昨年大晦日、紅白歌合戦の最後に登場した松田聖子 。
聴いて、今の彼女の歌声で過去の曲たちを聴いてみたいと思い、昨年発売されたベスト・アルバムを買った。
『永遠のアイドル、永遠の青春、松田聖子 ~45th Anniversary 究極オールタイムベスト~』 UPCH-20698/9、EMI/UNIVERSAL MUSIC、2025.06.04 発売
買う前に気がかりなことがあった。
レーベルは EMI Records。
私が青春時代に聴いた曲は CBS SONY/SONY Music(以下、SONY と略記)に所属時代のもので、本格オーディオ・システム&スピーカーで聴くにはオリジナルのマスタリングが最適。
SONY はリマスタリング盤制作において収録音量を上げたが、その程度はひどいものではなく、音の帯域バランスはオリジナル盤を踏襲していた(以下のリンク記事を参照)。
2000年頃から音楽産業では音圧競争が起こり、新作だけでなくそれ以前の音源をリマスタリングする際にも収録音量が著しく上げられて曲のダイナミックレンジが損なわれ(波形がいわゆる海苔波形に近くなる)、さらには、本格オーディオ・システムではなく小さなヘッドセットで聴く人が大多数になったことで、小さな振動板でも低音が良く聴こえるように低音域が強くブーストされた収録が目立つようになった(以下のリンク記事を参照)。
今回のベスト・アルバムは EMI Records ということで、どうなるか心配だった。
収録曲の最初は「青い珊瑚礁 ~Blue Lagoon~ 2025 Mix」 だが、聴き始めてすぐに心配したことが現実になってしまった。
以下は、一通り聴いた後で4曲を SoundEngine で収録音量と周波数分布を解析した結果。
「青い珊瑚礁 ~Blue Lagoon~ 2025 Mix」
最大音量: -0.11 dB (Lch: -0.11 dB, Rch: -0.11 dB) 平均音量: -10.53 dB (Lch: -10.59 dB, Rch: -10.48 dB)
カウンター表示 1分 43.701秒 における周波数分布
緑:Lch、赤:Rch
「渚のバルコニー 2025」
最大音量: -0.11 dB (Lch: -0.11 dB, Rch : -0.11 dB) 平均音量: -10.76 dB (Lch: -10.96 dB, Rch: -10.58 dB)
カウンター表示 1分 06.839秒 における周波数分布
緑:Lch、赤:Rch
「セイシェルの夕陽 ~40th Anniversary~ 2025 Mix」
最大音量: -0.11 dB (Lch: -0.11 dB, Rch: -0.11 dB) 平均音量: -11.92 dB (Lch: -12.19 dB, Rch: -11.65 dB)
カウンター表示 1分 24.272秒 における周波数分布
緑:Lch、赤:Rch
「時間旅行 ~I still miss you~」
最大音量: -0.11 dB (Lch: -0.11 dB, Rch: -0.11 dB ) 平均音量: -13.47 dB (Lch: -13.51 dB, Rch: -13.44 dB )
カウンター表示 2分 28.678秒 における周波数分布
緑:Lch、赤:Rch
4曲の中でも収録音量が高い3曲の波形では、最大レベルの 0 dB(0.11 dB のマージンあり)まで達したピークが非常に多く、掲載した縮尺では海苔波形に近くなっている。
4曲のダイナミックレンジ(最大音量ー平均音量)について、順に 10.42 dB、10.65 dB、11.81 dB、13.36 dB といずれも小さい。
ダイナミックレンジが非常に良好に感じられるためには 18 dB 以上欲しい。
また、各曲においてボーカルと全楽器が鳴っているピークの周波数分布解析を見ると、500Hz あたりから 60 Hz(中低音域から低音域)にかけて左肩上がりに 12 dB 前後もブーストされているような波形になっている。
いかにも小さなヘッドセットでも低音がしっかり聴こえるように編集された音で、audio-technica のインナーイヤーヘッドホン ATH-CKR50 で聴くと問題ない(私は普段、音楽をヘッドホンでは聴かない)が、このように編集された音を本格スピーカー(私のは HARBETH HL-Compact 7ES-3)で聴くと下膨れの聴きづらい音になり、彼女のボーカルが埋まってしまう。
アンプ LUXMAN L-505u のトーンコントロールで調節すると、BASS を 5 dB 下げて TREBLE を 5 dB 上げた時がベスト。
次に、『SUPREME』 の CD 選書盤と Blu-spec CD2 盤、そして今回のベスト・アルバムに収録された「時間旅行」 を、もうひとつの解析ソフト Audacity を使って収録音量解析とスペクトラム表示を行った。
「時間旅行」/『SUPREME』CD 選書盤
「時間旅行」/『SUPREME』Blu-spec CD2 盤
「時間旅行 ~I still miss you~」/ 今回のベスト・アルバム
Audacity でも、今回のベスト・アルバムでは 500Hz あたりから 60Hz にかけて左肩上がりに著しくブーストされていることが分かる。
アンプのトーンコントロールで調節すると、BASS を 5 dB 下げて TREBLE を 5 dB 上げた時がベストだったことから、Audacity のイコライゼーション機能でトーンコントロールに倣い、今回のベスト・アルバムの「時間旅行 ~I still miss you~」 で BASS を 5 dB 下げて TREBLE を 5 dB 上げ、収録音量解析とスペクトラム表示を行った結果が以下。
このアルバムで初めて聴いた「Star 2025」 には驚かされた。
サビの部分で彼女の声が変わり、ファルセットの歌唱法を応用したのかと想像する歌声(単なるファルセットではない)に別人かと思ったほどで、しかもとても魅力的な声。
このアルバムの他の曲でもちらほらと聴かれる歌声だが、「Star 2025」 ではサビの部分全体で聴かれる。
かつてアルバム「風立ちぬ」 の頃に喉を酷使し、以後あのキャンディー・ボイスとよばれる歌声に変わったが、あの時のような衝撃を感じた。
「時間旅行 ~I still miss you~」 では、「♪ もしあの日に別れなければ 」「♪ 時計の針は戻せないのね 」「♪ 一瞬だけの時間旅行ね 」「♪ チケットを手に旅立つ前に 」の下線部分の声の高低変化がオリジナルから変更されており、より歌いやすく、より明るい調子になっている。
「時間旅行」 は彼女自身による作曲で、歌いながら変更した方が良いと感じてのことだろう。
新たな歌声といい、今なお彼女の才能に驚かされる。
本品は2枚組だが、個人的に disc 2 の「未来の花嫁 2025」 から「セイシェルの夕陽 ~40th Anniversary~ 2025 Mix」 への流れが最高。
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