ロミと妖精たちの物語145 Ⅳ-31 聖なる山の頂きに⑤ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

それから一週間がたち、ロミと妖精たちが住むニューヨークは季節外れの雪も溶け、春の柔らかな陽光に包まれて穏やかなイースターの一日が始まろうとしていた。

 

ロミたちはフィニアンの脚本に従い、まず初めにセントパトリック大聖堂の前に立ち、神の一つの姿であるカトリックに祈りを捧げたあと、ロミは思念の翼を広げると、愛と癒しのエンパシーで荘厳なカテドラルの建物を包んだ。

 

黄金色のトーガを纏(まと)ったロミと、母メーヴ女王から譲り受けたティアラを頭に載せ純白のトーガに包まれたマリア、そして華やかなピンクのトーガを軽やかに着こなしたファンション、三人の美しい姿に引き寄せられ、集まってきた大勢の観光客やカトリック信徒の前で、司祭のコスチュームを纏ったフレッドが指揮を執り、愛の妖精ファンションのリードソプラノで神の子イエスの復活を祈る、この宇宙の聖なる歌を披露した。

 

 

 

 

 

 

そして歌い終わると、バグパイプの荘厳な合奏が鳴り響き、アイルランドチームはロミを先頭に5thアヴェニューを南へと歩き始めた。

 

周りには様々なコスチュームに身を包んだ人々が集まり、ロミと妖精たちの後に続いた。

 

マザー・グースとハンプティ・ダンプティの衣装を着たグループが賑やかに踊りながら、ディズニーコスチュームのミッキーとミニーの子供を連れたファミリー、両親はタキシードとフォーマルドレスを着て物静かに子供たちに付き添っている。中には映画の衣装そのままのスーパーマンやスパイダーマンも現れた。

 

途中ブライアント公園から、中世のアメリカ大陸先住民の衣装を着た男が現れ、フレッドに話しかけてきた。

 

「こんにちはミスター・ケネディ」

男はスペイン語訛りで挨拶をしてきた。

 

フレッドは軽く会釈をして応えたが、見覚えのない男に言葉は返さなかった。

 

「素晴らしいパレードですね」

男は周りに視線を動かしながら言った。

 

よく見ると、その衣装は紛い物とは思えず、まるで本物のインカ帝国の服装に見えた。

「失礼ですが、どこかでお会いしましたかね、その刀は本物ですか」

 

フレッドに言われ、男は驚いたように答えた。

「いえ、初めてご挨拶します、あなたは大統領の写真に時々写ってらっしゃるから、もちろんこれは飾り物の刀です」

 

男の表情は、場違いなところへ来てしまったというように、大都会へ出てきたばかりの田舎者のようにキョロキョロとしていたが、その顔に悪意は感じられなく、危険は無いと思いフレッドはインカ帝国の男が付いてくるのを拒むことはしなかった。

 

 

パレードの流れに乗ってチームは進み、エンパイアステートビルを見上げ、やがてマジソンスクエア―広場に着くと、ロミと妖精たちは広い石段を上り、エントランス広場で待ち受けていたフィニアンと在ニューヨークのケルト系移民の妖精たちと合流した。

 

「フィニアン、準備はいいかしら?」

 

「はい、バンドも音響スタッフもスタンバイ出来ております」

 

顔を白く塗り白装束に身を包んだ妖精バンドが、まるで半世紀前の神バンドのように、ツイン・ギターがメタル仕様のドラムセットの前で、舌を出して両手をキツネサインで出迎えてくれた。

 

いつの間にか黒い衣装に変わっていたロミは、マイクを持つと両腕をクロスさせ両サイドに並んだマリアとファンションに眼で合図をすると、一段高い広場から、アヴェニューにぎっしりと集まっている観衆を睨みつけた。

 

 

次項Ⅳ-32に続く