ある日曜日の朝。


仕事は休みである。


今朝も向かった、あの肉まん屋。6月17日のブログの店である。


去年の夏の盛りのことで、短パン、T-シャツ。


一元(約13円)で4個の肉まんをゲットし、ニコニコしながら、

アパートの四階の部屋の玄関に辿り着いた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



は!うへ!どぅお!マジでーーーーーーーーー!?ぺーーーー!


ヤッてしまった。ついにヤッてしまった。


鍵を持って出るのを忘れた・・・・・・・・・・・・


実は中国の家の鍵の8割はドアを閉めるのと同時に

鍵がロックされる仕組みになっているのだ。


なんてこった・・・・・・・・・・・


茫然自失、何も考えられない。


とりあえず、

手の中のホクホクの肉マンさん達に話し掛ける。(日本語で)


ねえ・・・・・どうしよう。


「しょうがないよ。忘れちゃったんだから。」


うん、でも部屋に入れないよ。


「そうだね~でも俺達って熱いうちに食べないとおいしくないよ?」


そうか、、、じゃあ、先に食べてからどうするか考えるよ。


「うん、そうしな。」


いただきます


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・完食


話し相手が居なくなった。



どうしよう。


は!


そうか!携帯電話で・・・・・・・・・・・・・・部屋の中ですよね、もちろん。


アパートの階段に座り込み、しばし、悲劇のヒロイン。


アタシはなんて不幸なの?

どうして?

せっかくの休みの日で、今日は写真を撮りまくるはずだったのに。

なんで?

肉まんを食べて、オーガズムを感じてちゃいけないって言うの?

どうすりゃいいの?

中国の片隅で打ちひしがれて、なんてかわいそうな私。


同じ、アパートの住人達が変な日本人がうなだれているのを

ジロジロ見ていく。


ある人は、「なにやってんだこんなところで」

ほっといてくれ!


そ!う!だ!

CGC貿易の友達が一人、歩いて25分位のところに住んでるから、

助けてもらおう!


気を取り直し、歩き出す。


暑い。うだるように暑い。

汗がたらたら、背中をつたう。


ようやく、辿り着いた。友達の家。


扉をゴンゴン!すんませ~ん!


ガチャッ! 「あ?」


「すいません、周善徳さんはいらっしゃいますか?」


「いねえ。」 バンッ! ・・・・・・・・・・・・・・・・・終った。



本当にどうしよう。このままでは暑さで干からびてしまう。

金も一円も持ってない。(日本円持ってても意味が無い)


朦朧とする頭の中に浮かんだのは、ガマガエル。じゃなく、S水さん。


そ、そうだ。今おれが頼れるのはあの人しか居ない。


だが、ここから彼の家まではおよそ30分は歩かなくてはいけない。


だが行くしかない。再び歩き出す。


ジュースを飲んでるガキや、

スイカ食ってるババアを睨み付けながら歩き続ける。


ここをまっすぐ行って・・・・・・・・


ここで曲がって・・・・・・・・


この坂のぼって・・・・・・・・


ここの携帯電話屋を曲がったところに・・・・・・・・


つ、ついた。


ピンポーン!


ガチャッ 「あ、S水さん、すみません急に。」


「おー、どうしたこんな朝早く。」


「実は鍵を部屋の中に忘れちまって・・・・・」


「ああ、そうなの、まあ上がれよ。」


「すみません、失礼します。」


話を聞くと、S水さんも同じ経験が何度もあるそうだ。


水を飲ませてもらい、

鍵を持ってる人に連絡してくれ、

コーヒーまで入れてくれた。


その後、会社の人が鍵を持ってきてくれ、帰ろうとしたら、


「今日、昼に皆でカニを食おうって言ってるからお前も来い。」

「はい。よろこんで!」

今日は遠慮したかった。だが、世話になっといて断れまい。


案の定、ベロベロになり、胃の中のものを全て吐いても許してもらえない。

次々とグラスに白酒(アルコール度数45~55%)がなみなみと注がれ、

全て一気で飲まされる。

半分しか飲まないと、

「てめえ、おれの酒が飲めねぇってのか!」 となる。

8人で飲んだら、一人ずつと乾杯しなけりゃならないので、

最低合計14杯、まあ、一人一回で終るわけは無い。

結局、後半は何も覚えていない。

灼熱の午後の太陽の下で、

自転車にまたがり、フラッフラしながら、

「ころされる、逃げないと、ころされる」

と頭の中で繰り返していたことは覚えている。


鍵は二度と忘れないと誓った。




















 

オンナとオヤジが近づいてくる。

 

距離にして、およそ2,5メートル。

 

オヤジが店に入ってくるまでの数秒で

2~3発殴られる覚悟で逃げ切る作戦を考える。

無理だ、逃げられない!ヤバイ!

 

入ってきた!ヤラれる。


オヤジがタバコをくれる。

 (中国では基本的な礼儀作法だ)


「この人ここの用心棒なの。警察とか心配でしょ?じゃあ上に行こっか。」

と女。

 

アドレナリン出まくりで、ビビリまくっている

おれはすぐに判断がつかず、オロオロする。


オヤジがタバコに火を付けてくれた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?あ?そゆこと?

 

数秒考え、ミョーに納得してしまった。

(今考えると、これで納得するのもアホな話だ、危険すぎる)

 

「早く早くっ」

と即す女と薄暗く、狭くて急な階段をギシギシいわせながらニ階に上がる。

この時点ではもう完全に開き直っていた。まさしく「どうにでもなれ状態」

 

そこに明かりはほとんど無く、80cm×170cmくらいの、ち~さなベットが

カーテンで仕切られただけで、4~5個並んでいた。

 

微妙にカビ臭く、他にも汗や体液の匂いが混じりあってる。

その匂いで、この場所でもの凄い数の行為がわれたことが頭に降ってきた。

 

少し複雑な、嫌な気持ちになる。

 

ベットは固く、薄汚れている。


シーツも少し湿っているようだ。

 

一番奥のベットに腰を下ろす。

 

女が隣に座ってきた。


「いくら?」 と、おれ。価格交渉開始だ。


「なにが?」


「なにってあれだよ。」


「あははは、あれってなによ。」


このやろう、わかってるくせに言わないつもりか。


「で?いくら?」


「ん~、一番安いのが 2 、その次が 6 、一番高いのは 8、かな。」


安い順番に、手、口、本番。ってことだろう。


もちろん本番を選んだ。 


早速ジーパンを脱ぎ始める女。


スタ~ト~


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ピリリリリッ。ピリリリリッ。ピリリリリッ。


こんな時に電話してくんじゃねー!誰だ!くそったれが!


は!ヤベェ!姐御だ!

ピ!

「はい、もしもし?」

「あ?○田さん?いまどこ?」

「ん?ん~まだ外をブラブラ歩いてますけど。」

(ウソ付け!思いっきり女が上に乗っかってるじゃねーか!)

「どれくらいでもどれる?道に迷ってない?」

「あ~ぜんぜん大丈夫ですよ。しばらくしたら戻ります。」

「あらそう。じゃあよかったわ。帰りにスイカ買ってきて。」

「ス、スイカっすか?わかりました。一個でいいですか?」

「そうね~」


ここで、上に乗ってる女が動き始める。ニヤニヤしながら。

「うおっ!じっ、じゃあ、スイカ買って帰りっます!んで!あは!」

「ねぇ、ホントに、だいじょうぶ?」

「大丈夫ですから、だ、大丈夫ですから、じゃ、あとで。」  ピ!



この女。やってくれるわ・・・・・・・・・・・


女はしてやったりと、クスクス笑い、楽しそうだ。


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終了~ プァ~~!


もちろんシャワーなど無い。

ティッシュで拭いて終わりだ。

服を着て女と1階に下りる。

オッサンがタバコを吹かしていた。


一番心配な金を払う瞬間がやってきた。


先に 「8」 と言われていたのだが、

一応、聞いた。「いくらだっけ?」 


ボラれるのではないか、とかなりドキドキだ。

このオッサンには勝てそうにない。



「80元。」


は?なんとおっしゃいました?


80元? おれはてっきり、800元だとばかり思っていた。


800元だと給料の8割なので

今月は、餓死しないかしらん?と心配していたのだが・・・・・・・・


80元と言えば、日本円で約1040円だ。


千円と消費税?なの?


100元支払い、オッサンボクサーから20元を受け取り、


「また来てね~」と二人に見送られて店を出た。







スイカを買いに行った。


ついでに、飲み物と髭剃りなどを買った。


83元だった。



ビニール袋に入って

揺れるスイカが妙に重かった。

















「頑張ってるから」と言うことで、出張に連れて行ってもらうことに。

なぜご褒美が出張なのがいまいちわからないまま出発。

まあ、中国国内旅行と思うことに。


メンバーは陳曉麗(総経理、姐御)、張志華(副総経理、若頭)、 アタイ。

つまり、CGC貿易、No1,2 とぺーぺー日本人というチーム。


順調に客先をまわり、蕪湖で何朝雨(営業部長)と合流。


実は・・・・・・・・この何部長がよその会社から 

引き抜きを受けていることが発覚し、それを阻止するために、

蕪湖に呼びだしたのだ。


ぺーぺーが一緒に居ては話がしづらいであろうということで

姐御が「2~3時間、蕪湖を観光してきたらどう?」


ということで一人、街へとくりだした。


ウシシシシシシシ。


今日こそあの計画を実行する絶好のチャンスだ!


安慶に昼間は散髪屋(洗髪屋)、夜は怪しいピンク色で

店内が覆われるという、店がある。


いかにも、男の性欲をくすぐる妖しい様子で、

あたりが暗くなると中からオンナが

「イラッシャイ、イラッシャイ」 「おいでおいで」

とやっている。


きっと、この蕪湖にもあるだろうということで

裏路地を中心に歩き始めた。

もともと、裏路地やいかにも危ないところが大好きなことと

地理に関する動物的<感>で探し回った。

こういう感は東京で身に付けた。

大阪から上京して間もない頃、右も左もわからない東京で

「道に迷っても絶対にUターンしてはならない」

という掟を友達と頑なに守り、

二年後には大阪上京組みは東京人よりも東京の地理に詳しくなった。


さてさて、話を戻すと。

30分ほど歩いて、ピンク色を放つ店を2~3件発見した。

だがそこで、老板に、(中国語で店長、店主、オーナーの意味)

「おい、そこのニイちゃん、オンナ探してんのかい?」

と、話し掛けられると、ビビって

「いえいえ、滅相もございません」と小物丸出しの返事をしてしまう。


1~2時間歩き続け、言い訳と妄想を繰り返す。


ボラれたらどうしよう、

非合法だしな~、

姐御にばれたら、確実に消される。

怖いお兄ちゃんとか出てきたら嫌だな~

病気とかも嫌だな~、


警察に捕まり、

強制送還され、

母親に泣かれ、

姐御にタマを狙われつづける想像を何度も繰り返す。


だがここまで来て何もしないのも日本男児がすたる。

(もう既に男らしさのかけらも無い)

だがそろそろ、タイムリミットだ、焦る。

期待と恐怖にさいなまれ、

ドキドキで、脈打つ心臓とムスコを抑え、探しつづける。


くらい一本の路地裏に、ピンク色を発見。

時間が押し迫っているため、これが最後と決断する。


いかにも関係ありません、オンナなんかいりませんという風に、

チョ~自然な感じを装い、素早く、周囲と、ガラス戸の店内をうかがって店を素通り。

女がソファーに寝転んでいる。

よし、なかなか可愛い!十代か?

店と道路を挟んだ向かいに、屋外ボクシングジムのようなものがあり、

オッサンが一人、一心不乱にサンドバックを叩き続けていたのが気になったが、


東京で苦労を共にした友との固い掟を破り、引き返す。


そして、動悸を抑えながら、ついにピンク色のガラス戸に手をかける。


まだ開いてる?緊張をおさえつつ、いかにも慣れてる風を装って聞いた。

店内はピンク色で薄暗く、散髪用か化粧台のような物の上に、

化粧品や、空き缶などが散乱し、

シミだらけの壁には色褪せたポスターが雑然と張られている。


ソファーから起きようとせず怪訝そうにオレを観察しながら

女が訪ねる。「*****?」 


聞き取れなかった。


「そうそうそう。」 適当に相槌を打ちながら、

空いている椅子に腰を下ろす。

よく見ると、女は最初の印象よりも少し歳をとっているが、

別に、老けている訳ではなく、それでも、22,3歳だろう。

ベルボトムのジーパンに10月だというのに、キャミソール。

細い。

ストレートの髪を少し茶色に染めてるように見える。

(店内は薄暗いピンク色のため、色はハッキリ判別できない)


「わかった、ちょっと待ってってね。」 聞き取れた。


ふ~、胸をなでおろす。


が!なんと!そのとき!!


女がスッと店の外に出て、向かいでサンドバックに

ラッシュを繰り返すオヤジに声をかけたのだ!!


おいおいおいおいおいおい!!ヤバイ!おいおいおいおい!


逃げるか?!おい!どうする?! 

動悸が激しくなる

考えてるうちに、逃げるタイミングは無くなった。








会社では、日本人ということもあり、

それなりの権限と、ポジションを与えられた。


ですが、私には会社勤めの経験が全然無いのです。

ましてや、大学すら出てないのです。

それに、中国語も出来ないのです。(少しずつ進歩はしておりますが)


通訳を除くその他大勢のたくさんの専門職の方たちからは、

それはもう、御飾り、おんぶ抱っこ、姐御(総経理)の皮をかぶる狐。

給料はみんなの5倍(同じだ!)だという噂も流れ、またく相手にしてもらえません。


通訳や、貿易業務情報管理も、相手はほとんど年上の方たちです。

何もわかってねー若造が一丁前に指示してんじゃねー!

と言われている噂も聞きました。


だ~が~



そんなことで捻くれるほどアタイはヤワじゃございませんわよ。

必死で日本からの苦情、滞っている案件を処理し、

まず、日本側の信用を勝ち取り、

日本からの情報が全て私のところに集まるようにし、

その上で、安慶側の要求を日本側に認めさせること数知れず。


そうこうしているうちに、勝手に事務所の皆に認められるようになり、

仕事が上手くさばけるようになってきました。

ここが姐御采配の上手い(ムカツク)ところで、ちょっとできるようになると、

さっさと次の課題が与えられる。


日本側と関係が上手くいっていない、部分をどんどんおれに回し、

すぐ、イっぱいイっぱいにさせられる。


こんなこともさせられます。

本社の営業マンで中国からの商品に、ありとあらゆるイチャもんを付け、

いつも工場請求額の半分くらいしか支払わないことがザラで

中国側では、この営業マンから見積や引合いがあると

みんなで、その案件を押し付けあうくらい嫌われている。

だけど、注文をバンバン取ってくるので文句がいいづらい社員がいて、


その社員に、またもや商品にイチャもんが付けられ、

代金が支払われていない、というのです。


中国ではザラですが、代金が支払われないと流れ物の商品で、

次の注文も受け取っていてるにもかかわらず工場は生産をストップします。


「前の金もらってねーのに、作ってやるわけねーだろ!ボケ!」


って感じです。


だもんで、なにが何でも、日本側から代金を回収しなければなりません。

中国での仕事は、人間関係がなによりもものを言います。

袖の下みたいなこともよくやります。


商社やメーカーで海外取引を行ったことがある方は

このようなムカツク経験があるかと思います。

そこで私の仕事は

納期が迫っていることをエサにして、その営業マンに価格交渉を持ちかけます。


「あの~金払ってもらえないと、今回の商品上海から出港できないんですけど~」


最低です。確実にこれは、「ユスリ、タカリ」に分類される仕事です。


この件でこの営業マンには徹底的に嫌われています。


嫌な交渉能力が身についていた今日この頃であります。




安慶滞在も3ヶ月となり、

安慶合弁会社グループの一つ、ABP工場から


CGC川貿易にヘッドハンティングされる運びとなりました


ABPの社長であるS水さんに事情を告げると快く、

「そのほうがお前のためになるかも知らんな」っと言ってくれた


本当にお世話になりました。

といっても何度も一緒に酒を飲み、

そのたびに吐いてぶっ倒れるまで飲まされる。

この関係はこの先もずっと続く。

 

実は、辞める前からABPの仕事が終ると、すぐCGC貿易に向かい、

日本語の翻訳の手伝い、

日本語の先生、

中国語の授業を受けたりと、毎日通っていた次第であります。

(食事をご馳走してもらうのも大きな目的の一つ!)

すなわち社内営業を開始していたのです。

(給料はもらってなかったから、二重契約にはならないよね?)

 

CGC貿易を紹介しますと、

日本の独資会社で

社員128名、(内、工場70名)貿易商社のほかに、

船舶エンジン関係の油浄化ユニット、その他船舶製品、板金製品を自社生産する。

日本の親会社はH産業という船舶用のポンプなどを扱い、

現会長が一人で立ち上げた会社がCGC貿易という貿易会社を買収し、

四国は今治に本社を構え、支店を神戸に持つ。

自社製品の製造コストや、貿易商品の工場管理などの必要性から

社長(33歳、男)が中国は安慶に独資で5人から会社を設立し、

五年でいまの128名に膨れ上がった。

貿易商品は多種多様な物に発展し、「何でも屋」の異名をとる。

特に、船舶関係、機械部品、製鉄製品、鋳物、などで、大手商社が

手を出しても絶対儲けにならない部分をつき、順調に業績を伸ばしてきた。

現在、ウチの秘密兵器は「ゴミ袋」


安慶でその頂点に君臨するのが、姐御こと

安慶CGC貿易有限公司

総経理 陳曉麗 38歳 (女)である。


入社日にはパソコンも机も準備されており、

ここで、の~んびりしながら中国語と貿易の勉強をしていこう、

と考えておりました。

ところが!

そんな甘~い考えは一瞬で消し飛ぶことになります。


日本人が一人も駐在していないこともあり、

会社勤めもまともにした事の無い私に、姐御が与えた仕事は


①社員通訳10人の教育及び管理


②日本の親会社とのやり取りの情報管理

  (国柄、習慣が違うためすぐ喧嘩になる。それの仲介役)


③マスコット:出張、接待、会議、営業とあらゆる場面で

         ニコニコしながら酒を飲んだり、お世辞を言う


④人事(私がどの派閥にも属さないため)


⑤姐御の秘書的(付き人?)業務


⑥営業(日本人ブランド力?あんのか?)


⑦貿易商品のひとつの工場管理(勉強のため。らしい)


⑧本社からのクレームや要求に対する対応


⑨お客さんに対しての中国式夜の接待(法律違反、犯罪になります)


だれかこの仕事の名称を教えて!!!!


(これで、給料は月1000元です。約13000円です)

ついに、このことを書く日がやってきた。

この女との出会いが、この短い人生でかなりのウエイトを占める。


ある日、K木さんがいきなり工場にやってきてこう言った。


「貿易会社の女社長を紹介してやる。」


その会社は、ABPから程近い距離にある、安慶ハイテク技術ビルの二階にあった。

かなりでかい事務所だ。クーラーも効いている。


一番奥の扉をK木さんが慣れた感じで開ける。

「ああ~K木さん!どうもお久しぶりです~!」


出て来たのはショートカットの20代後半と思われる

メガネをかけ、中国人らしくない、スーツを着た女性だ。


「この方がそうですか?」と女社長

「そうそう、前に話したろ?貿易の勉強がしたいんだとさ」

「若い人ですね~」

「そらそうだ、おれの息子より若いんだからな」

「じゃ、そろそろお昼ですし、食事に行きましょう」


食事の席で彼女とは色々な話をした。

あまり内容は覚えていないが、

頭のよさそうな人だと思った。

会話をしながらいろいろとおれに対して、

テストをしてくるのがわかった。

オレも彼女がいかにも喜びそうな言葉を選んで答えた。


その日の夜、ホテルの部屋で、休憩しながら、

あの会社で働いたほうが楽しそうだな~

今の工場じゃ中国語と中国一般の習慣は勉強できるけどそれだけだな~

などと考えていた。


そこに女社長から運命の電話が。


「私は今日あなたとお会いして、是非ウチの会社にきて欲しいと考えています」


「よろこんで」           ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・即決!!!!


しかし、わざわざABPを紹介してくれたK木さんの手前と

S水さんのことを考え、3ヶ月はABPで働くつもりだ、と伝えた。


「それは問題ないです。来ていただけるのであれば。

 仕事が終ってから時間のある日は

         いつでも事務所に遊びに来て下さいね。」


数日後、遊びに行くとそこには中国語の先生が用意されていた。


私はそのとき本当に感激しました。

中国人とは徹底した利己主義で利益の無いことに関わろうとしない。

と言うのが当時の考えでしたのでそのときはいたく感動させられたのを覚えています。


だが・・・・・・


これは、あの女がおれを捕まえるためのエサ撒き

にすぎなかったことは今になって考えるとわかる。


その後、ABGグループの持つ部屋から、

彼女の持つ3LDKに引越しをさせられ、

給料を与えられ、

首輪をつけられ

中国で一人の日本人が完全に犬に成り下がる。







タイトルのこの言葉をご存知だろうか、


もちろん知るはずがない、おれが作った。


花村萬月の「幸荘物語」に描かれている 「メンチカツ・ハイ」から盗んだ。


物語の冒頭で主人公が帰宅すると、

友人が勝手に彼の愛するメンチカツを食っていた。

それを必死で誤魔化そうとする。

という、本の内容は全く関係ないのだが、



家の近所の肉まん屋で買ってしまったのだ。あれを。


あれには手を出すべきではなかった。(今考えても恐ろしい)

切れてくると、発汗、強迫観念、自殺願望、幻覚に手足の震え、

と様々な禁断症状が現れ、ヨダレを垂らしながら床をのたうち回る。

発狂寸前まで一瞬で持っていかれる。


毎朝、一元コインを握り締め、禁断症状で呼吸が苦しくなり、

関節が軋むように痛む体をひきずって、はぁーはぁー言いながら、

例の肉まん屋までなんとか辿り着き、店先に金を叩きつける(約、13円)

「早く出せ!早く!」

濁った目でヨダレをたらしてハーハー言っているおれを

小バカにしたように、ニヤついた店主は、金を拾い、

「四個でいいのか?」

「うるせー!何個でもいいから早く出せ!ぶっ殺すぞ」

あきれたような顔をして、

「あんた、もう止めといた方がいいぞ」

と言いながら店の奥に消える。


ブツを受け取ると急いで

限界を訴えて悲鳴をあげている体を引きずって家に帰る。


早速その結晶を震える手を押さえ付けながらスプーンの上でライターで溶かし、

赤黒い斑点が無数にある腕をゴム紐で縛って、

浮き上がらせた太い静脈に、使い回しの注射器を突き立て、

何度か血液と聖なる毒を注射器の中でブレンドしながら、体内に送り込む。




のではなく

箸を袋から出し、箱を開き、手を合わせて、「いただきます!」

火傷するほどのアツアツの肉汁をこぼさないように口に運び、

咀嚼し、一気に食道へ流し込むだけだ。



だがその肉汁が口に広がる瞬間の充実感、開放感、

ドラッグを使ったセックスの数倍にも及ぶ快感が

足元から這い上がり、体を震わせながら、

テーブルの上に突っ伏して、


しばし悶える。


それを4個分、繰り返す。毎朝。







 

パニクリながらも仕事は休まなかったので

少しずつ作業も覚えていった

陳健という一つ年下のヤツが少し英語が出来たので、

いつも一緒にいてよく仕事を教えてくれた。

 

工場には70人くらいの若者が働いている

オッサンは管理者くらいのものだ

3分の1くらいが女の子だ

その女の子のほとんどが在籍するのが、そう、

オレの居る「検品、梱包、出荷部」 だ

仕事の内容はそのままで製品を女の子が検品し野郎が梱包し、出荷する。

 

工場内ではもちろん天国のような場所だ

別の場所で作業している野郎共がよく冷やかしに来る。

 

工場の仕事仲間は歳が近いせいもあるが、みんな

ビビりながらも、(ビビってるのはこっちだ)よく話し掛けてくる。

 

中国人の若い連中が必ず知っている日本語がある。

「よしよし、めしめし」 

「いわいまで、いわいまで」 この二つ。

 

人気のある映画かテレビで使われていたらしく、

みんなどういう意味?と聞いてくる


さっぱりわからん


後、必ず野郎同士で盛り上がるのが、


下ネタ。

 

お互いの国の性器の名称や、

何人やったとか、どんな珍しい場所でやったとか、

オレのほうがデカイとか、そんなのどこの国でも同じだろう。男は男だ。


だから、オレの中国語はかなりキワドイものから学習した。

一度、悪友の陳健とある女の子に

「今晩食事しませんか?」 

と言うことをジャンケンで

負けた方が言う事になっていたのだが、本当の内容は


「あなたの○○コに入れさせてください」 だった。


何でこいつらこんなに真剣にジャンケンに負けたくないんだ?

と、のんきに考えていた俺はまんまと負け、

その子と倉庫に二人きりにされ、初めてその子をまじまじと顔を見たが

なかなか、かわいい子だった。オレは意気揚揚と例の言葉をつぶやいた。


オレの顔面をハタき、涙目で彼女は去っていった。


その後一週間にわたって、事情のわかっていないオレは

全ての女の子から無視されつづけた。

野郎ドモはキャッキャ、キャッキャと大喜びだ。


理由がわかった時には、

陳健にのたうち回るほどのボディーブローが叩き込まれた。









切れた線を必死に繋ぎなおそうと足掻いた


方法は簡単だ


大衆意識から孤立することだ


線無しで生きていこうと思った


ただ、開き直っただけ


オレの価値観はお前達とは違う


私は日本人である!とか中国人がどうとかそういう話ではない


いままで作り上げた価値観をそのまま突き通す!


個人を徹底的に中国は安徽省の安慶で開始した


孤軍奮闘開始です


ヒゲも剃らず、ナイキダンクを履き、


ヘッドフォンを装着し、なぜか

石野卓球

OUTECHRE

などを聞きながら、チャリンコで工場までの25分を爆走した。

(これが個人を突き通すことになるのかは謎だ)


皆さんご存知だろうか?あの中国の出勤情景を。

一度はテレビなどでご覧になったことがあるかと思う。


そう。すさまじい。


その中でヘッドフォンをつけ、逃げ馬のように先行突破し、工場まで独走だ。

中国では今、電動自転車が大人気だが、それすら平気で追い抜く。

さすがの中国人もヒゲ面の変なヤツがヘッドフォンを装着し、

30元(約450円)で買った全くブレーキの効かない(足で地面を擦って止める)

自転車で爆走してきたら道を譲る。


ここで、一つ中国らしい交通事情を。

中国道路は右側通行だ。

それはいいとして、大きい道路は片道3本ある。

「車、バイク用」 「自転車、電動自転車用」 「歩行用」

歩行用はどちらでも良いが、自転車の道はこれも車と同じように

右側しか走れないことになっている。

最初のころ交通整理の親父になにやら怒られた。

その時はわからなかったが、どうやらオレは逆送を繰り返していたらしい。









言葉が通じない国でのいきなりの一人暮らし生活。

これは予想以上に大変だった。


まず、朝起きて何を食べていいのかわからない。


皆が買って食べている物がどこで売っているのかわからない。


みつけても、どうやって買えばいいのかわからない。


通勤で迷っても道の聞き方がわからない。


同じ作業着は何日着つづけて平気なのかわからない。


食堂で、三杯目をお代わりしていいのかわからない。


どれがおいしいのかわからない。


野菜は残さないほうがいいのかわからない。


作業にどれだけ頑張ればいいのかわからない。


トイレの紙はどれくらい使っていいのかわからない。


どれくらいのトイレの臭さが普通なのかわからない。




これすなわち、「普通」 ってものがわからない。

         「標準」 ってものがわからない。

    これは、「恐怖」 だった。

  

   自分が、「みあたらない」。



        

周りに合わせたり、普通なのが大嫌いで、

浮いていたり、変といわれたり、アホだといわれたり、変態だといわれたり、

そういうポジションを日本では守ってきたつもりで、

それは、全ての価値観は自分で洗濯し、判断し、大衆意識を遮断し、

確固たる「自分」を作り上げてきたつもりだった。


ただしそれは、「誰かと比べて」 だった。


それの、モロいことモロいこと  ショボイことショボイこと


対象がない、比較が出来ない、

存在は他者の意識の中の自分でしか認識できない


わからない

なにが?

感じられない

なんで?

ない

どこに?

わからない

でも

なに?

ない

なんで?

なにが?

どうして?

どうする?

だれが?

いない?

ん?






部屋をフリチンで何往復もする

まばたきをずーっと数えたりする

水を5リットルくらい飲んでみたりする

オナニーを4回くらいしてみたりする

カーテンに巻きついてみたりする

台所のシンクに入ってみたりする

一人二役で演技をしてみたりする

マユゲをたべてみたりする


こんな夜が3~4週間続いた。


その間考えつづけていたことを形容する言葉は後で知った。


「われわれが生きるたったひとつの生は、
<世界>と<私>との間に
ぴんとはりめぐらされた一本の線を
けっしてゆるめることなく、
そのテンションそのものを生きること」 :中平卓馬
 
線が全部切れてしまった