~二つの孤独~  -7ページ目

たった一つの事 ~その11~

彼女がたどり着いた時に、もう電源は止まっていて暗闇にたたずむメリーゴーランドはピクリとも動かなかったんだ。

さみしそうに俯いた彼女が 『いい子』 になってあきらめようとした時、主人公が飛び出してきて

「ガキはガキらしくワガママを言ってみろ!」 って言って。

彼女が 「動いて、キラキラと光るメリーゴーランドを見たい」 っていうと、主人公は運転室に入っていって電源を入れて、

それを間近で見ていた 『亜矢』 ちゃんの目は、きらめくメリーゴーランドの明かりを映して輝いていたよ。

そんな彼女の笑顔を見て、どれだけメリーゴーランドを見たがっていたのかに、お兄さんは初めて気づいたんだ。

それで、なおも主人公を取り押さえようとする部下達を制止すると、お兄さんはこう言ったよ。

「ちくしょう、キレイな

メリーゴーランドだぜ」

と。



~終わり~

たった一つの事 ~その10~

それを見た主人公はブチ切れて、警察官を蹴飛ばしながらこう言うんだ。

「バカヤロウ!

ちっちゃな女の子のたった一つの願いも聞いてやれねーなら、

大人なんてやめちまいな!」 ってね。

それを聞いて、お兄さんまで逆上して主人公に殴りかかるんだけど、主人公は 『亜矢』 ちゃんに言うんだ。

「今のウチに見てこい!

ちゃんと神様に報告できるようにしっかり見てくるんだぜ!」 って。

彼女は、さっきは悲しみでクシャクシャにしていた顔を、今度は嬉しさでクシャクシャにしながら

「へーきち、大好き!」 そう言うと、メリーゴーランド目指して走っていったよ。



~続く~

たった一つの事 ~その9~

カチ割り氷で作った即席の氷嚢で 『亜矢』 ちゃんの額を冷やして、再び追いかけてきた警察から逃げる二人が遊園地にたどり着いた頃には日はすっかり暮れていたよ。

『亜矢』 ちゃんはとりあえず発作も治まって、二人がメリーゴーランドに向かおうとしたその時、突然たくさんの警察官がなだれ込んで主人公をモミクチャにしたんだ。

『亜矢』 ちゃんは、慌てて事情を説明しようとしたんだけど、

入院中に読んだ絵本に描かれていたメリーゴーランドを見て、ずっと本物を見たいと思っていた事や、主人公はその願いを聞いてここまで連れてきてくれただけだという事・・・

『亜矢』 ちゃんは、それをなんとか説明しようとずーっと持ち歩いていたメリーゴーランドの挿絵を見せたんだけどさ、妹を保護しようとしたお兄さんが彼女を引き寄せた時に、

その挿絵が警察官の足元に落ちてしまったんだ、踏み潰される挿絵を見て彼女の顔は涙を溢れさせながらクシャクシャになってしまったんだ。



~続く~

たった一つの事 ~その8~

「たった一つの事だけど、一生懸命やった事だもん神様もきっと許してくれるよね?」

彼女のその言葉に、主人公はものすごく心を揺さぶられてね、そして 『亜矢』 ちゃんは主人公にこう言うんだ。

「平吉さんはカラッぽじゃないよ・・・

空手が強いのも・・・・・ メリーゴーランド見るのも・・ 一生懸命やった事だもん・・ おんなじだよ」 そう言ってさ。

その言葉を聞いて、主人公は身体をふるわせながら言うんだ

「へへ、亜矢ちゃんと同じか・・・ 嬉しい事を言ってくれるねぇ」 ってさ。

そして、彼の中で 「こんな小さい子を放っておけない」 というくらいの気持ちだったものが、この時に 「彼女の願いを叶えてあげたい」 に変わったんだ。



~続く~

たった一つの事 ~その7~

もう治る事の無い病気を抱えて、ずーっと病院で本を読み続けていた彼女は、こう言ったんだ。

「だからねぇ・・・ アタシはメリーゴーランドを見るんだ。

そして・・・ 神様のところにいったら 『はい!アタシはこの目で自分が一番好きなモノを見てきました』 って言うの。

たった一つの事だけど、一生懸命やった事だもん神様もきっと許してくれるよね?」



~続く~