上海二日目だ。今日も昨日の張さんと約束していたが、
急な仕事が入って無理になったらしい。思わず、
よし!
というのも彼女と居ると行きたいところに行けないのだ。
オレが行きたい所、すなわち、チョピリ危険な匂いのするところだ。
ここぞとばかりに、カメラとフィルムを携え、出発!
だが、K木さん宅は新興住宅地のようなところにあり、
そういうところを探すのは難しい。
だが、歩き回ること1時間、ようやくめっけた。
小さな川、大きな用水路と言う感じのものを挟んで、
南に超高層高級マンション、北にバラックが立ち並ぶ、
スラムと言おうか、長屋と言おうか、という感じの
いかにも、オレの好きな集落があった。
迷わず小さな橋を渡り、集落に入っていった。
ん~やっぱりいい!くさいくさい!ちゃんとくさい!最高だ!
道端に落ちている、野菜や果物の屑が腐っている匂い。
魚屋や、市場から漂うなんともいえない新鮮な腐敗臭。
ドブ川のような溝に流れる新緑の葉っぱ。
ド汚い灰色のコンクリートの壁一面に干された、色とりどりの洗濯物。
ん~おばちゃん!派手なパンツはきやがって!
じゃなくて、コントラストが本当に美しい。心から綺麗だ。
オッサンは道に椅子を引っ張り出してパンツ一丁で寝てるし、
子供に至っては真っ裸、裸足だ。
オバちゃん同士の井戸端会議は、
乳首スケスケ、パンツ丸見えで大口開けてでかい声で喋ってる。
臭い、汚い、羞恥、貧困、
これらがこんなにも素晴らしく、美しく、羨ましく、
見えてしまうほどオレ達は腐ってしまっているのか。
人間が人間として、人間らしく生きていくことをタブーとする
日本という国がここに来ると本当に恐ろしく感じてしまう。
ここには、人間がいる。ちゃんとバカで、ちゃんと情けなくて、ちゃんと愚かだ。
この人間臭さを嗅ぎたくて、もう一度中国まできたのかもしれない。
だが、この用水路の南側が示すように、
中国でもあんな物が理想とされてしまっている。
日本人のオレが中国人に、あの理想はクソだ!
といっても何の説得力も無いだろう。
中国人からすると金持ちに見えるであろう自分が、
金持ちになんかなるな!人間らしさを失わないでくれ!
といくら声だかに叫んだところで傲慢極まりない。
オレにはただ、中国がいくら発展しても日本のような間違いをして
腐った、人間味の全く無いスカスカの国になって欲しくないということだけだ。
この気持ちはこの後、貿易会社で働くことになるが、
いまだに心の中に滞ったままだ。
明日は、とりあえずの目的地、 安徽省は安慶へ
ここには、さらにたくさんの人間達がいる。