ロミと妖精たちの物語146 Ⅳ-32 聖なる山の頂きに⑥ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

70年前の世界的大ヒット曲「KARATE」のパフォーマンスが終わると、シンガロングの合唱をした大観衆はロミと妖精たちに「ワンモアソング」の大合唱を始めた。

 

ロミは特設ステージの上から5Thロードを眺めまわし、大観衆の頭上にゆっくりと両手広げ、周りには見えない思念の翼を広げると、人々には気づかれないようにそっと、愛と癒しのエンパシーを送った。

 

ロミのエンパシーに心を落ち着けた大観衆は、目の前で繰り広げられた圧倒的なパフォーマンスの余韻に浸りながらも、静かにゆっくりとパレードの列に戻っていった。ロミと妖精一座を引率していたフレッドは、用意しておいた暗幕を広げて三人の姿を見えないように隠した。

 

「あら、もう終わりなの?」

ロミは、フレッドに不満そうな顔をして言葉をかけた。

「まったくもう、ロミ、あなたが歌い続けたら大変なことになる。今日はここまでです」

首を振るフレッドに、ロミはペロっと舌を出して笑顔を見せた。

 

「ごめんさないフレッド、今のはジョークよ、でも楽しかった」

ロミは、神バンドの衣装を着て演奏してくれた、アイルランドとイギリスの移民の若者たち一人ひとりに、握手をして礼を言った。

 

そしてロミの歌唱に合わせてスクリーム&ダンスを演じた、マリアとファンションに優しく抱擁して、感謝と労(ねぎら)いの言葉を述べた。

「二人とも完璧なパフォーマンスだったわ、マリア、ファンション、ありがとう」

 

「私のパパ博士のお父さん、60年前のTSウイルスに罹って亡くなった私のお爺ちゃんが、ベビーメタルの大ファンだったらしいの」

 

「まあ、ロミのお爺ちゃんはメイトだったのね、実は私もね、2014年のネブワースの舞台を見ていたのよ、今日もサークルモッシュが出来ていて、凄かったわね」

 

「えっ、そうなんだ、ファンションもメイトだったの?」

「そうよ、今日は大好きだったMOAMETALの演技が出来て、嬉しいわ、ありがとうロミ」

 

ロミとファンションの会話を聞いてフレッドは、妖精たちの寿命はどのくらいあるのかと考えた。しかし、フィニアンの飄々とした顔を見ると、考えるだけ無駄かもしれないと、妖精たちを隠している暗幕を支え続けた。

 

そして暗幕を支える反対の下手側をみると、さきほどのインカ帝国の男が、その逞しい腕で支えているのに気付いた。

「フレッドさん、大丈夫ですよ、こちらはお任せください」

インカ帝国の衣装を着た男は、特設ステージに上がろうとする野次馬を追い払っていた。

 

「さて、そろそろパレードに戻りますよ、あと1マイル、いいですかフェアリー・メタルの三姫様」

フィニアンに促されて、ロミと妖精たちは暗幕の中でメタルスーツを脱いで再び妖精の衣装、神の使者の子トーマスから贈られた、其々のカラーに彩られた美麗なトーガに着替えた。

 

アヴェニューの行列に戻ると、先頭を歩くロミの左右に、フレッドとインカ帝国の男が護衛のように従い、ロミに握手とサインを求める厳ついメタルギアを遠ざけ、ベビメタ衣装の女の子たちには握手までは許したが、感動のあまり抱き着こうとする性別不明のゴスロリ・プレーヤーたちの手からは守った。

 

「フレッド、この逞しい先住民の王様はどなた?」

「わたしの叔父の知り合いだそうです」

「まあ大統領のお友達なの、私はロミといいます」

 

インカ帝国の男は胸に手を置き、ロミに深々と頭を下げて応えた。

「ところで、あなたを何て呼べばいいのかしら」

「わたしの名はユパンキと申します」

 

ユパンキと名乗った男は、背はそれほど高くはないが、日に焼けた厚い胸板と太くたくましい腕を持ち、腰に吊るした刀は真鍮製の鞘に黄金の柄が留められ、握りの部分は蔦のような植物繊維のもので複雑な文様が編み込まれていた。

 

ロミは男の目を見た、その中に人格の曇りというものを見出すことも無く、嘘偽りを厭う高潔な志を秘めた、この大陸の古代の英雄を見るような気がして、ロミはある種の感動を覚えた。

「そう、ユパンキさん、よろしくね」

 

5Thアヴェニューのあちこちでイベントが行われていた。

工夫を凝らした帽子をかぶった一団のダンスパフォーマンスや、ディキシーランド・ジャズの演奏、中には有名ミュージカルのシーンをそのまま再現する一角も有り、次第に行列は崩れ、各ストリートに人々は分かれて行った。

 

そして終点のワシントン広場に着く頃には、ロミと妖精たちの周りは静かな行列となり、いつの間にかユパンキと同じようなコスチュームの先住民の人々が集まってきていていた。

 

公園の凱旋門を潜ると、そこはもう静かな森、満開の桜の花びらが、ちらほらと舞い広がる、まるで妖精の森のような世界が広がっていた。

 

ロミと妖精たちはフィニアンに案内されて、噴水広場を囲む芝生広場で休憩をした。芝生広場の奥に、ホロ布で囲まれた一角が有り、先住民族のコスプレをした人たちが出入りしていた。

 

そこからは、煙が立ち上り、香ばしい匂いが立ち込めていた。

「あれはバーベキューかしら、フィニアン、お腹が空いたわね」

「そうですな、間もなくサンドウィッチとワインが届くはずなのですが、どうしたのかな」

 

すると、ユパンキがロミに言った。

「よろしければ、わたしどもの料理を召し上がりませんか」

そう言って、ホロ布で囲まれた場所を指さした。

「いいの?ユパンキさん」

 

ロミが言ったものの、フレッドは不審に思いユパンキに訊ねた。

「どういうつもりですか、ユパンキさん」

ユパンキは胸に手を当て、頭を下げて答えた。

 

「実は、ロミ様と妖精の皆さまのために、前もって用意をしていたのです」

「何か意図が有って、準備をしていたのですか」

「そうです、わたしたちインカの出来事を聞いていただきたく、しかし、話せば長くなりますので、出来れば食事をしながらでもよろしいでしょうか」

 

ユパンキの落ち着いた口調に悪意はないと思い、フレッドはロミに振り返った。

 

ロミはマリアとファンションの手を握り、フレッドとユパンキに向かって笑顔で応えた。

「大丈夫よフレッド、仲間に入れてもらいましょう、フィニアン、いいでしょ?」

「もちろんですよ、サンドウィッチもいいが、先住民のバーベキューは最高だ、それに、このお方ユパンキさんは信用できる人だと、わたしも思います」

 

「ですが、ここでバーベキューをして、大丈夫ですか」

フレッドが心配そうに言うと、フィニアンがきっぱりと言った。

 

「フレッド、この大陸の先住民の皆さんが準備しているんだ、当然用意周到、ユパンキさん、あのホロ布は結界を結んでいるのでしょうね」

 

ユパンキは笑顔で頷き、ロミと妖精たちをホロ布の結界の中へと案内した。

 

 

次項Ⅳ-33へ続く