さて、オレの処遇を決める会議が物々しく開かれた・・・


オレに指を刺し罵声を浴びせる役員達。


「こんな中国語もなにも出来ないヤツを雇ってどうするんですか!」

「雇う必要はありません!」

「私はこんなヒゲ面と仕事をしたくありません!」

「とっとと日本に帰りやがれ!」

「私は納豆にマヨネーズを少し加えます!」

中国語の全く出来ないオレにはこう聞こえる。

自意識過剰で半泣きになってうつむいていると、



満場一致で、「検品、梱包、出荷部」 に決定!!!!


は?


「O田君、じゃあ早速これに着替えて」 と、S水さん


は?


いいんですか?雇ってもらえるんですか?


おいおい泣きながら(ウソです)


みんなと同じ緑色の作業服に着替え、「検品、梱包、出荷部」へ


さて緊張しまくりです。


みなさんの目が真新しい緑の作業着を着た、

ヒゲ面の気持ち悪い日本人に突き刺さるのです。


なんか言ってるんですけどわかんないんです。


作業を中国語で教えられるがわかんないんです。


見よう見真似しか出来ないんです。


パニックです。


「た、たすけてS水さ・・・・・・・・??」


いねえよ!どっかいっちゃった!


みんなの目が突き刺さるのです。




この街には日本企業の合弁(共同出資)会社グループがあり、

それぞれ、ABG,ABP,ABGL,ABGE,AAB,(仮名)がある。

これらの会社は安慶でもっとも大きな優良会社の一つである。

 

K木さんはこのグループの立ち上げ時から

安慶で奮闘してきた人の一人である。


このK木さんと二年前に安慶で会っていたので、

「中国で生活がしたいので仕事を紹介してください」

と日本から国際電話で頼み込んだのだ。


中国人まみれで、仕事をすればすぐ中国語ができるようになるだろう。

そうすれば中国中を自由に旅ができる、そう思った。

あと、もちろん、生活費のため。


K木さんはその中のABPでオレを働かせてくれるようだ。

ホテルにチェックインしてから早速、K木さんと共にABPに向かう。


社長室のドアをノックすると 「どうぞ~」  


ん?っと思ってドアを押すとそこには・・・・・


メガネをかけたガマガエルがいた。


K木さん「S水さん、どうか一つ宜しく頼むよ。」


S水さん「K木さんの頼みとあっちゃあしょうがない、引き受けますよ」


K木さん「ほらほら、何してんだ社長に挨拶しないか」


オレ「よ、宜しくお願いします!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そのあと、ABP幹部(全て中国人)を集めた物々しい会議が開かれた。


中国語も、パソコンも、機械操作も、

な~~んにも出来ないオレに何をやらせるかについてだ。


果たして、オレは飯の種にありつくことができるのか・・・・・・・?!






 


悪路を車で3~40分走り、安慶市内に到着。


んん~変わらないな。上海とはまた違う街の匂いがする。

上海より明らかに経済格差があり、街中がごった返している。



ここで、このブログの舞台である安徽省は安慶市を紹介することにする。


人口は約60万人、

長江(揚子江)の北側に面する。

都市部への出稼ぎ率、中国 NO、3

(安徽省からは20万人の乞食が各都市部に流れていると言われる)


安慶の主なる部分は、南に市街地、北に開発区に分かれ、

街は長江に面し、北の開発区にはたった一つの汽車の駅がある。


本当に小さい街で、北の駅から南の長江までタクシーで25分くらいだ。

しかし、人口密度が高く、週末の繁華街ともなるともの凄い人出になる。


安全面で言えば、間違いなく日本より安全だ。

ここに住んで一年になるが、危ない目に会ったことはほとんどない。

一度、信号待ちをしていると、いきなり知らないオバちゃんに

棒でぶん殴られたぐらいだ。

(このオバちゃんは無差別暴力を行っており、

オレを殴った後も発狂したかのように通行人を殴りつづけていた・・・)


あと、自転車はもの凄い速さで盗まれる。


問題は交通事故だ。3回ぐらい遭った。軽い物だっだので別に何ともないが、

道路を渡るのは命がけだ。

なにしろ、信号が少ない。あってもだれも守らね~~!

これでも最近になって増えてきたほうだ。

本当にでかい交差点には明らかにバイトの交通整理のおっさんが居る。

この人の言うことはみんな何気に守る。


この一年で道路を渡ることだけは、間違いなく上手くなった。

今なら日本の高速道路でも平気で鼻歌交じりで渡る自信がある。(たぶん)



朝早い便で、上海虹橋空港から、安慶に飛ぶ。


空港でK木さんにまたもや、「天ぷらそば」を食わされる。

「最後の日本食になるから食っとけ」だとさ。


一時間半後には二年ぶりに安慶のしょぼくれた空港に立っていた。


この時はまさか一年以上もこの町にいることになるとは思っていなかった。



セキュリティチェックも荷物の流れるコンベア-もない空港を出ると。


そこにガマガエルのような白髪の体躯のいい、芯の強そうなオヤジが居た。

K木さんに紹介される。


「O田と申します。宜しくお願いします。」 と私。


「こちらこそ、S水と申します。」 とガマガエル。


握手をしながら、嬉しそうにオレのバックパックを見て言った。

「俺も昔はこんなの担いでよく山に登ったもんだ。」

一目でこのオヤジが好きになったが、

これがオレとS水さんの因果の始まりだった・・・・・・・・・








上海二日目だ。今日も昨日の張さんと約束していたが、

急な仕事が入って無理になったらしい。思わず、


よし!


というのも彼女と居ると行きたいところに行けないのだ。

オレが行きたい所、すなわち、チョピリ危険な匂いのするところだ。


ここぞとばかりに、カメラとフィルムを携え、出発!


だが、K木さん宅は新興住宅地のようなところにあり、

そういうところを探すのは難しい。

だが、歩き回ること1時間、ようやくめっけた。


小さな川、大きな用水路と言う感じのものを挟んで、

南に超高層高級マンション、北にバラックが立ち並ぶ、

スラムと言おうか、長屋と言おうか、という感じの

いかにも、オレの好きな集落があった。

迷わず小さな橋を渡り、集落に入っていった。


ん~やっぱりいい!くさいくさい!ちゃんとくさい!最高だ!

道端に落ちている、野菜や果物の屑が腐っている匂い。

魚屋や、市場から漂うなんともいえない新鮮な腐敗臭。


ドブ川のような溝に流れる新緑の葉っぱ。

ド汚い灰色のコンクリートの壁一面に干された、色とりどりの洗濯物。

ん~おばちゃん!派手なパンツはきやがって!

じゃなくて、コントラストが本当に美しい。心から綺麗だ。


オッサンは道に椅子を引っ張り出してパンツ一丁で寝てるし、

子供に至っては真っ裸、裸足だ。

オバちゃん同士の井戸端会議は、

乳首スケスケ、パンツ丸見えで大口開けてでかい声で喋ってる。


臭い、汚い、羞恥、貧困、


これらがこんなにも素晴らしく、美しく、羨ましく、

見えてしまうほどオレ達は腐ってしまっているのか。

人間が人間として、人間らしく生きていくことをタブーとする

日本という国がここに来ると本当に恐ろしく感じてしまう。

ここには、人間がいる。ちゃんとバカで、ちゃんと情けなくて、ちゃんと愚かだ。

この人間臭さを嗅ぎたくて、もう一度中国まできたのかもしれない。


だが、この用水路の南側が示すように、

中国でもあんな物が理想とされてしまっている。

日本人のオレが中国人に、あの理想はクソだ!

といっても何の説得力も無いだろう。

中国人からすると金持ちに見えるであろう自分が、

金持ちになんかなるな!人間らしさを失わないでくれ!

といくら声だかに叫んだところで傲慢極まりない。

オレにはただ、中国がいくら発展しても日本のような間違いをして

腐った、人間味の全く無いスカスカの国になって欲しくないということだけだ。

この気持ちはこの後、貿易会社で働くことになるが、

いまだに心の中に滞ったままだ。


明日は、とりあえずの目的地、  安徽省は安慶へ


ここには、さらにたくさんの人間達がいる。






食事に向かった先は、K木さんお気に入りの店。


その名も 「吉兆」


メニューはと言えば、日本のファミレスのようなもの。

夜は和食居酒屋のようなメニューになる。


あんの~K木さん、わざわざ40数時間かけて中国に中途半端な

日本食を求めてはるばるやって来たわけではなんですけど~


奢ってもらってるのでそんなことは言えず、麒麟ビールで乾杯。


「K木さん、って言うか、いつのまにか同じテーブルで飯食ってる、

この女子はどちらさんですか?」


「ああ、張さんだよ。上海案内してもらえ。俺はマッサージ行って寝る。」


と言うわけで意味もわからず、張さん:日本語ぺらっぺら。28歳。

と上海の街にくりだした。

バンド、国際美術館、画廊、などに連れて行ってもらうが、

全くおもしろくない。 

(自分で最悪だと思うが張さんが好みでないのが一番の原因だろう)

と思っていると、K木さんに再び吉兆に呼び出される。


K木さんの友達も加わり4人で宴会。


ああ~早く横にならせてくれ~

実は長い船旅で、体がず~と揺れ続けていたので、

一瞬で酔っ払いました。


こんな感じで上海第一日目は終了。










朝はみんな早起きして今か今かと、中国到着を待ち望んでいた。

陸影が見えはじめ、だんだんデカくなる。

港のようなところに近づき、

到着か!と思いきや、船は海から川へ進入し、登って行く。

川の周りには造船所、工場が雑然とひしめき合っていて、

それだけで日本ではありえない光景だ。


それでもだんだんと、町並みがキレイになってくる。


あれ?見たことあるな・・・


ここってまさか・・・・・・・・・・


着いちゃったよ上海!!!!!


2年前に来たときと同じ匂いがする。

2年前に来たときと同じ様に空気が肌にまとわりつく。

この匂いが、空気が中国だ。とてつもなく中国だ。(別に臭いわけじゃない)


もう二度と会うことは無いであろう仲間達と最後の朝ご飯を食べる。

「中国に着いてから、この船のような楽しいことがこの先あるんだろうか?」

と、小野瀬さんがポツリ。


あんたさ~それは言っちゃいけないでしょう。

みんなそれは言いたくても言っちゃいけないことなんです。たぶん。


というか、あるにきまってんだろうが!!

人口13億、高度経済成長真っただ中、

新・旧、整理と雑然、金持ちと貧乏、都会と田舎、

グチャグチャとピカピカが混在するこの国で面白いことが無いわけがない!


パッキングを済ませ、仲良くなった船員達にさよならを言う。


船を下り、港内をバスで移動、

入国手続を済ませ、みんなとハグして別れる。

「いい旅を!」


二年ぶりの上海の空気の中をドキドキ一人満喫しながら、待ち合わせ人を探す。

いた!いた!日本人だか中国人だかわからない。K木さん


「お~、無事についたか。おじいさんは元気にやってるのか?」

まったくこの人は、開口一番これである。なぜかウチのもうろくジジイが大好きなのだ。


とりあえず、家に連れて行ってもらって、酒を飲みに散歩にくりだす。






大盛り上がりのうちに夜はふけて、

皆がベロベロでゲームにならなくなってきたので、

ぴんぴんしている紅一点、ノリコを連れ出して、

潮風たなびくデッキでお話。


彼女は今回中国で少数民族の民族衣装を見るために

中国へ行くのだという。根性入っていて「一年は帰らね~」と言っていた。


彼女のエピソードを一つご紹介。

今回、海外に出るために彼女は初めてパスポートを取得した。

そのときに初めて、自分が朝鮮民族だということを知った。

三世で苗字も与えられていたので、両親も娘の対外的なことを

考えて、彼女に伝えていなかった。

「アタシには金(キム)っていうベタベタな朝鮮名があんの」

と、気持ちのいい笑顔を浮かべて言った。

現実をありのまま受け入れ、肯定できている彼女を素直に尊敬できた。

自分がもし、いきなり母親に

「あんたは実は隣の佐藤さんチの子なの」

とか言われた日には、3年間は引きこもるだろう。

とても彼女の様にステキに笑える自信は無い。


ノリコとアタシは東京で通っていた学校が歩いて十分、

関西の実家が電車で二十分という

共通点満点なので話に花が咲く。


アホなオレは、ムフフフ・・・・・・・・・いい感じだ。


はっ!!!


視線を感じ、後ろを振り返るとそこには


ビール片手にニコニコ顔の小野瀬大菩薩像が・・・・・・・・・


小野瀬さん・・・あんたは俺の船旅での楽しみをぶっ潰すために

ばあちゃんが送り込んだ背後霊だったんですね・・・・・・・



ともあれ、明日の朝には中国だ。

カウンターでラケットを借り(300円時間無制限)、

いよいよ卓球開始。

今まで菩薩の人柄に勘違いしていて

ちょっと、舐めていた小野瀬さんを

技術が俺のほうが少し上だったので、

かる~くひねっていた。


ところが・・・・・・・・


俺に2連敗した後、修羅が顔を出した。


自分の顔をバンバン叩いて気合を入れ始め、

「ッシャア!!」と雄叫び一発。


さすが、極真空手全国ベスト16の動きと勢いとパワーに

少しの技術の差は吹き飛ばされてしまった。

ゆれる船の上での過激な運動でだんだん気分が悪くなってきた俺を尻目に、

どんどんテンションが上がって強くなる修羅。


「お、小野瀬さんちょっと休憩しませ・・・・・・」

と言っている俺の顔面にスマッシュが飛んでくる。


おら!もういっちょ!あ!ちくしょう!こら!ふん!どりゃ!


あーれー


床に倒れこむアタシ。


気づくと小野瀬修羅は周りに居た嫌がる中国人を引っ張り込み

暴れまわっていた。


汗だくなのでシャワーを浴び、

菩薩に戻った小野瀬さんと食事にいった。


ここで、続々と新規メンバーが。

軽く、紹介しておきましょう。


ディレック  (アイルランド) 日本で英会話の教師

ケビン    (アメリカ)    日本で英会話の教師 (いなり寿司が大好物)

小野瀬さん (日本)      極真空手全国ベスト16

ノリコ    (朝鮮:国籍は日本)   服飾デザイナー

張さん    (中国)      大阪で貿易商を営む

カトウ     (日本) ギャンブラー(この旅もマカオで一攫千金が目的)


わいわい食事した後、トランプ再開!(それしかないのか!)

みんな、7ならべ(ヒチナラベ)がお気に入りで、

いい大人がキャーキャー言って大いに盛り上がる。 

昨日の腹いせでここぞとばかりにディレックに圧勝。


国籍、職業、肌の色、過去、悩み、

そんなもん、どうでもいい!

今この瞬間が楽しい。

旅の素人としては、そんな当たり前のことが

とても、とても嬉しかった。


ビールの自動販売機既に売り切れ!完売!


楽しくて、ハシャぎ過ぎていると、小野瀬さんが

「お前、昨日のあの感動的な別れはなんだったの?」

「さあ~?しらね!!」











船は順調に日本海を進んでいく。


仲良くなった小野瀬さんと、とりあえず、ビールで乾杯。

お互いの過去の話に花が咲く。


ビールの自動販売機の前でメガネのヨーロッパ系の

男がパニクッってるのを発見。

「お金を入れたのにビールが出てこないんだ」

と言うようなことを何とか聞き取り、

船員さんに助けてもらいって

3人で再び乾杯。

新規メンバーのアイルランド人。

その名もディレック。

3人でトランプ開始!

アイルランドのゲームでとてつもなく盛り上がる。


ゲームは深夜にまで及ぶが一度もディレックに勝てなかった。

遊びつかれてそのまま就寝。


翌朝、朝飯にディレックと同室のケビンが参入。

かなりの男前だ。美男だ。

気づけば、この船で朝ご飯以外を食堂で食べているのは

小野瀬さんと、俺だけだった。

その他は皆コンビニなどで調達してきている。

船の料理は高くて不味い。


食後、ディレックは 「洗濯して寝る」

    ケビンは 「読書」(孟子の本)

とのことだったので、小野瀬さんと地下へ。

そこは、さすが中国の船。

卓球、麻雀 カラオケ などがあった。


こんなトコに来てまで麻雀は嫌なので


卓球!

これが間違いの始まりだった・・・・・・

ここで小野瀬菩薩が闘争の鬼、修羅に変身することになる