ロミと妖精たちの物語147 Ⅳ-33 聖なる山の頂きに⑦ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

 

ワシントンスクエアの芝生広場の一角に、ホロ布で囲われた先住民の人々が作った空間。

 

インカ帝国のコスチュームを着てイースターパレードに登場し、ロミたちのパフォーマンスを護ってくれた、古代の英雄そのままに見える逞しい美丈夫のユパンキに案内されて、フィニアン曰く結界に護られた会場の中に、ロミと妖精たちは入った。

 

ホロ布で囲われた結界の中はテニスコート2面分くらいの広さが有り、中央にまるでレンガのようにきれいに方形に切り取られた石を組み立てた呂台が置かれ、鉄板と鉄網の下から薪で焚かれた炎が上がっていた。

 

広場の片側にはログハウス風の調理場があり、先住民の調理師たちが一頭の野牛を解体していた。そして反対側のスペースにはウッドデッキが設けられ、木製のイスとテーブルが並び、先住民の娘たちが給仕の支度をしていた。

 

中に入ってその設備に驚き呆然としているフレッドを無視して、ロミはユパンキに訊ねた。

「ユパンキさん、私はあなたを信用しているわ、でもどうしてこんな手の込んだことをするの」

 

ユパンキは胸に手を当て、頭を屈めながらロミの言葉に応えた。

「わたしたちの国では、大切なお客様にお願いをするときに、まずは最上級のおもてなしをするのが仕来たりです。ロミ様、どうかおもてなしを受けて頂き、その後でわたしたちのお願いを聞いてください。よろしいでしょうか」

 

「そう、わかったわ、遠慮なく頂くことにするわ。でも、どうして牛肉なのかしら」

「わたしたちの国に牛はいませんが、常食にしている動物、クイではお口に合わないかと」

ロミはクイネズミの愛らしい目を思い出し、ユパンキに向かって目を見開き、黙って頷いた。

 

 

 

 

歓迎の宴は始まり、ペルーの海でとれた豊富な魚料理や、トウモロコシを粉にしてつくったパン、ジャガイモの煮物やその珍しいジャガイモを乾燥して味付けをしたお菓子もケチャ酒で流し込んだ。

 

炉で焼かれた北米産の牛肉は、フレッドとフィニアンが好んで食べていた。みんなパレードと演奏パフォーマンスでお腹が空いていたこともあり、インディオの娘たちの給仕に合わせて美味しく食べることが出来た。

 

「ユパンキさん、このニューヨークでアンデス料理を頂けるなんて、礼を言います、でも、ここでこんなことをして大丈夫なのですか」

フレッドが聞くと、それにフィニアンが応えた。

 

「フレッド、初めにわたしが言っただろ、ここは結界の中だ、そして囲いの外には先住民のコスチュームプレーヤーが守っている」

 

「誰が結界を作ったのですか」フレッドが聞き返した。

「ユパンキ氏に聞いてごらん」

そう言いながら、フィニアンはインディオの娘にケチャ酒のお代わりを頼んだ。

 

「まさか」フレッドはユパンキの顔を見た。

「そのまさかだよ、フレッド」そしてケチャ酒をひと口で飲み干した。

みんなを代表して、ロミがユパンキに礼を言った。

「ユパンキさん、ご馳走さまでした、とても美味しかったわ」

 

そして、今まで黙って食事をしていたマリアが話しを始めた。

 

「私がまだ小さかった頃、冬眠カプセルから目が覚めたあるとき父が話してくれたことがあるの。南極大陸から一番近い大陸タワンティンスーユ、今でいうアメリカ大陸がヨーロッパの人々に見つかり、大規模な侵入が始まったと」

 

「そして父たちザ・ワンの人々が手助けをしていた南の方の大陸の、大きな国が滅んでしまったことを父から聞いたわ。ユパンキさん、それでロミと私たちに何を頼みたいと言うのですか」

 

ユパンキはデッキに膝を落とし、腕を広げたあと、頭を垂れて胸の前に両手をクロスさせた。

「ああマリア、あなたのご推察のとおりです、わたしの国の人々をお救いください」

 

ユパンキは立ち上がり、スペインのタワンティンスーユへの侵略とインカ帝国の滅亡、そしてそこに取り残された悲しき魂たちの話を始めた。

 

ロミと愛の妖精ファンションは、ユパンキが語る王家滅亡の哀しい物語を聞きながら、彼とこの結界の中にいる先住民の娘たちに、愛と癒しのエンパシーを送りその心と身体を包んだ。

 

 

次項Ⅳ-34に続く