中野 由貴, 出口 雄大
「宮沢賢治のお菓子な国 」
「宮沢賢治のレストラン 」のコンビが贈る、お菓子を切り口にした本なのです。
お菓子と言えば、生きていくために、必ずしも必要なものではない。けれど、それがあることで、幸せな気持ちになったり、一緒にお茶の時間を過ごすことで、素敵な時を持つことが出来たり。そんなちょっと余計な部分であるからこそ、より愛しいもの。
ちと長くなるけれど、「お菓子なごちそう」の「巨きな菓子の塔」より引用します。
「お菓子って何だろう」と考えると、童話集『注文の多い料理店』の序文を思い出す。
ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでせうし、ただそれつきりのところもあるでせうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません。なんのことだが、わけのわからないところもあるでせうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。
けれども、わたくしは、これらのちひさなものがたりの幾きれかが、おしまひ、あなたのすきとほつたほんたうのたべものになることを、どんなにねがふかわかりません。
なくても大して困らないし、十分に生きていくことはできる。でも、それだけではきっとつまらないだろう、と気づかせてくれるもの。
ほっとしたり、うれしくなったり、楽しくなったり、普段とちょっと違った気分や時間を味わわせてくれるもの。
それがお菓子なのだ。きっと。賢治はそんなお菓子の効能をよく知る人だったのだと思う。
(p14-15より引用)
そして、それはきっと物語も同じ。実用書や仕事に必要な書物だけでは、体を作る食べ物としては十分なのかもしれないけれど、それだけではちょっと心がカサカサしてしまう。そこを潤してくれるのが、こういった「お菓子」(勿論、この本の中に出てくるお菓子は、現実に存在するものばかりではない)であったり、想像力豊かな「物語」なのでしょう。ま、現実と同様、お菓子ばかり食べて生きていくことも、また同様に出来ないことだろうけれど、そういった楽しみも必要だよね。
本としては、お菓子を扱う分、ちと細切れになってしまう印象が強いので、「食べ物」を扱った「~レストラン」の方に分があるかなぁ、とも思うのだけれど、こういった切り口は大好きだし(そして、実に良く調べておられること!)、出口さんの水彩画も相変わらずの美しさ。まさにお菓子のように、ちびちびと少しずつ読む楽しみがある本でした。
目次
はじめに
○お菓子なごちそう*和洋菓子
○森のおもてなし*くだものなど
○野原の菓子屋のお気に入り*駄菓子など
○イギリス海岸のティパーティ*のみもの
○イーハトーヴ横丁*お店など
索引
イーハトーヴ<作品別>たべもの帖(宮沢賢治作品別たべもの索引)
参考文献
おわりに
*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。